開院時間
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昨日ポレポレ東中野で
日本・ミャンマー合作映画「僕の帰る場所」
を鑑賞してきました。
妻がミャンマーを支援している関係で、本作品を知りました。あじさい鍼灸マッサージ治療院としても5月にミャンマーチャリティカフェを開催し、これまで微力ながらミャンマー支援を行ってきております。
ミャンマー人を主人公におき、日本人が作成した作品。見た感想を書いています。
まず私のことを少々。
かつて映画鑑賞が趣味でした。それも邦画が好きです。
鍼灸マッサージ専門学校生だった頃は週に4本くらい見ていました。時に一日で3本見ることもありました。
名画座という封切り作品ではない古い作品をテーマごとにまとめて上映する映画館の存在を知り、2本上映の映画を学割利用で安く鑑賞していました。
気になる作品は封切りでも見ましたが、近郊の名画座によく足を運びました。近所の飯田橋ギンレイホールから始まり、池袋の新文芸坐、早稲田松竹、目黒シネマ、シネマヴェーラ渋谷、新橋文化劇場、三軒茶屋シネマ、横浜のシネマ・ジャック&ベティなど。もう閉館してしまった映画館もあります。小さくて古い映画館で、あまり知られていながらも素晴らしい作品に出会えると得をした気持ちになりました。
今回訪れたポレポレ東中野も一度映画を見に来たことがある場所でした。
それが国家資格を取り臨床現場に出るようになると、映画を見る機会は激減します。休みが少ないですし、疲れて眠くなってしまう。
結婚して子どもが生まれてからは映画館に行くことは贅沢な感じして足が遠のきました。約2時間スマホも確認しないで映画に集中するのは勇気がいることだと考えるようになりました。
ですからポレポレ東中野という地下にある小さな昔ながらの映画館で映画を見ることが、懐かしく普段ならばやらない非日常体験だなと思い映画館の座席につきました。
この「僕の帰る場所」という映画はミャンマーが危険ということで日本に移住してきた家族の話。
生まれてから長く日本で暮らすためミャンマー語がほとんど話せず日本語が流暢な兄弟とミャンマーから日本に来たその両親。母は精神的にまいっていて心療内科を受診。難民申請が下りずオーバーステイとして父は当局から目をつけられている。
祖国ミャンマーに帰りたい母と、日本に残りたい父。
結局、母と息子二人はミャンマーに帰国し父は日本に残るという選択をします。ミャンマーに渡った兄弟はミャンマー語がほとんど話せないし環境が日本と大きく異なるミャンマーに戸惑い、お兄ちゃんは日本に帰りたい、お父さんに会いたい、と言います。
社会派作品とか在日外国人の問題を描いている、などの触れ込みでしたが、私はとにかく映画作品としての特殊さというか挑戦というか、こういう映画を作ってしまったのだという感想が一番でした。限りなくドキュメンタリー映画に近いフィクションと称されていますが、他では簡単に真似できない映画になっていると感じたのです。
まずこの作品、撮影環境が常識を外れています。
登場人物のほぼ全てが素人で演技初挑戦。
主人公家族のお母さんと息子二人は本当の家族。お父さんは別人。
家族の役名は本名と同じ。しかも息子二人は日本で育ったので日本語がネイティブ。
お母さん役の人は本当にミャンマーに帰りたいと願っているそう。
撮影当時、弟はわずか3歳。演技も何も台本が読めない状態だった。
弟の出演シーンはずっとカメラを回して台本の様に話す(動く)ように仕向けて撮り続けていた。
このような状況でよく一つの作品に仕上げたと思います。
次に撮影手法も独特です。
とにかく表情のアップが多いのです。
登場人物の表情を追っかけてばかりであまり引きの画が出てきません。推測ですがプロの俳優は動きで演技をしますが登場人物の多くが素人のため、表情とセリフに集中せざるを得なかったのではないでしょうか。
映画館のスクリーンで見ると表情のアップが長いと見ていて疲れますし、場面の状況が分かりづらくなります。お医者さんや学校の担任など声は聞こえていてもほとんど姿が映っていないこともありました。
更に多くの場面で画面が揺れています。
固定しないでカメラを手に持って撮影しているからでしょう。手ブレしているような撮り方です。スクリーンで見ると画面の揺れは目立ち、酔うような感じになります。普通はこのような撮影方法は取らないでしょう。
その代わり画面が微妙に揺れていることで不安感が煽られて登場人物の焦燥や今後の不安、苛立ちなどが出ていると感じました。
必要と思われるカット割りが無い場面もありました。
ミャンマー人の友人と今後の事を話し合うシーンではずっとカメラを回したままで話している人物の顔にそのつどカメラを向けています。頻繁にカメラを左右に振ると見る方は酔ってくるので、通常はカット割りをして話している人の正面を撮影していくと思うのですが、カメラを止めることなく横に画面が動いていきます。これも登場人物が素人のためカットで会話を途切れさせると続かないと踏んだのかもしれません。
お兄ちゃんが転校するときのお別れ会では同級生からもらったプレゼントで顔が隠れてしまっていてもそのままカメラを回し続けています。お別れの言葉が恥ずかしくて出てこないシーンなのですが表情が隠れている。このようなことは映画でもテレビドラマでも見たことがありません。
このように「え、こんな撮影するの?!」と内心驚いていました。
またこの映画は多くを削っています。
オープニング曲もエンディング曲もありません。アーティストと提携するという映画でもテレビドラマでも普通のことをしません。特にエンディングは唐突に画面が暗転してエンドロールが流れます。またBGMもほとんどありません。
音楽による演出が驚くほど少ないのです。
スポンサー商品を画面に写すというようなこともありません。たまに敢えて企業名や商品を写し込んでいるなと気づくことがあるのですが、そういうところがありません。なお上映前のCMもありませんでした。
状況説明もほとんどしません。
ミャンマーが危険で日本に逃げてきたということですが、それがどの時期なのかという説明はほぼありません。ミャンマーの実社会では現在ロヒンギャ問題がありますし、軍政からの民主化、国民選挙、多民族問題など色々な要素がありますが、どの時期で何が危険だったかを詳しく描いていないのです。
また日本の場面でも「外人は消えろ!」といった迫害される描写もなく、入国管理官は確かに冷たい演出ですが強制的に捕まえるとか暴力をふるうといった場面はなく、どちらかというと「規則で決まっているから守ってもらわないと困るのでね」と淡々と業務を遂行している感じ。日本での生活が極貧で苦しくて仕方がないという感じもありませんでした。
全体を通して恐ろしく淡々とまた異常にリアルに作品は流れていきます。
日本で迫害を受けて苦労したという場面がほとんどありません。家族を助けてくれる日本人もミャンマー人もいます。結局お父さんは日本に残るので強制送還されることもない。お兄ちゃんが小学校でいじめられるようなこともありません。
ミャンマーに舞台を移しても、兄弟はミャンマー語が話せなくてとても困るような場面もほぼなく。お兄ちゃんが家出をするも、大冒険があるわけでもなく。お兄ちゃんが日本とミャンマーどちらが自分のルーツなのか悩むようなところもなく。
本当にフィクションとは思えないくらいストーリーに抑揚がないというか。エンディングが予想できなかった映画ですが、このことが原因でしょう。
実際の日常ではそれほどドラマチックなことは起きないし、環境が変わってもそれなりに人間は慣れてしまう、ということを見せられた気がします。
普通に考えれば、もっと日本で在日ミャンマー人が苦労するシーンを入れて、ミャンマーでは命からがら脱出したエピソードを描き、ミャンマーに帰って兄弟が大きく成長する場面を入れるのではないでしょうか。
私が感じた一番の特徴は一家の演技が演技に見えないこと。
ドキュメンタリー映画のような、と形容されるゆえんでしょう。特に当時3歳の弟は演技をしている感覚はないでしょうからほとんど素なのでしょう。
お父さんがいい!と泣くシーンでは泣きすぎて咳き込むところはプロの子役ではできないしやらないことでしょう。風呂上がりのドライヤーから逃げるところや、お兄ちゃんが弟をぶってそれを諫めるお母さん、本名が役名であり実の親子ですから演技に見えません。
そのリアリティが現在3歳と小1の娘を育てている私には凄く心に響きました。
弟がぐずっているのを、お兄ちゃんが遅刻するからとそそくさと家を出ようして、お母さんが抱っこしてあげるからと弟を抱き上げて出かけるところなどは、私の日常そのままで、見ていて胸が苦しくなりました。感情移入を超えた、映画を見ているだけなのに辛くなる感じ。
これが一番この映画から受けた感情でした。
全編通して映画のセオリーや常識を取っ払った作品でした。
上映後に映画監督であるリム・カーワイ氏を交えて監督、俳優、プロデューサーが登壇したトークショーがありました。
カーワイ監督は興奮してこの作品のすばらしさを語っていました。きっと同業者としてこのような作品を完成させたことが羨ましいのだろうな、と感じました。それくらいいい意味で非常識な映画だったと思うのです。
メディアは在日外国人の厳しい現実を描いているとしていますが、それは世間に届きやすい分かりやすい視点であり、私には、この映画作品そのものが破天荒であること、それが一番感じたことであり書きたいことでした。
メイキングDVDもありました。まだ見ていないのですが、これを見るとまた違った感想になるかもしれません。
良い映画作品は色々考えて語りたくなるものです。
甲野 功
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