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稲盛和夫。日本が誇る名経営者の一人。実業家であり京セラの創業者。経営に携わる者ならば一度は耳する名前でしょう。素晴らしい経営手腕で京セラを大企業に育て、日本航空を再生させた実績が有名です。氏の教えは多数に書籍化されて世に広まっています。
最近読んだ書籍には以下のようなものがあります。
人生や仕事の結果は考え方と熱意と能力の3つの要素の掛け算。考え方はマイナス100点からプラス100点。熱意と能力は0点から100点。
つまり数式にすると
結果(人生や仕事)=考え方×熱意×能力(点)
※-100≦考え方≦100、0≦熱意≦100、0≦能力≦100 単位:点
となります。
もしも考え方と能力が1点でも熱意が100点ならば結果は100点になります。3つの要素全てが100点満点ならば結果は1000000点にもなるということ。ただし気を付けなければならないのが、考え方にマイナスまであるということ。掛け算ですから3つの要素の何かが0点ならば、他が100点でも結果は0点になるのはもちろんのこと、考え方がマイナスに向いていれば結果は大いにマイナスになることを示しています。ですから稲森和夫氏は結果を求めるには考え方をプラスに高めること、すなわち心を磨くことと、述べているのです。
熱意と能力以前に、考え方をプラスに高めることをすべき。人間としての心根を大切にしなさいということでしょう。それとは別の見方を私はしました。この文書を読んだときに私が感じたことは、稲森和夫氏がベクトル(vector)量とスカラー(scalar)量を認識していると思ったのです。普通は気にならないことかもしれませんが、私が理科系出身のせいかこの手の気持ちの在り方を問うときに、マイナスを入れることに感心してしまいました。
物理数学の話ですが、ベクトルは大きさと向きを持つ量をさし、スカラーは大きさのみを持つ量のこといいます。スカラーは大きさと向きを持つベクトルに対比する概念と言えます。 例えば、「物体が空間内を運動するときの速度が大きさと方向を含むベクトルであるのに対し、その絶対値(大きさ)である速さは方向を持たないスカラーである」と説明します。
一見何のことか分かりづらいですね。速度はベクトル(量)で速さはスカラー(量)。これはベクトルが大きさに加えて向きを考慮しないといけなくて、スカラーは大きさだけを考えればよいということです。具体的には数値に-(マイナス)がつくことがあるのがベクトルなのです。他の例を挙げると体重や身長はスカラー量です。体重60kgの人はどのような状況でも体重(正確には質量)は60kgで変わりません。月面では体重が軽くなりますが、質量は不変です。身長も同じで身長170cmならば状況で変化する量ではありません。
対してベクトル量には量と大きさの二つが備わっているので“どの方向に向いているか”がとても重要です。世間一般ではベクトルというとこの方向だけを言っていることがほとんどで、「二人の意見が合わない、お互いのベクトルが違う」などと表現します。本当はベクトルは方向だけでなく量も加味するのですが、そこまで認識しているひとはほとんどいないように思います。
稲森和夫氏の教えには(数学的に1次元の話ですが)考え方はベクトル量、熱意と能力をスカラー量としていることが流石だと思うのです。熱意と能力は最低でもゼロ、つまり無。マイナスの熱意と能力は存在しないとしています。対して考え方には、マイナス100点からプラス100点までの幅があり、マイナス方向にも量が規定されているベクトル量。考え方をマイナス方向に高めていけば結果がどんどんマイナスになっていく。
さらに数式は掛け算(積)であり、足し算(和)でないことも重要です。もしも足し算であれば、例え考え方がマイナス100点であろうと、熱意と能力の和が101点以上ならば結果はプラスになるからです。掛け算ではそれがかないません。そして熱意と能力のどちらかにマイナスが想定されていれば(ベクトル量だとしたら)、マイナス×マイナスはプラスになるので答えをプラスにすることができますが、それをしていません。私は一見ありそうに思うのですが、マイナスの熱意は想定していないのです。
これは経営者が金儲け第一に考え消費者や従業員をないがしろにすれば、マイナスに考えた分だけ結果も悪い方向に大きく出ると言いたいのでしょう。また強い熱意や高い能力も考え方次第で結果を悪い方向に大きくするとも言えるわけです。
考え方をプラスに高めること、すなわち心を磨くこと
このことをしなければ熱意と能力が100点満点でも結果は悪い方向に行く。稲森和夫氏が言わんとしたいことをシンプルに数式にしたものだと思いました。私はこれまで多くの自己啓発本を読みましたが、物理や数学のセンスがある教訓をほとんど目にすることがありません。技術者から経営者になった稲森和夫氏のセンスにとても共感がもてました。
甲野 功
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