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あん摩マッサージ指圧師養成学校新設を巡る裁判の判決が12月16日に東京地方裁判所で判決が出ました。以下のようなニュースとなりました。
NHK NEWS WEB より
あん摩師の養成施設 視覚障害者保護のため規制は合憲 東京地裁
以下に記事本文の全てを記載します。
『
視覚障害がある、あん摩マッサージ指圧師を保護する法律の規制によって、視覚障害がないマッサージ師を養成する施設の設置が認められないのは憲法に違反すると学校法人が訴えた裁判で、東京地方裁判所は規制は憲法に違反しないと判断し、学校法人の訴えを退けました。
大阪の学校法人「平成医療学園」は、横浜市で運営する専門学校に視覚障害がない人を対象に、あん摩マッサージ指圧師を養成する施設を設置したいと申請しましたが、視覚障害があるマッサージ師を保護する法律の規定を理由に、国に申請が認められず、職業選択の自由を保障した憲法に違反するとして、決定の取り消しを求めました。
裁判で、国は、社会的にも経済的にも弱い立場の視覚障害者の生計維持が難しくなるおそれがあり、規制は必要だと主張しました。
16日の判決で、東京地方裁判所の古田孝夫裁判長は「法律ができた昭和39年当時と比べても、視覚障害者の就業率は現在も低水準であるうえ視覚障害のある、あん摩マッサージ指圧師などのおよそ76%が年収300万円以下となっている。特別な保護を必要としない程度まで生計が改善されたといえない」と指摘しました。
そのうえで「施設の設置を認めれば、視覚障害者の業務を圧迫することになり、現在でも規制の必要性が認められる」として、規制は憲法に違反しないと判断し、学校法人の訴えを退けました。
視覚障害者団体「ほっとした」
判決を受けて視覚障害者で作る複数の団体が東京
霞が関で会見を開き、このうち全日本視覚障害者協議会の山城完治代表理事は、「私たち視覚障害者にとって、あん摩マッサージが仕事の中核であることは変わりませんが、目が見える人のような機動力もなく、学習にもバリアーがあるなど非常に厳しい状況です。判決にほっとしています」と話しました。
厚労省コメント
厚生労働省は「おおむね国の主張が認められたものと承知しています。厚生労働省としては、今後ともあん摩マッサージ指圧師などに関する制度の適正な運用に努めたい」というコメントを出しました。
学校側 控訴の考え
一方、訴えを起こした平成医療学園の岸野雅方理事長は判決の後の会見で、「社会の状況は大きく変化しているのに50年以上前にできた法律が全く見直されず、判決は視覚障害者の生計の維持だけにとらわれていて残念でならない。専門学校に通う学生の中には、資格を取ったうえで、運動療法やリハビリなど高度な治療に貢献したいと考えている学生もたくさんいる。学生の将来を閉ざすことがないようにしてほしい」と述べ、控訴する考えを明らかにしました。
』
以上記事本文終わり
また朝日新聞デジタルニュースではもう少し詳しい報道がされていたので最後の方を抜粋しました。こちらは会員登録すれば無料で読むことができます。前半は同じ内容だったので後半の一部を抜き出しました。
朝日新聞デジタルより抜粋。
『
判決は、法整備などで視覚障害者をめぐる社会情勢が改善されていることは認めつつ、「視覚障害者にとって、マッサージ業の重要度が保護を必要としないほど低下したとはいえない」と指摘。今でも視覚障害者はマッサージ師の仕事に依存しており、学校を制限しなければマッサージ師の数が増えて視覚障害者の仕事を圧迫すると判断した。
学校側は、視覚障害者の生計を守るのに必要なのは法的制限ではなく、無資格者の取り締まりだと主張したが、「取り締まりは以前から行われており、併せて学校を制限することが今なお必要だ」と結論づけた。
判決後、視覚障害者の関連団体側の代表者らが都内で会見を開いた。竹下義樹弁護士は「強い感激を受けた。視覚障害者の実態を無視した学校側の主張には憤りを感じる」と話した。学校側は仙台、大阪でも同様の訴訟を起こしており、視覚障害者らは請求棄却を求める署名を集め、裁判所に届けている。
一方、平成医療学園の岸野雅方理事長は「マッサージを学びたい人はたくさんいる。学校を制限されると、資格試験の受験すらできない」と批判した。(新屋絵理)
』
この裁判と判決について解説と私の考えを述べていきます。
本裁判については以前にも触れました。判決次第では私の仕事に大きな影響を及ぼすものです。
まず原告の平成医療学園は既に鍼灸師を養成する専門学校を持っています。そこにあん摩マッサージ指圧師を養成する学校(もしくは科を)新設したいが、法律によって制限がかかっていることを不服とし、規制撤廃を求めてその法律が違憲であるとして裁判を起こしました。違憲とする根拠は憲法で確保されている「職業選択の自由」に違反しているというものです。
厚生労働省認可の国家資格免許「あん摩マッサージ指圧師」は按摩(あん摩)、マッサージ(massage)、指圧の3つの徒手療法をまとめて一つの資格免許にしています。按摩を行う按摩師の名称は日本最古の法律書と言われる大宝律令(西暦701年)にも出てくる伝統のある職業です。そして歴史的に視覚障害者が生計を保つための職業として鍼灸師とともにありました。視覚障害者を守るために、あん摩マッサージ指圧師を養成機関を新設することは視覚障害者団体と国が認めない限り許可をしないという法律があります。法律の文面には「当分の間」とあり、その期限が規定されていません。
原告の訴えとしては法律が制定されて50年が経過し、「当分の間」は過ぎたとし、視覚障害者の職業環境はテクノロジーや社会の変化によって当時より改善されているため、規制する段階は終わったと主張します。
視覚障害の無い健常者(これを晴眼者といいます。視覚障害者に対する言葉になります)があん摩マッサージ指圧師になるための学校は伝統校と言われる古くからある学校に限られており、その多くは関東地方に固まっています。北海道にはありません。
あん摩マッサージ指圧師を目指したくとも住む地域によって職業に就くことに格差が生まれてしまうことは「職業選択の自由」に反することだ、と言っています。
視覚障害団体の意見はこのようになります。
視覚障害のある者があん摩マッサージ指圧師になっても晴眼者との競争に負けて仕事を奪われている。十分な生活をするための収入を得られていない状況であり、ここで晴眼者のあん摩マッサージ指圧師が増えてしまっては更に生活が苦しくなるので規制緩和は認められない。
かなり大雑把にまとめていますが概ねこのような意見の対立になるかと思います。そのことを踏まえて司法がどのように判断したかというと、現行の法律は合憲であるということでした。報道の文面を使えば「法律ができた昭和39年当時と比べても、視覚障害者の就業率は現在も低水準であるうえ視覚障害のある、あん摩マッサージ指圧師などのおよそ76%が年収300万円以下となっている。特別な保護を必要としない程度まで生計が改善されたといえない」として原告の訴えを退けました。
結果を不服とした原告は控訴するとしています。
さて、ここからもう少し深く状況を説明していきましょう。
まず鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師という厚生労働省管轄の医療系国家資格には特例的に開業権が認められています。他の医療従事者はほぼ医師の指示のもと活動することが義務付けられており、医師・歯科医師を除くと開業権が認められておりません。例外もありますが、鍼灸・あん摩マッサージ指圧・柔道整復が特別という位置付けです。
これらの資格免許を取得するための学校はかつて規制がかかっており増やすことができませんでした。今でも大学に医学部を新設することができないのと同じです。なお医学部は1970年代に一部規制緩和して増やしましたがそれ以降新設の医学部はほとんどありません。
鍼灸師・柔道整復師に関しては大きな変化があったのが1998年です。柔道整復師の養成学校新設を認めないのはやはり違憲だとして福岡で裁判が起きました(業界では通称福岡裁判と言われています)。このときは原告が勝訴しました。その結果、柔道整復師養成学校新設が実質解禁となりました。それは鍼灸師にも適応されて養成学校が倍増していく結果をもたらしたのです。
このとき、あん摩マッサージ指圧師については先に挙げた視覚障害者を守るための法律によって新設校を作ることはできないままでした。
本題のあん摩マッサージ指圧師養成学校新設を巡る裁判は20年前の福岡裁判と同じ構造となっているのです。柔道整復師及び鍼灸師の養成学校規制緩和によって柔道整復師、鍼灸師は爆発的に増加して様々な問題が生じてきました。
今回の裁判が勝訴した場合、福岡裁判後の状況と同じことが予見できるわけです。爆発的にあん摩マッサージ指圧師が増えて訪問マッサージの保険請求額が跳ね上がる、競争が激化して不正請求が増加する、更には競争に耐えられなくなって廃業する人及び養成学校が増えるという。もちろん視覚障害者の職域はますます浸食されていくことも。
今回の判決について視覚障害者団体は「ほっとした」と回答しております。視覚障害者が守られたと。
しかし、現状を知る人たちは視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師が守られているとは到底考えられないわけです。もちろん視覚障害者団体の方々も百も承知でしょうが。
あん摩マッサージ指圧師免許を持たない人間がマッサージ行為をしていることが摘発されずにいるからです。
まず、きちんと法律で医師、あん摩マッサージ指圧師以外の人間がマッサージ行為をすることは禁止されています。明文化されています。にもかかわらず、昭和に行われた裁判の判断により「人体に被害が無ければ問題なし」として、実質誰でも行ってもお咎め無しという状況です。
視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師の生活を脅かしているのはこの無資格・無免許のマッサージ行為であるのです。
報道によれば、原告側は視覚障害者の生計を守るのに必要なのは法的制限ではなく無資格者の取り締まりだ、と主張したとあります。これはその通りでしょう。同じく報道によれば「(以前から(無資格者の)取り締まりは行われており」と裁判所は判断したようですが、一体誰が取り締まってきたのか疑問です。厚生労働省も保健所も無資格者は管轄外だからと行動に起こした事例を私は知りません。元々私自身が無資格者(あん摩マッサージ指圧師免許を持たずにマッサージ行為をしていた)であったからなおさら実感がありません。最近は消費者庁が取り締まりを始めたとは感じていますが。
視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師を守るためと言ってはいるものの、実質守ってはいませんよね、というのが現状です。
またあん摩マッサージ指圧師の人数を制限していることで、マイナーな存在になっていることも事実です。地域によっては晴眼者のあん摩マッサージ指圧師養成学校はほとんどないため、鍼灸師や柔道整復師といった国家資格を持つ人間ですらマッサージ師が国家資格だと知らない場合があります。マッサージ行為は他の国家資格があれば当然できると思っている人もいます。鍼灸師、柔道整復師、理学療法士などのマッサージ行為も視覚障害者の生活を脅かしているとも言えます。
私はこの裁判の存在を知った時にもしもあん摩マッサージ指圧師養成学校が解禁となったらどうなるかを予想しています。
報道による原告側の主張はおかしな点が多いです。マッサージ師になるチャンスを増やしたいと言いながら横浜で学校を新設しようとしています。新横浜にも大森にも小田原にも晴眼者のあん摩マッサージ指圧師養成学校新設は既にあります。距離を理由に学校に通えないというのは無理があるでしょう。
報道によれば「専門学校に通う学生の中には、資格を取ったうえで、運動療法やリハビリなど高度な治療に貢献したいと考えている学生もたくさんいる。学生の将来を閉ざすことがないようにしてほしい」と述べたようですが、リハビリは理学療法士や作業療法士の専門分野であります。何より学生がもっと学びたいのならば既存のあん摩マッサージ指圧師養成学校や理学療法士・作業療法士養成学校に進学すればよいのではないでしょうか。
そして「職業選択の自由」と言いますが、これは誰でも希望する職業につくチャンスがあるという権利であって、その職業になれるというわけではないはずです。カースト制度のように生まれついて将来の職業が決められている、就くことができない職業がある、というのはいけません。医師になりたければ医学部に入学すれば誰でも医師になることはできますが、入試を突破しないといけません。女子だから不合格にするというのは「職業選択の自由」に反しますが、近場に入れる医学部がないから作れ、というのは「職業選択の自由」ではないでしょう。「職業選択の自由」が変な方向に解釈しているように思います。
原告側は控訴するということなので、まだこの問題は続くことでしょう。
次は視覚障害者とあん摩マッサージ指圧師という職業の関係について書いてみます。
甲野 功
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