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またまた6月2日に行われた伝統鍼灸セミナーに関連する話です。
直接鍼灸技術に関わる内容では無かったのですが、タイトルにある“鍼灸臨床家のための”というワードに繋がる講義内容の一部に注目します。開業鍼灸師の私にはとても考えさせられる、そして悩む内容でした。
それは
プロフェッショナリズムの研究
というスライドでした。
「プロフェッショナリズム」を研究する分野があるそうです。セミナー資料によれば、カナダのMacGill大学でRichard L.&Sylvia R. Cruessという兄弟によるもの。
まず用語の定義です。
・Profession プロフェッション:修練を積んだ職業、その団体
・Professional プロフェッショナル:プロフェッションのメンバー
・Professionalism プロフェッショナリズム:専門職のあり方(集団・個人)
と定義させています。
日本語では「プロ」と一括りにしてしまいますが、細かく分かれています。
鍼灸というカテゴリーで当てはめると
・プロフェッション→厚生労働省認可の鍼灸師免許、鍼灸師としての職業、全日本鍼灸師会などの団体
・プロフェッショナル→個々人の鍼灸師
・プロフェッショナリズム→鍼灸師や鍼灸関連団体のあり方
となるでしょうか。
続いてプロフェッション(専門家)の特性についてです。野村英樹(2015)によれば、
1.その活動が公共への奉仕を指向しており、他者のための奉仕を目指す職業である
2.抽象的知識体系について長期にわたる特殊な訓練が必要である
3.自らの能力の維持向上に生涯努める
4.その地位を法的ないし社会的に承認されている
5.後進の育成に責任を持つ
6.職場を超えた、同職者による組織を形成する
7.倫理綱領をもち、行動を自己規制する
となります。
1.については当然と言えば当然のことでしょうか。公共、他人のためになることを目指すのが専門家。
2.には訓練の必要性を述べており、簡単にはなれないものとしています。
3.では更に能力を維持すること、向上させることをずっと続けることを述べています。
4.は非合法であったり社会に認めてられてなかったりするものは専門家とは違うとします。
ここまでの項目をみると鍼灸師が専門家として定義に合うことが分かります。
患者さんを良くすることを目的とし(1.)、3年以上の専門教育を受けた上で就くことができ(2.)、基本的に一生勉強します(3.)。勉強しない怠けた鍼灸師もいるかもしれませんが世間の流れに取り残されてしまっては生き残れないでしょうし、専門家とは言えなくなることでしょう。
鍼灸師として活動するには厚生労働省認可の資格免許(はり師免許、きゅう師免許)が必要です(4.)。最近はり師免許を持たずに鍼施術を行っている(または行わせている)人間がいるという情報を耳にしますが、法的・社会的に承認されていなければ専門家とは言えないことは明白です。
さて5.以降が気になるところです。
専門家は後進の育成に責任を持ちます(5.)。
これはやや意外なところで、自分だけが向上していればよいわけではなく次の世代を育成しないといけないというのです。Professionとは職業・団体を指しますから後進育成を怠っていていては継続できない(できなくなる)わけです。鍼灸師を養成する専門学校の役割が大きなものになります。
津田先生は、職場を超えた同業者の組織を形成する(6.)ことが鍼灸師は苦手だといいます。
私も実感できます。鍼灸師は一匹狼タイプが多いし鍼灸のスタイルが千差万別。公益団体が2つあることの異常性(鳥海先生より)。専門家(団体、職業)としての課題であるわけです。
そして津田先生が強調していた7.のこと。
講演では、高血圧の治験データを改ざんしたディオバン事件と姉歯(元)建築士による耐震偽造事件を例に専門家による社会的な問題が起きた事件を紹介し「誰が抑制するのか」と語りました。一般人が立ち入れない専門分野において専門家が不正を働いたとしたら、それを見破るのは困難であり被害が大きくなります。倫理無きものは専門家とは言えません。
鍼灸師も倫理無きものは同様に専門家とは言えず、常に襟を正していかないといけません。
心に響きました。
続いて、プロフェッショナルとしての鍼灸師の属性に話が進みます。Cruess氏による属性分類です。津田先生によれば医師も同様だそうで、
癒し人と専門家
の2つの属性があると言います。
癒し人は、一人の人・個人であり、思いやり・共感、洞察、誠意、癒しの機能に対する敬意、患者の尊厳と自立に対する敬意、そこにいること、同伴する、といった項目があります。津田先生の言葉ではヒーラー、治療師とありました。
専門家は、自律性、自己規制、同業者団体、施設、社会に対する責任、チームワーク、といった項目があります。癒し人が個人だとすれば専門家はパッケージだと津田先生は言います。
この癒し人(個人)と専門家(パッケージ)の重なる部分に、能力・責務、秘密保持、利他主義、信頼性、高潔・正直、倫理綱領、道徳的、倫理的行動、専門職集団に対する責任、があります。
一人の鍼灸師という属性と鍼灸師という職業、所属団体、勤務先といった属性。そこに重なる部分で私たち(鍼灸師)は活動していることでしょうか。
次にプロフェッションと社会の間の契約(社会契約)について。
プロフェッション(専門家集団)は社会(クライアントの共同体)に対して様々な公約します(profess:プロフェス)。それらは、質の保証、利他的な奉仕、道徳心、誠実さ+説明責任。しかし鍼灸師(プロフェッション)側も社会から公約するものがあり、独占権(免許)、自律権、経済的・精神的報酬だと。プロフェッションと社会との間には相互の信頼があり、無書面契約であるのです。(野中英樹2015より)。
社会と信頼関係が構築できなければプロフェッションとは言えず、社会との契約による義務・期待が生じます。鍼灸師側も社会に対して期待してよいし、鍼灸師は社会から期待されます。我々も社会に対して要請してよいのだと津田先生はおっしゃりました。
しかしながら、鍼灸師と社会の相互の不満があります。これらを放置しておくと負の循環に陥るのです。自律性を発揮するべきであるとのこと。
プロフェッショナルとしての一連の責務を一覧にしました。
1.プロフェッショナルとしての能力に関する責務
2.患者に対して正直である責務
3.患者情報を守秘する責務
4.患者との適切な関係を維持する責務
5.医療の質を向上させる責務
6.医療へのアクセスを向上させる責務
7.有限の医療資源の適正配置に関する責務
8.科学的な知識に関する責務(科学的根拠に基づいた医療を行う責務)
9.利害衝突に適切に対処して信頼を維持する責務
10.プロフェッショナル(専門職)の責任を果たす責務
このようにみると責任重大であることが実感できます。
鍼灸師がプロフェッショナルであるためには日々の努力と誠実さが必要なのです。
今回の講義を聴いて、プロ鍼灸師とは患者さんから対価をいただいて鍼灸をする人、という認識は消えました。
社会に対して責任を持ち、社会に期待することはしっかりする。後進の育成、同業者同士の連携、倫理的である。鍼灸師が社会に対する不満も多々あるし、社会が鍼灸師に対して不満としていることもあります。
諸々含めて、鍼灸師というプロとはどのようなものなのか?ということを強く考えさせられました。現状維持ではいけない。向上に励み、更新を育成し、倫理を保つ、といったことを実行してのプロフェッショナル鍼灸師。
甲野 功
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