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あまり頻度は高くありませんが、学生競技ダンス連盟(学連)の選手で膝が痛くなる例があります。これまで何例かみてきました。
膝関節はとても複雑な構造を持っています。
関節の動きは主に曲げる(屈曲)と伸ばす(伸展)、それにわずかに膝から下(下腿)を回す(回旋)となります。足関節(足首)と股関節がとても動く関節であるのに対し、膝関節の動作は比較的単純といえるでしょう。
動作に対して構成しているパーツが複雑であり、色々な外傷・疾患があるのが特徴です。膝の構造を説明しだすとキリがないほど。簡単に膝関節を説明します。
膝関節は大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(膝のお皿)で構成されています。解剖学的には脛骨の外側にある腓骨(すねの外側にある骨)は膝関節に含みません。膝蓋骨は人体最大の種子骨で、大腿骨と脛骨だけ関節が成り立つところに、補助として存在します。
膝関節伸展のために主に使われる筋肉(主働筋)が大腿四頭筋です。大腿直筋、外側広筋、中間広筋、内側広筋の4つで構成され、人体で最も強力な筋肉と言われています。ドラマや映画のシーンで鍵がかかった扉を素手で開けようとした場合、まず蹴るか体当たりすると思います。蹴破る動作を選択するのは力を最も出せるからです。
大腿四頭筋は4つの筋肉が膝蓋腱に合わさり、脛骨に付着します。膝蓋腱の中に膝蓋骨があります。
前面は大腿四頭筋、膝蓋靭帯、膝蓋骨など守られています。
外側は腸脛靭帯が腸骨(骨盤)から脛骨まで伸びています。さらに外側側副靭帯が膝の外側を守っています。
内側は鵞足という3つの筋肉が合わさって付着する部分が脛骨内側にありますが、その3つの筋肉(縫工筋、半腱様筋、薄筋)が保護しています。さらに内側側副靭帯が内側を守っています。
後面はハムストリングスと言われる3つの筋肉(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)が上部を、腓腹筋の内側頭・外側頭が表面にあります。
膝関節の中には前十字靭帯、後十字靭帯という大腿骨と脛骨をクロスに繋ぐ関節包内靭帯が存在します。大腿骨と脛骨の間には関節軟骨、半月板(内側・外側)があります。
これらに加えて細かい靭帯や関節ヒダが存在しています。
上記に挙げたようにこれだけ色々なもので構成させているので、どのパーツを痛めたかで疾患名が変わるのです。有名なものですと前十字靭帯断裂や半月板損傷といったもの。膝の外傷は種類が多いので鑑別するのが少し大変です。
細かい構造はさておき、競技ダンスで膝を痛めることの大部分はミスユース、つまりおかしな使い方をしたことが原因によるものだと考えています。
まず、競技ダンスは相手(敵)と直接やりあうものではありません。相撲や柔道のように直接攻撃を加えることがありません。さらにバスケットボールやサッカーのように何か器具を介して敵チームと相対するものでもありません。したがって肉体的コンタクトが少ない(基本的にない)ため接触によるケガがほとんど考えられません。
また個人のパフォーマンスを競うものでありますが、水泳や陸上競技のように明確な決着がつくものでもありません。言い換えるとなりふり構わず全力で動いて記録を出すものではないということ。全筋力を駆使すれば勝てるわけでなないのです。
芸術面の要素が強いですから、なりふり構わない動きは余裕がなく見ていて美しいとは言えない場合が多いでしょう。また何メートル1ステップで動いたから勝つというものでもありません。
これは一瞬の動作で体を痛める可能性が低いことになります。例えば、思いっきりナチュラルターンをしたら肉離れを起こした、ということはあまり考えれらません。
ではどのような状況で学連ダンサーは膝を痛めるのでしょうか?
私がみてきた例ですと膝に余計な捻じれが加わった状態で踊り続けることがまず一つ。膝関節は捻じれと外側からの外力に構造上弱いのです。強力な外力であればどの方向から加わっても痛めますが、特に挙げた2つの外力に弱いです。
ダンスを踊るときに脛骨に捻じれが加わったまま踊り続けると膝が痛くなってきます。
スタンダード種目で言えば、つま先(リーディングフットのトー)の進む向きと膝の向きが一致した状態でロアーに入らないと膝関節に捻じれの力が加わります。
同じ方向に出してロアーに入るとそれほど負担はかかりません。
しかし、膝関節は曲がった状態で捻じれの力がかかると傷みやすい構造になっています。
具体的に傷める状態は、膝がまっすぐ前に進んでいるにも関わらずつま先は斜め外側を向いているようなとき、もしくはつま先が真っすぐ前を向いているのに膝が内側に入った状態で足をだすとき。これらの状態で体重がかかりロアー動作に入ると膝関節には捻じれる力が加わります。
ラテン種目の場合でもサンバやパソドブレのように膝を曲げて踊るときは注意しないといけません。
実際に膝を痛めた選手の動きをみたときの例です。
ボックスという基本練習において1で出した足(ボール)の上でしっかりとターンできずに次の動作に向かう。そうすると膝関節に回旋の動きが加わります。これは膝とつま先が同じ方向を向いていても膝とつま先がターンしきれず上体の向きが変わることで膝に捻じれの力が加わることになります。
一度なら大したことのない負荷も何度も何度も繰り返し行うことでじわじわと負担がかかるのです。特にフォームもへったくれもなく足幅を出すことを強要される環境下(夏合宿とか根性練とか)で繰り返すことで痛めていきます。急激な力ではないため気が付いたら痛くなっていた、という状態です。
もう一つは、大腿四頭筋が発達しているリーダーに見受られたもの。
高校までサッカーをしていて大腿四頭筋がとても発達している。大学受験でサッカーをやめて太りました。大学に入り心機一転競技ダンスを始めました。このようなリーダーで膝が痛いと訴えた例があります。このとき正座をしてみてというと、太ももが固すぎて正座の態勢がとれません。発達した大腿四頭筋が固くなり脛骨の付着部にずっと牽引がかかっているのです。なお、このような場合だと膝と同時に腰も痛めやすくなります。大腿直筋が骨盤を引っ張っているからでしょう。
太もも前のストレッチを徹底させると膝の痛みがおさまりました。
学連ダンサーの障害は大きな外力によるものが稀で小さな負荷の積み重ねで起きやすいと、私の経験上言えます。
ですから痛みが少し出てきたと感じたら、ダンスの動きを確認する、ストレッチをして柔軟性を上げる、そして休息をとる、こういったことが大切です。練習はしなくても深酒をしたり深夜までスマホを触ったりするのも体の回復を遅らせます。
体力があるからこそ、若いからこそ、ひどくなるまで気づかない。注意しましょう。
甲野 功
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