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~「新・魔法のコンパス」を読んで 人検索の時代~

角川文庫 新・魔法のコンパス 西野亮廣著
角川文庫 新・魔法のコンパス 西野亮廣著

 

 

最近、その活動や考え方が世間にも浸透してきたキングコング西野亮廣氏。嫌われ者の炎上芸人というイメージから変わりつつあります。10年以上前にお笑い芸人として売れっ子だった彼はテレビの仕事をほぼ捨てて色々なチャレンジを始めました。お笑い芸人から絵本作家。今では実業家という肩書が印象強いでしょう。もう2年前でしょうか。西野亮廣氏の著書「革命のファンファーレ」にはとても影響を受けました。この本と出合ってから加速度的に他の鍼灸師との繋がりが増えて新しい世界が見えるようになりました。

 

その「革命のファンファーレ」より前に出していた本が「魔法のコンパス」。こちらもヒットしたビジネス本です。そう西野亮廣氏は売れっ子ビジネス本作家でもあります。その「魔法のコンパス」が文庫化されることになりましたその際に、文庫本は何年も何十年も書店の棚に残るものだから何年経っても通用する普遍的な内容にしないといけないとして、旧作「魔法のコンパス」の内容を捨てて新たに書き直したのが文庫版「新・魔法のコンパス」です

読んだ感想は、これまで西野亮廣氏のブログなども含めて色々な媒体から得て知っている情報ばかりですから、まあこんなものだろう、というもの。しかし2度目に読んだ後は考えが整理されて、とても大切なことが書いてあるな、と改めました。「革命のファンファーレ」を読んだ時と同じように、これは私がおかれている環境に置き換えてみても納得できるな、という部分を抽出・整理して何回かに分けて書いていきます。

 

なお「革命のファンファーレ」を読んで書いたブログは以下の通り。

~鍼灸の認知と人気 「革命のファンファーレ」を読んで~

~ダイレクト課金者 「革命のファンファーレ」を読んで~

~信用 「革命のファンファーレ」を読んで~

~マネタイズのタイミングを後ろにずらす 「革命のファンファーレ」を読んで~

 

このような形で「新・魔法のコンパス」を読んで気になったこと。まず、最初にとても残った項目がこちらでした。

 

第3章 ファン 「機能検索」の時代が終わり、「人検索」の時代が始まった。

 

本文から一部抜粋します


目の前に、同じ味、同じ値段、同じ内装の店が並んだら、ボクらが店を選ぶ理由は一つしかない。
「誰が働いているか?」だ。
もう少し踏み込んだ言い方をすると、
「誰にお金を落とすか?」

「どのお店も美味しいから、どうせなら、あの人のお店で食べよう」という判断になってくる。

どうでしょうか。私は同じようなことを以前から痛感していたことです。鍼灸師、マッサージ師というのは個人の力量がよりものをいう世界です。むしろそれが全てというか。「鍼灸が素晴らしい」ではなく「あなた(鍼灸師)がする鍼灸が素晴らしい」そう考えてきました。

 

時代の流れとして、あの鍼灸院がいいよからあの鍼灸師に任せようというのが当然になってきたというか。

 

美容師でもネイリストでもエステティシャンでも、美容系の施術を行う世界では店舗よりも人につくと良く耳にします。美容師が辞めると移籍した先にお客さんがついていく、という。私の鍼灸マッサージ業もそうですが、長ければ軽く1時間以上、相手と一緒にいて直接触れる関係柄。嫌な人、合わない人には触れたくないですし同じ空間にいたくないでしょう。ある程度自由なお金がある人にとっては料金よりも時間の方が重要で、嫌な時間を過ごすことは大きな不満になります。「新・魔法のコンパス」では飲食店を例に挙げていましたが、飲食店よりも更に個人が出る鍼灸マッサージ業界では店舗検索よりも人検索の方が重要であるのはもちろん、その影響はより強くなるでしょう。

 

このような「時代」になったのはもちろんネット環境の発達によるものです。スマートフォンにSNS情報が簡単に得られるようになったため、損をしたくないから大手チェーン店にしておこうからあそこの個人商店は本当に評判がいいから行ってみようになりました。かつては大手口コミサイトに多額の資金を投入してランキングを上げるやり方ができましたが、SNSの発達で匿名の誰が書いたか分からない口コミよりもリアルな評判をSNSで探す時代になりました。もはやSNSが検索ツールになる時代です

 

人検索の時代というのは、行くお店(サービス、我々だと鍼灸院、治療院)を人で選ぶということはもちろん、誰が薦めている(話題にしている)のかまで重要になります。例えば一般の人が「あの鍼灸院はいいよ」という意見もとても参考になりますが、同業者である鍼灸師が「あの鍼灸師は凄い」という意見は違った意味で重要です。『お医者さん認めるドクター』という記事が人気になるようにプロが認めるプロは一般の方に指示されます。なぜならば専門性が高くなれば高くなるほど一般の人には情報が乏しく判断しようがなくなるからです

反対に(どんな)鍼灸でも素晴らしい!と世間が思ったとします。そうなれば「誰がやる鍼灸でも差がない」ということになり、ビジネス用語でいうコモディティ化が起きます。これは品質に差が無くなりどこでも同じになるため、料金や立地でしか差が生まれなくなくなり、値下げ競争に陥るというもの。そうなればどんどん値下げが広がり働いても働いても利益が出ないという悪循環に陥るでしょう。今のところこのようなことはありませんが、美容鍼は素晴らしい!という世間の流れができはじめていて、コモディティ化が進むのでは、と予想しています。

 

最近、勧められる鍼灸院はどこですか?というお問い合わせを何件か受けました。それならばうちに来てよ、という本音は隠して立地的に遠いのでこのエリアで紹介できる鍼灸院を考えていました。そのときに完全に人(鍼灸師)で選んでいるのですね、私が。どの鍼灸院を勧めるかではなく、どの鍼灸師さんを紹介するか、なのです。

最近の例ですと、これから開業する教員養成科の先輩を紹介したことがありました。まだオープンしていない。しかしそのエリアで信頼できる人はその先輩だろうと考え、これから開業しますがこの先生は信頼できますからどうしょうか、と連絡しました。

また鍼灸院はどこを選んでいいのか素人目には差が分からない、3つほどホームページがヒットしたのですがどうでしょう。このようなお問い合わせ。3つの鍼灸院はどれも私は知らないところでした。しかし同業者の目で眺めてアドバイスをさせていただきました。院長(もしくはスタッフでも)の、実際に鍼灸をする術者のことがしっかり書いてあるところがよろしいかと思います、と。


謳い文句はどこも同じようになりますし、鍼灸技法に関しては素人目には理解できません。学会所属とあってもその団体がどのようなものかも判断できないでしょう。術者の人柄が出ていてあなたがこの人なら任せられると思ったところを選んでみては、ということです。
※断っておきますが「よい鍼灸院あります?」という極めて大雑把な質問に対しての話です。症状や既往歴、年齢など情報があればあるだけ紹介の仕方は変わります。場合によってはすぐに医療機関を受診してくださいとなります。

 

このように私が同業者として鍼灸院を選ぶときも、人検索なのです術者の名前からエゴサーチをかけて、SNSをしているのか、していればどのような情報発信をして誰と繋がっているのか、まで見てしまいます。院や自分の宣伝ばかりSNSでしている人よりも勉強会や研修、他業種と交流を持ったり自分の趣味に時間を割いたりしている人の方が信頼できてしまいます。

反対に大規模チェーン展開をしているところはこれから大変になるのではないでしょうか。誰がやっても同じレベルという前提がありますから。スタッフによる差が分かりづらくなり、あそこは「当たりはずれが大きいな」と思われると印象が悪くなるでしょう。技術職であるため、どのスタッフも一様に同じ、というのはとても難しく実現するならば技術を簡略化して平均値をとることが求められます。そうなればそうなったで代わりがきくわけなので現場スタッフのやる気がどれだけ続くのか。同じレベルに留まることになると向上心が薄れるものです。この院ではなく、あなたを目当てに来ているのよそう言われた方がやる側は嬉しいものです。反対に経営者側は困るのですが。

 

「新・魔法のコンパス」ではこの項目のまとめが以下のようになっています。
「機能」や「品質」や「値段」で差別化が図れなくなってきた。
選ばれる理由は「人」。
自分をブランド化して、「ファン」を作ろう。

これは私の業界にも刺さる内容ではないでしょうか。

 

甲野 功

 

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