開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
この年齢とキャリアになると後進にアドバイスをする機会も出てきます。治療院にいらっしゃった患者さんにも助言をすることがしばしあります。その時に注意しているのが「私も(僕も)できたのだからきっとできます、大丈夫ですよ。」という言葉を使わないようにしていることです。この言葉は一見相手を励まして勇気づけるようですが、実は無責任でいい加減なものではないでしょうか。
これから鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師になりたいという人がいます。私に進路相談をしてきてどうでしょうか?と質問を受けます。そのときに決して「僕ができているのだから大丈夫」とは言えません。必ず“私の意見として”アドバイスを送りますが「成功しますよ」とか「やれますよ」と断定はしません。物事に絶対はほぼありませんし、その人の資質や生活環境を完全に把握できないからです。私は4つの国家資格(あん摩マッサージ指圧師、鍼師、灸師、柔道整復師)を取得し、民間の技術もいくつか(リフレクソロジー、タイ古式マッサージ、スポーツマッサージなど)習っています。国家資格の専門学校だけでも合計8年間通いました。これが可能だったのは間違いなく家庭環境のおかげです。両親はもとより、結婚した妻、その妻のご両親も含めて環境に恵まれていました。収入がない、学費がかかるという金銭面で苦しい時期を支えてくれた家庭環境があってこその今です。それがしっかりと分かっているので、例えどれか一つの資格だけを取得したいだけだとしても、安易に大丈夫ですよとは言えません。
また私は理科系大学を卒業しています。日本で一番卒業が難しいと噂される東京理科大学です。大学時代に必死に勉強して卒業しました。専門学校に入る前の時点で勉強の仕方を理解して勉強に対する耐性もしっかりとありました。人によっては(あるいは時代によっては)には簡単、誰も受かるといわれる国家試験ですがそこまで簡単ではありません。勉強する習慣がない人が付いていくのは簡単なことではありません。誰に対しても、授業についていくのは簡単ですよ、とは言えません。
鍼灸師になった方が将来開業しようと思うのですがどう思いますかと質問されたときに、私は「僕だって開業して5年経ちました。僕でできるのだからあなたも平気ですよ。」とは安易に言いません。立地や交友関係、目指して方向性など私とは異なる点が多すぎて参考にならないからです。単純に持っている資格が違えば条件が異なります。鍼灸のみで鍼灸院を開業するのと、あん摩マッサージ指圧師もあって鍼灸マッサージ院にするかで大違いです。それに立地も大きな問題になります。私はたまたま東京都新宿区で生まれ育ったので新宿区で開業しました。競合が多い代わりに人口密度がとても高い。これが郊外、地方だったとしたら私の経験はあまり参考になりません。環境が違うと経営戦略や戦術を変えないといけないからです。
統計学の面から考えても「私が大丈夫」というのは根拠になりません。サンプル数(n数)=1でしかありません。たまたまでしかないのです。また結果に関わる要素はすでに挙げたように多岐に渡るため何が影響したのか判別が難しくなります。環境や条件が似通っていること(同じような学歴、同じ資格免許を持つ、住む地域の規模が一緒など)が最低限の前提で、そうでなければ根拠のない意見に過ぎません。このような発言をしがちなのは、少数のバイアスといって少ないサンプル数(経験)で全体を推し量ってしまう脳の作用によるものでしょう。例えばたまたま2回予約が取れなかったレストランは「あそこは予約が取れないお店」と認知し、3回目もダメだったら「あのお店は絶対予約が取れないからもう行かない」となってしまうような。たまたま混んでいる時間帯だったかもしれません。それでもそうに違いないと思い込んでしまう。脳は少ない証拠から全体を推測した方が能率が良いので自然とこのような考え方をするようです。
もう一つ考えらえる理由は、自らが手に入れた能力・環境は当たり前で誰でもできると錯覚する、ということ。具体的に言えば私はもう20年以上身長が176cmのまま。この身長で生活することが当然の状態です。となると身長が150cmの人の感覚が分かりません。小学生の頃150cmだったはずですがその時の記憶はもうありません。私には簡単に手が届く場所に150cmの人は届かないか必死に背伸びをしないとできないのです。
技術や知識もそうです。料理が得意な妻はレストランで食べたインドカレーの味をスパイスを買ってきて再現します。それに驚くと「スパイスがあればできるわよ」と応えましたが、私には到底理解できません。食べただけで使っているスパイスが判別できるのか?スパイスの種類を知っている前提で。そしてどこにそのスパイスが売っているのか知っているとは(新大久保にスパイス専門店があります)。そして再現できる料理技術。何段階も私とはレベルが違うわけで、それが当然と言われても困るのです。
このように「私ができたからあなたもできる」といった内容の発言はとても無責任で相手のことを深く観察していないように思います。仕事柄気を付けています。だからこそ問診をして患者さんの訴えに耳を傾けて、身体のことや病気のことを勉強するのです。健常者には理解できない状況があります。その年齢にならないと現れない変調があります。戒めとして改めて気を付けておこうと思います。
甲野 功
コメントをお書きください