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~ある人生相談からみるこれからの問題~

AERA 鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい『世間』を楽に生きる処方箋
AERA 鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい『世間』を楽に生きる処方箋 相談27

 

AERAのWEBサイトにある人生相談の連載記事

鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい『世間』を楽に生きる処方箋


5月のはじめにこの記事をネット経由で知り、驚きと納得、そして深く考えることになりました。

 

66歳男性が風呂場で涙… 友人もいない老後を憂う相談者に鴻上尚史が指摘した、人間関係で絶対に言ってはいけない言葉

相談内容、記事より抜粋↓

相談27 隠居後、孤独で、寂しくてたまりません(66歳 男性 有閑人)

 

定年退職、嘱託を経て、今年から本格的に隠居生活に入った66歳です。隠居したら、今まであまり会っていなかった弟たち(弟が2人と妹が1人います)とも食事をしたり、妻とも旅行をしたり、のんびりしようと考えていました。


しかし、いざ弟たちに連絡しても忙しいからと何度も断られました。ちょっとおかしいと思い、妹に連絡したら「お兄さん、気づいてないの?みんなお兄さんが煙たくて、距離とっているんだよ」と。寝耳に水でした。妹によれば、私が長男で母から優遇されすぎたし、弟たちの学歴や会社をバカにしてたのが態度に出すぎてた、というのです。たしかに私は兄弟のなかでも学歴も会社も一番上で、母の自慢でした。弟たちをみて、不甲斐ないと思ったこともありましたが、それは私が努力したからです。弟たちにとって私は自慢の兄だろうと思ってきました。弟たちの不甲斐なさをちょっとからかったこともありましたが、兄弟のことです。

 

思い切って弟に直接電話してたしかめると「姉ちゃんに聞いたんならわかるだろう。兄貴と呑んでもえばった上司と話しているみたいで酔えんから」とつれない返事でした。結局、妻も「旅行は友達と行ったほうが楽しいから」と私と行こうとはしてくれません。
弟たちの僻みも、家族のためにと頑張って出世して養ってきた私に薄情な妻にも、許せないという気持ちでいっときは怒りでいっぱいになりました。妻が外出しようとしたとき、「食事ぐらい作ってからいけ」と怒鳴ってしまったこともあります。後悔して自己嫌悪になりましたが、後の始末です。妻とはさらに距離ができてしまいました。

 

誰にも言えませんが、最近、風呂に入っていると涙が出てきます。弟たちのことだけでなく、振り返ればとくに心を割って話せる友人もいないことに今さら気づきました

 

どうやってこの後の人生を過ごしていいか、お恥ずかしいですが、孤独で、寂しくてたまりません。
いまさら、私はこれからのありあまる時間を、どうしたらいいのでしょうか。どうしたら、弟たちと仲良くできるのでしょうか。楽しい人づきあいのコツはなんなのか全くわかりません。解決法が浮かばず、途方に暮れています。

↑以上、相談内容。

 

どうでしょうか。よくある話に思えますか。

 

私はこのような人が存在するだろうと予想しますが、ここまで厳しい現実を突きつけられた当事者が実在することに驚きました。
社会的に成功した男性が一転定年退職したら惨めな環境になってしまう。実の兄弟(しかも弟、妹)や奥さんにも疎まれる。心を割って話せる友人もいない。あまつさえ一人風呂場で涙を流す。あまりにも厳しい、辛い。

 

自業自得だろ、と片付けるには重たい相談内容です。私も年齢や家庭環境からいえばこの相談者に近い立場。バブルを引きずる老害じじいだろ、と断罪するほど若くはありません。

この相談ケースは今、そしてこれから直面する日本の社会問題を端的に現しているように思うのです

 

回答者である鴻上尚史氏の回答を抜粋してみましょう。

(前略)


根拠は、「自分はちゃんとやってきた」ということですね。自分がちゃんとできたんだから、あなたもしなさい。自分はがんばって努力したから、あなたも努力しなさい。きっとできるはずだ、それができないのは、あなたの努力が足らないからだ、という思考の流れです。


(略)


有閑人さんは、「努力していい大学に行くこと」「立派な会社に勤めること」「仕事で結果を出すこと」という価値観で生きてきたのでしょう。そして、その価値観から見て、「努力してない人」「ふがいない人」「能力の足らない人」にアドバイスをしたくてたまらなくなるのだと思います。

 

でも、それはその価値観だけの基準です


(後略)

相談者の思考を指摘しつつ仮説を立てています。そしてでも、それはその価値観だけの基準ですと切り捨てています。

 

私はここが一つ目のポイントだと考えており、相談者が理想とする価値観を他者(立場上下と思われるご兄弟と妻)に押し付けたことが問題の発端としています。

 

だからこの相談者が悪いのでしょうか?


このような考え(価値観)を持った人など山ほどいるでしょう。特に珍しくありませんし、珍しくなかった。私が新社会人になった頃、年上の先輩社員はこのような考え・価値観の人ばかりだったと記憶しています。


きっと相談者の親や先輩方が高学歴・有名な企業に就職・仕事で成果を出すといった事柄を是として、家庭を顧みず働くことが正義だと教え込んだのではないでしょうか。
戦後から高度経済成長期を生きたひとにはその価値観が正しかったのでは。先輩方の立ち振る舞いをみてきて、相談者も当然のように同じことをしただけでないのか。私はそう考えてしまうのです。

 

問題は時代が変化してそれに対応できなかったことではないでしょうか。高学歴・高収入・仕事一辺倒が良しとされた時代がいつの間にか終わっており、個性を尊重する・ダイバーシティ・グローバル化になっていた。
そこに気付かず若い頃の価値観がずっと通じると思っていた。会社という所属する組織が無くなり、役職という肩書(それと高額の給料も入るでしょう)を失ったら相手にされなくなってしまった。実の兄弟や妻にさえ。

 

このような男性はたくさんいると思いますし、これからも増えるのではないでしょうか。

 

続く鴻上尚史氏の回答は厳しいものです。

(前略)


でね、有閑人さん。「どうしたら、弟たちと仲良くできるのでしょうか」と書かれていますが、有閑人さんは66歳ですから、弟・妹さんがいくつであれ、たぶん、最長50年以上、そういう関係だった可能性があります。奥さんとも、最長で40年前後ですか。


この長い時間で、彼ら、彼女らには、有閑人さんのイメージがしっかりと出来上がっていますから、関係を変えるのは、かなり困難だと思います


(後略)

関係修復はほぼ不可能だから諦めよう。そのようにも取れる回答です。

 

昭和の時代ならば、兄を(弟、妹が)敬う、夫を(妻が)立てる、という価値観があったでしょう。大昔の農家は家督を誰が継ぐかは大きな問題で長男が優先的に引き継いだもの。それが個人の時代になり通用しなくなったことがこの回答内容から読み取れます。

先輩だから、年上だから、目上の人だから、相手を立てることはなくなった。社会的な飾りが効かなくなってきていること
これが二つ目のポイントと考えます。


社会通念上立場が上だから偉そうにできる(自覚が無いにしても)ことはない。いくつになっても自らを律してマナーを持っていないと身内にすら相手にされなくなったと言えるでしょう。

 

具体的なアドバイスが続きます。

(前略)


僕のアドバイスは、「まずは、対等な人間関係を学習しませんか?」ということです。


弟・妹さんと仲良くすることは、いったん、あきらめて、他に人間関係を作るのです。見下すことも、見下されることもない関係の先に、有閑人さんが求める「心を割って話せる友人」が生まれる可能性があるのです。


(略)


有閑人さんが何かのサークルか集団に入り、そこで「対等な人間関係」を学び、人間の弱さやずるさ、バカさを含めて、「それが人間なんだ」と肯定的に接するようになったら、奥さんは何かを感じるはずです。


(後略)

まずは他人との有効な関係を構築した方がいいですよと。


対等な人間関係を学習する」。
幼稚園、保育園時代に自然と学ぶことですよ。66歳の男性に対するアドバイスとしてはかなり幼稚というか基本的すぎるといいますか。それくらいしないと関係修復はできないというわけです。
若い人は「コミュ障」といって対人コミュニケーションがうまくいかない状態をこう称します。なんてことは無い、高齢者にも「コミュ障」の問題があって、しかも若者以上に大変である。
そのことを示唆しているのではないでしょうか。

 

最後のポイントはこのようなアドバイスをしなければならない背景です。

 

もしも70歳ぐらいで亡くなる時代ならば、おそらく立派な企業を退職したのですから高額の退職金を手にしたであろうし支給される年金を一緒に使って、晩年を自由に生きて最期を迎えればいいではないでしょうか。必死に働いたのだから最期はびのび自分らしく過ごした方が良い、となりそうです。

 

現実はそうもいきません。現在66歳ならば平均寿命を考えても何もなければ80歳までは生きることでしょう。場合によっては85~90歳くらまで生きることも十分考えられます。
今後15年くらい生きていくには周りとの人間関係を考慮しなればなりません。そうでなければ相談者は、もうすぐ死ぬのだからと開き直るのでは。一人お風呂で涙を流し、恥を忍んで他人に公開相談するのは先行きがとても不安だからでしょう。

 

また資金面の不安も考えられます。最近、老後のために2000万貯金しておくように、といった報道がありました。66歳の今はいいですが将来を考えると退職して収入が年金しかないのであれば、身内からの支援(金銭面だけはないですが)がとても重要になるはず。相談内容からは計り知れませんが老後のお金は直面した問題になっています。

 

 

人生100年時代」と言われはじめました。

 

定年退職で終わりではなく、新たな人生がスタートすることになります。
そのため仕事面も人間関係面も、高齢者になってからもなおついてまわる問題に。会社の後ろ盾が無くなったら何も魅力が無い人間になる。その状況に陥らないよう現役世代のうちから考えて行動しないといけないのでしょう。いけなくなるのでしょう。

 

私はあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師という資格免許を持ち、自営業(治療院開業)という業態を選択しました。保証もない、ボーナスもない、有給休暇もない、資本は体という状況です。
企業勤めの方が遥かに安泰だと今は思われるでしょうが、老後のことを考えると果たしてそこまで不利と言えるのでしょうか。

定年退職はありません。特に鍼灸に関しては年齢を重ねた方が人間の深みがまし、技術は熟練し、有利になりやすくなります。また一般企業で働くという選択肢も残されています。別の事業を始めることもできます。開業、院経営の経験は大きいのです。

 

最近某化学メーカーが育休休暇を取得した男性社員に対してひどい対応したことが発覚し炎上、株価に影響するという事件がありました。人生設計のほとんどを企業に握られて、定年退職したらスキルも人脈も社会的資産が何も残らないような状況に身を置くのはとてつもないリスクになります。


本件の相談者だって、役員として残るわけでもなく、新しく起業するわけでもなく、仲の良いコミュニティがあるわけでもなく、別の企業に再雇用されるほどの能力もなく、ボランティア活動に精を出すこともなく、という状況が悩みを生んでいるのでは。

 

過去の(良いとされた)価値観に囚われて時代の変化についていけない。

これからどんどん表に出てくる我が国の問題をみるような気がしたのです。

 

甲野 功

 

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