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先日、母校である東京医療専門学校、鍼灸マッサージ教員養成科第34回卒論発表会に参加してきました。お伝えしたばかりです。
発表を聴くことで知見を拡げることも重要なのですが、隠れた重要な参加理由に齊藤秀樹校長の言葉を聞くことがあるのです。
東京医療専門学校の教員養成科は日本で最も古い鍼灸学校教員養成機関です。規模も最大級。教員養成科を卒業し全国の鍼灸専門学校へ赴任するのです。
鍼灸師になるための入り口が鍼灸専門学校であり、そこで教鞭をとる教員を、学生が最初に深く接する鍼灸師を、最も輩出するのが東京医療専門学校教員養成科。鍼灸師育成に関わる影響力は大きいでしょう。
そして齊藤校長が、教員養成科最後の授業たる卒論発表会で語る言葉を聞くと鍼灸業界の方向性が見えてくると考えています。
例年、閉会の挨拶で話をするのですが、今年は所用のため開会の挨拶でお話されました。意義深い内容でした。
話の内容を抜粋します。
『論文研究をするのは何故でしょうか。皆さんは卒業すれば自ら勉強の場を探さなければいけません。そうなると多くは論文から学ぶことになります。論文研究をすることで論文の良し悪しを知ることができます。そのために自らやらないとそれは見えてきません。』
少々意訳して書き起こしていますが、内容は概ね間違いがないはずです。
まさにその通りだと聞いていて納得しました。
私は教員養成科を卒業して5年経ちます。
5年前に苦しい思いをして実験計画立案、先行研究の調査、実験装置の作成、実験、統計学処理、論文作成、発表と一人でやり切った経験が今も活きています。更に毎年教員養成科卒論発表会に出ることで論文の良し悪しが分かるようになってきています。
論文になっているからといって、手放しに価値があるとは言えません。よく読み込まないと間違った解釈をしてしまうことがあります。
研究プロトコルは?
実験手順は?
n数(実験被験者の人数や調査対象の数)は十分か?
均一条件で行っているか?
統計処理の数字はどうなのか?
色々みるところがあります。
研究そのものが本当に意義のある意味のあるものかどうかも大切で、とりあえず実験すれば、調査をすれば「研究のさま」はつきます。
しかし、「研究したテイ」を作り上げたいがために、
本当に解明したいことなのか?
それをすることが(のちのち)社会に役立つのことなのか?
といった命題が無いものもあります。
何となくやってみました、という研究もたくさんあるわけです。そのために学会では研究の精査、論文の査読が行われるのです。
論文の良し悪しが分かる、というのは実際にやってみないと分からないことです。
実験研究をしてみると、できることとできないことが分かってきます。
<その実験は本当にできたのか?>と疑うものもあります。
科学というのは常に疑い否定する心構えが必要です。先人たちの業績を踏まえつつも、「それは本当にそうなのか?」という心構えがあってこそ発展します。
論文になっているのだからどれもすばらしい、というのは思考停止しているわけで科学とは言えない。
巷にあふれる「○○博士が推奨する」「研究の結果判明した」といった形容詞を鵜呑みにしない姿勢ができるのです。
極端な話、被験者3名中2名に効果があっただけで「大多数のモニターさんに効果がありました!」と言えますし、問題があった実験結果を正当な環境下では無かったからといって除外して数値を良くすることだってできるのです。数字や数値は嘘をつきませんが、扱う人間が嘘をつけばそれは嘘になります。しっかり見極めようとする姿勢は医療従事者として大切です。
以前書きましたが、相関関係があるからといって因果関係があるとは限らないということも重要です。
実験結果を統計処理して有意に効果が出たとしても、それが本当に原因となって効果が出たのかはしっかり見極めないといけません。
論文を書き上げて発表した経験があると、研究者はいかに問題点を隠して綺麗にみせようとするか分かります。隠しておいた方がいい、それは書かなくてもいいよ、ということが出たときに、表に見せないで押し切ることもできてしまうのです。
<嘘はついていません、本当の事を公表していないだけです>という状態。
これはやってはいけないのですが、苦しんで研究をやり遂げた側からすると妥協したくなるものです。
発表や質疑応答をみていると、そこのところも見えてきます。
間違ってはいないけれど正しくはない、という宣伝や謳い文句から大切な患者さんや家族を守るためにもきちんと情報を識別できた方がよい。
そのために「論文の良し悪しが分かる」ことは医療従事者にとって必要なことではないでしょうか。
齊藤校長がおっしゃった別の言葉も紹介しておきます。
『発表する2年生は皆さん「今後もやっていきたい」と言います。しかし実際にはできない。それならば教員養成科として継承していき、外部へ発信していきましょう。それが本校教員養成科としての価値が高まるのです。』
次世代が継承すると同時に卒業生も継承していく努力をしていきます。
甲野 功
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