開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
今年のテーマは「臨床能力を上げる」です。開業して6年目。経営を安定させる、患者さんのために気持ちを作るといったことをテーマ(課題、目標)に掲げてきました。本年は、もう一度臨床家として上に進むために、臨床能力を上げることを考えています。
臨床能力はどうすれば向上するのでしょうか?何が正しい答えかはわかりませんが、知識と技術の両面から考えることは間違っていないでしょう。足掛け10年専門学校に通い(民間の学校を含めれば年数は増えますし、一般教育にあたる高校、大学を含めればさらに長い間)、知識をつけました。技術も学校の授業から現場で実際に臨床経験を積んできました。
それなりにできるようになったとは思います。それでも丸5年も続いていると驕りとか怠慢が生じてくるものです。臨床に終わりはなく、日々進化させていかないと通用しなくなります。
そこで考えたことは、まず知識をつけよう、ということです。基本的な知識を見直し、座学をしっかり行う。そうすることが臨床に役立つと考えました。技術を向上させるには知識が必要であります。その知識をつけるために参考書や教科書を購入して読むことはいいでしょう。技術・知識のセミナーには参加してきました。コツコツと座学をする。一人で黙々とする。そういうことを数年来遠ざかっていたのでもう一度やり直そうと決めました。本来の私の勉強方法はひらすら手を動かすものなのです。しかし、日々の業務も家庭のこともあります。どうしても後回しになるのは明白です。実は、もう少し座学をしなければならないと考え出したのは昨年の夏ごろ。手を付けないで年を越してしまうという。そうならないように、今年はアウトプットの場を自ら作ることで否応なしに勉強する状況を作ることにしました。具体的には学生向けにセミナーを行うことです。人前で話す、他人に教える、という場を持つことで勉強しなければいけない。そう考えました。
確定申告業務が終わったら取り組もうと、結局後回しになりました。本当は1月中にやりたかったのですが、ぎりぎり2月に入ってしまいました。何とか1回目のセミナーの場を作ったのでした。2月1日(土)。テーマを「経絡と中医の比較」とし、あじさい鍼灸マッサージ治療院で行いました。
当初は午前中だけで行う予定だったのですが、午後の時間なら参加できるという学生さんからの問い合わせがあり、午後も同じ内容で行うことに決めました。やると決めたものの誰も参加希望者がいなかったらどうしようか、と不安だったのですが、午前中学生5名、午後学生2名、それに鍼灸師1名と鍼灸用品メーカーの方が1名参加してくれました。ありがたいことです。
まずテーマの”経絡と中医の比較”について。経絡とは経絡治療のことで日本の伝統的な鍼灸治療方法。中医とは中医学のことで近代中国にて発展した鍼灸・漢方の治療体系になります。両者を比較するというものです。東洋医学は西洋医学の対になるもの。西洋医学とはほぼ現代医学と考えて良いので、東洋医学には伝統医学の意味合いが強く含まれます。その東洋医学においても、経絡と中医は色々と相違点があります。世間ではどちらも同じ東洋医学の範疇と認識されていると思うのですが(少なくとも私は鍼灸専門学校卒業時点でそうでした)、現場で扱う鍼灸師には大きな違いがあるのです。実は私も鍼灸師になって5年経ち、鍼灸マッサージ教員養成科に進学してからやっとその違いを認識したのでした。
え?違うの?本当にこのような状態でした。自分自身の経験を踏まえて、経絡と中医で何が違うのかを学生さんに伝えるのは価値があると考えました。正直なところセミナーをするのは私の自己満足に過ぎないわけで、せめて有益な情報をと考えてこのテーマにしました。セミナーにする前から別件である鍼灸学生さんのために資料つくりをしていたので、短い準備期間でもどうにかなると踏んだのも決め手の一つでした。
いざプレゼンテーション用のスライドをパワーポイントで作成しだすと、色々と調べることが追加されました。今の鍼灸学生が使う東洋医学概論の教科書を購入して読んでみると、私の頃とは大違い。教科書の厚さは倍になり、内容もとても細かくなっていました。旧版の教科書と比較すると経絡と中医についてきちんと解説されているし、個々の章では図解でとても分かりやすくなっていました。教科書ですが、これはとても使える参考書でもあるな、と思いました。久しぶりに蛍光マーカーでチェックをしながら教科書と向き合いました。人前で話すことがなければこのようなことはしなかったでしょう。長女は、私が教科書に線を引きながら勉強している姿をみて「頑張ってね」と少々驚いた様子でした。自宅でパソコンに向かっている姿は見ていても、教科書を開いて勉強する姿は見たことがなかったのです。ただ知識を伝えるだけでは、本当に自己満足で終わってしまうので臨床現場に立つ者の視点を踏まえて作り込みました。
「鍼灸(東洋医学)って宗教じゃん?」
このように言われることがままあります。「宗教」という単語をを悪いイメージで使用しています。私も学生時代、鍼灸は科学ではない!という意見を持っていました。何か怪しい、胡散臭い、という印象があります。そこに敢えて触れて、実際にある宗教と比較することからしました。根っこが同じなのに対立している部分もあるということを後に話すために。また経絡と中医を比較する前に、東洋医学と西洋医学を比較しました。根本的な哲学や背景が異なること。それも伝えた方がいいだろうと。というのも鍼灸師になると、日本で唯一学校で体系的に東洋医学と西洋医学を学ぶ国家資格者になるわけです。今の大学医学部でも少し漢方をはじめ東洋医学を学ぶ時間があるそうですが、東洋思想から臨床に使う理論までしっかりと学ぶのは鍼灸師だけでしょう。そして国家試験では半分以上が解剖学・生理学・病理学といった現代医学の知識から出題される、西洋医学知識も持った人間です。柔道整復師でも理学療法士でもない、東洋・西洋の両方を知る存在になるわけです。患者さんの両者の比較を説明できるようになった方がいいわけです。
経絡治療を行う鍼灸師。中医学で治療を行う鍼灸師。意見が食い違うことが多々あります。何が違うのか、どうしてこのようになったのかを、たくさんの先生からの話と資料から読み解いて説明しました。経絡と中医、それぞれにきちんと取り組んでいる鍼灸師さんからすれば、それは違うよ、となる内容だったとは思います。経絡・中医と一括りにしていますがその中でもたくさんの流派や考え方がありますし。
今の私ができて学生さんに教えられる内容を出しました。
当日はセミナー前後に参加者との、そして参加者同士の交流がありました。無料とはいえ時間を作って参加した学生さん達は皆さん勉強熱心であり、行動力に優れた方ばかり。教員側の話もよく耳にする立場にいて、今の学生はねえというネガティブな話題もよく入ってくるのですが、参加した学生さんは本当に将来を見据えて行動していて、感心しました。専門学校のことや鍼灸学生のことで不安視する声が多くあり、私自身もこれから大丈夫なのか?と感じることがあるのですが、当日の学生さんの話を聴くと将来は安泰かなと思えました。もしかしたら数年後には私が助けてもらっているかもしれないなと、頭によぎるくらい。
自己満足の場でありながら、参加してくれた学生さんの皆さん。また鍼灸師にも関わらず参加したいと言ってくれて、午前も午後もいてくれた先生(2時間の同じ内容を2回も聞くという)。たまたま東京にいるからと来てくれた大阪の日進医療器(ユニコブランド)の営業担当さん。本当にありがとうございました。今年はこのような取組みを続けていきます。2020年が終わる頃に、本当に臨床能力が上がっていることを信じて。
甲野 功
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