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先週末のこと、テレビで「映画ドラえもん のび太の月面探査記」が放送されました。最近、ドラえもんが好きで藤子・F・不二雄ミュージアムに連れて行った娘たちと一緒に視ました。
ドラえもんは説明不要の国民的マンガで、私も多分に漏れず幼少期から読んできました。昨年50周年を迎えましたね。アニメとしてテレビでも放送され、今やテレビ朝日のメインコンテンツになっています。
そのドラえもんですが、マンガの方では「大長編ドラえもん」として映画公開の原作として作品を発表してきました。私が子どもの頃(小学校4~6年生あたり)ではのび太の海底鬼岩城や魔界大冒険、鉄人兵団といった作品が発表されていました。
大長編ドラえもんではほぼ全てのパターンでドラえもんらメインキャラが異世界に旅立ち冒険をするストーリーです(ほぼ全てと書くのは全ての作品を見ていないから確認できていないからです)。藤子・F・不二雄ミュージアムの展示によれば、通常の週刊連載ではできない壮大なストーリーを描きたいという欲求が作者にあったそうです。
また大長編ドラえもんではキーとなるひみつ道具があり、そのひみつ道具の関りがストーリーに大きく影響します。
さて、テレビで視た「のび太の月面探査記」には「異説クラブメンバーズバッジ」というひみつ道具が出てきます。
「異説クラブメンバーズバッジ」とは一般に信じられている通説とは別にある程度知られている、常識とは異なる説を信じる「異説クラブ」のメンバーになれるバッジです。
ここでいう「異説」は今でいう「都市伝説」のようなもので、月面探査記では地球を中心に太陽や惑星が地球の周りを回転しているという天動説や、地球は平坦であり海の果ては滝となって流れ落ちるといった、かつて信じられていた異説を紹介しています。月面にウサギがいるはずだ、と主張するのび太のためにドラえもんが<月面にはウサギがいる>という「異説」が現実になるバッジ(異説クラブメンバーズバッジ)を用意したことからストーリーが進んでいきます。
私はこの「異説クラブ」という文字に驚き、また懐かしく思いました。それは生前の藤子・F・不二雄先生が実際に「異説クラブ」を雑誌に連載していたからです。そしてその本を私は小学校か中学校の頃に買って持っていました。
その後、本を処分してしまったのですが、今年家族で藤子・F・不二雄ミュージアムに行った際に、復刻&完全版の「藤子・F・不二雄の異説クラブ」を見つけて購入したところだったのです。
一般的なドラえもんファンならば、異説クラブメンバーズバッジなどを使わなくとも「もしもボックス」を使えば月面探査記で描かれたことと同じことができたと分かるでしょう。同じ大長編ドラえもんの「のび太の魔界大冒険」では科学ではなく魔法が発展した世界をもしもボックスで作り上げます。なぜ異説クラブメンバーズバッジを使ったのでしょうか。
相当なドラえもんファンだと、通常連載のドラえもんで、有名な異説である地底空洞説を現実のものにするために、異説クラブメンバーズバッジを使って地底世界を作る話があることを知っていることでしょう。異説クラブメンバーズバッジにより広大な地底空間がある世界を作り、各種ひみつ道具で環境を整え、動物粘土で人類を誕生させます。地底世界では独自の発展を遂げてドラえもんとのび太は創造主としてもなされるのです。この話を地底世界から月面へ舞台を変えたのが月面探査記ということですね。最初にのび太が粘土で不細工な人間を作りそれをボツにするところも一致します。
さてこの異説クラブというものに、藤子・F・不二雄先生は強い思い入れがあったようです。先生は自らの作品をSF(すこし・ふしぎ)作品と称していました。
作成にあたり、膨大な資料を読み込み世界各地のミステリースポットを取材していました。藤子・F・不二雄ミュージアムによれば、仕事場には本物の恐竜の化石が置かれ、どれだけ小さなコマでも図鑑を調べて昆虫や動物を正確に描いていたといいます。子どもが読むマンガだからこそ情報を正確に伝えたいと。売れない時代には泣く泣く田舎から持参した百科事典を売って生活費の足しにし、その後財を成した際に全て同じものを買い揃えたそう。それほど科学に対して真摯に向き合っていました。
その反面、通説とは異なる説、すなわち異説にも興味があり個人的に研究し検証していたようです。UFOや宇宙人、超能力に幽霊。科学的に検証した資料を読みながらマンガ執筆のヒントを得ていたようです。
この姿勢に幼少期の私も共感したことを思い出しました。宇宙人などいないよ、UFOは偽物、超能力などない、といった意見をあたかも「科学的」という雰囲気で語るひとをたくさん見てきました。本当に科学的とは「いないということを科学的に証明しなければならない」ということです。常識外れだから、教科書に載っていないから、見たことがないから、といった理由で非科学的と思慮無しに否定することこそ「非科学的」です。私は子どもの頃そう思っていましたし、今もそう考えています。
藤子・F・不二雄先生は同じようなスタンスがあるなと思って、当時本屋にあった「異説クラブ」を手に取ったのでした。
大長編ドラえもんでは(通常の連載回でもそうですが)お約束パターンで、のび太が不思議な出来事に遭遇し未知なる世界(文明や空間)があると主張します。それを常識では(科学的では)ないと否定しバカにされます。するのはだいたいスネ夫、ジャイアンあたり。のび太は悔しくてドラえもんに泣きつくと、その考えを叶えるひみつ道具を出す。そして実は常識外の世界や文明が存在して冒険するというパターンです。
藤子・F・不二雄先生はストーリー作りのテクニックとして、異説をのび太に唱え、それを一度正論で論破させる(主にスネ夫に)。そこから実は詳しく調べてみると・・・という風に作るそうです。
「ドラえもん」という一番常識からかけ離れた存在がいる世界観で、まずは今の科学では・一般常識ではという面を強調してからの、まだ解明されていないけれど可能性があるという異説を入れてくるのですね。
少年マンガですから、さっさと信じさせて先に進めてもいいはずですが(ドラえもん自体が一番信じ堅い存在ですし)敢えて正論や一般論を一度挟む。ファンタジーなのですが、その時点の最先端科学や常識を入れるところが、今でもドラえもんが子ども達に愛される理由の一つかもしれません。
親の立場で「のび太の月面探査記」を見ると、月は地球に対して常に同じ向きを向いている、つまり自転と公転が一致しているということをアニメーションで解説していて、子どもにとって理科の勉強になるなと感心するわけです。マンガでもキャラクターはとてもデフォルメしていますが、背景や動植物はかなり精密に書き込まれているものです。辞典や教材の意味合いがあると思います。
「異説クラブメンバーズバッジ」というひみつ道具はちょっと異質だと思います。
それを敢えて出したのは、一般的に信じられている物事だけが全てで正解ではないよと藤子・F・不二雄先生が伝えたいのだと私は考えています。願望を現実化する便利なひみつ道具は他にもあるわけです。科学の発展は否定の繰り返しです。かつて絶対だと信じられてきたことを実験や検証によって覆し続けて現在があります。科学に向き合い続けた藤子・F・不二雄先生だからこその「異説クラブ」なのではないでしょうか。
甲野 功
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