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現役の鍼灸学生と話してみると、とにかく年に一回しかない鍼灸師国家試験が不安でしょうがないようです。
今年2月の国家試験は過去最低の合格率を出しましたし、今年度からカリキュラムが大きく変更になり授業数も増えました。特に今1年生の学生には、2年後の国家試験はどのようなものになるか先輩方の意見が通用しない部分が多いでしょう。
国家試験に対する不安が、卒業後の将来よりも先に来るのは仕方ないことなのですが、鍼灸専門学校は平たく言えば職業訓練学校に過ぎません。ですから試験の先に職業としてやっていける技術、知識、そして資格を得ないと意味がありません。「資格」が取れた上でのスタートラインですが、鍼灸師としての技術、知識の習得が二の次になるようでは心配です。
これが私個人の意見なのですが、現在の状況を改めて踏まえてみないと、ただの簡単な時期に国家試験を合格できたおっさんの上から目線になってしまうと思います。老害というか。
そこで、今年2月に行われた(昨年度)鍼灸の国家試験合格率がどのようなものだったか数字を見ながらしっかりと考えてみます。
現状がどのようなことなのか、過去とどう変わっているのかを確認してみましょう。
まず厚生労働省のホームページから今年2月に行われた昨年度(つまり最新の)第26回鍼灸国家試験の数字を見てみましょう。
●(2017年度)第26回鍼灸国家資格試験の受験者数と合格者数、それに合格率です。
受験者数 鍼師 4,622名 灸師 4,555名
合格者数 鍼師 2,667名 灸師 2,845名
合格率 鍼師 57.7% 灸師 62.5%
鍼灸業界はこの合格率の低さに驚きました。鍼師の合格率が6割を切り、灸師も約6割です。
しかし部外者にはこの合格率が低いのかどうかピンとこないでしょう。この春から入学した専門学校生でも同様ではないでしょうか。過去の合格率はどのようなものか、公益法人東洋療法研修試験財団のホームページから抜粋した表をみてみましょう。
鍼師の合格率は第1回が88.8%と最も高く、しばらく80%近辺を推移していました。そして直近の4回の国家試験で
(第23回)76.5%→(第24回)73.4%→(第25回)67.0%→(第26回)57.7%
と減少の一途を辿ります。すなわち合格するのが困難になっているのです。
灸師の合格率も鍼師と同様に第1回が88.2%と一番高く、第20回の急落を除けばだいたい80%近辺を推移していました。そして直近の4回の国家試験で
(第23回)77.1%→(第24回)75.0%→(第25回)67.7%→(第26回)62.5%
と鍼師より緩やかですが減少の一途。灸師も合格が困難になっています。
4年続いた傾向ですから今年度(第27回)国家試験も合格率が下がっていくと想像しやすいわけです。
また昨年度(第26回)国家試験の新卒、既卒の内訳をみていきましょう。
新卒とは専門学校生3年生(大学では4年生)を指します。大学受験で言う高校3年生(現役)にあたります。
既卒とは専門学校もしくは大学を卒業したひとを指します。大学受験で言う浪人にあたります。
●(2017年度)第26回鍼灸国家資格試験の新卒(現役)・既卒(浪人)別の受験者数と合格者数、合格率です。
新卒受験者数 鍼師 3,454名 灸師 3,453名
新卒合格者数 鍼師 2,554名 灸師 2,712名
新卒合格率 鍼師 73.9% 灸師 78.5%
既卒受験者数 鍼師 1,168名 灸師 1,102名
既卒合格者数 鍼師 113名 灸師 133名
既卒合格率 鍼師 9.7% 灸師 12.1%
一目瞭然ですが既卒になると合格率は大幅に下がります。10人に1名くらいの割合になってしまいます。専門学校を卒業してしまうと、授業がないため自ら率先して勉強をしないといけない環境になります。合格率が下がるのは予想がつきます。
またここ数年はどんどん合格率が下がる以上、新卒で合格できなかった人間が浪人して合格するのはより困難になることは想定できることでしょう。
対して現役生である新卒では鍼師も灸師も合格率7割を超えてきます。つまり現役学生が受験では、過半数より多くが合格したということです。
ここで比較するためにキリの良い10年前の国家試験と比較してみましょう。私が受験したのはこの頃です。
●10年前の(2007年度)第16回鍼灸国家資格試験の受験者数と合格者数、それに合格率です。
受験者数 鍼師 5,561名 灸師 5,539名
合格者数 鍼師 4,347名 灸師 4,344名
合格率 鍼師 78.2% 灸師 78.4%
合格率の高さは一目瞭然ですね。これは新卒・既卒を合わせた数字ですから新卒合格率は更に高くなります。
注目すべきは合格率よりも受験者数と合格者数です。今年第26回の合格者数は鍼師が2,667名、灸師が2,845名でした。10年前に比べて合格者数が共に1500名くらい少なくなっています。合格者数イコール新規鍼灸師ですから、鍼灸師の増加が抑えられているのです。それはグラフを見るとはっきりしており、鍼灸師の総数は右肩上がりですが、合格者数は減少傾向にあることが分かります。
受験者数も10年前に比べて鍼、灸どちらも1000名くらい減っています。これは専門学校の数が減っている(減っていく)ことを物語っていることでしょう。鍼灸国家試験合格率は受験者である学生はもちろんのこと、養成機関である学校側にも大きな影響を与えているのです。
ここで私の母校である東京医療専門学校の数字を見てみましょう。東京医療専門学校は呉竹学園の東京校であり、新横浜校(呉竹鍼灸柔整)と大宮校(呉竹医療)の数字は入っていません。
●(2017年度)第26回鍼灸国家資格試験の東京医療専門学校における受験者数、合格者数、合格率です。
受験者数 鍼師 109名 灸師 106名
合格者数 鍼師 93名 灸師 96名
合格率 鍼師 85.3% 灸師 90.5%
新卒受験者数 鍼師 97名 灸師 97名
新卒合格者数 鍼師 88名 灸師 92名
新卒合格率 鍼師 90.7% 灸師 94.8%
既卒受験者数 鍼師 12名 灸師 9名
既卒合格者数 鍼師 5名 灸師 4名
既卒合格率 鍼師 41.6% 灸師 44.4%
何といっても新卒合格率が9割を超えていること。現役生はほぼ合格しています。また浪人にあたる既卒も全国平均を大きく上回る4割の合格率です。
更に受験者数も重要です。鍼灸ともに100名以上の受験者数を出していての合格率です。
学校によっては受験者数がほんの数名(10名にも満たない)ということもあるので、合格率もさることながら受験者数の多さも素晴らしいことです。他人様の学校の数字を出すのは控えますが、養成機関によって大きな差があることが実情です。
なお東京医療専門学校の現役専任教員によれば、全国平均を大きく上回った結果だったが、今回の試験結果には全く満足しておらず、もっと合格させられたはずという意見がありました。それくらい教員側は必至です。
まとめると2017年度第26回までの鍼灸国家試験は
・合格率がここ近年下がっている
・それでも新卒(現役)の合格率は7割を超える
・既卒(浪人)の合格率は1割くらい
・受験者数は過去に比べると減っている
・合格者数も過去に比べると減っている
・受験実績は専門学校によってかなり差がある
ということが分かります。
今回の第26回鍼灸国家試験の結果は、現役学生はもとより、養成機関である学校側の意識も変えるものとなったことでしょう。10年以上前に試験をパスした私では実感できない不安があるのだと思います。
現役学生に国家試験の事を切り離して考えることは難しいことでしょう。
私は臨床の立場から現役学生たちに国家試験対策とは違う鍼灸の勉強を提供できたらいいなと考えています。
甲野 功
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