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~ゴレンジャー理論~

KAMINOGE No.71 東邦出版 
KAMINOGE No.71 東邦出版

 

 

鈴木みのるという人をご存じでしょうか。↑画像で首を締めている方です。 現役のプロレスラーにして、少年マンガ(特にワンピース)に異常に詳しくラジオ番組を持ち、自身の会社やアパレル店舗を運営しています。プロレスラーとしては実質フリーであり、サンミュージック所属の芸能人でもあります。とても波乱万丈、破天荒な人物であり、ある人曰く「少年ジャンプ作品の主人公を地で行くひと」と称されます。 

詳しく書くと延々と長くなりますが、新日本プロレスでデビューしデビュー1年目の若手でありながら当時のトップ選手兼社長のアントニオ猪木と一騎打ちをします。すぐにUWFに移籍し異種格闘技戦を経験。20代半ばでプロレス団体を旗揚げ。その団体は総合格闘技に移行し、総合格闘技の世界に身を置くも、後にプロレス界に復帰。今年50歳を迎えるにも関わらず、プロレス業界のトップ戦線を走り続けており世界中から仕事のオファーが来ています。

今年6月にはデビュー30周年のイベントを自ら主催して行いますが、「大海賊祭」と称して横浜の赤レンガ倉庫で2日間の無料イベントを開催します。後援団体には横浜市市民局、横浜市教育委員会。実行委員にはサンミュージック社長である相澤正久氏、馳浩元文部科学大臣、元世界プロボクシング王者大橋秀行氏、ハマの大魔神こと佐々木主浩氏などが名を連ねるという、いちプロレスラーの枠をはるかに超えた活動をしています。

 

鈴木みのる選手はとてもクレバーでフリーランスとして生き残るために物事を深く考えています。彼の考え方は雑誌のインタビュー記事から知ることができるのですが、これがとても勉強になります。プロレスラーという人気商売において団体に守られないフリーの立場でありながら業界最前線に居座る秘訣が、業態は違えど参考になります。

 

具体的なことをまず挙げましょう。
鈴木みのる選手はプロレス用語で言うヒールです。ヒールとは悪役という意味で、対義語がベビーフェイス(正義役)となります。ベビーフェイスとは人気がある正統派、主流派の選手をおおむね指します。そのベビーフェイスをあくどい手段で痛めつけるのがヒール。これがプロレスの伝統的なフォーマットです。つまりベビーフェイスがウルトラマンでヒールが怪獣。ベビーフェイスが仮面ライダーでヒールがショッカー。分かりやすい善悪の対立ですね。鈴木みのる選手は鈴木軍というヒールユニットを作って現在ですと新日本プロレスという業界最大手の団体で試合をしています。基本あくどい反則を繰り返しながら新日本プロレス所属の選手を追い詰めていく立場です。新日本プロレスに限らず、どの団体でもそうですが、絶対に鈴木みのる選手およびユニット所属選手はベビーフェイスと共闘しません


少年マンガでは主人公のライバルが戦ったあと仲間になって一緒に強大な敵と戦うという話がよくあります。有名なものではドラゴンボールでしょう。天津飯、ピッコロ大魔王、ベジータなどのライバルが後に仲間となりフリーザやセルといった更に強い敵と戦います。あの強敵が仲間になったら頼もしい!またライバルの活躍が見られる!ドリームタッグだ!と見る人は興奮します。同じことがプロレスでも往々にしてあります。ベビーフェイスが強敵にやられて窮地に陥ると突然かつて敵だったヒール選手が助けに入り新しいタッグチームを作ってその強敵と戦う。このようなシーンが何十年も前からあります。それを鈴木みのる選手は絶対にしません。

 

彼の理論で言うと、一度でもベビーフェイスの隣に立ったならば必ずベビーフェイスより下の位置になるもう共闘するベビーフェイスより上に行くことはできず2番手で終わるといいますバルタン星人が未だに人気があるのは常にウルトラマンの前に立ちはだかり横に立たないからだ、と説明します。
彼はフリーランスですから、良い仕事をしなければ次に呼ばれません。良い仕事とはお客を動員できるということ。強大な鈴木みのるおよび鈴木軍が団体エースであるベビーフェイスの前に立つことでお客が楽しめるということです。卑怯な手を使ってベビーフェイスを痛めつけて最後にヒールがやられるからお客は溜飲が下がりまた見に来るわけです。

 

このようなことを考えて彼は行動しています。一目で悪役と分かる風貌にしています。ビジネスで言うところのポジショニングや自己プロデュースに長けているのです。それでいて本業のプロレスレベルも非常に高いので年季の入った玄人ファンは技術的なところで評価しますし、同業のプロレスラーからも一目置かれるのです。鈴木みのる選手は常々「必ず見に来たお客を満足させて帰す」と言っています。そうしないと次のオファーが来ないことを身をもって知っています。実力がものをいう世界で長年生きている者の言葉は心に響きます。

 

そして鈴木みのる選手が以前述べていたものに「ゴレンジャー理論」というのがあります。これは組織論になります。ゴレンジャーとはいわゆる戦隊モノと言われる特撮ヒーローシリーズの初代シリーズ。アカレンジャー、オアレンジャー、キレンジャー、ミドレンジャー、モモレンジャーの5名が変身し地球の平和を悪の組織から守る話です。現在まで続くシリーズの走りです。時代によって3人だったり6人以上だったりしますが、基本フォーマットは5名で各々赤、青、黄、緑、桃の色がついています。そして色によって役割がだいたい決まっています。

赤→リーダー 青→サブリーダー 黄→ひょうきんでカレーが好き 緑→特に特徴なし 桃→紅一点 
乱暴に分けるとこのような感じです。

赤がセンターで一番目立つリーダー。青が赤のライバルでもあるNo2.黄は面白い性格で(おそらくスポンサーの関係で)カレーが好き。緑は無味無臭。桃は唯一の女性で可愛い。そのような区分がゴレンジャーから後々のシリーズまで基本ラインができています。

 

鈴木みのる選手はプロレス団体もゴレンジャーと同じであると言います。団体の顔たるエースにあたるのがアカレンジャー。このアカレンジャーを組織として目立たせていかないといけない。キレンジャーやミドレンジャーの選手がアカレンジャーになろうとしてはいけない。それをしたらお客さんは混乱してしまうし、アカレンジャーは選ばれた素質があるものにしか務まらないといいます。元々プロレスラーになろうという人間は目立ちたがり屋で自分が一番でないと気が済まない人が多い。誰もがアカレンジャーになりたがる。しかし各々ゴレンジャーのポジションを担わないとプロレス団体はうまく行かないのです。これはヒーロー側の理論であり、鈴木みのる選手は悪の組織で居続けるということでもあります。

 

この話を雑誌で読んだとき、とても納得できました。
その当時は鍼灸整骨院に勤めていました。今は数多くの分院を抱えていますが当時は一院(本院)のみ。アカレンジャーたる創業者でありオーナー兼院長。能力が高く患者さんの人気が高いアオレンジャーたる副院長。お笑いキャラで院内を明るくする私の同期はキレンジャー。オールマイティにできて安定感がある先輩がミドレンジャー。女性の受付がモモレンジャー。そのような位置づけが自然とできていました。
私はどうだったかというと、アオレンジャーのラインに自然と乗っていたように思います。アカレンジャーは赤で情熱的なイメージがあり皆を引っ張っていく。オアレンジャーは青で冷たい冷静なイメージがありアカレンジャーの暴走を止めたり理論で説いたりする知的なイメージ。当時の副院長路線だったと思います。ポジション自体はミドレンジャーでしょうか。キレンジャーにはなれないですし、モモレンジャーは受付さんがいますし。


それから分院展開が始まり、自然と格上げされポジションが変わっていきました。そうなってもゴレンジャー理論で各ポジションを守ることでバランスが取れた院内になると思いました。そのときにある新人が「居場所が無い」と訴え仕事のモチベーションが下がることが起きました。国家試験を通っただけでは臨床現場ではほとんど何もできません。まず仕事を覚える時期であり、ばんばん患者さんに治療することなど不可能です。結局入社してひと月も経たずにその新人は辞めてしまいましたが、まさにアカレンジャーになろうとした実例だと思いました。その職場では管理職にまでなりましたが、チームとして組織として動くときにゴレンジャー理論は実践的で役に立ちました。

 

今現在は一人で治療院をしていますから、このゴレンジャー理論は必要ない。と思いがちですが、今でも役に立っています。アカレンジャーからモモレンジャーまで場合によって立場を変える必要があります経営者としてはリソース(時間、体力、資金、時間など)を投入して新しい手を打たないとすぐに立ち行かなくなります。情熱を持ってリスクを覚悟で行動する必要があります。それはアカレンジャーの役割。冷静に事実を見据えて知識や理論で物事を進めていくことも必要。元々の資質はオアレンジャーですのでベースはここにあります。あじさい鍼灸マッサージ治療院のイメージカラーも青ですし。
患者さんを前にしたらときに話を盛り上げるためにピエロのような振る舞いをすることもあります。敢えて失敗した話をしたり笑えるエピソードを出したり。苦手なポジションですがキレンジャーもやることがあります。なお素でカレーが好き。
ミドレンジャーは無味無臭。疲れて話しかけてほしくない、休みたいという患者さんを前にすると機械のように淡々と治療を進めていきます。特色を出さず治療行為に集中します。
赤ちゃん連れのママさんが来たときは母性を出して子煩悩キャラになります。率先してお子さんをあやしますし会計するときは抱っこしてあげます。私は女性ではありませんがお母さんのようにモモレンジャーポジションもします。そうすることで赤ちゃんを連れてきても嫌な顔をされないという安心感を与えます。

 

見た目はいかつい野蛮なイメージがある(実際に野蛮なところは多々ありますが)プロレスラー鈴木みのる選手。プロレスラーの中には、イメージと違ってよく物事が見えているクレバーな人がいます。故ジャイアント馬場氏もそうでした。その中でも特に鈴木みのる選手はビジネスマンとしても優秀だと思います。ゴレンジャー理論に限らず、色々参考にしています。

 

甲野 功

 

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