開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
ここ数ヵ月感じてきたことです。患者さんの身体の不調が、これまでとちょっと変わってきていると。
在宅勤務、テレワーク、リモート。
これまでになかった労働環境のせいで肩こりが酷くなった、腰痛が出ている、といった訴えを受けます。その多くが会社や職場とは椅子やテーブルが異なり疲れると言います。仕事専用の環境ではなく、自宅の食卓や書斎で仕事をするので体に合わないというわけです。他にも家族が側にいて集中できない、メリハリがなくだらだらとずっと仕事をしてしまう、むしろ以前よりも忙しくなった、などの意見も耳にします。
当院は住宅街にあります。4月以降、電車で来る遠方の患者さんは激減したのですが、近所の方は在宅勤務であるので以前よりも来やすくなったという方もいます。それと、本当に徒歩圏内の近所の新規患者さんが増えました。
そういった皆様の身体を触れているとこれまでの筋肉の凝り方と異なっているなと感じます。一応臨床に出て15年くらい経っているので触った感じで体の状態を予測することがそれなりにできると思っています。その経験からも筋肉の状態がこれまでと違うと感じることが増えました。こりが強く、痛みを伴っている。
それは患者さんだけでなく、私自身もそうなのです。
30代前半までは肩こりという状態が理解できませんでした。腰が張っているねと散々他人に言われますが腰痛の自覚は全くありませんでした。
それが子どもが生まれて、開業し、40代に入りどんどんと体の不調を自覚するようになり、「ああかつて患者さんが訴えていたことはこういうことだったのだな」と理解できるようになっていきます。それとは別に、ここ数ヵ月で私の体は肩こりが酷くなり、痛みが出る、腕が挙げづらいという状態が起きるようになりました。
私は文章を大量に打ちこむので、パソコン作業が多いのは以前からです。むしろ新型コロナウィルスが流行してからはパソコン仕事の量は減りました。4月に比べれば本業の仕事も増えてきて按摩指圧といった肉体労働が増えてきたのは確かです。
パソコン作業が減って体を動かす臨床が増えたのですから4月より体調が良くなりそうなものですが、実際には痛みを伴う肩こりが出てきたのです。かつては肩こりを自覚したことが無かったのに。
なぜこのようなことになってのか。色々と仮説を立てたのですが、これは新型コロナウィルスの影響によるものだろうと考えています。それも東洋医学の考えでいると「気滞」と言われる症状だろうと。
気滞について説明しましょう。東洋医学は諸説があるので説明が難しいのですが、鍼灸専門学校で用いられる教科書の表現をします。
<東洋療法学校協会編 新版 東洋医学概論>から。
まず気について。
『
気とは、人体を構成し、生命活動を維持する精微物質(極めて細かい物質)を表すとともに、機能を表す言葉でもある。
』
こう書いてあります。
よく分かりませんね。何となく気というものが目に見えないけれど存在して人体に影響している、という認識でよろしいかと思います。
人気、天気、病気、空気、電気、など「気」という言葉を抜きに日常会話ができないくらいありふれた単語です。実態は見えませんが確かにあるというもの。(電気も光に変換しているから見えるのであって電気自体は目に見えません)。
その気がどういう状態になるかが東洋医学では重要視します。
続いて気鬱。
『
軽度な気の循環障害が起こった病態を気鬱という。
』
とあります。気は体内を巡っていると考えられていて、軽い循環障害が起きて停滞すると気鬱という状態になると考えます。
『
気鬱が発展し、その程度が強くなったものを気滞という。
』
ここで気滞という言葉が出てきました。気鬱状態が更に悪い方に進行したら気滞という状態になるということです。
気も血液のように体内をスムーズに循環していないといけないもの。気の流れが悪くなって一部に滞っては良くないのです。気が停滞した状態で気滞。そういうイメージでよろしいかと。
さて気滞になるとどのようなことが起きるのか。特徴的な「腫痛」というものがあります。
『
気鬱・気滞による痛みは腫るような感覚を伴う痛みとなりやすい。
』
と教科書には書いてあり、これが腫痛というものです。東洋医学独特な言い回しですが私の肩の痛みはこれに近いです。おそらく今来ている多くの患者さんの肩こりが酷くなって痛みがあるというのはこの腫痛に分類されると予想しています。
それでは気滞の患者さんにどのような対処をするのでしょうか。
色々と方法はあるのですが、気の循環が停滞しているのでそれをうまく流れるようにしてあげるようにします。手段として按摩指圧、鍼灸というものを用いますが、考えとしては気の停滞を取り除くことが対処ということになるでしょう。
ではなぜ気滞が起きるのでしょうか。
気滞が起きる原因は幾つかありますし、これまでにもなってきた方もいたと思います。私自身も含めてなぜこの時期に気滞状態になる人が増えたのでしょう?。それは新型コロナウィルスが原因だと考えています。
自粛要請、ステイホーム、不要不急の外出を控える、イベントの縮小・中止、休校などなど。多くの活動が制限されてきましたし、制限されています。明日から4連休というのに東京都民は都外になるべく行かないでくださいね、と都知事から言われています。それ以前からあまりにも多くの行動が制限されてきました。
学校に行けない。旅行に行けない。趣味の活動ができない。職場に行けない。
こうなると鬱憤が溜まってきます。それが気滞を起こす要因になるわけです。
ガス抜きという言葉ありますが、不満が溜まり過ぎて爆発しないように適度に発散させる必要があります。気滞とニュアンスが同じですよね。ガスは気体で溜まり過ぎたら出してあげる。それが東洋医学的な表現だと気滞になると思うのです。
子どもは体育のプールも遠足もいけない(学校によりますが)。夏休みは短くなる。
学生は学校に行けない。部活動ができない。
社会人は職場にいけない。仕事ができない。
お年寄りは趣味を楽しめない。
これまでの楽しみ、やりがい、自分を表現する場が奪われています。
オリンピックアスリートは本来であれば明日開幕する東京オリンピックに向けて練習を積んできました。オリンピック出場選手でなくともアスリートは開催を楽しみしてきたはずです。パラリンピックもそうです。東京オリンピックに向けて準備をしてきた関係者も。
それが延期となり、活力の行き場が無くなった形です。この状況が続けば来年本当に開催できるのか、という不安も当然あるわけです。
今年3年生の高校球児は幼少期から甲子園を目指して練習を積み重ねてきたのに。春も夏も中止です。例え予選一回戦コールド負けだとしても実力だったとある程度納得できるでしょうが、試合をするチャンス自体が消えてしまいました。
音楽家、俳優、アーティストなど活動する場が奪われています。表現者にとって収入よりも舞台に立つことの方が優先順位が高い場合が多いでしょう。お金も大切ですが活動を制限されることは表現者の心境として辛いと思います。生きがいを奪われているような。
観光業はお客さんが来なくて苦しいわけです。例え国が補償をしてくれたとしてもお客さんが来なければ先がありません。体験してくれなければ次に繋がりませんもの。
身体は元気。施設も整っている。やる気も十分。それなのに活動できない。
この状況は本当にきついです。お金を払うから何もするなと言われてもそう長くは続きません。これが大災害が起きて仕事をするような状況ではない、大病を患って闘病することが最優先、といった状況ならば話が違うのです。
東洋医学の根幹をなすものに「陰陽論」というものがあります。万物を陰と陽に分けるという考え、思想です。
人体の不調を虚(陰)と実(陽)に分ける考えがあります。正しいエネルギーが足りていない状態を虚といいます。この場合、鍼灸師は外からエネルギーを与えるように働きかけます(補といいます)。悪いエネルギーがあるとき、あるいは正しいエネルギーが余っていたり停滞していたりする状態を実といい、余計なものを取り除くように働きかけます(瀉といいます)。
気滞は実という状態で、エネルギーの停滞といってよいでしょう。やる気や元気をぶつける場所を奪われてもやもやしているような。
私は鍼灸師として瀉法を使って鍼灸をするということが専門技術として持っているのですが、まず話を聞いて患者さんに吐き出させるようにします。
不満や愚痴を口に出して話すことでかなりすっきりするもの。発声という物理的に息を吐く行為が停滞した気を動かすのです。カウンセラー、相談員、はたまた水商売まで溜まった気・鬱憤を言葉によって吐き出させることは様々な場所で見られることで、東洋医学の気滞に通じると考えます。
さらに言えば、マスクをして物理的に息を吐きづらくすればより気滞になりやすいとも言えるわけです。外で四六時中マスクをしていればより一層負担が大きくなるものです。
気滞という概念、考え方は東洋医学を知らないと出てこないものです。患者さんは無自覚に最近体が変だなあと感じているようです。まだまだ新型コロナウィルスの影響がありそうなので、東洋医学的な見地からも発散できる場面を作れるといいなと考えています。
甲野 功
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