開院時間
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新型コロナウィルスにより夏の甲子園大会中止が決定しました。戦後初の事態に大きなニュースになりました。状況を顧みれば仕方のないことでしょう。世界的なイベントであるオリンピックですら延期になったわけですから。今年しかない高校3年生の球児の気持ちを想うと胸が苦しくなります。
本当にタイミングの問題で、運が悪いとしか言いようがないです。反対に運が良かった、というものもあります。
私に関係するものでは、国家試験があります。
これまでにあん摩マッサージ指圧師、鍼師、灸師、柔道整復師の4種類の国家試験を経験しています。
あん摩マッサージ指圧師の国家試験は2月最終土曜日、鍼師、灸師は2月最終日曜日、柔道整復師は3月第1週の日曜日に行われることが慣例です。今年は試験開催時には既に新型コロナウィルスの脅威が叫ばれていましたが、無事に行うことができました。
開催日程、あるいは流行のピークが重なったとしたら実施はできなかったことでしょう。
国家試験は年に一度しかありません。最低3年間勉強しないと受験資格が得られず、本番に合わせて学生も教員も調整してきているので試験が行われたことは良かったと思います。
そういうわけで今年(第28回)のあん摩マッサージ指圧師、鍼師、灸師、柔道整復師(以下、あはき柔と省略)の国家試験の結果を数字で振り返ってみます。
東洋療法試験財団のホームページより、これまでのあはき(あん摩マッサージ指圧師、鍼師、灸師)国家試験合格者数の推移が見られます。
グラフをみると一目瞭然なのですが、鍼灸に比べてあん摩マッサージ指圧師は試験受験者数も合格者数も右肩下がりであり、鍼灸師と人数の差が開いています。
あん摩マッサージ指圧師試験の合格率はずっと80%以上で合格しやすいのですが、受験者数も合格者数も年々減少しており、今年の合格者は1,213名となっています。鍼灸師、柔道整復師の学校は通称福岡裁判と言われる専門学校新設を認める判決を出した裁判後に爆発的に増えました。しかし視覚障害者の職業を守るという理由であん摩マッサージ指圧師の養成学校は増えてはいません。
それでも人数の減少が続いているというのは学校に入学する、すなわちあん摩マッサージ指圧師になろうという人が減っていることが一つ。もう一つは視覚障害者の学校が減っていることも挙げられます。
晴眼者(視覚障害を持たない健常者)が入れる専門学校の数は変わらないまま志望者が減る。このままでは先細りしていく可能性が高いと言えるでしょう。
あん摩マッサージ指圧師専門学校を新設させようと裁判を起こしている学校法人がありますが、そもそも学校を増やすことに意味があるのか疑問になる数字の推移と言えます。
鍼師、灸師についてみましょう。基本的に2つの資格を同時に受験し両方合格することがほとんどなので鍼灸師と考えて構わないでしょう。
多少の増減をしながらも第19回(平成22年度、2010年度)をピークに受験者数も合格者数も減少傾向にあります。ピーク時の受験者数約5,500名、合格者数約4,600名から比べると今回の第28回(令和元年度、2019年度)は1,000名ほど減少しました。2年前の第26回(平成29年度、2017年度)の合格率が大幅に低かったときに合格者数が3,000名を切りましたが、この先も合格者数が3,000名を割ることが考えられます。
鍼灸専門学校は3年間通います。3年前の状況が受験者数に反映されるわけです。今業界に、鍼灸師という職業に魅力がなければ志望者は減り、3年後あるいは4年後の合格者数に答えとして現れてくるのです。増えすぎた専門学校では生徒集めが大変で、文字通り生き残りをかけています。学校については後ほど触れましょう。
柔道整復師国家試験に関しては柔道整復試験財団が発表しているデータを参照してみましょう。
昨年に比べて受験者数、合格者数ともに大幅に減少しました。
前回第27回(平成30年度、2018年度)の受験者数が6,164名だったのが今回第28回では5,270名と900名近く減りました。合格者数は650名あまりの減少です。1年の違いで差があります。
受験者数、合格者数ともに10年前の第18回(平成20年度、2008年度)をピークに減少傾向にあります。来年の第29回では合格者数が3000名を切るかもしれません。
ここ数年の柔道整復師関連の逮捕、スキャンダルは目を見張ります。大手整骨院グループが倒産したニュースは最近のことですが、芸能人や芸能人の家族に過剰にお金を渡していたことが一般週刊誌にも出ました。不正請求だけでなく、違法のサプリメントを販売したことやフランチャイズ契約でのトラブルも報告されています。専門学校も閉校が進んでおり、福岡裁判後に爆発的に増えた養成機関は淘汰が進んでいると言えます。
あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師と同様受験者数の減少が見られますが、柔道整復師は特に数が減っていることがうかがえます。今回の新型コロナウィルス流行によりどれだけ影響が出るのでしょうか。
このように各試験の受験者数と合格者数を見てきましたが、裏には養成機関である専門学校あるいは大学の状況が厳しいことが伺えます。全体の合格率や合格者数だけを見ても専門学校の実態が見えてきません。業界月刊誌「医道の日本」の今月号に各学校の受験者数と合格率が掲載さていますが、こちらのサイトからも確認することができます。
看護医療進学ネット>国家試験合格者状況一覧>2020年(令和元年度卒業生)国家試験合格状況一覧
鍼灸はほぼ数字に差がないと判断して灸師のデータは省略しています。あん摩マッサージ指圧師、鍼師、柔道整復師の国家資格受験者数・合格者数の学校別一覧を見て見えましょう。
これを見ると学校の差がはっきり見えてきます。
例えば国家試験合格率100%と80%の2つの学校があったとしてに、一見100%の学校の方が優秀で魅力的と映ることでしょう。しかし受験者数2名中2名が合格した学校と受験者数100名中80名が合格した学校ではどちらが良いでしょうか。
間違いなく後者です。
この仕事は人体に施す技術職。クラスメイトが多いほど学生時代からたくさんの身体に触れる機会があり有利です。3年間同じ人としか練習できないのではとても厳しいでしょう。また現役生(新卒)の合格率が95%で既卒(浪人)の合格率が低くてトータル合格率80%だとするならばなおさら後者の方がいいわけです。既卒とは既に国家試験に落ちている生徒です。浪人すると国家試験を合格できる確率は大幅に下がります。新卒の受験者数が学校の規模を示し、その合格率に注目することが学校選びに必要でしょう。
また既卒の受験数が多い学校はそれだけ浪人が多いということになります。学校単位で全受験者数に対して既卒受験者数の割合が高い学校は過去の合格率が低いということ。過去にさかのぼって受験者数や合格率を追うとより専門学校のリアルな数字が明確になることでしょう。
そして新卒(現役)の受験者数が0で既卒(浪人)の数字がある学校は既に閉校したか該当する科を閉鎖した学校でしょう。どれくらい学校あるいは科が閉鎖されているかを表の数字から見ることができます。
これまで見てきたように、あはき柔とどの資格も受験者数は減少傾向にあります。日本の人口が減少しているのである意味自然なことであります。
今現場で活躍しているであろう先輩たちの姿をみて専門学校、大学に入学して3年後に試験を受けるわけですから、今年の状況は3年以上前の業界状況を反映している数字とも言えるはず。特に柔道整復師国家資格の受験者数はより下がる傾向にあり、ここ3年の柔道整復師関連で報道された事件やトラブルが専門学校の入学者数や国家試験受験者数を減らす要因になるかもしれません。柔道整復師養成学校では新卒受験者数が多い大規模な学校が少なくなっています。経営面からみても学校自体が減少していく可能性が高いでしょう。それは鍼灸でもあん摩マッサージ指圧師でも同様に。
タイミングがよく新型コロナウィルスの影響を受けずに国家試験が実施できた、あはき柔。反面、多くの学校がリモート授業や動画学習、課題による自宅学習といった非日常的な対応に追われています。この状況が3年後の数字にどのように反映されるでしょうか。学校関係者は踏ん張りどころです。
また臨床に出ている者が、人にあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師を目指したいと思わせるような働きや活動をしなければ3年後の国家試験受験者数に反映されることでしょう。
国家試験の合格率ばかり注目されますが、それ以外の数字に目を向けることが必要ではないでしょうか。
甲野 功
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