開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
先日、ミズノ鍼灸マッサージ院にて水野アグスティン先生にネパール棒灸の施術を受けました。今回はネパール棒灸を紹介します。
「ネパール棒灸」という言葉には、
1.ネパール棒灸という道具(ネパールで作成した棒灸)
2.ネパール棒灸(道具)を用いた技術
の2つがあります。
まず道具としてのネパール棒灸について。棒灸とは艾(もぐさ)を固めて棒状にし、点火して温熱療法として用いるお灸の一種です。艾とはヨモギの葉を乾燥させて精製したもの。艾を指で捻り形を整えて皮膚の上に置き、線香で着火させるものがお灸のベースと言えます。
棒灸は艾を大きな塊にしています。指で捻った艾よりも遥かに大きく、熱量もあります。皮膚に直接触れることはせず(触れれば確実に火傷になるでしょう)、皮膚から離して使うことが一般的です。近づける、留める、動かすなどの自由度があるため、指で艾を捻るお灸に比べて点(ポイント)だけでなく線(ライン)の動きが可能になります。ネパール棒灸は他の棒灸に比べて太く、連続燃焼時間も長くなっています。神田にあるお灸専門店、三景さんのホームページによれば直径が25mm、重さが50g、連続5時間使用できるとあります。
この大きな棒灸はその名の通りネパールに自生するヨモギから作られています。ヨモギを生成して艾にすると書きました。ヨモギの葉はお灸の原材料になります。ネパールにもヨモギが生えているのでそれを使って棒灸にしています。ネパール棒灸とは“ネパール産の(ヨモギを使った)棒灸”と言えるのです。どうしても煙が大量に出ますが棒灸サポーターという煙を緩和する道具もあります。水野アグスティン先生も利用しており、これを使うことでかなり煙を減らすことができるとか。お灸、特に棒灸や灸頭鍼は煙がネックになるのですが、それを軽減させる工夫があります。棒灸を持ちやすいというメリットもあります。詳しくは同じ三景さんのホームページをご覧ください。
続いて技術としてのネパール棒灸についてです。通常の棒灸は近づけて熱を与える使い方をしますが、ネパール棒灸は衣服の上にタオルや手ぬぐいを敷き、そこへ燃えている部分を直接当てます。どのようなことをしているかは医道の日本が出している動画を参照してください。
動画YouTube 五味哲也氏 ネパール棒灸+ビワの葉(医道の日本2018年12月号)
この動画ではビワの葉を皮膚の上に置いて行う応用編ですが、やり方は概ね一緒です。衣服の上から行うので服を脱ぐ必要がありません。それもネパール棒灸の特徴です。温灸棒といって棒灸を入れて温かくした器具を皮膚や衣服の上に載せる方法もありますが、ネパール棒灸の場合は燃えている部分を当てるのです。このようなやり方をする棒灸はほとんど聞いたことがありません。ミズノ鍼灸マッサージ院で私が受けた時は衣服の上にタオルを敷き、さらに手ぬぐいを置いてネパール棒灸を当てました。じんわりと熱が伝わった感覚です。そして棒灸を当てたら体から棒灸を離して指で押します。棒灸を当てた場所は熱くなっているのでミトン(鍋つかみ)を装着した状態で行います。この点もユニークで、棒灸の「温熱効果」と押す動作における「押圧効果」の2つがあるのです。先に挙げた温灸棒では温熱効果と押圧効果が同時に起こりますが、ネパール棒灸では連続して起きるのです。このネパール棒灸の効果について水野アグスティン先生は東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科時代に研究をしております。良導絡測定といって自律神経の状態を皮膚通電抵抗から数値化して測定する装置があります。これを用いてネパール棒灸の刺激が自律神経系に影響を及ぼすのか実験をしました。細かい条件、実験方法を書くことは割愛します。詳細を知りたい場合は「学校法人呉竹学園東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科卒業論文集-30期生-(平成26年)」をご覧ください。
実験結果です。ネパール棒灸をしなかった群(コントロール群、無介入群)の測定平均値に有意な変化は見られませんでした。つまり自律神経系に変化はなかったと言えます(前後の数値を数学的統計処理をした結果)。何もしなくて安静にしていても自律神経系へ影響は無かったということ。ネパール棒灸をした群(刺激群、介入群)は有意に測定平均値が低下しました(同じように数学的統計処理を行った結果)。これは自律神経系に影響を及ぼし、副交感神経系の興奮性が上昇したと結論づけられました。分かりやすく言い換えるとネパール棒灸を受けるとリラックスする、そのことが測定数値で証明されたと考えられる、となります。その効果はネパール棒灸の刺激後15分後の測定まで認められました。ネパール棒灸を受けるとリラックスしてしばらく(時間にして15分)は効果が持続すると言える、という実験結果になりました。
この報告を受けて翌年、31期の学生により(水野アグスティン先生は30期)ネパール棒灸の温熱効果と指による押圧効果を別々に行った場合、良導絡測定の数値に有意差は出るのであろうか、という追実験研究がなされました。結果は温熱効果も押圧効果も単独では数値に有意差は出なかったという結果でした。(私は同期として水野アグスティン先生の実験に被験者として参加し、発表も会場で聞いています。翌年31期の研究発表も現場で公聴しております。)
この2年にわたる研究はとても興味深く、温熱効果と押圧効果のどちらかだけではリラックスできず、二つが合わさることで効果的な反応が得られたと言えるのです。複合刺激。この研究結果は私の臨床において強い影響を受けたものです。
技術的なユニークさと効果を示唆する報告がされているネパール棒灸。それだけではないのが私が注目するところ。ネパール棒灸は畑美奈栄先生により生み出されました。畑先生は40歳でネパールを旅しているときに現地の苦しむ人をみて鍼灸師になることを決意。日本で鍼灸師になったのちにネパールに戻り、ネパールに鍼灸学校を設立します。そして現地の無医村への無料巡回(ヘルスキャンプ)を始めるのです。その活動は20年以上続いています。とてつもない行動力を持った鍼灸師。鍼灸云々の前にネパールの貧しい人々を手助けしたいという信念があります。ネパール棒灸には「ネパール」と国名を付けていること。そこに注目です。
ネパール産だからという理由の他に、畑先生のネパールへの想いを感じます。例えば「畑式棒灸療法」のような自らの名前を冠してオリジナリティを謳い、商標登録やセミナービジネスにすることもできたはずです。それをせずにネパールをアピールするためにこのネーミングにしているように感じます。また畑先生はネパールに艾工場を作り、現地の雇用を生む施策をしています。艾の原材料となるヨモギが自生していたことは幸いでしたが、艾作りに目を付けてシステム化したことは特筆すべてきこと。現地で艾を生成しネパール棒灸という製品を作る。そこで雇用が生まれます。ネパール棒灸を日本の鍼灸師が使うことで間接的にネパールを支援することになります。
技術的、商品的にも特徴を持つことでネパール棒灸は他の灸法と違うと思わせることができますし、水野アグスティン先生のように自院のメニューに組み込んでいる先生方がいます。ネパール棒灸の施術をすること、それどころかその存在を知るだけでも、ネパールへの貢献に繋がっていくというもの。単なる製品、技術だけに留まらない意義のある稀有な存在と言えるのではないでしょうか。
私は教員養成科時代に水野アグスティン先生から聞くまでネパール棒灸のことを知りませんでした。そこから畑先生の活動、ネパールヘルスキャンプのこと、現地での艾作りのことを知るに至ります。多くの人にその存在を知ってもらいたいネパール棒灸です。
甲野 功
コメントをお書きください