開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
先日の伝統鍼灸セミナー。実技セクションは「気を感じ取る訓練」がテーマでした。
鍼灸師は気を操作する。
補法(ほほう)とは気を補うことであり、瀉法(しゃほう)とは余分な(停滞した)気を取り除くことである。これを補瀉(ほしゃ)という。
経絡(けいらく)とは気の流れでありその反応点が経穴(けいけつ)。経穴に鍼灸を施し経絡の通りを良くする。
このようなことが鍼灸師には当たり前の知識となっています。ですが本気で体現する人がどれだけいるでしょうか。
鍼灸の国家試験科目の大半は現代医学に即した解剖学、生理学、臨床医学総論、臨床医学各論、リハビリテーション学、公衆衛生学などです。他に関係法規。
東洋医学分野はそこまで多くはありません。養成機関によりますが現代医学ベースのところが大多数のはず。それというのも臨床レベルで「気を動かす」鍼灸師はそう多く無いでしょうし、いても教員免許を持っているとは限らないのです。
これまで鍼灸専門学校を卒業し、5年間の臨床経験を経て鍼灸専門学校の教員免許を取る教員養成科まで進みました。知識としての気の操作は頭に入っていましたが本気でやろうとは思っていませんでした。
正直なところ、気が滞るとか、気を補うとか、訝しげに思っていました。ストレートに言えば「正気?」といいますか。
私の家系はみんな理科系。祖父も父も姉も。私自身も大学で物理を専攻しました。
鍼灸専門学校生の頃は講師(医師)に「鍼灸は科学ではないと思います」と発言したものです。のちのち勉強を重ねて物理と生物では根本が違うことを気づいて認識を改めましたが。
また、これまで「気の概念」は東洋医学概念の教科書で習った内容は覚えていますが虚数のようなものだと気を捉えていました。
虚数とは二乗(同じ数字を掛け合わせること)すると-(マイナス、負)になる数字。+(プラス、正)同士を掛け合わせると答えは+、-同士を掛け合わせれば答えは+になるので虚数とは自然界に存在しない数字(マイナスもある起点を0と定義しないと存在しないという意味では同様ですが)。しかし虚数があると仮定することで量子力学など数学や物理学の問題が解けるわけです。
気の概念も、存在すると仮定すれば身体に起きる色々な現象や効果を説明できるので同じようなもの、と考えていました。
また「気と目に見えないもの(もちろん存在しているが)」というかなり単純な定義があります。そのものは目に見えなくとも存在するものは日常たくさんあります。天気、空気、大気、電気、気圧、などなど。日常生活の会話に「気」を入れないことは不可能と言えるほど。
体にもある目に見えない何かがあり、そしてそれにはポイント(経穴)やライン(経絡)があるものという捉え方でした。
津田先生のスライド説明には
・鍼灸治療は気の補瀉を行い経脈、臓腑の調和をはかる
・補瀉が行われていることを実感するためには気の動きを感じることが必要
・気の動きが感じ取られなければ形式的になる恐れがある
とありました。
口頭では
気の動きをリアルタイムで感じ取れればよい
と。
この<気の動きをリアルタイムで感じ取る>が最もとっつきにくい点です。
脈が変化する、お腹の感触が変わるというのは実感としてあるのですが、触っているその場で気が動いているというのが分かりません。むしろ信じられません。
それが接触鍼をして押手で感じる取る術があることが一番の驚きでした。
毫鍼(ごうしん)という体内に刺入するための鍼を体表面に当てて、押手という鍼を支える手で気の動きを読み取ります。動く感覚が伝わるといいます。
今回のセミナーに参加して最近謎だったことが解決しました。
津田先生も横山先生(アイム鍼灸院)も内原先生(関東鍼灸専門学校)も伝統系鍼灸をする方は毫鍼の接触鍼を行います。
体に刺すための鍼でなぜ接触鍼をするのかが疑問でした。鍉鍼(ていしん)という刺さない鍼がきちんとあるのだから鍉鍼でやればいいのに、という疑問。
実際に別の経絡鍼灸(同じく伝統系)の先生は鍉鍼を用いていました。
鍼師に許された刺入できるメリットを捨て、かつ刺入できる鍼でわざわざ刺入しない接触鍼をする意味は?という点に、そういうものだろうと流していた自分がいました。臨床で接触鍼を見たこと自体ここ1年くらいのことでしたし。
すると資料に東方会のやり方では
気の病に接触鍼
血の病に刺入鍼
と分類分けしているわけですね。
納得しました。伝統系の先生はこのやり方を採用してるのだろうと。
そして今回は気を動かすことがテーマなので接触鍼だった。まだまだ知らないことが多い。
さて突っかかりが取れたことで、手の作り方・鍼の持ち方を習い自分の足に鍼を当ててみました。気が動くのを感じるのか。よく分かりません。
津田先生の実技披露になり、手の動かし方を観察し説明を注意深く聴いていました。
そこで頭に浮かんだのが講座で出てきた「身体知」という言葉。
結局、気の動きはそれを感じる触知による。肩の力を抜いて指先に神経を集中させると分かるようです。
それならば身体能力の話になりそうなので訓練すればいけそうだと。幼少期から母親の肩揉みをしてきてかるく30年以上は人の身体に触れてきました。指先の感覚は鋭いはず。肩の力を抜くのは社交ダンスで嫌というほど訓練してきました。これまでの経験を活かせば感じ取れそうです。同じことを横山先生が話していたので繋がります。
気の動きを感じ取ることができればその先に進めるはず。
実は学生時代に日本伝統鍼灸学会の学術大会でバイトをしたことがありまして、そこで舞台にベッドを置き、今回と同じよう実技デモをしている姿を見たことがありました。
術者は鍼を持って「来ました、来ました(気が集まってきました)」と呟いて「はあ!」と大きく鍼を上に挙げて集まった気を外に逃がしていました(?)。
その姿を客席から目の当たりにして、ちょっと呆れたものでした(失礼)。今になり知識を得てみると、受け入れられるようになりました。
むしろ受け入れなければならない状況になりました。
臨床経験を積むと難しい症例に出遭う可能性が高くなってきます。これまでに、ちょっと鍼灸の適応外でしょという重篤な例に出遭いました。
噂に聞いた「
現代医学ではもうやりようがないが東洋医学(鍼灸)ならどうにかならないかと思いまして」
というものです。
そういった症例に立ち向かわなければならない状況がありました(医師の紹介や自分の親族だった)。そのときにこれまでの現代的な鍼灸では限界があると感じました。
元々鍼灸が嫌いで徒手療法主体の人間です。家族全員が理科系で東洋医学に心酔することはありませんでした。
それが必要に迫られて「気を感じ取る」ことに取り組もうと思います。幸か不幸か鍼灸にこだわりが全くなかったので流派を選ぶ気持ちがありません。
現代鍼灸一辺倒で伝統鍼灸をまがい物だと言う気もないですし、YNSAや良導絡といった医師が生み出したやり方を否定する気もないです。
せっかくこの職業に就いて開業というやりたいことを邁進できる環境にいるので追及していこうと考えています。何年かかるか分かりませんが。
余談ですが、ちょうど接触鍼のみの患者さんがいます。患者さんの希望で接触鍼をしています。セミナーで習ったことを意識して行ったところ、こちらの感触・感覚が大きく変わりました。
これまでの鍼は、津田先生のスライドにあった「形式的になる恐れがある」そのものになっていたように思います。ただ何となくこれまでしていた。そこに気づいただけでも大きな収穫です。
他の患者さんでは刺入する鍼をするのですが、入り方が以前よりもスムーズになった感じがありました。接触鍼の持ち方を意識したことで動かし方が良くなったようです。
しばし気をリアルタイムに感じ取る訓練と伝統鍼灸の勉強が続きそうです。
甲野 功
コメントをお書きください