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~鍼灸師にメンターが必要になるのでは~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 鍼通電の様子
鍼通電の様子。数多ある技術から何を学び活用するのか。

 

私が鍼灸マッサージ専門学校に通っていた10年以上前と今では環境が大きく異なっています。
国家試験の難易度は跳ね上がり、「普通に勉強していれば受かるよ」「国家試験の過去問をしておけば平気」というかつての“常識”は“都市伝説”になりつつあります。私の世代の話は眉唾物になっています。

 

他にも大きな変化がSNSを筆頭に情報化社会が加速していることです
かつては学会や学校、職場でしか接点を持つことができなかった全国の関係者と繋がりを持つことが容易になりました。Twitter、Facebook、Instagram。ホームページやブログ。更にはTikTokにYouTube。細かいツールを挙げればまだあります。
個人が情報発信をする時代となり、情報を受け取るようになりました。情報を取りに行かない人間は情報弱者となってしまい、情報発信をしない鍼灸師は時代の流れに追いつけないような

更にこの新型コロナウィルスによって、オンラインセミナーやリモート授業、オンデマンド教育が加速しました。
発信することも、情報を得るためにアンテナを巡らせることも、必須になったといえます。別にやらなくてもいいけれど、情報収集量の差は歴然としてきます。老舗の専門学校である母校もTwitter、Facebook、Instagram、LINE、YouTube、オンライン学校説明会と、かつて考えられないくらいほどネット上の情報発信をしています。私が受験した頃のホームページがあって、電話して印刷物の学校案内を送付するという時代が夢のようです。そうしなければ生き残れないわけです。

 

開業することを機にSNSを始める、あるいは力を入れる鍼灸師も多く、最初は匿名かつ顔を出さなくても段々と顔を出したり本名を明かしたりするようになります。特に個人の力量が大きく影響する鍼灸は、鍼灸師個人を売り出した方が宣伝効果があるので素性を明かすようになる場合が多々見受けられます。もちろんこれも生き残るための自然な変化です。

 

学生の方も同様です。積極的に情報を得るためSNSを活用する鍼灸学生さんが増えました。場合によっては学校に入学する前から情報収集をし、現役の鍼灸師に連絡をして相談する場合もあります。
ネット上で知識を高めあい、先輩鍼灸師に助言をもらい、不安や不満を吐露する。情報を得ようとすれば私が学生の頃とは比べ物にならないくらい速さと量を得られるのです。

 

その様子をつぶさに見ていると学生の不安、そして卒業の迷い、が見えてくる場合がいます。数年にわたりSNS上で観察していると卒業後に生き生きと業務に向かう人がいる一方で、資格を取るも鍼灸から離れていく人もいます。職場を転々として迷い悩む人も。
鍼灸の資格を取っても鍼灸師として仕事を続けていけない例が少なからずいるのが現状。卒業後の育成は大きな課題の一つと言えるでしょう。

 

なぜ卒業後に鍼灸師が道に迷うのか。私にとってここ1、2年で特に問題視していて、考えることが増えた内容です。

 

これまでに以下のような仮説を立ててきました。

開業権があるから迷う
勤務鍼灸師意外に道がないのならば職場を探すだけで済むが、比較的簡単に独立開業することができるため開業を視野に入れることが迷う要因になる。技術はもちろん経営能力が必要になる。


専門学校とのミスマッチ
鍼灸の専門学校に入る際にきちんと学校のことを精査しないで入学してしまい、自分の希望と大きく異なってしまう。入ってみると想像以上に専門学校で差異があり、特色が出るものです。


業界の地図やコンパスが無い
鍼灸という技術は細分化され、活躍する場面も多岐に渡ります。教科書に出てこない技術は山の様にあります。現代では廃れて実践できる人が数少ない技法も、新しいやり方も日々生まれています。病棟で難治性疾患を扱う者もいれば、美容専門で行う人もいます。よくも悪くも、あれも鍼灸これも鍼灸、であり標準にあたるものがありません。おそらく現時点で鍼灸界の全容を把握している人間は存在せず、比較検討するものも無いでしょう。

 

自由度が高く、広い分野で活躍できて、開業権があることが卒業後の進路を迷わせると一因だと考えています。

そこで先生、師匠、コーチといった指導する人間が必要になると考えています。最近の経営用語を使えば“メンター”というのが一番近いでしょうか。

 

メンター(mentor)をgoo国語辞典で調べると、
優れた指導者。助言者。恩師。顧問。信頼のおける相談相手。
とあります。技術を指導するだけでなく、助言を与えることや相談できる、というニュアンスが入ってきます。私もメンターという言葉をここ数年で知るようになり、本質を理解しているわけではないのですが、新卒鍼灸師あるいは学生にはメンターという存在が必要なのではないかと考えるようになりました。

 

鍼灸技術は学校の先生や師匠と言われる上級者に学ぶことができます。ところが進路については多様化が進み単純ではありません。
鍼灸師は資格であると同時に“生き様”のようなもので、<鍼灸の技術と知識(資格)を活かして何を成すのか>という感じになっています。技術を学ぶことができても生き方を決めるのは本人次第です。

 

悪く言えば盲目的に師匠のことを信じてその下で成長していれば一人前になれた時代から変わってきています。情報が簡単に手に入れることができ、かつ大量に氾濫するので目移りします。かつ時代の変化が急速なので、それまで成功していた方法があっという間に通用しなくなる可能性があります。

 

学生や新卒鍼灸師には
あなたはどのように生きていきたいか?という問いかけをし、相談に乗り、進む道を一緒に考えて助言してくれる存在
が必要なのではないかと考えるようになりました。そういったことができる存在を一番近いニュアンスで表しているのがメンターなのかなと。

 

学校以外でも技術セミナーや無料動画、オンラインなどにより、前よりも簡便に技術を学ぶことができるようになりました。必要な技術を取捨選択して学ぶことが簡単になってきています。だからこそ自分自身に必要な技術を知ることが大切ではないでしょうか。

 

以前書きましたが私には臨床技術における師匠と言える人がいません。もちろん先生や講師はたくさんいて学びましたが、師匠と呼べるほどしっかりと師事した人は鍼灸やマッサージではいません。
師匠と呼べるのは出会った患者さん達です
そう言い切れるのは専門学校に入る前から、自ら求めることがはっきりしていて、それを実現するために必要と思われる資格や技術を学んでいった結果、いまの私がいるからです。技術や資格は自己実現のための“手段”でしかなく、“目的”ではないのです。人よりたくさんの学校に通い資格を持っていると思いますが、それらは全て必要だと考えた結果です。

 

迷っている新卒鍼灸師さんの様子を観察していると、結局どこに向かっているのかが不明瞭あるいは迷っている、という印象なのです。


いまは一般的な正解がない時代です。何を正解にするかは自らすることになりました。
どこに向かうかをはっきりしないで動いても迷走するだけでしょう。大量の情報が迷いを増幅させます。卒業後の進路や生き方を一緒に模索する存在(それをメンターと言ってしまっていいのはやや疑問ですが)が求められているのではないでしょうか。

 

甲野 功

 

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