開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
先日、慶応義塾大学信濃町キャンパスで行われた下記のセミナーに参加してきました。信濃町キャンパスとは慶応大学病院がある場所で多くの著名人が入院したことのある場所でもあります。
そのような現代医療における最前線の場所で以下の内容で開催されました。
鍼灸臨床家のためのセミナー 伝統的な鍼灸とは ~臨床現場の実際を語る~
講師 津田昌樹先生
日本伝統鍼灸学会主催 東京都鍼灸師会後援
津田昌樹先生のことは鍼灸WEBメディア「ハリトヒト。」で初めて知った先生です。
私よりずっと上の世代で、富山県にいらっしゃる方。学会や学術会でなければ接点がないところでしたが、SNS上で名前を知るようになりました。
「ハリトヒト。」の運営スタッフをよく知っていたので代表の津田先生にも興味がありました。学会に関する記事も読んでいました。
今回東京でセミナーをすることを知り(しかも同じ東京都新宿区内という近い場所)、参加を決めました。
そしてまだまだ未知なる伝統鍼灸とはどのようなものか?その興味がありました。
つまり本セミナーに参加した理由は2つの興味からです。
・津田昌樹先生とはどのような人物なのか実際に会って感じてみたい。
・臨床レベルの伝統鍼灸は何か。
参加した感想は、どちらも大いに考えることになる影響を受けた体験でした。当日を振り返ります。
●津田昌樹先生のプロフィール
明治鍼灸短期大学(現明治国際医療大学)在学中から弟子入りし、卒業後は富山県の総合病院に勤務。中国での研修を経て東方会という鍼灸の団体に参加。病院退職後は鍼灸院を開業。今年「ハリトヒト。」代表に。
各鍼灸師会や鍼灸学会、技術団体に所属し大学医学部の非常勤講師も行っています。
私の印象は、鍼灸の中にある「医療の側面」に関して王道を歩んできた、という感じです。経絡治療界で偉人といえる教科書に名前が出てきた先生に師事し、中国で中医学も学ばれています。もちろん現代医療についても明るい。
その津田先生が語る
『現代医療(社会)の中での伝統的な鍼灸学のありかた』
とは何か。進んでいきます。
●基本的な姿勢
・現代医学と伝統医学を(意識して)対立させない
・患者さん中心に同じ方向を向く(=患者さんの利を考える)
・標準的な治療を優先する(鍼に引き寄せない)
・治療は伝統医学的な(気血)概念で
・評価は現代医学でも
・患者さんへの説明は現代人に理解できるように
これらの点が全てを物語っていると思いました。
鍼灸教員養成科時代に習った講師の先生方そうでしたが、伝統鍼灸の大家はみんな現代医療を勉強し否定しません。前提に現代医療があることを強調していました。
しっかりと現在進行形の医療を勉強しているのです。伝統鍼灸が一番!、伝統サイコー!などという伝統鍼灸を教える人はいませんでした。
津田先生は大学医学部で教えているのですから当たり前なのですが、なかなかできないことなのです。圧倒的に自信があり勉強してきたからこそなのでしょう。
「西洋医学のガイドラインは人類の英知」とまで語るところに重みを感じました。
開業鍼灸師の立場だと「病院に行ったところで治りませんよ。鍼灸の方が良いですよ。」と宣伝した方が楽に集客できます。しかしそれが本当に患者さんのことを考えているのか?と自答したときに胸を張れるのでしょうか。
●プロフェッショナリズムの研究
・用語 プロフェッション(修練を積んだ職業、その団体)、プロフェッショナル(プロフェッションのメンバー)、プロフェッショナリズム(専門職のあり方(集団・個人))
・プロフェッション(専門家)の特性
・プロフェッショナルとしての鍼灸師の属性
・プロフェッションと社会の間の契約(社会契約)
・社会との契約 義務・期待
・鍼灸師と社会の相互の不満
・プロフェッショナルとしての一連の責務
そもそもプロとは何なのか。資格免許を取った鍼灸師は当然プロであります。そのプロとは?素人と何が違うのか?どのような立場で責任があるのか。これだけで一つのセミナーになる深い内容でした。
掘り下げるとここだけで長文の文章になってしまいます。私自身考えがまだまとまっていない(消化できていない)哲学的な内容だと感じました。しっかり復習して向き合おうと思います。
●鍼灸師・鍼灸院(伝統医学)の目的
・倫理観をもって鍼灸治療を通して患者さんを利すること
‐病的状態を回復させる
‐苦痛を取り除く
‐予防、養生等のサポートを行う
・健康回復の過程において患者さんが主体性をもつこと
・伝統医学の発展を促し啓蒙すること etc
⇒社会の中で機能すること=経営が成り立つこと
本セミナーのタイトルに<臨床鍼灸家のための>と前提があります。
臨床というのは患者さんに向き合うこと、つまり治療が目的である(研究目的でも学習目的でもない)と言えますが、もう一つ経営が成り立たなければならないという意味も込められているでしょう。
大学教授ではなく、開業鍼灸師として院を経営している津田先生だからこその内容だと思いました。社会における立場と、そのために経営が成り立つことが必須であること。あとにも強調していましたが、これらの点が研究や教育のみを行う学者・教育者でない「臨床鍼灸」の人間なのだと納得しました。
そこから社会における医療、その中にある鍼灸、更には伝統鍼灸について講義が進みます。
・社会の中の医療の枠組み 医師・非医師、近代医学理論・非近代医学理論
・鍼灸はPureな非近代医療?
・日本の社会の医療フィールドの構成
・社会と伝統医学(医術)
・社会の中で機能するためのポイント
・鍼灸師周辺の諸問題
・伝統鍼灸の技術
・伝承の難しさ
鍼灸師ならば(もしくは学生のうちから)多かれ少なかれ感じるであろう、我が国における鍼灸師の立場の曖昧さ。その原因は多岐にわたりますが、そのほとんどを解説しています。鍼灸社会学とでも言いましょうか。
ここまで研究されていたことに驚きましたし問題を理解するには時間がかかりそうですが、もやもやしていたことが随分とすっきりしました。言語化して段階を踏まえて説明されたので。
●鍼灸界全体の課題 臨床技術の整理分類と継承
・理論的知識の構築、実践的知識の整理→言語化、暗黙知を意識化→言語化
・臨床技能・実践的知識としてのモデル モデルを与えられると判別しやすくなる
・なせそうしたのか?鍼の刺入は普遍的?
・鍼灸は技能と理論
・日本鍼灸の独自性は身体知の部分になる(ここが欠けると臨床に使えない)
鍼灸、特に伝統鍼灸の難しさ(とっつきづらさ)は周りが理解できないことにあるでしょう。
足に鍼を刺して胃に効く?お腹に刺すならまだしも足で?というのが世間一般の疑問だと思います。さらに講師の、脈がこう、感触がどう、ということも初心者には違いが分かりません。数値ではっきり出してくれる現代医療の方が圧倒的に分かりやすいわけです。
そのような鍼灸の課題と言える部分を説明しています。
特にポイントとなるのは「身体知」という言葉。
日本鍼灸(あえて伝統鍼灸と書いていないところが重要だと感じていますが)の独自性が身体知にあると言います。さらに、身体知をいかに科学化(言語化)するということが課題、と津田先生は言います。
同じようなことをアイム鍼灸院の横山奨先生も話していました。大学までスピードスケートの選手だった先生は「鍼灸って身体能力でできる、スケートと一緒だと思った。」という趣旨の内容を私に言いました。そのときは、分かったような分からないような、という感想を持ちましたが、同じようなことを津田先生も言っているのでは。
身体知の対義で使っている言葉に頭脳知があり、身体知に並列に出しているのが実践的知識であり対義では理論的知識。身体知を習得できればレベルが上がるのではないかと思いました。
●個々の術達した技能を共有・普遍化する方法と理論
・それを知っていることとその方法を知る(できる)ことは別
・ドレファイスモデル
第1段階 ビギナー(novice)
第2段階 中級者(advanced beginner)
第3段階 上級者(competent)
第4段階 熟練者(proficient)
第5段階 達人(expert)
・臨床技能の熟達度
伝統工芸の職人技と同様で、鍼灸技術を習得することそして下の世代に継承することは困難で課題です。そのために今自分がどの段階にいるのかを把握する。そして解決策は「とにかく上級者・熟練者・達人に聞く」ことが大切だと言います。この聞くという行為はビギナーが教えを乞うという意味が当然ありますが、上級者以上には“ビギナーの分からないことが分からない”ことがあるので互いに発見があるのだと言います。
では達人ってどこにいるの?となったときに出てくるのが「ハリトヒト。」なのでしょう。繋がっていると思います。
●診療・診察・治療の流れ 理解し身につけるべき枠組み
・最初の一歩
・問診表・問診により概要の把握と病態の予測
・細かく問診して病態を絞り、鑑別を行う
・必要な診察を行い病態をさらに推測・・診断 イエローフラッグ、レッドフラッグ、適応症
・伝統医学的な鍼灸師でも現代医学の知識は必要 世の中のルールは現代医学が基準になっている
・基本的な情報の聴取
・四診
・愁訴部位局所の観察
・治療の説明
・評価
・診察から治療
それまでの大枠としての鍼灸師、社会的立ち位置、鍼灸の課題などの話から具体的な臨床に関することになっていきます。多くの授業やセミナーはここら辺から始まることが多いです。
●経絡治療の基本形
ここでは東方会のやり方を説明していました。
●症例紹介
具体例を紹介。
●実技
気を感じ取る訓練をテーマに鍼の持ち方動かし方の解説。実技を見せることをしました。
臨床に直結する内容については細かく触れません。
津田先生の実技はこれまで習ってきた先生のものと違い「気を動かす」ことを念頭にしていました。このことについては別の機会に触れたいと思います。
最後に臨床家として成功するために話した内容について触れておきましょう。ここが一番津田先生のキャリア形成について重要なことだと思いました。ひいては「ハリトヒト。」創設に関わるものだとも。
●計画的偶発性理論
スタンフォード大学で提唱されたキャリア論。個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される(自己で決定するのは2割に過ぎない)。その偶発を計画的に設計し自分のキャリアを良いものにする。
1.好奇心 Curiosity
2.持続性 Persistence
3.柔軟性 Flexibility
4.楽観性 Optimism
5.冒険心 Risk Taking
この5つを持っていると達成されやすい。
津田先生曰く、ご自身がこの5項目を持つような性格だそう。これまでキャリア形成で大きな困難に出会ったことが無く、いつもうまく進んできたと。多くは偶然であった。「ハリトヒト。」だって立ち上げメンバーと出会ったのは偶然に過ぎなかった。好奇心を持ち、現れたチャンスを上手く活用することが成功の要素だと。
鍼灸専門学校では技術のことは教えてくれるけど卒業したら「あとは頑張れ!自分で何とかね!」というところが多いと言います。それどころか国家試験対策中心でまともな鍼灸技術すら教えてくれない(教えられない)ところがあるとも聞きます。もっと根本的なところでこの「計画的偶発性理論」を知っておくことでかなり道が開けやすくなる(決して、道が開けるとは言いません)のではないでしょうか。
この話を突然スライドに入れてきた(配布された資料には載っていない)ところに津田昌樹先生を垣間見た気がします。
私は鍼灸師になって10年以上経ちました。これから鍼灸技術において新しいステージに進む時期だと感じたセミナーでした。
甲野 功
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