開院時間
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土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
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住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
昨年11月、私の母校である東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科で特別授業をするために、代々木校舎を訪れました。そこで目にしたのが小冊子のマンガです。タイトルが「W License -ダブル・ライセンスー」。呉竹学園(母校の学校法人名)が出しているパンフレットの一部です。作画は呉竹学園の卒業生。内容は柔道整復師科に通い将来スポーツトレーナーを目指す女性が鍼灸師も取るというお話。端的に言えば呉竹学園の宣伝です。私が子どもの頃よく見た進研ゼミのマンガみたいなものです。私が入学した時とはかなり変わってきた母校東京医療専門学校。こういうものも作るのか、と時代の流れを感じました。その日一緒だった関東鍼灸専門学校内原先生も参考にと、持ち帰っていました。
ここで注目したのがマンガという媒体を使用していることよりも、ダブルライセンスという言葉です。これは鍼灸と柔道整復の両方を取得するという意味で使われています。呉竹学園は東京校、新横浜校、大宮校の3校があります。各校に鍼灸マッサージ科、鍼灸科、柔道整復師科があります。つまり鍼灸師(あるいは鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師)と柔道整復師の2種類の資格を取ることをダブルライセンスとしています。学校としては両方の科を持つのでどちらの科も入学してほしいというのが本音でしょう。先に挙げたマンガでもそのメリットについて描かれています。東京医療専門学校のホームページにもダブルライセンスを勧めるページがあります。
私はそこでダブルライセンスのページに卒業生の声ということで掲載されています。私自身が鍼灸&柔道整復のダブルライセンスであるわけです。
母校がダブルライセンスを推す姿勢を分かったうえで、ホームページに掲載している内容よりも細かくダブルライセンスについて書いていきます。現在、鍼灸科あるいは柔道整復師科に在学している学生さんで、更なる進学を考えている人がいるかもしれません。実際に両方を持っているものの意見が参考になればと思います。まず私の経歴を簡単に書き出します。
2007年に東京医療専門学校鍼灸マッサージ科を卒業。あん摩マッサージ指圧師、鍼師、灸師の免許を取得。
2011年に東京医療専門学校柔道整復師科を卒業。柔道整復師免許を取得。
2014年に東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科を卒業。鍼灸専門学校教員免許を取得。
このようになっています。国家資格免許でいうとあん摩マッサージ指圧師、鍼師、灸師、柔道整復師の4つになるのでダブルライセンスどころではないのですが、慣例的に鍼と灸はセットで鍼灸師と考え、かつあん摩マッサージ指圧師も鍼灸師と一緒に3年間で取ることができたので(本科と言われる鍼灸マッサージ科がある呉竹学園だからこそですが)、鍼灸師(マッサージも)と柔道整復師を対比させてダブルライセンスということで説明します。
〇ダブルライセンスを選ぶ人はいるのか?
私が鍼灸マッサージ科に入学したときはクラスの3分の1くらいが柔道整復師でした。また私が柔道整復師科に入学したときは同じようにクラスの3分の1弱が鍼灸師でした。私の柔道整復師科の同級生からは10名弱が鍼灸科(鍼灸マッサージ科)に進学しました。教員養成科でも鍼灸と柔道整復の両方を取得している人が私を含めて8名ほどいました。鍼灸マッサージ師になって就職した職場でも両方を取得しているスタッフは数名いましたし、のちにもう片方の資格取得のために進学する人もいました。開業して色々な鍼灸師の会合に顔を出すようになると、やはりダブルライセンスの人はいらっしゃいました。人口の多い首都圏ではさほど珍しくない印象です。ただし、あん摩マッサージ指圧師も持つとなると数は減ります(健常者であん摩マッサージ指圧師を取得できる学校が少ないため)。
〇一方の資格をもう片方でサポートするパターンが多い
鍼灸と柔道整復の両方を持っているとしても、どちらも均等に資格を活用するという人は少ないと思います。それは私の経験を含めて色々なダブルライセンスの術者をみてきた感想です。多くが最初に取得した資格が主で、それを活かすためにもう片方も取ったという気がします。柔道整復師→鍼灸師という順番ですと、基本は柔道整復師である。柔道整復師で足りないこと、苦手なところを鍼灸でカバーをする。鍼灸師→柔道整復師という順番だと反対ということです。
これまで何度か説明していますが、鍼灸師は東洋医学をきちんとカリキュラム上で学ぶ唯一の国家資格です。東洋思想を含めて伝統的な考え、手法を学びます。具体的には鍼灸術になるのですが。現代医学も学ぶのですが、東洋医学を学ぶこと知っていることが大きな利点です。「気」の思想を持ち、疾患疾病ではなく人そのものを診ると言われます。柔道整復師では東洋医学を学ぶことはなく、その分現代医学をしっかり学ぶので疾患や外傷の知識は鍼灸師より高いのです。鍼灸専門学校では習わなかったところまで深く勉強します。特に小児の外傷や骨端症、膠原病などは柔道整復師の方がよく学んだと思います。このように苦手なものを片方がサポートするようにして臨床に使っているパターンが多いのではないでしょうか。
柔道整復師の場合、急性外傷にはとても強いのですが、積極的に治癒を早めるように働きかけるのは苦手です。基本はRICE処置(Rest安静、Ice冷却、Compression固定、Elevation挙上の頭文字)ですから。急性期を過ぎた外傷をより早く治癒に向かわせるのに鍼灸、マッサージが有効であることが多いのですが、その術を柔道整復師はほとんど持ちません。本分は急性外傷の応急処置であるからです。柔道整復師の力で疾患の鑑別をして応急処置をする。その上で鍼灸やマッサージによって治りを早くする、いわば積極的介入、ができると鬼に金棒です。
鍼灸師の場合、慢性疾患には強いのですが急性外傷、つまりケガに弱いところがあります。骨折や脱臼の疑いがある場合、下手に触ってはいけないのですがその判断は難しいのです。鍼灸専門学校でも基本は習うのですが、細かいところまでやりません。特に小児(赤ちゃんから成長期の子ども)の外傷や疾患は難しいです。骨端症も詳しく習わないので、私は整骨院勤務新人時代にフライバーグ病とかソルターハリス分類だとかの用語が分かりませんでした。また子どものコーレス骨折を整復するときに何をしているかさっぱりわからなかった経験があります(※詳しい用語の説明は省略します)。本当に鍼灸やマッサージをしてもよいのか判断する力は柔道整復師の方が上だと思いますので、その知識があれば安心です。
ダブルライセンスの人に話を聞くとだいたいメインとサブで使い分けている感じがします。柔道整復師から始めて外傷治療の補助として鍼灸を用いる術者(これは柔道整復師がメインで鍼灸師がサブ)。私のように外傷に出会った場合に鑑別する知識を持って対応する術者(これは鍼灸師がメインで柔道整復師がサブ)。はたまた経験を経てメインとサブが逆転する人もいます。柔道整復師として外傷の対応をしてきたが、今は鍼灸メインで慢性疾患を得意にしている、というような。どちらも均等に重きを置いている人は少なく、どちらかに軸足を置いて活動している場合が多い、というのが私の実感です。
〇他の視点をもつことができる
鍼灸だけだと、ときに何でも脈や気の動きなどで判断してしまい、視野が狭くなることがあります。解剖学、生理学の観点で考えた方が効果的で速く済む症例があります。柔道整復師の資格を持つことで徹底的に現代医学の観点で捉えることができるので頭を切り替えることができます。反対に慢性疾患のほとんどは、柔道整復師では対処法を勉強しないため手が出せません。検査値が基準内、画像診断でも異常がないが症状を訴えるという不定愁訴の場合、現代医学のみの柔道整復師には手詰まりになり東洋医学での判断ができると突破口になることがあります。
ダブルライセンスになることでそれぞれの得手不得手がしっかりと理解できるようになります。時に鍼灸師から「捻挫にも鍼や灸が有効だ」という声を聞くのですが、きちんと鑑別できているのか(脱臼や骨折はないか、捻挫だけだとしても分類で何度なのか分かっているのか)、応急処置はしっかりした上で行うのか、と柔道整復師としての私は疑問に思うことがあります。受傷直後に鍼や灸をするよりもしっかりとRICE処置をした方が初期対応はいいのです。「柔道整復でアトピーだってうつ病だって治せる」という意見をネットで見た時には怖くなりました。少なくとも柔道整復師の教科書にそれらの疾患の対処法はないはずです。
ダブルライセンスになることで各資格の職域がはっきりするのと、対応できるかどうかをしっかりと考えるようになります。これは医療機関に送った方が賢明である。これは自分で対処しない方がいい。そういった判断が二つの視点を持つことでよりできるようになると私は考えます。
〇ダブルライセンスを考えている学生さんに向けて
もしも今後のキャリアを考えている学生さんがいたとしたら、両方取ることにどのようなメリットがあるかしっかりと調べるといいでしょう。ダブルスクール(同時に二つの科に通う)をしない限り、最低プラス3年の時間がかかります。学費ももちろんかかります。それでもキャリアにとって必要ならばダブルライセンスに挑戦することはいいことでしょう。
私は鍼灸マッサージ師免許を取得して1年あけて柔道整復師科に進学しました。1年間実務経験を積んだうえで必要と考えて決めました。教員養成科にも柔道整復師免許を取得してから1年間空いています。やはり1年間クリニックで働いた上で鍼灸マッサージ、柔道整復師の他に更に勉強をした方が今後の役に立つと判断した上です。
甲野 功
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