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SOAP形式という言葉。医療従事者では知られていると思いますが、これはカルテの記入形式のひとつです。対象者の問題点を見つけ医療者としてどうすべきかを考えるためのカルテ記述法といわれています。SOAPとは以下の4項目の頭文字をとっています。
S:Subject 主観的データ。患者の話や病歴など。
O:Object 客観的データ。身体診察・検査から得られた情報。
A:Assessment 評価方法。統合と解釈もしくは考察を含む。
P:Plan 治療方針。
このSOAP形式、カルテ記入するときに必要な知識であると同時に、臨床現場で患者さんを治療する上で頭を整理するのにとても役に立ちます。それどころか日常の問題を考えるときにも有効なのです。項目をひとつひとつみていきましょう。
Sは主観的な患者さんの話。
あくまで患者さんからみた事柄です。主訴にあたります。極力患者さんが話した言葉をそのままを記載します。こちらが勝手に「つまりこういうことね」と表現を変えずに、素直に記載することが原則です。もしも「肩こりがひどい、悪霊が肩に憑りついているから。」と言われたとしても、そのようなことはあり得ないないだろうと否定せずに、言った言葉をそのまま書きます。患者さんはそのよのうに考えていると受け入れます。これは極端な例ですが、そこから詐病、幻視・幻覚、脳障害などの疾患を疑った方がよいのでは、と考慮する視野が広がります。
傾聴が基本であり、術者のコミュニケーション能力が一番問われる部分です。ついつい、「はいはい、それはこういうことね」と決めつけてしまいがちになります。そうではなく患者さんの訴えを受け入れて、共感する。そこから患者さんがどれくらいの知識があるのか、偏見はないか、どれだけ深く受け止めているか、などを推し量ります。
OはSとは対照的に客観的データを記載します。
具体的には身長、体重、血圧の値、服薬状況などです。誰がみても違いがないもの。つまり患者さんも術者も同じように捉えるものです。Sは患者さん側の主張ですから、患者さんがそうと言えばそのまま受け入れますが、Oは客観性があるものを記載します。また徒手検査の結果(圧痛、関節可動域など)も含まれるため、術者の検査技術が問われます。先の例では「悪霊が憑いている」という状態は客観的に判断できない(霊媒師ならできるかもしれませんが万人には認知できないでしょう)のでもちろん入りません。肩の硬結(固さ)や可動域などをOに入れます。
ここではいかに客観的に患者さんや症状、疾患をみることができるか重要です。Sから得られた情報から、みておく(注目すべき)項目を適切に選び確認する。事件現場で捜査官が証拠を集めるような感覚でしょうか。効率よく情報を集めるために知識が必要です。
AはOで得られた情報をもとに術者がその症状、疾患を評価することです。
これらのことからこうであろう、という結論のようなもの。日本では医師以外に診断権がありませんから、私(鍼灸マッサージ師)は「判断」だとか「結論」という言葉を使いますが、例えば肩の不具合を「いわゆる肩こり」とするのか「腱板損傷による肩関節障害」とするのか、といった感じです。もしくは「原因不明の肩関節周囲の痛みである」といったように何かしらの結論を出す、症状を要約してまとめる、ということも入ります。SとOで得られた主観的データと客観的データを統合、分析、解析して結論まで導く能力が必要です。推理小説で言うと探偵の推理能力にあたると言えるでしょうか。総合的な能力が問われます。
Pは治療方針。もしくは直面した問題に対しての今後の対策です。
具体的には「鍼治療をする」、「指圧を行う」、「固定して安静にしてもらう」、「何もしないで様子をみる」、「別の医療機関に行ってもらう」などです。術者が具体的にする行動は何かです。Aで決めた方針や結論に対してどうするのか。このとき術者にはできないことはPになりません。鍼灸師が外科手術をしたり鎮痛剤を投与したりすることはできません。能力、職域、法律を逸脱しない範囲でできることに限られます。また何もしない、手を出さない、ということも考慮しなければなりません。Pは実務能力、単的に言えば実力が問われる部分です。術者の技術と経験により変わることでしょう。自分ならばこれは鍼でいける、これは手に負えない、地道に機能回復訓練を続けるか、など。個性が出るところです。
このような4項目をカルテに記載するのですが、最初からSOAPで考えておくと、臨床において頭が整理できます。これはSで患者さんの話。ここからはOで客観的な出来事。このように分けておくこと。たまに先入観が入ってどちらの項目なのか混ざってしまうことがあります。Aを考えておくことで調べるOが決まってきます。反対にOを集めることでAが見えてきます。AとPが術者の出した決断と行動です。
S→O→A→Pの順番が大切です。極端な例だと、最初に鍼治療をしたいからそうなるように仕向けてしまう。PありきでAに持っていき、SもOも無視する。これでは患者さんではなく術者の都合で決めているので問題です。たとえどうあっても鍼をするのだろうと事前に予想できても順番を追って患者さんの話をよく聴き(S)、検査をして(O)、病態把握と予後を予測し(A)、鍼を打つ(P)の段階を踏まないといけません。
そうしないと思わぬ落とし穴にはまります。具体例を出すと石灰沈着性腱板炎というものがあります。症状は五十肩に近いのですが、レントゲン画像でみると骨に余計な石灰がくっついて激烈な痛みを伴います(特に夜間痛)。これは鍼をするよりは病院でレントゲンを取ってもらい注射をした方がすぐに治ります。鍼がしたいから五十肩に違いないと考えてしまうと患者さんの苦しみを長引かせることになります。
なお、このSOAP形式は東洋医学でも使えます。「私は伝統医療を重視しているからSOAPなんて知りません」というひとを見たことがありますが(かなり偏った思想ですから、まずいませんので安心してください)、やることは一緒です。
S:主訴
O:脈診、腹診、舌診
A:証立て
P:治療法(疎通経絡など)
といった具合です。順序だてて考える癖をつける意味で、たとえカルテをSOAP形式で書かないにしても覚えておくとよいことです。
大学病院に勤めていた時は電子カルテで全職員に見られますから、徹底的にSOAP形式でしっかりと記載していました。鍼灸師の立場は大学病院では決して高くありませんでしたから、きちんと記入することで信頼を得る(もしくは怪しく思われない)ように心がけていました。おそらく専門学校の実習でカルテ記入をきちんとしていたことが、学校から大学病院に推薦された理由だと、私は今でも予想しています。他人が書いたカルテでも、しっかりとSOAP形式で記載されていれば起承転結が分かるというか、なにを根拠にこの結論に至って処置をしたのかが読み取れます。
そして医療とは関係のない現実に起きる問題もSOAPの順番で考えるとかなり解決しやすくなります。問題の質が主観的なこと(S)なのか客観的なこと(O)なのかをしっかり分けて考える。そこから問題の本質を探り(S)、対処策を練る(P)。特に人間関係の問題を考えるときは主観的なことをあたかも一般論(客観的なこと)にすり替えることが多いので、SOAP形式を覚えておくとよいでしょう。普段から頭を整理する手段として身につけておくと助かる概念です。
甲野 功
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