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10月27日に関東鍼灸専門学校で行われた「ハリトヒト。マーケット(通称:ハトマ。)」。どのようなものだったかはこちらのブログをご覧ください。
ハトマ。当日、3つの講演が行われました。最初に行われた講演がこちら。
鍼灸教員が学校では伝えきれないこと/関東鍼灸専門学校 副校長:内原拓宗先生
今のところ「ハリトヒト。」でインタビューを受けた唯一の鍼灸専門学校専任教員。臨床鍼灸師が登場することがほとんどの「ハリトヒト。」で教育部門の鍼灸師として登場しました。私はハトマ。の講演で一番興味があったのがこの内原先生のパートです。鍼灸師になるべくこの世界に入った学生が、最初に深く接する鍼灸師は専門学校(養成機関)の先生です。身内が鍼灸師であるとか、入学前から誰かに弟子入りしているなどの事情がなければそうなるはずです。業界の入り口である専門学校とその専任教員は大きな存在であると考えています。その後の人生を変えるくらいの影響を与えることもあるでしょう。学生のキャリアパスを考えて設立した「ハリトヒト。」ですから、学生に一番接する専門学校と専任教員の立場でどう考えているのでしょうか。何を語るのでしょうか。
内原先生は世間一般の人から鍼灸師および鍼灸業界との関係、そして鍼灸師を取り巻く環境を図にまとめた関係図を映し出しました。とても業界のことがまとまっている重要な資料です。内原先生がどのような意図で作成したかは定かではありませんが、色々な要素が含まれていると思いました。
まず内原先生は専門学校に関することを説明しました。現在全国に約90校の専門学校があります。その上には東洋療法学校協会があります。なおこの学校協会に加盟していない専門学校もあります(甲野注釈)。そして専門学校の教員を養成する機関が全国に5校。最近、ある学校法人が教員養成課程を募集停止にしたので5校に減っています。その教員養成課程を出て専任教員となります。教員養成課程は臨床重視にカリキュラムが変わったため、専任教員志望は減っているそうです。専門学校からは4,500~5,000名が国家試験を受験して毎年約3,500人が鍼灸師として世に出ます。現在約12万人の鍼灸師がいて約3万の施術施設があります。全国民の1,000人に1名が鍼灸師という計算に。更に業界団体として日本鍼灸師会には約6,000名の、全日本鍼灸マッサージ師会には約10,000名の会員がいます。学術団体では全日本鍼灸学会に約5,000名が加入しています。業界団体も学術団体も在野の鍼灸師の数に対して所属人数があまりに少ないという現実があります。
スライドには養成校は「鍼灸あましワールド」の入り口という重要なポジションに位置するにも関わらず、業界全体とコミュニケーションが十分にとれているのか?という問いがあり、とても的を得た内容だと私は思いました。このような内原先生の説明に続いて、司会の鶴田先生から「あなたが鍼灸学校の経営者(理事長)になったら、どんな学校を作りますか?」という問いかけがありました。
ここから参加者を巻き込んだ意見交換、討論会の様相を呈してきました。
まず鶴田先生の意見(本音)として「専門学校に入学する前は卒業して資格を取ったらすぐに活躍できると思っていたが、いざ卒業してみてもこれでは治療ができないと思った」ということ。専門学校で教えるだけでは十分な実力(臨床能力、技術)が得られないという。
そこであなたの考える理想の専門学校はどのようなものかを考えてもらう。
開業して50年という大ベテラン杉山先生は、「教員養成課程だけでは足りない、臨床経験を2~3年積んで教員をした方が良いという意見。加えて教員はもっと臨床家と交流しようという。」やはりというか、臨床鍼灸師側からは専門学校での臨床能力を教える力が足りないという意見でした。
大阪から夜行バスで参加した鍼灸専門学校学生の意見。「学校では授業以外に多くのセミナーがあり参加しているが、色々な流派があってもっと知りたい。反面、細々(こまごま)としていて関係性や比較が分からないので、それらを解説する授業をしてほしい」という発言がありました。この学生が通う学校ではセミナーを多数行い、より実践的なことを教えているようです。しかし各流派の比較ができなくて、講師によって言っていることが違うという困惑がある様子。これは鍼灸業界の難しいところで守備範囲がとても広いため、何を持って役立つ臨床知識なのか?という問題を示唆した意見だと思いました。言い換えると専門学校で教えるのはいいけど、何を教えるのか?ということです。
私が補足すると、専門学校は文部科学省の指導を受けます。臨床に出ている鍼灸師には厚生労働省しか関係ないかもしれませんが、学校には文部科学省の影響も強いのです。好き勝手にカリキュラムを作ることはできませんし、教員の人数も決まりがあります。内原先生のスライドには文科省の部分に監視されて困ってパソコンをするキャラクターが載っています。
このことをあまり臨床鍼灸師側は認識していません。なかなか厳しい制約が文部科学省から課される場合もあります。内原先生の本音がスライドに出ているように感じました。また教員養成課程でも違いというか特色があり、臨床能力を高めることに注力するところと教育指導を重点的に行うところとあります。どの教員養成課程を出たのかで教員の質が変わることが実際にあるようです。なお今後教員養成課程のカリキュラムが変わる予定でより臨床能力を高める方向に転換すると言われています。
和ら会・伝統鍼灸学会の小貫先生は「卒後教育養成学校を作りたい」という意見がありました。「専門学校ではどうしても実技教育が不足するので卒後教育ができる学校を作って補完する」という考えのようです。これは専門学校が抱える<国家試験合格率と臨床能力のどちらを優先するのか?>という命題に折り合いをつけた意見かと思います。国家試験に合格しないとスタートラインに立てないので、国家試験合格は最低限の義務になります。しかし国家試験は座学しかありませんから、国家試験対策に力を入れると文章の試験を効率よく正解する力をつけることになり、現場で使える実力からは遠ざかるというジレンマがあります。その結果いざ卒業しても臨床能力が足りなくて苦労するというのが鶴田先生、杉山先生の考え。そこを専門学校は国家試験合格と基本的な技術習得にしてもらい、実践的な学習は改めて卒後研修する学校を作ってそこで行うというのが小貫先生の意見かと思いました。
対して内原先生の意見は、「教員養成課程がそれにあたる」と答えました。具体的には内原先生が卒業した(そして私の母校でもある)東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科のことを言っているのでしょう。ここでは「10年間の修業を2年で行う」を謳い文句に相当な臨床能力向上が期待できるカリキュラムがあります。更に「ハリトヒト。」メンバーの滝沢先生からは「AcuPOPJ (アキュポップジェイ)がある」という意見が出ました。アキュポップジェイとは“国民のための鍼灸医療推進機構”であり、日本鍼灸師会、全日本鍼灸マッサージ師会、全日本鍼灸学会、東洋療法学校協会の4団体が運営する団体です。臨床・学術・教育の3分野の業界団体が連携しています。このアキュポップジェイで卒後研修を行っているという情報を滝沢先生が出しました。アキュポップジェイのことは以前滝沢先生から聞いていたので私は知っていましたが、会場にいる多くの鍼灸師はその存在を知りませんでした。業界の主要団体が運営しているにも関わらず内原先生でも知らないという。私も鍼灸師になって10年以上経っているに卜部先生に聞くまでその存在を知りませんでした。卒後研修を行うきちんとした機関があるのに周知されていないという問題点が図らずも浮き彫りになりました。
司会の鶴田先生が内原先生に「先生、儲かる鍼灸師を作ってよ、と言われたらどうしますか」という質問をしました。これに対して内原先生が「儲かるというのは短期的な意味か、長期的な意味か」という逆質問がありました。「皆さんが想像する今人気のあるジャンルならば短期的に儲かると思いますが、長期的なことを考えるとまた」といった意見を述べたのです。この切り返しに、私は内原先生凄いことを言うなと内心うなりました。今若い人に人気があり、そこを目指して学校に入学するという”人気ジャンル”が鍼灸業界にあるのです。内原先生は明言しなかったので私も出しませんが、容易に予想できます。これは人気がある以上参入してくる人間が多く、流行り廃りもあるでしょう。いつまでブーム(?)が続くのか定かではありません。長期的というのはしっかりと疾患・疾病に対応できる鍼灸だと私は予想していて、治療できる鍼灸が長期的には儲かると言いたかったと。しかし現実問題として学校は生徒集めに苦労していてその人気のあるジャンルを推して高校生にアピールしないと定員を埋めることができないという状況もあり、言葉にできなかったのではないでしょうか。あくまで勝手な想像ですが立場を踏まえたぎりぎりの返しだと私は思っています。
ここでは臨床能力と経営という二つのテーマが出てきます。腕が良ければ繁盛するのか。経営能力がなければ廃業に追い込まれるのか。そういった命題が開業するとつきまといます。私は以前書きましたが、どちらも必要で片方だけでは絶対にうまくいきません。どれだけ集客ができても体を悪くして帰したら間違いなくリピートしませんし悪評判が立つことでしょう。反対のどれだけ実力があっても集客できなければその実力を発揮する機会はありません。学校経営も同じことでどれだけ崇高な理念と充実した授業カリキュラムがあっても生徒がいなければ続かないですし、たとえ資本があって継続できても教える生徒がいなければ無いものと一緒です。
内原先生が出したスライドには開業鍼灸師に向けた矢印で【広告宣伝営業、コンサル】という項目があり、電話に困惑する女性のイラストがあります。現実にも鍼灸技術はあるのに集客ができずに苦戦・廃業する鍼灸院はあります。経営は専門外だからとあやしい業者に依頼してしまい、違法な広告表現や患者さんを蔑ろにした経営戦略を組まされてより厳しい状況になるケースがあります。特に鍼灸院コンサルタントの件は厚生労働省の広告検討委員会でも話題に出るくらい倫理を欠いたやり方を行うこともあるのです。
続いて現役の鍼灸学生2年生からの意見がありました。その学生さんは「夜間部に通っているが鍼灸科以外の他の科とのつながり(横の連携)も同じ科の先輩後輩とのつながり(縦の連携)もない」どうしたら良いかという質問です。それに対して内原先生は「Twitterをやろう」と答えます。「SNSは酵素のようなもので、それ自体は反応しないが化学反応を促進させる触媒が酵素、きっかけを作ることができる」と。また「ハリトヒト。」メンバーからは、「そもそも「ハリトヒト。」自体が編集長のさまんささん(新名先生)がTwitterで知り合ったつながりから生まれたもの」という補足がありました。SNSやTwitterが鍼灸業界を変える原動力になっていることは実感できますね。
和ら会・伝統鍼灸学会川腰先生からはこのような意見がありました。「皆さんは勉強会に「治療方法」をみて入ってくる。しかし治療は方法に過ぎないので全体をみるように。」 と。東洋医学を担う鍼灸師らしい意見です。大事なヒントになります。
まあまあ細かくハトマ。内原先生の講演を振り返りました。講演というよりも学生から大ベテランまでを巻き込んだ鍼灸教育会議という内容だったのでは。ここで専門学校、業界団体、卒後教育、経営など多くの問題が提示されたと思います。学生にとってはこれほど問題が山積みなのか、と驚いたかもしれません。しかし私は全ての解決策はこのハトマ。というイベントにあるとも思ったのです。
国家試験合格か臨床能力か?という二択。
経営か実力か?という二択。
そのような単純なことが問題ではなく、個々の事情や状況で問題の内容は異なるはず。問診や脈診で丁寧に人それぞれの証立てをする鍼灸師ならば単純な構造ではなく個人でみる方が得意なわけで。諸所の問題を解決するには解決できる・できそうな人間が集まって話をすればいいのではないか。卒業しても臨床能力が足りないと思えば和ら会という技術団体も、アキュポップジェイの卒後研修も、教員養成科も、あります。それら関係者がハトマ。会場にいます。実際に話を聞いて考えることができるわけです。大ベテランの先生に相談することも可能です。セミナーで多くの流派があって混乱しているという学生の訴えも、日本の鍼灸にどのようなものが存在するのか研究している横山先生が会場にいます。経営で悩んでいるならば会場にカリスタの前田社長がいました。前田社長は鍼灸師ではない専門の経営者ですから開業鍼灸師とは経営のレベルが違います。
その問題を解決できる人がいなければできそうな人を紹介してもらうことができるはずです。今はSNSというツールがあるため連絡を取りやすくなっています。
ハトマ。のような現実(オフライン)で集まる場があれば多くの個人的な問題は解決する方向に行くと思います。学校を変える。団体を変える。世間の評価を変える。どれも簡単に行かないのは分かっています。それらは地道に活動するにせよ、目の前の問題は割と集まってみれば何とかなるものではないでしょうか。専門学校はそう簡単に変化しないことは教員になった同期達の話を聞いていれば分かります(それでも近年、随分と変化してきている、そうせざるを得ないと思います)。個人やグループでできることをやっていった方が早いでしょう。WEBメディア「ハリトヒト。」がリリースされたのは今年の3月。準備期間を入れても結成して1年くらいではないでしょうか。在野の鍼灸師が集まって1年ほどでこれだけ垣根を超えたメンバーを集めてイベントを開催できたのです。専門学校を犯人にしたり責任を押し付けたりすることなく、協力していけばいいと思いますし、その可能性をハトマ。というイベントがみせてくれた。
ハトマ。の内原先生パート。掘り下げると多くのことに気づかされます。
甲野 功
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