開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
私は東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科というところ卒業しています。名前の通り、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師になるための専門学校の教員資格を取ることができる科。もう卒業して丸6年が経過しましたが母校との繋がりがあります。
先週、学生の授業カリキュラムの一環として外部研修による患者役が必要ということでお手伝いに行ってきました。銀座ルーチェという鍼灸マッサージ院に出向き足へのオイルマッサージを受けてきました。教員養成科の学生が現場で一般の人に施術をするわけです。
その時に教員養成科時代の同級生である水野アグスティン先生と同じ日になりました。お互い患者役を終えた後に銀座で話をしました。卒業して6年。これまでのこと、これからのことを。
水野アグスティン。とても穏やかで優しく、アグさんのあだ名で親しまれています。
私は東京医療専門学校の鍼灸マッサージ科、柔道整復師科、鍼灸マッサージ教員養成科という3つの科を卒業しており母校にある科を制覇した形となっています。国家資格としてはり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師の4つ、それに鍼灸マッサージ専門学校教員免許を取得しています。
ここまで資格免許を取っている人は業界内でも数が多くありません。鍼灸師と柔道整復師の二つは結構いますが、あん摩マッサージ指圧師に教員免許まで持つ人はかなり限られます。取得できる学校がとても限られるからです。
アグスティン先生は私と同じで先に挙げた全ての資格免許を取得しています。そして出身校も同じで東京医療専門学校の3科全てを卒業しております。順番が柔道整復師科→鍼灸マッサージ科→鍼灸マッサージ教員養成科と私とは違うのですが。面識がある人で、唯一の同じ学歴を経ているのアグスティン先生なのです。
同じ資格、同じ学校を出ていることで話が分かることがたくさんあります。その点ではとても珍しい同級生といえるでしょう。
アグスティン先生は急性外傷をメインで学ぶ現代医療の柔道整復師から始めて、東洋医学を学ぶ鍼灸師と徒手療法のあん摩マッサージ指圧師を取り、教員養成科で更に深い勉強をしてきました。取り組んでいることも多岐に渡ります。
アグスティン先生は柔道整復師として整形外科で勤務をしてきました。
柔道整復師でなければ理解できないことかもしれませんが、整形外科で柔道整復師として勤務することは花形で一種の憧れなのです。柔道整復師は急性外傷(いわゆるケガ)に対して非観血療法を行う職種です。非観血療法とは観血療法ではないという意味で、観血療法とは大まかに手術のことを指し、血を出す処置という意味で観血の言葉を使います。非観血療法とは保存療法とほぼ同じ意味です。
柔道整復師は徒手整復(整復とは脱臼、骨折で骨が正常な状態から逸脱してしまったものを戻す操作のこと。徒手整復はメスを使って切開することなく外部からの操作のみで整復すること)や包帯固定、ギプス固定という応急処置を行い外傷後の経過観察や後療法という外傷受傷後の処置を行うことが大切な役割であります。
しかし実際に臨床現場で行うには高度な技術と知識が必要で、現場レベルで対応できるようになるには卒業後も相当研鑽を積む必要があります。私は柔道整復師ではありますが、到底急性外傷を扱えるレベルではなく、軽度捻挫くらいまでしか対応できません。骨折、脱臼に関しては鑑別ができても応急処置をすることはおそらくできないでしょう(外傷の部位や状態にもよりますが)。
同じ柔道整復師として整形外科で働いていたアグスティン先生は尊敬の対象です。その現場に立っていたということだけでも凄いことだと私は考えます。
アグスティン先生はネパール・ヘルスキャンプに2回参加しています。
ネパール・ヘルスキャンプとはネパールの無医村地帯で行われる東洋医療による無料巡回治療のこと。水野アグスティン先生は現地に行って参加しました。異国の地で鍼灸や按摩指圧といった東洋医療を現地の人々に行う。それもボランティア活動として。
これは海外志向が全くなく飛行機が大嫌いな私には到底真似できない行動です。40歳を越えて海外旅行は新婚旅行で行ったエジプトのみというありさま。お腹を下しやすいし英語も話せない(英検4級)ため、想像することもできないことです。
海外での鍼灸ボランティア活動については真似できないことですが、海外支援については私も少し関わっています。妻がミャンマーの孤児院を支援するNGOを立ち上げておりますし、ずっと国際協力に関係する仕事を渡り歩いてきた関係で結婚を機に自分でできる範囲の国際協力を考えるようになりました。
今年は新型コロナウィルスにより中止にしましたがあじさい鍼灸マッサージ治療院開業2年目からチャリティーカフェといって開業した5月にボランティアイベントを開催し、その収益金を全額海外支援の団体に寄付する活動をしています。アグスティン先生は第1回チャリティーカフェに参加くださいました。
また鍼灸における国際協力というコミュニティで今も親交のある山川義人先生を紹介してれたのもアグスティン先生でした。山川義人先生との出会いはその後大きな影響を与え、モクサアフリカの活動、アースデイ東京の存在など視野を広げる大きなきっかけを生むことになります。
アグスティン先生は縁のあるネパールと関係する「ネパール棒灸」の研究を教員養成科卒業研究のテーマに決めました。
東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科は卒業するための課題として自らが発案したテーマにそって研究発表をすることが義務付けられています。この卒業研究発表がとても重要で2年間ある教員養成科の集大成といった感じです。
アグスティン先生はネパール棒灸という畑美奈栄先生が考案した棒灸という温熱刺激と指圧という押圧刺激を組み合わせた技術の効果を、自律神経への作用を良導絡測定という客観的に数値化できる方法で検証しました。私もこの実験の被験者として参加しましたが、とても素晴らしい内容だと思います。この研究発表を聴いた次学年の生徒が棒灸のみ、指圧のみの単独の刺激であれば効果が出るのか、という追研究も行いました。
私は教員養成科一学年上の研究発表から今年春に行われたものまで毎年全ての発表を聴いていますが、2年に渡る研究はとても印象深いものであり、私の臨床における「複合刺激」の理念を作る礎になりました。
そのアグスティン先生とは教員養成科卒業後も何度か話をする機会がありました。
私は教員養成科に入学する時点で開業することを決めていたので2年間の準備期間という感じで学生生活を過ごしていました。卒業後も同期の中では最初にあじさい鍼灸マッサージ治療院を開業することになります。卒業後にアグスティン先生と会うと、私の開業準備をどうしたのか上手くいっているのか今後どう展開するのか、といった話題が多かったです。
私達のときは教員養成科で1クール開業のための授業がありました。開業するとしたらというシミュレーションで事業計画書を作成したりチラシを作ったり生徒の前でプレゼンしたりということをしました。どこかで開業するとしたらという意識が全員にあったものです。
卒業後に会うとアグスティン先生はいつかは開業したいということを言いつつも、多くの時間は私が話をすることが多かったものです。自分が自分がと前に出るタイプではありませんし、整形外科という医療機関で働く以上守秘義務は絶対ですからあまり普段の仕事のことも話せないのでしょう。聞き役が多かったと思いました。
それがつい最近、アグスティン先生が実は開業していたことが分かりました。知らぬ間に。ほとんど周りに告知していなかったようです。先週銀座で会った時はその話題に集中しました。
聞けば昨年の今ごろから独立を考えて動き始めていたそうです。物件を探し資金を調達し、準備を重ねていた今年の春。新型コロナウィルスで状況が悪化する中、東京都で外出自粛要請が出始めた4月初旬に開業したというのです。
客観的にみて不運な船出です。
今年開業すると昨年比売上減で申請できる持続化給付金がもらえませんし、まだ今年3月までに開業しておけば補助金が出たかもしれないのです。鍼灸院、接骨院は休業要請対象外ですから休業手当もありません。大変な状況で始めてしまったと言えるでしょう。
それでもアグスティン先生は前向きでした。
たまたま底の時期に始めたと思い、これより落ちることはないだろうからやるだけだ、と。それまでのアグスティン先生とは違う腹を括った顔つきをしていました。
開業するまでのこと、開業してこれまでのこと、今後どうしていくのかということを饒舌に語っていました。物静かで私の話を聞くことが多かったアグスティン先生が展望や施策について話します。待っているだけではダメなのでこういう事をしてきたい。これからはこのようなことをする。具体的な事案を出しています。
与えられた仕事をこなす立場から、仕事を自ら生み出す立場に変わった覚悟を感じました。間違いなくこれまでのアグスティン先生とは違いました。
あじさい鍼灸マッサージ治療院も4月から業績が急激に悪化し、今はやっと昨年並みに持ち直しつつあるくらいの状況です。アグスティン先生はそれよりも遥かに厳しい状況でやっています。私も弱音を吐いていられないと思いました。
そして開業して4ヵ月。前のめりに今後のことを語るアグスティン先生をみて、私も開業当初の勢いを失ってしまっていたなと気づきました。
来月はアグスティン先生のところに行き「ネパール棒灸」をきちんと受けます。どのような空間を作って、どんな施術をするのか。今から楽しみです。開業当初の頃。知り合いが院に来てくれるだけでありがたかった気持ちをもう一度思い出すことにします。
甲野 功
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