開院時間
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住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
今年の冬、恐らく人生初のインフルエンザにかかりました。娘が発症し、次女にも感染。看病している間に夜に私も発熱しました。翌朝には解熱していましたが状況が状況ですのでクリニックに行き検査を受けました。結果は陽性。その時の医師の一言が気になりました。
「お父さんがかかるのことはまず無いのですがね。」
ただ単に統計的な一般論を口にしただけなのでしょう。しかし、この言葉は嫌な意味で心に残りました。マスクや手洗いといった予防をしっかりした上で、子供たちの世話をした結果の感染です。少なくとも父親として病気の子供たちに精一杯向き合った、という自負があります。娘たちはまだ小さいのでタミフル投与による異常行動も心配でした。夜中寝ているときには、普段より寝言を言いましたし寝相の悪さも目立ちました。熱でぐったりしている日中よりも気になったものです。自営業の利点を生かして、可能な限り仕事をしないで世話をしました。感染しても仕方がない状況でした。私自身も発病し、とても体調が悪い状態で受診した際に言われた言葉でした。
それは、お父さんは子供の看病はしないものと決めつけているの?
配偶者に死別されて男手一つで育てている家庭など存在しないと思っているの?
シングルファザーがいるとは考えないの?
そんな疑問と苛立ちが浮かんできました。これが母親だったら、言われない気がします。父親なのに珍しいですね、という感想を言葉から感じ取ってしまい、子供を看病してきた「当たり前のこと」を否定された気がしました。父親なのに「頑張ったこと」ならば、やっぱりそうか、俺って凄いじゃないと感じたかもしれませんね。
時間が経ってもまだこのように蒸し返しているのは、発言したのが医師であったことが大きいのです。自身が病気になり、体調が悪い中、クリニックで医師に言われたこと。身体が苦しくて、自分まで感染したら仕事や家庭がどうなってしまうだろうと不安なとき。健康時ならば受け流していたと思います。全く他意のない、何気ない一言が弱った体と気持ちに響きました。同じ医療従事者として、受け流せないものがありました。まして女医でしたので。これが中高年の男性医師だとまだ、時代が違うからと達観していたかもしれませんが。医療に携わる者は基本的に困難な状況にある患者さんを相手にします。だからこそ言葉、会話は大切な要素だと考えています。
これまでの臨床経験で、臨床で2番目にダメなことは「決めつける」ということだと考えています。今回の医師は決めつけたわけでは決してありませんし、経験論から父親に感染することは少ないからだとは思いますが、父親は子供の面倒を見ないから感染しないでしょ、と決めつけたように、私にとらえられただけでも大きいです。それは私自身、駆け出しの頃に患者さんの事を勝手に「決めつけた」ためにたくさん失敗したからです。
言った当人は何の悪気は無くて、常識で考えてそうでしょうという内容を話しただけななのに、あとあと「あの先生は何を分かっていない」とクレームが入いる。こちらが当たり前のことと考えていることと患者さんが求めることは違っている。特に苦しみを抱えた患者さんにとっては、一般論であなたもそうなのでしょうと決めつけられることが、苦痛に感じるのです。新人の頃はこのことが分からなくて苦労しました。少し職場に慣れてくると、先生と呼ばれる職業のため、自分本位で話を進めてしまうことがありました。専門知識で言えば当然患者さんより上ですから、こちらのペースで説明できてしまいます。気づいたら私が作った幻想の患者像を相手に押し付けていた。そんなことが多々ありました。
ではどうすればいいのか。それは先入観を捨てて、気になったことはまず患者さんに質問すること。何年かして気づきました。あらかじめ、この人はこのような気持ちに違いない、と思わず、もしかしたらこうおもっているかもしれない、と一呼吸間を置く。次に、このようなことではありませんか?と質問を投げかける。こうするように心がけました。問診でも世間話でも一緒です。
決めつけるということは思考停止していることと同じです。患者さんの事を知ろうとする努力を怠っているわけです。その人それぞれの事情があります。だからこそ、よく問診し、患者さんの言葉に傾聴しなければなりません。そうしなければ信頼関係が築けず治療の効果が出ません。
今回、自身が病人の立場になって経験したこと。改めて、大事なことを気づかされました。
甲野 功
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