開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
鍼灸業界では多くの鍼灸師が認める鍼灸師がいます。
その一人が鋤柄誉啓先生です。
鍼灸の技術や知見だけでなくデザインにおいても非凡な能力を発揮しています。
全国の色々な鍼灸師の噂を耳にしますが、学会や所属団体によるものではなく、市井の鍼灸師が評価する鍼灸師という感じです。多方面からその評判を目にしてきました。
鋤柄先生は古都京都にて「新町お灸堂」を開業しています。
その屋号の通りお灸メインの鍼灸院。
一般に鍼灸師と言いますが国家資格免許の区分では「はり師(鍼師)」と「きゅう師(灸師)」に分かれています。その多くは鍼術がメインで、灸術をメインに活動する鍼灸師は数が少ないです。“鍼灸師”と名乗りながらもほとんど鍼しかしない人もいます。かつての私も“ほぼ鍼術しか行わない鍼灸師”でした。
私は受けるのは鍼よりずっと灸の方が好きです。むしろ鍼が嫌だったというだけなのですが。
学生時代の同級生をみると鍼はいいけれど灸の熱さは恐怖であり、熱くしないでくれと要望を出す方がとても多かったです。鍼を刺されるのを嫌悪していたのに、プロになるのだから火傷するくらいお灸を我慢してみることも必要だろう、などと内心思っていました。
ただ臨床現場では灸は火を扱うのと患者さんに火傷のリスクを負わせるため敬遠しがちになっていきます。煙と匂いも大きなハードルになりました。鍼以上に気を遣う(火の取り扱い、火傷、煙、匂い)のと施設(治療室の天井や壁、換気施設、エアコンなど)への影響を考慮すると鍼重視になっていきました。そもそも按摩・指圧・マッサージという徒手療法をメインにしていたので灸まで無理に手を出す必要を感じていませんでした。
開業して数年経ち、他の鍼灸院を見学したり勉強したりするにつれて灸術の効果や可能性を見直すようになりました。ここ2年くらいは以前とは比べものにならないくらい灸を臨床で使うようになっています。
鍼灸師全体的には、まだまだ鍼重視でしょう。国家試験で「はり師」免許を落として「きゅう師」免許だけ取得する場合がありますが、一番使えない状況と揶揄されるものです。
いわば鍼偏重とも言える状況の中、お灸堂の施術メニューはお灸のみ。灸術を極めんとする姿勢はとても異彩を放っています。このような人を知りません。前々から興味がありました。
私の技術に対する姿勢は単純に言えば足し算。様々な技術を習得してそれを状況に合わせて組み合わせるスタイルです。
鍼師、灸師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師という国家資格に民間資格もあるのでやれる幅が人より広くなります。一番比重があるのはあん摩マッサージ指圧師ですが、それだって按摩・指圧・マッサージと3つの技法を一まとめにした資格免許です。指圧のみ、按摩のみで勝負する人もいるのです。
私は敢えてあん摩マッサージ指圧師、略して「あまし師」であることにこだわりますし、そこに鍼灸を加えた「あはき師」であることにも。各技術の得手・不得手を知ったうえで症状や患者さんの好みに合わせて技術を選択すること、また他の技術のエッセンスを組み合わせて向上させることをポリシーにしています。
鋤柄先生はお灸一本でいくスタイル。
私とは真逆の様。
どのような人物でどんな灸術をするのだろうか。
京都に行く理由ができたときに、是非お会いしたいと願い、この夏行ってきました。
新町お灸堂は京都駅のそば。東本願寺の裏にありました。町屋文化が残る住居一体型の店舗でした。私の住む東京都新宿区ではできない業態(※新宿区保健所の担当者は居住と施術が同じ家屋ではいけないという見解だったため。各担当者の判断次第で可能な場合もあるでしょう)。すぐ横はお寺で地域に根付いたものでした。
院内はインテリアや照明、置いてあるものなどセンスが感じられました。空間デザインがされているというか。京都のイメージを崩さず、それでいてモダンという。世界に名だたる観光地京都にふさわしい雰囲気だと東京人の私には感じました。神楽坂の老舗鍼灸院「はりいんT」に入った時と同じような。
問診を終えてさっそく鋤柄先生のお灸を受けてみました。
当然ながらお灸です。これだけ長時間お灸を受けたことはありませんでした。その分使うお灸のレパートリーがあり技法もバリエーションに富んでいました。
これまで臨床で受けたお灸では「鍼灸マッサージ治療室らるく」の飯塚先生が艾を捻る灸では手早く、印象に残っています。鋤柄先生はそれとまた違った温灸や箱灸といった自ら艾を捻らないタイプの灸術も使っていました。
特徴的だったのは私を座位にして首の後ろ(経穴でいうと天柱、風池、完骨あたりでしょうか)や肩にお灸をしたこと。学校でも受けたことが無いやり方です。後ろが見えないので分かりませんでしたがこれまで知らなかったやり方のようでした。
そしてこのときに貧血を起こしそうになりました。私は小学生の頃、よく朝礼で倒れる生徒でした。貧血になると目の前が赤もしくは黄色になってきて最終的に目の前が見えなくなります。子どもの頃何度も体験したので予兆が来たことが分かりました。
これは危ないな、と思った矢先に鋤柄先生が「反応がとてもいいですね。大丈夫ですか?」と聞いてきました。背中越しでも私の異変にすぐに気づいたようです。私は「ちょっと辛いです」といい、また寝る姿勢に戻してもらいました。
鋤柄先生は臨床家に必要不可欠な危機察知能力が高いことがよくわかりました。そして座位での鍼灸は脳貧血を起こしやすいから注意しなさいという教えを再認識しました。
鋤柄先生のベースは経絡治療だそう。脈診(手首の脈をみる)や切診(体を触ってみる)などで証立てといってその人の状態に見立てをします。そのときの私の証は腎虚、陰虚でした。
当日は4時起きで始発の新幹線に乗り、朝から京都を歩き回り足腰が疲れていて、湿度の高い京都の暑さで汗を大量にかいていました。そのことを踏まえたお灸です。
私にとってお灸は主に補法、足りなくなったエネルギーを加えるものという認識でした。熱というエネルギーを体に与える。余分な熱やエネルギーを金属でできた鍼で取り除く(瀉法)。それが鍼灸の組み合わせだと。
鋤柄先生は刺激量を調節してお灸のみで補瀉をします。疲れている下半身には温めの長いお灸。のぼせて熱がたまった頭部や上半身は熱い灸で汗出させて発散させる。そのような考え方をしたことがなかったので勉強になりました。
確かに鍼だけでも補瀉をしますし、私は指圧でも補瀉を考えて行います。お灸だけが瀉法ができないというのは浅はかな思い込みでした。
施術後の会話では鋤柄先生がこのように話していました。
「選穴(どのツボを使うのか)、取穴(正確にツボ=経穴の場所を特定できるか)、刺激量の調整。この3つに気を付ければ治療ができる。ただお灸で刺激量まで意識する人は少ないかもしれない。」。
確かに、とうなりました。私もほとんど灸を使うときに細かく刺激量を考慮してこなかったように思います。まず明確な意図をもって熱い・そうでもない、と灸をしていません。
すごくベーシックな部分が甘かった。鍼灸術や東洋医学に熱意がないまま資格を取って現場に出たため、土台がしっかりしていないことを再認識しました。
施術で気になった点がもう一つ。切経、切診です。簡単に言えば経絡のラインを触診することなのですが、触り方が他の鍼灸師と異なりました。探るというより圧を入れる感じでした。他の伝統的な鍼灸を行う鍼灸師の方は優しく柔らかく何を探る感じで触るのですが、鋤柄先生は体内に圧が入ってくる触り方(押し方)でした。
私は按摩や指圧など徒手療法メインでやってきたのですごく感じたのです。触り方が刺激を入れる感じだと。
鋤柄先生は、脈診では柔らかく触っていてそのような触れ方ができないわけではないはずです。このような切経をする人に出会ってことがなかったので驚きました。
何より私もこのような触り方、押し方をするので。基本的に、経絡上に反応があるかを探るとともに、指で刺激を与えて鍼灸への前段階にしています。意外でした。
施術が終わって次の予定まで鋤柄先生とお話させていただきました。治療のこと以外も色々。そこで得た印象は「クレバーな人」でした。
何の気なしに「うちはブルーオーシャンで」という言葉。
ブルーオーシャンとは経営戦略で使われる「ブルーオーシャン戦略」のこと。競合ひしめく厳しい戦いの場をレッドオーシャン(血の海)とし、反対に敵が少ない勝負しても勝ちやすい土壌をブルーオーシャンと定義します。敵の多いレッドオーシャンを避けてブルーオーシャンで戦える経営戦略のこと。そういう言葉がさらっと出るところにマーケティングや経営のことも勉強している、意識していることが伺えました。
当然ながら治療について文献を読んでいますし勉強していることもわかります。それだけでなく経営者の努力を怠っていないし実践していることが色々な点からも見えてきます。プライベートな内容かとこちらが判断し具体的な表現を避けますが、鋤柄先生の発言からは単に<鍼灸が好き!>以外の賢い選択や手法があることが分かりました。
これは大したひとだと感心しました。
鍼灸もできるけれど敢えて灸に特化する。本業の治療技術、勉強、研究で高いレベルを保持し、デザインやマーケティングといった経営者サイドの能力を有する。なおかつ3人の子どもを持つ父親という。
偏りが少なくバランスの取れたマルチな能力があるようです。
見習うところ、憧れるところ、真似してみようと思うところ。多々ありました。短い時間でしたが有意義でした。京都まで行った甲斐があるものです。
流派、思想、立場。色々とありますが私の業界は何といってもヒト。ヒトがヒトに直接触れて行うことが基本ですから人間を磨いて人間に出会わないといけないでしょう。この出会いを将来に活かすことを考えています。
甲野 功
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