開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
今月、これから鍼灸専門学校に入学志望の方が3名来院されました。そのうち2名は来春から専門学校進学が内定しています。
私が普段SNSから発信している内容、ホームページに掲載している情報から興味を持っていらっしゃいました。
私は4年制大学を卒業後、一般企業就職を経て、リラクゼーション業界に入り、鍼灸マッサージ専門学校進学という経緯を踏んできました。そのため高校卒業後すぐに鍼灸界を目指そうという高校生からは全く問い合わせや相談はなく、私と同じように大卒、一般企業に就職した方が新しい道として鍼灸師を考えるという方から連絡を受けます。
昨年から特に考えているのが、専門学校や大学など鍼灸養成学校に入学前からサポートしないといけないのではないかということです。
以前、『鍼灸専門学校の課題は、入学希望者と学校側のマッチングが上手くできていないことが前提にあると考えている』とブログに書きました。専門学校の生徒集めの謳い文句と実際の授業や業界状況にギャップが生まれていないかと考えています。
しかしそれでは遅い。
これから鍼灸師を目指そうという人は専門学校に入学するから諸々のことをきちんと調べて学校選び、最低3年間続く学生期間の身の振り方を考えておかないといけないと思うのです。
そのために手助けできることをしていこうと考えるようになりました。
鍼灸師は食えない。
ネット上でよく議論されるテーマです。
何を持って「食えない」というのでしょう。
・鍼灸師免許のみの人と私のように他の資格免許を持っている人では話が異なる。
・高卒で専門学校に入り免許を取ったばかりの21歳の新人鍼灸師と、現場に出て10年以上経過した中堅鍼灸師を一緒くたにするだろうか。21歳の食えると50歳の食えるは異なるはず。
議論する上での前提条件が揃わないと正しい議論にはならないと思うのですが、本当によく出てくるテーマなのです。
先日、当院を訪れた鍼灸師を目指す方がこのように話していました。職業の本音を書くサイトで鍼灸師の項目を見たところ、鍼灸師は儲からない、ひどい職業だ、という意見が多数書き込まれていたといいます。更に目を通すと、これだけ儲かる、鍼灸師は最高だ!という反対意見が出てきたと。両極端で何が本当なのか分からないと不安になったそうです。
その話を聞いて私は、まあそうだろうな、という感想です。
国家資格だと言っているのに納得いく収入が得られない、安定した収入でも職場環境が悪い、社会的地位が低い、といった不満はよく耳に入ってきます。反面、鍼灸師ほど素晴らしい職業はない!と声高に主張する人もいます。
収入面で言えばピンキリであるので(それはどの職業でも一緒でしょうが)、儲かるか儲からないかは難しい話です。
年収2000万円です、ただし毎日18時間働いて休みは1日もありません、という鍼灸師がいたとしたらどうでしょうか。果たしてそれが儲かると言えるのでしょうか。数年で倒れそうですよね。反対に仕事が大好きでそれくらい打ち込んで結果この年収になっているという場合もあるかもしれませんし。
働き方、生き方はそれぞれで、その人にとって割のいい仕事かどうか、という視点でみるといいのかと私は考えます。
鍼灸師免許を取得してもその後鍼灸をしなくなる人は少なくないのが現状です。鍼灸業界に残って臨床以外のことをする人もいれば、業界そのものから去ってしまう人も。家庭の事情や身体面の問題などで鍼灸をしなくなる場合もありますが、個人の意思で鍼灸から手を引く人はいます。
その理由に金銭面、待遇面での不満があるのも否めません。
なぜ数百万円の学費を支払い、3年間勉強をして、決して簡単ではない国家試験をパスしたのに鍼灸から離れてしまうのか。
その答えの一つが準備不足だと考えています。
正確には情報収集不足といいますか。鍼灸師という職のこと、業界のこと、学校のこと、様々な面でよく調べないで進学していないか。本当にやりたいことなのか、やっていけることなのか。
実は無策で突入しているだけなのではないか。ここ数年鍼灸専門学生さんと接するうちにそう考えるようになっています。
例えば東京都にある高尾山を例にしましょう。
未就学児でも登れる山でミシュランガイドにも掲載される有名観光地です(世界一登山者数が多い山だそう)。しかし複数の登山道があり、舗装された簡単な山道もありますが、険しい登山道もあるのです。半袖短パンサンダルといったいでたちで山に入れば遭難する可能性もあります。登るのは簡単だからといって普段着で何も準備しないで臨めば危険な目に遭うことがあります。
そのときに「高尾山は危険な山だ!立ち入り禁止にしろ!」と叫ぶ人はおかしいですよね。何ならケーブルカーもロープウェイもありますからお金を払えば容易に山頂そばまで行くことができますし。下調べもしないで困難な登山道を進み、こんなはずじゃなかったと後悔し憤慨する。それは見当違いです。
鍼灸師は食えないと言う人は似たようなことをしていないかということ。
事前に登山道を調べてどのような目的で高尾山に行くのか決めておけばこういうことにはなりません。自然を満喫したいのか。山を楽しみたいのか。足腰を鍛えたいのか。手っ取り早く山頂に到達したいのか。目的は何でしょう。
高尾山の山頂から先にはより自然豊かな山々が広がっています。お金を払えば軽装で無装備でも山頂まで行くことは可能です。足腰を鍛えるために何往復もする人だっています。高尾山は一つでも楽しみ方は無限にあり、それはその人それぞれ。高尾山は簡単な山とは言えませんし、危険な山とも言えません。準備不足でどうとでもいえるのです。
鍼灸師を目指す人は、鍼灸あるいは東洋医学について、幻想を持っているような気がします。全員とは言いませんが。
どの職業にも憧れはあるのでしょうが、こと鍼灸に関して言うとそれを越えた神秘的なものを感じている、あるいは期待している人が少なからずいるように思うのです。私は本当に“あん摩マッサージ指圧師を取るついでに”鍼灸師を取ったので特にそう感じるのかもしれません。鍼灸師免許を取っても使わなくていいかなと思っていたもので。
東洋医学という一見よく理解しがたいものを扱い、歴史がとても古い鍼灸。幻想を生む土壌があるのではないでしょうか。
それにも関わらず、いざ資格を取ってみたものの現実が厳しいということで幻滅してしまう。事前の期待値が高すぎて不満が強くなってしまうように感じています。そうなると周囲に鍼灸師は食えない・使えない、と愚痴をまき散らしたくなるのではないでしょうか。心のどこかで他の人が同じように失敗してほしくないという老婆心もあるのかもしれませんが。
私の経験上、
何を求めて鍼灸師の道に入ってくるのかが大切で鍼灸師というのは肩書きでありどう立ち振る舞うのかはその人しだいということを認識していない場合は、
頭の中にある(現実にはない)理想像を追いかけていつまでも到達できすに悩む、
という気がしています。何の目的で高尾山に登るのか考えずやってきて、厳しい登山道に入ってしまい、こんなに厳しい山だとは思ってみなかった!と怒るような。
もう鍼灸専門学校に入学する前から相談に乗ることがその人のため、ひいては専門学校のため、業界のためだと考えるようになりました。これまでも専門学校生に向けてアドバイスやセミナーをしてきましたが、その前段階からやった方がいいだろうと。
鍼灸師になりたいという方には、どうしてなりたいのか、鍼灸師として何がしたいのか、どこに向かいたいのか、などを丁寧に聞く。それが実現可能なことなのか、現実とのギャップが大きくないか、あまりに古い情報を鵜吞みにしていないか、などを確認する。
この変化のスピードが速くなった現代では3年前のことなど大昔です。昨年の今ごろ、東京オリンピックが開催できず、雨続きで涼しく、企業の倒産や撤退が増加しているこの状況を予想できた人などまずいないでしょう。今流行ったことが来年、そして3年後も同様である確約は持てないのです。
確実にアフターコロナの時代ではこれまで良しとされていたことは覆ることになるはずです。これからの「鍼灸師の正解」を各個人で考えて見つけることになることでしょう。
鍼灸師になると決意したとして、どの専門学校を選択するのがよいのか。それも重要です。今は大学もあります。元々職業訓練校である鍼灸専門学校は学校ごとに特色が強く、どこでも一緒というわけではありません。同じ法学部でも東京大学と早稲田大学と明治大学、どこでも同じでしょうと考える受験生はいないように。ある意味、高校生が大学を選択する以上に将来を左右することなのに鍼灸専門学校のことを特に調べないで決めてしまう場合が少なからずあります。
3年間の時間と多額の学費を投資するわけですから学校選びはしっかりとした方がいいと思います。
専門学校時代をどのように過ごすかも大切です。
私は勉強をしましたが、本当に鍼灸の練習はしていませんでした。実技試験に合格する程度しかやってきませんでした。臨床に出てから後悔したくちで、後に教員養成科まで進学してやり直すことになります。ただ当時はそれで良かったと思います。鍼灸を使う気が無かったので。同級生が学外の勉強会や研究会に参加する中、私は卒業後のための研鑽を積んでいました。もう少し鍼灸に取り組んでおけばと後悔することがありますが、間違いだったとは思っていません。
反対に学生時代に真面目に鍼灸の勉強をしていたのに、卒業後は全くやっていない人も見てきているので目的が定まっていないと時間とお金の無駄になってしまうように思います。決して短くない3年間をどのように過ごすかも大切なことです。
以前よりも国家試験の内容は難しくなっています。試験対策だけで頭がいっぱいになってしまうこともあるでしょう。まして新型コロナウィルスのせいで、現役の学生は授業時間が削られて詰め込まないと終わらないという現実もあることでしょう。どのような学生生活を過ごすかもその後に影響を及ぼすと思われます。
鍼灸師を目指すのは本当に妥当か。資格を取ってみたらこんなはずではなかった、とならないように適した情報を収集してもらいたいものです。人の役に立つ鍼灸師が増えることがこの業界の未来に繋がります。そのために個人的に手助けできることをやっていきます。もう学校に入る前の段階から。
甲野 功
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