開院時間
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求心力と遠心力。物理学として用いる求心力は、物体が円運動を行うときに円の中心に向かって物体に働く力のことをいいます。見方を変えると物体が運動する際に進む方向と垂直な力が常にかかるときに物体は円運動をします。このような物理的な「求心力(あるいは向心力)」の方に私は馴染みがありますが、それ以外の意味もありそちらの方が一般的でしょう。他人を引きつけ、その人を中心にやっていこうとさせる力。こちらの方がよく聞かれるのではないでしょうか。「リーダーの求心力が低下した」みたいな使い方をします。中心を求める力で求心力です。遠心力は物理学として円運動をしている物体が中心から遠ざかるように力がかかること。バケツに水を入れて振り回しても水がこぼれないという実験で分かるもの。求心力と違って遠心力を比喩として用いることは一般的にありません。
「求心力と遠心力」を比喩として使っていたのがプロレス業界のマスコミでした。プロレスというジャンルはとてもユニークで、純粋な競技でも戦闘でもショーでもない、特異な立ち位置にいます。圧倒的な身体能力を誇るレスラーがスターになるとも限りませんし、あまりに弱くても認められません。八百長と揶揄されても戦後の力道山から今日に至るまでずっと消えることなく残っているエンターテインメントです。
プロレスマスコミが使う「求心力」というのは既にプロレスが好きなファンを引き付ける力という意味合いで使っていました。単純なようで奥がとてつもなく深いプロレスは、観れば観るほどどんどん興味をひくものです。ライトなファンから観戦歴が長いマニアまで、プロレスそのものに惹きつける力を「求心力」と評しました。故ジャイアント馬場氏の弟子にあたる四天王と称されたレスラーたちは圧倒的なクオリティーの試合を連発し、スキャンダルや派手なマイクパフォーマンス、舞台演出をすることなく試合内容でファンを魅了しました。1990年代半ばに四天王プロレスといるジャンルを構築し、現在活躍するプロレスラーが大いに参考にしたと言われています。
対してプロレスに興味が無い世間に向けてメッセージを届かせる力を「遠心力」と表現しました。その曖昧な複雑な立ち位置ゆえ、八百長、ショー、演劇と言われてスポーツジャンルとはみなされないプロレス。その魅力を興味がない人々に訴えかける力を遠心力とみなし、あのレスラーは遠心力がある、といった表現がなされました。かのプロレス界のスーパースター、アントニオ猪木氏は環状線の理論と称し、(プロレス村の)外側である環状線の向こう側までアピールするために数多くの仕掛けを実践しました。最も有名なことはボクシング世界ヘビー級チャンピオンだったモハメドアリと異種格闘技を行ったことではないでしょうか。
求心力と遠心力。マニアを含めたプロレスファンを魅了する力、求心力を強く担うのは90年代のジャイアント馬場率いる全日本プロレス、その四天王と言われたレスラーたちが中心でした。同業者からもあそこまでやるか?!と驚嘆された限界までのリングでも戦いを見せてきました。プロレスの市民権を!と世間に向けて発信する力、遠心力があったのは80年代のアントニオ猪木率いる新日本プロレスが顕著でした。数多くのスキャンダルも含めて世間が驚くことをアントニオ猪木らはやり続けました。2020年現在、試合内容の高さで求心力と世間へのアピールする遠心力の両方を持つのがアントニオ猪木氏にルーツを持つ現新日本プロレスであります。業界の盟主として国内ダントツの最大手となった新日本プロレス。オカダカズチカを筆頭に試合のクオリティーは高く(かつての四天王プロレスに近い)、ハロルド・メイ社長を先頭に海外戦略まで進めています。中学生の頃からプロレスをみてきて、その興行論や世間への対応方法、栄枯盛衰などをつぶさに見てきました。物事を考えるときにこのプロレスから学んだ「求心力と遠心力」の概念はとても役に立っています。仕事のこと、あじさい鍼灸マッサージ治療院のことについても求心力、遠心力というワードを使って考え、実行することが多いのです。
最近、鍼灸専門学校の学生さんや将来鍼灸専門学校に進学希望の方との接点が増えました。そこで先輩として業界のことや将来のことを話すときにこの「求心力と遠心力」について触れることがあります。先日の鍼灸専門学校進学予定の方に向けて話したときはかまぼこメーカーの鈴廣を例にとって話しました。
鈴廣については過去にも触れたことがありますが、私がお手本にする企業の一つです。その理由が求心力と遠心力の幅とても大きく、どちらの方向への強い力を持っているからです。
鈴廣の求心力。それはかまぼこメーカーとしての圧倒的な技術力と研究する姿勢です。創業150年を超える老舗企業でありながら「老舗にあって老舗にあらず」をテーマに掲げて貪欲な姿勢を貫きます。伝統と革新の両方を持ち、高い技術力で他の追随を許しません。伝統的な技術力を維持するのはもちろん、科学的な解析・研究も怠りません
鈴廣の遠心力。
そして職人気質で内にこもるようなことが鈴廣にはありません。かまぼこ作りという本業を軸に、多製品を展開し他業種にも進出していきます。かまぼこ作りで出る食品廃棄物を肥料にして野菜を作りレストランを運営。箱根ビールという地ビールを生産。かまぼこの里という複合施設を作り買い物、体験、展示、食事と施設のアミューズメント化をしています。
色々なことに手を出していても(遠心力)、かまぼこ作りへのつよいこだわり(求心力)があるから経営方針がぶれません。かまぼこの圧倒的な技術力があるので(求心力)、描いた絵をかまぼこにプリントすることやトミカやリカちゃん人形といったおもちゃのかまぼこも作ることができます(遠心力)。
この鈴廣の姿勢は見習うところが多いのです。かまぼこの里に2011年5月に初めて訪れました。3月に東日本大震災が起き、日本全体が沈んでいた頃。ゴールデンウイークでこれから元気を取り戻そうという時期でした。かまぼこの里で鈴廣の施策を知り驚嘆したのでした。
鍼灸業界も求心力と遠心力のどちらも力を持つが必要だと考えています。鍼灸という伝統民間療法を追求する求心力。古典を読み、伝統を踏襲しつつも、現代科学での検証をしっかりとしていく。鈴廣の「老舗であって老舗にあらず」のスタンスで、昔から続く東洋医学を守りつつも最新科学の研究結果もきちんとみていくこと。鍼術は、ただ細い針金状の鍼を体に刺す物理刺激に過ぎないわけではないし、経験則だけのおまじないのようなものでもありません。古典研究も現代科学の検証もしっかりと行い、鍼灸師が鍼灸のことを研究し研鑽を積む「求心力」を強く持っていないといけません。反対に世間に届くように変化、応用することも大切です。現在では美容、スポーツと過去になかったジャンルや疾患にも対応するようになってきています。中国で言えば新型コロナウィルスに鍼灸が適応されました。これまで関りの無かった世界にも飛び込む。外に外に。世間に向けて。「遠心力」を持たなければ、知る人ぞ知る怪しい民間療法になってしまうことでしょう。
あじさい鍼灸マッサージ治療院を運営するにあたり技術向上は必須のことで、ずっと勉強をしてきています。またそれを発信することもしてきました。最近鍼灸師、鍼灸専門学生、鍼灸師になることを希望する人の来院や問い合わせが増えています。私自身も勉強するから関係者が来てくれるのでしょう。形に現れる求心力となります。技術を磨くばかりしていても経営は成り立たず、存在を外部にアピールしていかないといけません。どれだけ優秀だとしても知られなければ患者さんは来ないのです。あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、そして柔道整復師の資格と技術・知識をどの方向に活かすのも重要なこと。私の場合は社交ダンスが強く当てはまりました。外側へ広げていく力遠心力を出します。
求心力と遠心力。どちらか一方を得意にしている、そちらに専念している、という例をよく見ます。東洋医学の基本である陰陽論で言えば、求心力は陰、遠心力は陽。陰陽のバランスを整えることが大事とする東洋医学。本筋を全うすることと外への応用、どちらもバランスよくやっていきたいです。
甲野 功
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