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~治療のゴール設定~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 柔道整復師学生時代の研究発表資料より
柔道整復師学生時代の研究発表資料より

 

 

治療を行う際にゴール設定が必要です。治療によってどこまで戻したいのか、何をできるようにしたいのか。痛みを取りたい、日常生活をストレスなく行いたい、もっと速く歩けるようになりたい、これ以上悪化したくない。運動選手ならば、練習できるようになりたい、大会に出たい、良い成績を残したい。得られる結果を求めて、治療におとずれます。

ゴールを考えることは「疾病をみるのではなく、人を診る」ということに繋がります。このことを深く考える出来事がありました。
私が柔道整復師の専門学校に通いながら、鍼灸師として臨床を積んでいるときのことです。(※柔道整復師は外傷を専門に扱う国家資格)。母校では2年生のときにクラスから必ず1テーマ研究発表を行わなければいけない制度でした。そこで私ともう一人のクラスメイトとともに研究発表をすることになりました。


テーマは肘の内側側副靭帯再腱術であるトミージョン手術

 

この手術は障害を受けた内側側副靭帯を健側の長掌筋腱を自家移植して再腱するものです。
更に応用として日本の伊藤医師による伊藤法という術式があり、実際にこの伊藤法トミージョン手術を受けた人間がいたため、テーマとして選びました。当初は柔道整復科の学生らしく、術式および内側側副靭帯損傷について調べようと研究を考えていました。事前に提出した抄録にはそのような内容で出しました。しかし、手術を受けた当人の話を深く聞くにつれて、研究の趣旨が変わってしまいました

<なぜ肘にメスを入れたのか?>その理由が大きなカギでした。

手術を受けたのは女性であり、当時二十歳そこそこの体育大学大学生でした。投擲種目の選手で、日本代表になるほどの成績を出しているわけではありません。手術をしなくても日常生活に支障はありませんでした。体育大学とはいえ、若い女性が結婚前に身体に傷が残る選択をしたのです。周囲から反対されたそうです。
その女性は大学の競技生活をしっかり終えたい、最後にきちんと競技に復帰して卒業したい、その理由から手術を選んだのです。繰り返しますがオリンピックに出場できるとか、学生日本一が見えているといったレベルではありません。それでも競技を全うして卒業したいという気持ちで、わざわざ他県まで出向き手術をしたのです。

そのことを聞いて、患者それぞれに治療のゴールがあると感じたのです画一ではない。誰かが押しつけるものではない。個々人に治療を行う理由とゴールがあり、それを決めるのは患者自身なのだと。研究テーマが脱線した結果となりましたが、そのまま発表しました。事前打ち合わせではあまりに抄録と内容が違うので座長教員から呆れられました。しかし、発表後には柔道整復科のトップである学科長の先生から「学生のうちにこのようなテーマを見つけることは素晴らしいことだ」と褒めて頂きました。

治療のゴール設定というものを深く考えた出来事でした。

甲野 功

 

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