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~人生で初めて鍼を受けた人~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 夫婦岩
夫婦でスキー教室に参加した保護者。ご主人は人生で初めて鍼を受けました。

 

日本の鍼灸受診率が3~5%ほど(資料によって違うらしい)。鍼灸業界はどうにか受診率を上げたいと考えている。

 

先日長女の保育園で開催された親子スキー。保護者として私が参加しましたが、そこで人生初の鍼治療を受けた方がいました。そのときのエピソードを紹介し、鍼(もしくは鍼灸)が怖いと感じている人にに受けてもらう方法を提示します。

 

日中スキーをしてゲレンデで雪遊びをした子どもたちは宿に戻っても夜8時半まで騒ぎ暴れ、9時には疲れて就寝となりました。子どもが寝た保護者は集まって懇親会が始まりました。お酒やソフトドリンク、つまみを持ち寄っての集まり。子どもが寝たので大人の時間が始まりました。

 

会話の流れで私の仕事のことになり、自然と東洋医学の話をしたりマッサージをしたりすることになりました。
この仕事はマジシャンみたいなところがあり、職業を明かすと「ちょっとやってみてよ」ということになりがちです。このときプライベートの時間だから、とか、プロの技術を無料で提供するのはよくない、などと私は言いません。躊躇なくマッサージをします。
これは以前に書いた「マネタイズのタイミングを遅らせて、まず信用を得る」ことに通じます。私の技術や人柄を知って信用してもらうことが大事なのです

 

このような場でも鍼をやってくれ、という人はまずいません

鍼は怖い、そこまでしてもらうのは気が引ける、という心理が働きます。何より鍼道具を持っていることがまずないのですが。なお、このスキー教室では娘のバス酔い防止とぎっくり腰対策で鍼治療道具一式を持参していました。
ここもマジシャンと同じで、すぐに手品を披露できるように準備しておく感じですね。もともとお酒が飲めない体質ですが、こういうことがあることを想定し、普段から懇親会や宴会の場でも極力お酒を一滴も飲まないようにしています。

 

一人の親御さんが足に湿布を貼り、そこが気になるように手で撫でていました。普通に会話をしていますが、そこが古傷だと言うことを事前に知っていたので、スキーをしたあとでうずくのだろうなと思いました。
仕事がらそのような姿が気になるので、「足に鍼をしましょうか?」と提案しました。その方は鍼経験者であることも既に確認済み。「あら、いいのですか」と足を出してくれました。


その場で、体に刺す毫鍼(ごうしん)をしました。周りの親御さんは初めて鍼が体に刺さっている場面を見た人だらけで興味深そうに注目していました。鍼を受け慣れているので足に刺さったまま談笑する親御さん。
想像より怖くない、という印象を周囲に与えたことでしょう

 

次に他の親御さん達に鍼道具を披露しました。
刺す鍼である毫鍼。小児用の擦るバチ鍼。刺さない鍼である鍉鍼(ていしん)。バネが入ったバネ付き鍉鍼。他にもいくつか。鍼には刺さないものもあるのですよと説明し、鍉鍼でツボを押したり手に取ってもらったりしました。皆さん、鍼と一口にいっても色々あるのですね、と感心していました

 

あじさい鍼灸マッサージ治療院 毫鍼の一部
毫鍼の一部
あじさい鍼灸マッサージ治療院 刺さない鍼の種類
刺さない鍼の種類

  

 

そして、首がとても凝っているというお父さんにマッサージ(正確には按摩指圧ですが)をしました。
このご家庭とは子ども同士がとても仲良く、保育園の休みにも一緒に遊ぶ仲。家族ぐるみの付き合いがあります指圧や按摩をしてみたところ、想像以上にコリが強くて驚きました。ちょっと舐めていました。全然筋肉の緊張が取れない。


これは本気で取り組まないと駄目だと判断し、「鍼をしても良いですか?」と提案しました。すると「いいですよ」の答え

 

うつ伏せに寝てもらい局所に鍼を刺し、経絡につながる部分に按摩指圧をしました。奥様は「注射が怖いから絶対に鍼を受けないと話していたのに」とやや驚きながら、鍼が刺さった首をたくさん写真におさめていました。このお父さんもお酒が全く飲めない人なので飲酒していないことを知っていたので本格的に治療ができました。治療が終わった後は「固まって動かなかったここ(肩甲間部)が動く!」と喜んでいました。

 

おそらく40代半ばと思われるお父さん(正確な年齢を知らないのです)。人生で初めて鍼を体験した瞬間でした
このときあったやり取りには、鍼が怖いと思っている人に鍼を受けてもらうための施策がいくつも入っているのです。挙げていきましょう。

 

 

術者への信頼
本人曰く「信頼している人でないと刺されたくない」。鍼に恐怖がある方には鍼師に信頼がないといけません。昨日今日知り合った関係ではなく、何年も娘の親同士という関係がありました。

 

事前に鍼を受けている知り合いを目にした
赤の他人ではなく知っている他の親御さんが鍼を刺されてリラックスして談笑している姿を見ることで、痛い怖いイメージが覆ったことでしょう。これも信頼につながることです。技術面の信頼ですね。

 

鍼の解説をした
注射の針は薬剤を入れるために中が空洞になっているため太い。鍼灸の鍼はその必要がないから細い。髪の毛くらいの細さ(実際に刺した鍼は直径0.16mm)。他にも刺さない鍼がある。こういった解説を事前にしておくことで得体の知れないものというイメージから具体的にどのようなものか知ってもらいます。良くなる機序も簡単に説明しておきました。もちろんこれも信頼につながること。知識をしっかり持っているということを知ってもらいます。

 

手技から入った
ここが一番大事なところです。いきなり鍼を薦めずまず指でのマッサージからしました。人間はパーソナルスペースがあり、他人が近くに寄ってくると警戒します。半面、接近してしまうと信用しやすくなる性質があります。マッサージをすることで相手のパーソナルスペースに入り信頼感が強まります。さらに直接触ることで、触覚という新しい情報がこの人を信用してよいか判断基準になっていきます(手が合う合わないというやつですね)。
資格を取って修行をした職場では、マッサージが上手ならば患者さんに信用されて鍼を薦めやすい、だからまずマッサージを練習しなさい、と言われたものです。そこから鍼に導入するマッサージの仕方や会話方法が分かってきました。

 

このような伏線があり、知り合いのお父さんは懇親会という異例の場所で人生初の鍼治療を体験しました。


鍼灸受診率を上げるにはどうしたらよいか業界では日々議論がされていますが、「これをすればいいだろう」という単純なものではありません。各々自分にあった方法を考えて実行することが大切なのではないでしょうか。

 

甲野 功

 

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