開院時間
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週刊文春が、林芳正文部科学省大臣が4月16日の白昼に公用車で出かけたヨガスタジオに通ったことを報道したのはご存知でしょうか。このヨガスタジオは(元)芸能人が経営するスタジオでいかがわしいイメージがあるようで、
『現職の大臣が公用車を使って昼間からいかがわしい店に行っていた!』
という意図で報道されたようです。
これに対して経営者は健全なヨガのお店だと反論し、林大臣もいかがわしいことはなく健康のために指圧マッサージを受けたと弁明しました。
この一連の報道に対して、あるあん摩マッサージ指圧師がこのヨガスタジオがしていることは違法であり、管轄する文部科学省のトップがそのような場所に行くことや認識の甘さを指摘することになります。
それが以下のブログです。
<ポジティブスターヨガがキャバクラヨガで無ければ林芳正大臣に、文部科学大臣としての資格が無い。>
<無免許マッサージは名称を変えれば合法になるわけではない(キャバクラヨガ関連)>
ともに「びんぼっちゃまのブログ」より。
このブログを書いている方は相当法律に詳しく、多くの判例を読み込んでおり、精通している人です。一般に報道されていること、ヨガ店のホームページ、経営者のコメントなどを網羅して違法点を指摘、法律に照らし合わせて追及しております。ここまで調べ上げるのは凄いことだと感心します。
その結果、世間では気づかない問題が多数指摘されてきました。「びんぼっちゃまのブログ」が引き金になったのかは分かりませんが、週刊文春も以下の追加記事が出ました。
私の業界が抱える複数の問題に政治要素が絡んだ物事に発展した感があります。この追加記事が出たことで無視できなくなりました。一体何が問題なのかを整理していきます。
問題1 ヨガスタジオが指圧マッサージを無免許で行っていた
ことの発端は公用車で文部科学省大臣が行っていたヨガスタジオがどうもいかがわしいお店のようだ、というところでした。弁解するための大臣もお店も、通常の、健全な、健康のための、場所だと主張したのでした。
ヨガをするのは問題ありませんが、「指圧マッサージを受けた」ことがポイントです。このお店には国家資格である“あん摩マッサージ指圧師”が在籍していませんでした。資格を持っていない人間が指圧マッサージをすることは違法です(実際、摘発されずやりたい放題なのが現状ですが)。
いかがわしいマッサージだとしておけばまだ「大臣も男だから仕方ないよね、でも公用車を使うのは控えなきゃ」くらいの事だったのでしょうが、現行の法律上違法行為をしているお店に現職の大臣が通ったこと、それを認識していなかったことが問題になります。
なお、このことは私のようなあん摩マッサージ指圧師免許を持つ当事者でないとほとんど知らないことですし、鍼灸師や理学療法士といった国家資格を持つ医療従事者でもよく認識していないことでしょう(あん摩マッサージ指圧師が置かれている状況についてはこちらを参照)。
おそらく林大臣もよくわかっていなかったのではないでしょうか。文春の記事にもインタビューではそのようなことが書かれています。
問題2 文部科学大臣であること
素人だからよく分かっていませんでしたで済まないのが、文部科学大臣という肩書です。
あん摩マッサージ指圧師を養成する専門学校は厚生労働省と文部科学省が管轄しています。特に学校機関は文部科学省の関りが強くなります。資格区分を管理する機関のトップが認識していなかったことは非難されても仕方がないことかもしれません。
「びんぼっちゃまのブログ」ではこの件を一番指摘しています。
問題3 養成学校新設には規制がかかっている
あん摩マッサージ指圧師を養成する学校を新規に設立することは盲人協会の影響もあり厳しく規制がかかっています。実質新しい学校は増えません。
これは按摩師や指圧師が視覚障害者の生業であることと関係しており、視覚障害者の職域を守るために措置です。鍼灸や柔道整復師に関しては規制緩和が進み養成校が爆発的に増えていますが、あん摩マッサージ指圧師に関しては学校が増えないため晴眼者(視覚に異常が無い健常者)にとっては狭き門なのです。そのためあん摩マッサージ指圧師になりたくても近隣に学校が無いためなれないひとも少なからずいます。
学校新設に規制をかけているところの一つが文部科学省でありその大臣が無資格の指圧マッサージを受けたことが、業界内では、特に視覚障害者の養成学校からすると、納得いかないことでしょう。
問題4 スクールビジネスをしていた
件のヨガスタジオは最短15時間で「指圧マッサージ」を習得できますよ謳いスクールも行っていました。問題3で書いた通りあん摩マッサージ指圧師養成学校新設には厳しい規制がかかっており、裁判沙汰になるくらい新設することは問題になっています。
それをわずかな時間で(あん摩マッサージ指圧師免許を取得するには最低3年かかります)取得できますよなどとしていることが今回の件で明るみに出ました。もちろんあん摩マッサージ指圧師免許を持っている人が教えているとは状況的に考えられません。そのような場所に養成校を管轄する文部科学省大臣が通っていたことは皮肉のようです。
治療業界ではスクールビジネスが流行っており、もちろんためになるものもありますが、大した技術もないのに広告でその気にさせて高額な謝礼を取ったり、このヨガスタジオのようにあたかも正規の資格免許が取れるかのように装ったりすることが横行しています。
国家資格でなければ誰でも資格認定できますから、協会を作って○○協会認定セラピストなどつけてしまうのです。更に更新料を取ったり、上級資格を取らせて更に料金や手数料を取ったりすることさえあるのです。
かくいう私自身も民間の整体学校出身でそこで頂いた認定証がありますが、その整体学校はすでに廃校になっていますから紙屑同然です。スクールビジネスは大きな業界の問題になりつつあります。
問題5 名前を変えればいいと思っている
件のヨガスタジオは「指圧マッサージ」という表記を「整体」に変えました。そうすれば問題ないでしょう、と言わんばかりに。しかし法律上は違法のままです。
あん摩マッサージ指圧師は業務独占といって「その行為そのもの」を規制しています(厳密には反復継続の意思を持ってその行うこと)。指圧、マッサージを無免許の人がした時点で違法になります。既に自ら「指圧マッサージをしました」と言ってしまっているのでアウトです。
問題に気づいて(指摘されたようですね)名称を変えたところで法律上問題を切り抜けられるわけではありません。しかもあん摩マッサージ指圧師には名称独占がありません。ですから名称に指圧マッサージを使うことは違法では無いのです。
ちなみに医師は業務独占も名称独占もありますから、素人が医療行為をすることは禁止されていますしなおかつ医師を名乗ることも禁止です。皮肉なことに「指圧マッサージ」を「整体」に変えなくてもそこは違法ではないのです。
ここは「びんぼっちゃまのブログ」で詳しく解説しています。
問題6 摘発されない
このようにヨガスタジオが違法マッサージをしてきたことが問題で、そこによりよって文部科学省大臣が通っていたことが大きいのです。
しかし世間一般の感想は「違法ならばなんで摘発しないのか?」ということでしょう。これも大きな問題で法律があるのですが立件することはほぼありません。
一つには「整体」という言葉を使って「うちがしているのは指圧マッサージではありませんからね」と逃げることができます。私のように律義に「按摩指圧コース」と書くのは資格持ちの特徴です。
次に手技を判定することが困難であること。このテクニックは指圧、マッサージ、これは別のものです等と判別することが実質できません。
最後に摘発すると困る人がごまんといるからです。外国人労働者の中にはマッサージをしないと生活できない人がいます。タイ人がタイ式マッサージをして生計を立てている例はよく見受けられます。日本人でも厳密に摘発したら相当数の人間が捕まる事でしょう。
問題7 政治ゲームに巻き込まれる
今回の騒動は文部科学省大臣が関わっているから報道されました。立場が立場ですから野党からは問題追及、退陣要求が出ると予想されます。実際にあん摩マッサージ指圧師の問題であるにも関わらず与党批判のカードにすり替えて声をあげている人もいます。ブログを書いた人にも政治案件のコメントが行っているようで、特に与党批判をする気はないのですが、本筋と関係のない批判を受けているようです。
文春砲という流行語ができるほど影響力を持つ週刊文春が取り上げたことで大臣への批判が更に高まると予想されます。政治のネタだからこそ、これだけ取り上げられたのでしょうが、本来は健康被害が及ばないようにある資格免許の話です。変な方向にいかなければ良いと願います。
色々な要素が見事に絡まった奇跡のような確率で起きた騒動だと思います。
無免許のマッサージなど無い方が少ないくらい巷に溢れています。そこにたまたま政治家が公用車で通って、それを文春にマークされて、更にヨガスタジオが色々突っ込みどころ満載で、あげく文部科学省のトップだった、とは。そこを見逃さず厳しく指摘した人がいる。
後世に残る騒動になるではないかと変な期待があります。
甲野 功
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