開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
私は通常使う毫鍼(身体に刺す鍼)は主に2社のメーカーにしてきました。
一つはセイリン株式会社(以下、セイリン社)製。もう一つは株式会社山正(以下、山正社)製。
より具体的には、
セイリン社製のJタイプもしくはJSPタイプ
と
山正社製NEOディスポ鍼4本パック
です。
母校の鍼灸専門学校(東京医療専門学校)では授業で用いる鍼がセイリン社製だったため、ここの鍼を使うことが日常になっていました。国家試験が終わり、新卒で就職した職場では基本的に山正社の4本パックを使用するように指導されていました。片手挿管という技術が必要になるので、国家試験終了後に猛特訓しておいて助かりました(もっと前から練習しておけという話なのですが)。その職場は約4年間勤め、いわゆる修業した場でした。
このような経緯で独立、開業後もセイリン社製と山正社製の毫鍼を使用してきたのです。
これまで何度も触れてきましたが、私も元々鍼灸に情熱が無かったため慣れている毫鍼でいいやというスタンスでした。鍉鍼という刺さない鍼の方にむしろ興味があったためそちらにこだわりがあったのです。他の鍼灸師さんが各メーカーの鍼を刺し比べてレポートにしているのを見ても、あまり心が動きませんでした。
ここ数年はおざなりにしていた鍼灸術の向上のため、勉強し他の鍼灸師の技術をみて受けて話を聞いてレベルアップを図っている最中です。もう鍼灸師になって10年以上なのに。
ある日、日進医療器の営業担当の飛坂さんが当院に訪れました。
飛坂さんは鍼灸器具の製造販売をしている日進医療器で営業担当をしていますが鍼灸師免許を持っています。実際に鍼灸をしていた、する資格免許を持つ、営業担当という心強い方。術者目線とメーカー目線の両方から話を聞くことができました。
そこで知ったことに、鍼をシリコンコーティングしているとスムーズに体に入りやすいということ。
この事実は常識らしいのですが、なぜか私は知りませんでした。あまり鍼灸に情熱が無かったからでしょう。セイリン社の毫鍼はシリコンコーティングがされていて、山正社製のNEOはシリコンコーティングがされていないらしい。そのため刺したときの感覚が違うのかと納得。
とっくの昔にセイリン社Jタイプと山正社製NEOとでは刺す感覚がかなり違うことは認識していましたが、製造過程で差があったとは!何となく周りの鍼灸師たちの会話で分かってはいたのですが、飛松さんにどのメーカーの鍼はコーティングしている、していないと教えてもらいモヤモヤした部分が綺麗になくなりました。
そこで当然の質問で、日進医療器社製のユニコ(鍼ブランドの名前です)はどうなっているのですか?と聞いたところ、シリコンコーティングありと無し両方揃えていますという回答。
それは助かる!ということでサンプル品ではなく、臨床条件に即して刺し比べをしてみようと考えました。きちんとユニコの鍼を発注して患者さんに使用する。その上で他の2社製品と比較することにしました。
今回のブログではセイリン社製J・JSPタイプ、山正社製NEO4本パック、日進医療器社製ユニコSの3社で比較検討したことを書きます。
なお、注意して頂きたいのはサンプル品で実験の様に刺し比べて比較検証したのではなく、あくまで私の臨床経験(つまり患者さんに治療のために毫鍼を使い、料金を頂く)の条件での話です。前提条件はあじさい鍼灸マッサージ治療院の甲野功が普段のように使ってみてどうだったのか?という視点です。
色々と意見があるとは思いますが<個人の感想>です。ご了承ください。
●価格について
当院はトワテックという卸業者から鍼製品を購入しています。その現在の価格で比較します。消費税変更後はもちろん値上げするでしょうし、別のルートならもっと安いというような意見は無しでお願いします。まとめ買いして割引なるというのも抜きで。
セイリン社製Jタイプ 100本入り 1,069円 1本あたり約10.7円
セイリン社製JSPタイプ 100本入り 1,231円 1本あたり約12.3円
山正社製NEO4本パック 240本入り 1,404円 1本あたり約5.9円
日進医療器社製ユニコS8 240本入り 1,642円 1本あたり約6.8円
1本あたりの値段でみれば山正社製NEO4本パックが一番安くなります。セイリン社製の毫鍼と比べると値段が半分くらいになる計算です。治療院を経営する立場からみると価格が安いことは大きな魅力になります。
<価格比較>
△セイリン社製Jタイプ
△セイリン社製JSPタイプ
◎山正社製NEO4本パック
〇日進医療器社製ユニコS8
●刺入感覚
では重要な使い勝手はどうでしょうか。毫鍼は身体に刺す鍼です。その際の感覚で比較してみます。
なおこの項目は術者である私の感覚です。受け手である患者さんの感想では無いのでご理解ください。場所や体調、こちらの刺し方で変わるものなので、私の感覚で比較します。
セイリン社製Jタイプ、セイリン社製JSPタイプ、日進医療器社製ユニコS8の3種類はいずれもシリコンコーティングがされており、スーと入っていく感覚があります。対して山正社製NEOは若干の入りづらさがあります。コーティングされていなためです。
ここで私の趣味というか使い勝手による話になりますが、コーティングされた毫鍼の方が抵抗なく入るので好きです。そして助かります。ある程度の深さ(2cmくらい)まで入れるとなると毫鍼が抵抗なく進んでくれた方がよい。山正社製NEOの場合、抵抗感が若干あります。
なお、これは場合によりけりで、刺入時の抵抗感があるのを好む鍼灸師もいます。すんなりと入っていくと怖いという人も。また浅めに刺す場合、抜けにくい方がいいという理由でコーティング無しの方がいいということも。パルス(低周波鍼通電)を掛ける際にクリップの重さがかかっても抜けないようにしたいので山正社製NEOを率先して使う鍼灸師もいます。
セイリン社製JタイプとJSPタイプはそこまで違いを感じませんでした。日進医療器社製ユニコS8と比較してもそうでした。
<刺入感覚>
◎セイリン社製Jタイプ
◎セイリン社製JSPタイプ
△山正社製NEO
◎日進医療器社製ユニコS8
●鍼柄の形状
鍼柄とは毫鍼を持つ部分のことです。身体に入っていく部分が鍼体。コーティングの有無は鍼体についてのこと。対して鍼柄はどうかという点です。
セイリン社製JタイプとJSPタイプはプラスチックでできています。山正社製NEOと日進医療器社製ユニコS8は鍼体と同じステンレスでできています。この違いは結構大きいのです。
私は普段、ステンレス製の無痛鍼管を用います。鍼管とは毫鍼を入れる筒のことでこれを用いることでスムーズに毫鍼を身体に刺すことができます。日本で生まれた独自のやり方で日本の鍼灸師の多くは鍼管を用いるやり方(管鍼法)を行います。
その際に、鍼管を独立したものを私は使うのですが、セイリン社製のプラスチック鍼柄の毫鍼は無痛鍼管に入りません。よって付属のプラスチック鍼管で行うことになります。これがちょっと不満です。山正社製NEOと日進医療器社製ユニコS8は無痛鍼管が使うことができるので助かります。
ユニコは六角鍼管という独自のプラスチック製鍼管が売りなのですが、普段は使わないことになります。日進医療器さんには申し訳ないのですが。ただ2寸という長い毫鍼の場合、そのサイズの無痛鍼管を持っていないためユニコお勧めの六角鍼管を用います。六角鍼管は円柱のプラスチック鍼管に比べて手に馴染みやすく、転がっていかないです。
また低周波鍼通電(パルス)を行う際に鍼柄がステンレス製ですと鍼柄にクリップを挟むことができますが、セイリン社製のプラスチック鍼柄だと鍼体につけなければなりません。深めに刺しているとクリップが皮膚に近くなるので皮膚を挟む恐れがあるので気を遣います。また一つのクリップで毫鍼2本を同時に挟みたいときはステンレス製鍼柄でないといけません。
そういった意味では鍼柄がステンレス製の方が私は好きです。鍼柄がプラスチックでもステンレスでも毫鍼の操作に差を感じません。プラスチックの方は鍼管の内径が大きくなるので鍼管の中で鍼先が動きますし。
プラスチック製では色分けされているので一目で何番か(番号は鍼の太さを表します)判別できるメリットがあります。そこは魅力ですね。
これらを加味して比較した結果がこのようになります。
<鍼柄の形状>
〇セイリン社製Jタイプ
〇セイリン社製JSPタイプ
◎山正社製NEO
◎日進医療器社製ユニコS8
●毫鍼の個別包装
今回挙げている毫鍼は全てディスポーザブルといって、使い捨てのものです。一度使用してオートクレーブで滅菌処理をして再度使う毫鍼もあるのですが、現在は原則として使い捨てのディスポーザブルの毫鍼を使うことが推奨されています。感染症予防や摩耗して折れることを防ぐためです。
そのため毫鍼が個別包装されています。
セイリン社製の2つは1本ずつ包装されています。
山正社製NEOは毫鍼4本にプラスチック製鍼管が1つをセットにして包装されています。
日進医療器社製ユニコS8は毫鍼4本にプラスチック製鍼管が1つと毫鍼4本がセットになっている包装となっています。
使用するために毎回包装を解いて毫鍼を出すわけです。包装形態の違いも臨床では影響を受けるのです。
まずセイリン社製の1本ごとの包装。
この場合、使用する本数分包装を取るので正直な話面倒なのです。その代わりプラスチック製鍼管と毫鍼が一体化しているので挿管という毫鍼を鍼管に入れる動作が要りません。片手で鍼柄を捻って外せば刺入可能になります。鍼灸専門学校ではセイリン社製の毫鍼を使用していたため挿管技術無くても刺せるため片手挿管という技術が衰えます。必ず授業で習うのですがセイリン社製を使うことで基本的に必要なくなるからです。
個人的な意見として、片手挿管は残しておいた方が良い技術だと思うのでこの一体化個別包装はあまり好きではありません。
またプラスチックゴミがたくさん出ます。使用した毫鍼分の包装ゴミが出てしまいます。世界的にプラスチックゴミが問題になっている現在、プラスチックゴミをたくさん出してしまうのは環境面でも考慮しないといけないことかもしれません。
これも個人経験に過ぎませんが、臨床現場に出て5年間主に山正社製NEOを使っていました。その後鍼灸マッサージ教員養成科に進学してまた専門学校でセイリン社製の毫鍼を使うようになったら、最初は使いこなせなくて苦労しました。包装を外すのが手間、鍼管から外すことが上手くいかない、という。慣れとは恐ろしい。
続いて山正社製NEO4本パック。
これは毫鍼4本にプラスチック製鍼管が1つをセットにして包装されています。一度4本の毫鍼を出して鍼管に挿管しないといけません。既に書いた通り、無痛鍼管を使いますし片手挿管をしますから問題ありません。4本に一つのゴミなので環境に優しいと言えるでしょう。
何だかんだで一番この毫鍼を使ってきたので扱いやすいです。
ユニコS8の包装よりも頑丈にできているので、セットを離すときにもスムーズにできます。
最後に日進医療器社製ユニコS8。
基本は山正社製NEO4本パックと同じですが、毫鍼4本だけのセットがあるのが特徴です。プラスチック製鍼管が8本に1つの計算になるので、一番プラスチックゴミが少ない環境に優しいと言えるでしょう。
これもあくまで私の個人的な問題なのですが、山正社製NEO4本パックよりも包装しているプラスチックが薄いので毫鍼4本セットを離すときに力を入れすぎて毫鍼を何本か曲げてしまいました。慣れていなかったからで一度だけのトラブルでしたが鍼が曲がると鍼管に入らないので無駄になってしまいました。包装がもう少し頑丈でもいいかな、と思っています。
これらを踏まえてあくまで私の感想でこちら。
<毫鍼の個別包装>
△セイリン社製Jタイプ
△セイリン社製JSPタイプ
◎山正社製NEO
〇日進医療器社製ユニコS8
他にもパッケージのデザイン性やブランドイメージ、記載情報、はたまた細かい使い勝手など比較項目はあるのですが、4項目で考えみました。
トータルで私の感想は
〇セイリン社製Jタイプ
〇セイリン社製JSPタイプ
〇山正社製NEO
◎日進医療器社製ユニコS8
ということになりました。
重ねて言いますが、私の普段臨床現場で用いる長さ、太さ、使い方、購入方法などで出した“個人の感想”です。販売ルート、太さ、長さが違えば変化します。どの毫鍼にも一長一短があり、今回購入したユニコS8は一番ストレスが少ないかな、という印象です。
美容鍼ならばセイリン社製になりますし、経絡治療ならば山正社製NEOが有効というのもあります。他の鍼メーカーを使っていませんし、ここで挙げた3社にも他の毫鍼があることも分かっています。中医学の手法ならば話が変わるのは当然のこと。
現場で一番使う毫鍼を比較した取り組みです。どのメーカーを勧めるという意図はございません。
今回、初めていつも使っている毫鍼というものに注目してみました。これまで気に留めていなかったことに目を向けるよい機会になりました。
甲野 功
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