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~「あまし」が置かれている状況~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 あん摩マッサージ指圧師免許
あん摩マッサージ指圧師免許

 

あまし


我々の業界では「あん摩マッサージ指圧師」の略称として定着した言葉です。

 

世間ではマッサージ師が厚生労働省免許の国家資格だと知らないひとが多いのではないでしょうか。当ブログでは幾度となく触れていますが、厚生労働省認可の専門学校で3年間以上学び、年に1回しかない国家試験を合格した者が得られる資格です。

 

改めてこの「あまし」について説明します。

 

もともと、中国にルーツを持つ“按摩(あんま)”、フランスにルーツを持つ“massage(マッサージ)”、日本発祥の“指圧”の3つは各々独立した技術です。それを国家資格にする際に徒手療法としてまとめてしまったのが「あん摩マッサージ指圧師(あまし)」の資格です。

 

按摩は日本最初の法律と言われる大宝律令に、その名前が出てくるほど古くからある職業です。マッサージはヒポクラテスが、医師たるものマッサージができなければいけない、と発言したと言われています。指圧は大正時代に成立したそうです。

 

痛いところに手を当てるという行為は本能によるものでしょう。古くから機材、薬剤ではなく人間の手で癒しを求めてきたと考えるが普通で、今も昔も需要があるはずです。

 

しかしながら、現在の資格免許に対する状況が複雑なものになっています。

 

江戸時代には按摩師は盲人(視覚障害者)のための生活手段を守る職業の一つでした。現在のように障害者が社会で活躍できる土壌が無かったためでしょう。それは近年まで続きます。

余談ですが、故ジャイアント馬場(プロレスラー)は脳腫瘍の手術を受ける際に、失明の恐れがあったそうで、もし目が見えなくなったら按摩師をするしかないな、と思ったそうです。

 

盲人の職域を守る意味で、あまし資格が取得できる養成学校が増えないように規制されています。鍼灸師、柔道整復師は平成10年の通称福岡裁判の判決後、どんどん養成学校が増えて、鍼灸師も柔道整復師も大いに数を増やしつつあります。


資格試験を管轄する東洋療法研修試験財団によれば、平成27年度試験後の資格合計者数はあまし、鍼師、灸師でみると


あまし:41,363
鍼師 :74,586名
灸師 :74,446名
となっております。

 

国家資格になる前は都道府県単位の資格でした。国家資格試験は平成4年度が第1回となります。国家資格制定前から資格を持っている人もいますので、総数は異なりますが、増加率は鍼灸師の方が圧倒的に大きいのです。

 

全国にある「あまし」の資格を取ることができる養成校は晴眼者(視覚障害がない人)の場合、21校になります。視覚障害がある人には別に養成機関が存在し、資格を取得することができます。一覧にすると以下の通りです。は晴眼者、は視覚障害者が入学する学校を意味します。

 

北海道
★国立障害者リハビリセンター 自立支援局函館視力障害センター


宮城
●学校法人 赤門宏志学院 赤門鍼灸柔整専門学校


神奈川
●学校法人 彩煌学園 湘南医療福祉専門学校
●学校法人 後藤学園 神奈川衛生学園専門学校
●学校法人 呉竹学園 呉竹鍼灸柔整専門学校


東京
●学校法人 素霊学園 東洋鍼灸専門学校
●学校法人 後藤学園 東京衛生学園専門学校
●学校法人 呉竹学園 東京医療専門学校
●学校法人 常陽学園 東京医療福祉専門学校
●学校法人 浪越学園 日本指圧専門学校
●宗教法人 総本山長生寺付属 長生学園
●学校法人 鬼木医療学園 国際鍼灸専門学校
●学校法人 花田学園 日本鍼灸理療専門学校
★国立大学法人 筑波技術大学


埼玉
●学校法人 呉竹学園 呉竹医療専門学校


静岡
●学校法人 東海医療学園 東海医療学園専門学校


愛知
●学校法人 専門学校 名古屋鍼灸学校
●学校法人 葛谷学園 中和医療専門学校


京都
●学校法人 京都仏眼教育学園 京都仏眼鍼灸理療専門学校
★社会福祉法人 視力障害者福祉センター京都府社会福祉事業団

 

大阪
●学校法人 行岡保健衛生学園 大阪行岡医療専門学校長柄校
●学校法人 関西医療学園 関西医療学園専門学校


兵庫
★国立障害者リハビリセンター 自立支援局神戸視力障害センター


香川
●学校法人 大麻学園 四国医療専門学校


福岡
★自立支援局福岡視力障害センター


鹿児島
●学校法人 久木田学園 鹿児島鍼灸専門学校

 

対して鍼灸師資格が取れる養成機関は、医道の日本社によれば、鍼灸師は84校、柔道整復師は108校となります。この中には「あまし」と鍼灸、柔道整復の資格も取得できる学校が含まれています。

 

≪鍼灸師および柔道整復師養成学校≫
北海道    鍼灸4   柔整5
東北     鍼灸4   柔整7
関東     鍼灸29  柔整38
中部・北陸  鍼灸17  柔整16
関西     鍼灸22  柔整20
中国     鍼灸4   柔整6
四国     鍼灸2   柔整2
九州・沖縄  鍼灸15  柔整14
合計     鍼灸84  柔整108

 

養成機関の数は「あまし」の数倍あるわけです


なお、「あまし」と鍼灸どちらも3年間で取得できる本科がある学校がほとんどなので、鍼灸師も「あまし」も両方資格取得する人もいます。あまし、はり、きゅう、の頭文字をとって「あはき」という言葉があります。私自身も「あはき師」です。

 

しかし、全国の多くの専門学校は鍼灸師資格のみの専科であるため、「あまし」資格を持つ者よりも鍼灸師のみ持つ者の方が増えていくのは当然です。そして柔道整復師の増加率も高いのです。

 

鍼灸師と柔道整復師、特に柔道整復師が「あまし」業の職域を侵しているということは言われいていることで、特に社会福祉法人日本盲人連合はあはき業と柔整師問題として関係省庁に訴えかけております。

 

「あまし」には業務独占と言って資格免許を持たないものが(いわゆる)マッサージ業を行うことを法律で禁止ししていますが、「我々がしていることはあん摩でもマッサージでも指圧でもない、別のものだ」と主張し、手技療法を行う実情があります


実際に、柔道整復師や鍼灸師であるにも関わらず、やりたくないマッサージを「後療(外傷後に行う行為)」や「前揉捻(鍼を打つ前に行う皮膚を揉む動作)」と言い聞かせて現場で行う例も見てきました。反対にマッサージは鍼灸師、柔道整復師を持っていればいくらでも行っていいと思っている人もいます(関係法規で習って国家試験をパスしているにも関わらず)。あまし免許を持たない人間による「無免許者のマッサージ問題」と言えるでしょう。

 

また、リラクゼーション業が認められる流れとなっており、体力回復や慰安を目的としたマッサージと治療目的のそれと区別が曖昧であり、ある意味、やったもの勝ち・言ったもの勝ち、の状況です。ほぐし、○○式、●●セラピー、タッチング、整体、など言葉を変えて当然のように行っております。これは「無資格者のマッサージ問題」と言われています。

 

これらの実情は、手に触れられて治療されたい、という大きなニーズに対して国家資格者が圧倒的に足りない、需要と供給が合っていないことが原因の一つでしょう。
そもそも盲人の職域を守るために養成施設の新規参入を制限し、「あまし」資格者の増加を制限しているのに、免許資格を持たない人間が勝手に「あまし」業を行いその数が圧倒的に多いので、市場はそれが当然になってしまった、という感じです。


みんなやっているもの、赤信号みんなで渡れば怖くない。そんな雰囲気でしょう。

 

他にも状況を複雑にしている要素はありますが、各々の立場からマッサージを行っていて、本道であるはずの「あまし」が少数派となっている、という状況です。


私は民間の整体師(いわゆる無資格者)から、あまし、鍼灸、柔道整復師を取り、専門学校教員免許まで取りました。各資格による立場と法律・過去の裁判判例を知った上で、難しい問題だ、というのが感想です。
何か社会問題となるような大事件(大事故)が起きない限り、現状は変わらないと予想しています。

 

裏を返せば、人さまの身体を触れる職業に就いている人間は絶対に事故が起きないように心掛けて、患者さん、お客さん、利用者さんらに触ることが最低限必要だと考えます。

 

どこかで他人に身体を触られることがあるときは、少し頭に入れておいてもらいたい事実です。

 

甲野 功

 

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