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清水茜作 はたらく細胞
世間で話題になっているマンガです。
”擬人化”という分野で、人体に存在する細胞(白血球、赤血球、T細胞など)を人間のようにキャラクター化して組織(血管、肺、消化器など)を施設に見立てて物語を進めます。
アニメ化もされて一般的にもかなり有名な作品なようですが、私の場合ですと内容がとても勉強になるという噂を鍼灸専門学校学生さんから耳にして、読んでみることにしました。
なるほど、これは勉強になる。そのような感想でした。
主人公は白血球、さらに白血球の中でも好中球です。免疫機能の最前線にいます。
ヒロインはドジな赤血球。酸素や栄養素を血流に乗って配達する機能をもちます。
生理学、病理学で習った内容を分かりやすく学ぶことができる、医療系の学生には(学生に限りませんが)優秀な学習教材と言えるでしょう。
ヘルパーT細胞、キラーT細胞、B細胞、白血球。貪食能、遊走、抗原提示。細胞性免疫、液体性免疫。
文字にするとごちゃごちゃして分かりづらかった免疫系。今でもしっかり理解しているとは言えません。それがこのマンガを読むととても分かりやすい。
好中球も好酸球も好塩基球もキャラクターにすることではっきと違いが分かります。文字にすると本当にどれがどの機能・役割なのか混乱します。しかも3つとも白血球という。
「はたらく細胞」を読めば違いがすんなりと頭に入ります。
キラーT細胞とNK(ナチュラルキラー)細胞の違い。抗原提示とは何か。ストーリーで解説してくれるので助かります。
胸腺や骨髄を保育所・養成学校として描いたアイデアはとても分かりやすかったです。そういう風に説明してくれたら学生時代もっと楽だったのに、と思いましたね。
私はスーパードクターK、ゴッドハンド輝などの医療マンガに専門学校生時代に随分助けられました。もしもあの当時、この「はたらく細胞」があったらどれだけ役立ったことでしょうか。
今は最初の「はたらく細胞」しか読んでいませんがスピンオフ作品である「はたらく細胞BLACK」、「はたらく細菌」なども手に取ってみようと思っています。
勉強になるという点だけでなく作品の面白さもヒットした理由なのでしょう。
「はたらく細胞」には固有名詞が出てきません。主人公も「白血球さん」と呼ばれ、数ある白血球(の好中球)の一人(?)に過ぎません。認識番号で自分のことを区別しているだけです。
ヒロインも赤血球であり固有の名前がありません。
登場人物全てそうです。一般住民にあたるキャラクターも「細胞」だけです。擬人化してキャラクター分けをして描いているにも関わらず。細胞はいくらでも代わりがいることを示唆しているような。
実際には、赤血球には核が無いため細胞分裂しません。寿命も120日程度と短いのです。時系列でみたときに1巻の赤血球と5巻の赤血球は別人でないといけないでしょうね、本当は。体に起きる問題が多すぎて4ヵ月など過ぎてしまうでしょう。
そして細胞たちが住む世界である人間を一切描いていません。年齢も性別も生活環境も分かりません。細胞たちには世界がそこにあり、肉体を維持するために働き、外的要因による体調の変化(=世界の混乱)に右往左往しつつ戦っている。
失血性ショックに陥ったときは、輸血という何が起きたのか理解できないけれど大勢の赤血球が突如現れてくれたおかげで助かるという、描写がありました。きっと体内にいる細胞も世界(=人体)の全貌もわからないまま活動しているのでしょう。
神の視座といいますか。よく考えると深い内容です。
体には幾多の外敵(細菌、ウィルス、疾病)が襲ってきます。免疫の最前線にいる主人公の白血球は日夜戦い続けます。
敵と戦って勝利する、仲間を守るというのはマンガの定番中の定番。マンガだけでなく映画でも小説でもドラマでも基本は何かと対立し勝負し勝利する(負けることもありますが)ことが全てでしょう。スポーツでも恋愛でも仕事でも何かと対立するのは絶対にあることです。
バトルものでは、そこにリアリティが無くなります。ドラゴンボールはなぜずっと強敵が現れて戦い続けるのか(しかもどんどん強くなっていく)。少年マンガだからね、と言えばそうなのですがどうしても現実味がありません。
学園モノでもなぜ簡単に暴力沙汰のケンカになるのか、という疑問がありますよね。
「はたらく細胞」における戦いは全てが必然であり、実際に体内で起きていることです。
細菌が体内に入れば免疫系が排除に動きます。血管が破れれば血小板が集まって補修をします。そして平穏が訪れてもまた外敵がやってくる。その敵を倒すために各細胞が役割を果たしています。際限のない戦いは意味のあるものなのです。スポーツマンガを除いてこれだけ戦うことに必然性のある作品を知りません。
がん細胞についても興味深い内容でした。
がん細胞は人体で常に生まれています。それを免疫系が随時やっつけているのです。がん(正確には悪性新生物)はできて当然。その事実をなかなか一般の方には理解しづらいようです。
「はたらく細胞」では細胞分裂時にコピーが失敗した細胞(人間)をキラーT細胞たちが「このバグり野郎!」と殺そうとします。同じ体内で生まれたのに。逃げ切った細胞はがん細胞として豹変し強敵として免疫系の前に現れます。ただ普通に生まれたはずなのに手違いで味方として守ってもらうはずのT細胞に殺されかける不条理を訴えながら。
人間社会でもあるような話です。実際に体内で起きていることなのですが。
葛藤しつつも「この世界(体)を守るためだ」と主人公の白血球は戦います。擬人化することで身体の本能的な働きに人間的なドラマが加味されるという。画期的な作り方だと思いました。
もしも「はたらく細胞」に鍼灸が描かれたらどうなるのでしょう。按摩、マッサージ、指圧を受けたら細胞たちはどうなっているのでしょう。
そう考えると新しい治効理論が生まれるのではないかと感じます。
勉強のために読みましたがそれ以上に得るものがあった作品でした。
甲野 功
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