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~「新・魔法のコンパス」を読んで リピーター獲得の方程式~

角川文庫 新・魔法のコンパス 西野亮廣著
角川文庫 新・魔法のコンパス 西野亮廣著

 

 

ここ最近の芸能界の話題は、吉本興業所属の一部芸人さんによる「闇営業」が盛んです。事務所を通さないで芸人さんが直に仕事を取ってくる「直営業」のことを業界用語で「闇営業」と称していたのを、反社会的勢力(≒闇社会)との関りを混同して「反社会的勢力と事務所を通さず仕事をすること」と解釈が変わってきています。相当なベテラン有名芸人も謹慎処分になり、テレビに映さないように不自然な編集が加えられたバラエティー番組が放送されています。このような状況を数年前から予見し既に対応策を講じていたのが、同じく吉本興業所属(正確には契約書が無いのでマネジメントを委託しているだけらしいのですが)のキングコング西野亮廣氏。吉本興業のクラウドファンディングを設立し、芸人さんが堂々と企画を立ち上げて直接クライアントやお客さん達とやり取りをする環境を作りました。手数料を吉本興業に支払うことでを吉本興業を通さずに個人で企画・仕事を行い対価を得るシステムを構築していたのです。

 

その西野亮廣氏の著書「新・魔法のコンパス」。この本に書かれていることは私のいる業界にも通じることがいくつもあります。気になった個所を何回かに分けて紹介しています。前回は人検索の時代について書きました。2回目はこちらの項目です。

 

第2章 広告 リピーター獲得の方程式は「満足度-期待値」 

本文から一部抜粋します

説明するまでもないけど、「一見さん」だけでは、お店は回らない。「一見さん」が一周したら、お客さんがいなくなるからだ。
店を回すには、「リピーター(常連さん)」を作らなきゃいけないんだけど、さて「リピーター」はどう作る?
この問いには明確な答え(計算式)があって、次のとおり。

『満足度』-『期待値』=リピート度

満足度というのは「行った後の実感値」のことで、期待度というのは「行く前の期待値」のことね。
リピーターを作るには、この計算式の答えを「プラス」で終わらせなきゃいけないわけだ。

なので、集客に焦るあまり、
「ウチのオンラインサロンに入れば、人生が変わりまーす!」
「大学に行くぐらいなら、ウチのサロンに!」
みたいな誇大広告は、上げすぎた期待度を、満足度が超えられないので、一度お客さんが来てくれたとしても、「一見さん」で終わる。
そして、ここが大事。
一度離れたお客さんは簡単には帰ってこない。
誇大広告は、「簡単には帰ってこないお客さんを増やす作業」と捉えておいたほうがいい。

リピーター作りの要は一にも二にも「期待値コントロール」で、くれぐれも、「広告効果があるから!」といって、満足度を超えてしまうような広告は出しちゃいけない。

まとめ
集客するには「リピーター」を作らなきゃいけない。
それには「『満足度』-『期待度』」がプラスになる必要がある。
誇大広告は「簡単に帰ってこないお客さんを増やす」作業。
斬新な広告は、すぐに広告効果を失う。

 

鍼灸やマッサージといった対人サービスを生業にすると、リピーターを獲得しなければ経営が成り立ちません。すでに多くの経営関係者が言っていますが、新規客を獲得するにはリピーターとして来店してもらうのに対して3倍くらいコストがかかる、とされています。新規を狙うよりもリピーターを増やす方が重要だというのは半ば常識とされているのです。ではリピーター、すなわち常連さんを作るにはどうしたらよいのか?その問いの答えが
『満足度』-『期待値』=リピート度
であるというわけです。これは直感で分かることでしょう。

細かいことですが、この計算式は満足度や期待度など〇〇度としているところが重要です。期待値やリピート率のように実数(数値)や割合(パーセンテージ)にしないで〇〇度としています。業績は数値化して測ることが鉄則ともいえるのですが、お客さんの感情はデジタルで表せない部分があるわけで、少し曖昧にしているように感じますし、意図的にこう表記しているように思います。説明や本文には期待値と書いているにも関わらず。何が言いたいかというと計算式にして数学的(算数的)表現をしていますが、人の感情ははっきりと数値化はできなくて相対的な(曖昧な)ものである、という前提をもっておいた方がよろしいと考えています。その上で私の感想を読んでもらえればと思います。

西野亮廣氏はコントロールするのは『期待度』であり、それは広告であるとしているわけです。事前の期待を上げすぎてしまう「誇大広告」は結局失敗に終わるから気を付けましょうね。そう説いているのです。

 

ちょうど令和元年7月5日現在、関係者によって医療広告規制について議論している最中です。病院やクリニックといった医療機関の過剰広告を規制するガイドラインが発表され、それに追随するように鍼灸院、マッサージ院、接骨院(整骨院)でも広告規制を強化する流れにあります。具体的にはそれまで広告とみなしていなかったインターネット上の表現にもルールを設けて規制をかけていくことが大きいのです。今後、「日本一!」「地域ナンバー1!」「絶対に良くなります!」といった表現は禁止されていくことになるでしょう。このような業界のルール作りとは別の観点から「誇大広告はやめおけ」と提言されたようで興味深いのです。

 

現実に、まさに「誇大広告」「過剰広告」と言える大袈裟な謳い文句で広告をしている同業者をネット上の広告で見受けます。中には同じコンサルタント・同じホームページ作成業者に頼んだのか?と思ってしまう同一の表現があります。広告(もしくはキャッチコピー)にはテクニックがあり、
・具体的な数字を入れる→のべ100万人を施術!
・疑問形にする→なぜあなたの腰痛は治らないのか?
最初に感嘆表現を入れる→え?、まだ美容鍼やったことがないの
・断定形にする→あなたの頭痛は絶対に治ります!
・不安をあおる→このままだと歩けなくなりますよ
などがあります。

また、未だに目にするのが「ゴッドハンド」という表現。神であると謳う時点で相当な怖いもの知らずですし、宗教観によっては大きな問題になりかねません。事前に術者が神様だと思ってくる人は少ないでしょうが、これだけの表現をするならば、さぞかし素晴らしいものだろうと期待し、終わった後はこの程度のものか、となるのは確かにまずいです。確かにリピーターを捨てて一見さんだけで勝負するやり方もありますが、その場合抜群の立地と大規模な広告を投入する必要があるのであまり得策ではないでしょう。

 

医療広告規制は守るべきルールの話ですが、「新・魔法のコンパス」を読むとお客さんの心理面からも誇大広告は悪手だとうかがえるのです。西野亮廣氏は行動経済学でこのような内容を書いたものと想像しています。期待をさせないと来てもらえませんが、大幅に上げた期待もよくない。だから期待度を広告でコントロールする。厚生労働省が禁止するからやらないのではなく、前向きに計算した上で敢えてやらない。本書の内容はこれからの鍼灸マッサージ業界の行く末を示すような気がします。あ、だからタイトルが「コンパス」か。

 

甲野 功

 

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