開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
私はテレビ東京のビジネス系の番組を視るようにしています。具体的には「日経スペシャル ガイアの夜明け」、「日経スペシャル カンブリア宮殿」、「日経スペシャル 未来世紀ジパング」です。この3番組はずっと視ています。他に池上彰さんの特番があるとみることがあります。「ガイアの夜明け」は各回テーマを決めたドキュメンタリーで主に企業について取扱います。「カンブリア宮殿」は一人の経営者やリーダーに焦点を当ててスタジオでトークする内容に対し、「ガイアの夜明け」はテーマに沿った複数の(時に単独になりますが)企業や組織を追いかける内容です。「未来世紀ジパング」は主に海外と日本の関係を主軸にスタジオトークを踏まえて進行していきます。これらは日本経済新聞社がスポンサーであるため、他局とは違った踏み込んだ内容になることがままあります。
ある回の「ガイアの夜明け」をみたときでした。その回は京都の老舗旅館を若い起業家が買収して再建させる内容でした。ありがちな話ですが、それまでの社員と新オーナーとの衝突があります。ベテラン料理長が新オーナーの紹介で三ツ星有名日本料理店に修行に出される場面がありました。新オーナーが旅館を新生させるためには、料理のレベルが低いことを問題視したためです。料理長も職歴20年以上のベテラン。また新弟子のように外部で料理の基礎を学ぶことは、とても苦しい心境でしょう。おそらく年齢もさほど変わらないであろう、日本料理店の大将に学ぶわけです。長年の職歴が大切な事を忘れさせてしまったのでしょう。雑な仕事をする料理長は叱られてばかりです。途中の料理チェックでは、大将が「話にならない」と試験を中断させてしまいました。一応東京ローカルとはいえ、その料理長にはキー局で放送されるには厳しい映像です。若い新人と、わけが違います。旅館の料理長としてこれからスタッフを指導する立場なのですから。
試験を中断して奥に戻った指導側の大将をカメラが追いかけます。スタッフが話を聞きました。そのときに大将は頭を抱えてこのようなニュアンスのことをつぶやきました。
「あいつ本当にお客さんの笑顔が見たくて料理しているのかな」
正確なコメントとはちょっと違いますが、このような内容でした。私には、呆れたというより悲しいという表情だったと受け取りました。
このコメントがとても私の心に響きました。有名料理店で弟子もたくさんいる。評価もされている。きっと上下関係が厳しい時代を過ごした料理人。指導側の大将は何となく完全無欠の職人というイメージを持っていました。しかしカメラの前で感情を露わにして出た言葉は、料理を食べたお客さんの笑顔について。勝手に、自らの技術や美学に重きをおいているのかと偏見を持っていた私は、とても驚きました。裏を返せばお客さんの笑顔を見たいがために良い素材を仕入れて、手を加えて、繊細な気配りで料理をしている。その積み重ねが認められて有名になった。まずお客様ありきの考え。技術がどうこうの話以前の本質部分があまりに純粋で、料理人というよりもとてもいい意味で「サービスマン」のようでした。
私がこの言葉を聞いたときに、自分に置き換えてみました。
「本当に患者さんの笑顔のために治療・施術をしているのか」
反省しました。
良くなってほしいと心底考えて臨床に立っていたのか?
予約が取れた時点で満足していなかったか?
日々の数字ばかり気にしていなかったか?
色々と自分に問いかけました。
鍼灸師になった最初の年は、絶対に良くしたいと思って鍼を打っていました。按摩や指圧といった徒手療法で「体が軽くなった」と言われることを素直に喜んでいました。このような拙い技術にお金を払ってくれてありがたいことだと、感激していました。気づけば臨床歴が10年を軽く超えました。あじさい鍼灸マッサージ治療院を開業して丸4年。患者さんに治療をすることも、対価を頂くことも、予約の連絡が入ることにもどこか慣れてしまっていました。今日は上手く刺せたな、と鍼が綺麗に刺さることに納得していました。本当は患者さんが喜ぶためにしていたはずなのに。
お金を得るため。納得できる技術を披露できたという自己満足のため。
このような気持ちで臨床現場に立っていたことを反省しました。どれだけ良いように解釈しても、鍼灸は侵害刺激です。物理的な刺激や熱を加えることで少なからず患者さんの身体を侵襲します。その反応で治療効果を期待するものです。按摩や指圧も、ゼロではない骨折や揉み返しのリスクがあります。そのリスク以上に効果が期待できるからやることが許されています。デメリットよりもメリットが上回るから、本来許可されていないことを、私には許されて行っています。それが国家資格であり、免許というもの。患者さんの笑顔を第一に考えられずして、治療行為を行うことは本末転倒でした。疎かにしていたことを「ガイアの夜明け」で思い出させてくれました。
本気で患者さんの笑顔を見るために治療・施術をする。 このことを改めて意識して、日々送るようにしました。すると段々と前より予約が入るようになってきました。それなりのキャリアを積んで、幾多の職場・現場を経験し、開業して院長という肩書を持ちました。その過程で忘れていた大切なことを、もう一度思い出させてくれました。
甲野 功
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