開院時間
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パターナリズムという言葉をご存知でしょうか。paternalismという綴りです。 意味は『強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援すること。親が子供のためによかれと思ってすることから来ている。(Wikipediaより)』となっています。日本語では父権主義などと訳されます。語源はラテン語の pater(パテル、父)からです。
このパターナリズムですが、医療現場にで使用されることがあります。医療のパターナリズムとは、医者と患者の関係において、患者の利益(生命や健康)を保護するためであるとして、医者が患者の意思や決定を強いることとなります。悪く言えば「患者は医者の言うことに従っていればいいのだ、素人にわかるはずないだろ。」という態度です。確かに患者本人が必ずしも正しい適正な判断を常に下せるとは限らず、例えば乳幼児や中毒(依存症)患者、自傷行為や暴力行為を行う人に関しては本人の意向をくみ取らず強制的に医療行為を遂行することは間違ってはいません。また医療知識は乏しい、もしくは偏った考えを持つ者に対しても医師が決めてしまうほうが有益な場合もあるでしょう。
しかし、行き過ぎたパターナリズムはドクハラに繋がる恐れがあります。特に「お医者様」と称し医師の力が強い日本ではかなり長い期間、医師が圧倒的に患者よりも優位な立場にいたといえるでしょう(過去形と断言することはできませんが)。患者の権利に関するリスボン宣言により、患者の選択自由の権利や医師に対して意見を述べる権利を有するとしていますが、日本においてはまだまだできていないこともあります。傾聴やコーチングが医療面接において必要とされるのはわが国のパターナリズムが色濃く残る土壌によることかもしれません。
さて、治療院業界(鍼灸院、整骨院など)においても往々にして歪んだパターナリズムが存在します。健康面に関して、患者さんの知識不足を衝いて過剰に不安を煽り都合のいいように言うことをきかせるという事例です。
つい最近、母校ダンス部の後輩に聞いた話です。近所の整体院に一度行ってみたところ、体が歪んでいるから何度も通院しないとダメだ、そうしないと腰の痛みが取れない、次に予約を決めなさい、などとしつこく言われ、そこに行かないようにしていると電話がかかってくるということでした。その後輩は女性ですからストーカー的な意味合いもあり、非常に嫌な思いをしたそうです。このように一般患者が知らない理屈や知識を立てに本人の来院希望を無視して通院を迫る。根底にパターナリズムがあるように思います。
患者は無知だから教えてあげている。そのような態度を感じてしまいます。そもそも「体が歪む」などの表現に医学的根拠はありません。そう言えば済むだろうという安直さを感じます。せめて言葉を重ねて説得しうる説明をすればよいのに、と思います。
おそらく院長かオーナーに「とにかくそういって次も来るようにしろ」と命令されているとは思いますが、施術者の心根に「俺は先生だから偉いんだぞ」という気持ちがあるのではないでしょうか。患者は黙って言うことをきくのが当然だ!という驕り。
反対に患者側には思考停止の悪いパターナリズムがある場合があります。先生の言うことに全て従います。そのような感じで一見施術者を敬っているようで、物事を考えることを放棄しているといいますか。考えることが面倒なのか、施術者に強く来なさいと言われると嬉々として来院するタイプの人がいます。私の経験上、年配の女性や気が弱い人に多いと感じますが。
そういった人は自ら選択することなく、いいなりで主体性がありません。経営面で考えると便利な患者さんですが、自ら治りたい良くなりたい痛みを取りたいという意思がない人には効果が出づらいため、本当に良い患者さんとは言えないのです。きちんと説明に納得して前向きな気持ちで治療を受けてくれるならば良いのですが。自らの身体の事なのに、専門的なことは分からないからと、調べたり考えたりせず施術者に丸投げであり、従順に従う。このような人がいると施術者も横柄になっていくことがあるのではないでしょうか。
我々の世界には「患者さんに育ててもらう」とか「患者さんが先生」という言葉があり、患者さんから多くを学び上達します。反対に施術者をダメにしてしまう(勘違いさせてしまう)場合もあるのです。
ただし、時と場合によってはパターナリズムを行使することはあります。過去にあった私の事例です。あるダンスの競技会で選手が事故を起こして頭から出血した状態で出場しようとしたことがありました。止血も完全にできていないし、眼球の動きも少しおかしい、手の平に内出血があり骨折の疑いがありました。本人は出場したいと言いましたが、絶対に出てはいけないと諭しました。私自身に出場を止める権限はありませんでしたが、医療従事者としては「本人がいいなら出ればいいじゃない」とは絶対に言える状況ではありませんでした。すぐに病院に行き精密検査を受けなさいと言って止めさせました。これはパターナリズムでしょうが、選手本人よりも知識も経験も資格もある立場からこのような行動にでました。
間違ったパターナリズムが横行していたらコーチングなど必要なかったでしょう。インフォームドコンセント(説明と同意)やセカンドオピニオンなども要らないはず。医療に限らず、社会や家庭でも少なからずおかしなパターナリズムがあったのではないでしょうか。
私を含めて鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師も気を付けていかないといけません。
つい先日ここに挙げた資格の国家試験が終わりました。新卒ルーキーが現場に出てくる時期です。パターナリズムについて改めて考えてみました。
甲野 功
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