開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
今月9月は9が“きゅう”と読むのでお灸関連のキャンペーンが鍼灸業界では行っているところがいくつかあります。
私もお灸探索月間としてお灸体験に出かけました。ネパール棒灸のミズノ鍼灸マッサージ院に続いて、東京都町田の有山先生のところに行きました。
実は有山先生のことをつい最近まで知りませんでした。先月、有山先生が当院までいらっしゃってくださり、私の鍼灸と按摩指圧を受けてくれました。その時が初対面でした。ただしそれは私の認識においてです。
有山先生は以前から私のことを知っていたそうで、昨年関東鍼灸専門学校で行われた「ハリトヒト。マーケット」というイベントに参加して際に会場では見かけていたのでした。今年に入り、SNS上で色々とやり取りがあって有山先生の来院となりました。
そして今度は有山先生のところに私が受けに行きたいとお願いしたしだいです。有山先生の鍼灸マッサージサロンなごみは女性専用です。同業者の体験ということで受け入れてもらいました。
有山先生は自宅が開業しており、鍼灸マッサージ師としての仕事の在りようがとても印象的でした。
私も地元の住宅街で個人院として開業しました。「あじさい鍼灸マッサージ治療院」という場所(設備、器材なども含めて)はほぼ甲野功個人とイコールのようなもの。私が求める環境を作り込んできました。
有山先生の鍼灸マッサージサロンは私以上に先生個人が反映されており、先生の意思が具現化されているものでした。
私が気になった開業鍼灸師の先生のところに出向くのは、ネットやSNSあるいは会食などでは分からない、現場の雰囲気を知りたいことが大きいです。自身が開いた院は多くのことが感じ取れるもの。サロンであるご自宅に入り、有山先生の考えやこだわりがありありと見てとることができます。
有山先生は家族を人生を豊かにするために開業している。そう感じました。もっと言えば鍼灸マッサージ師になった目的自体が家族のため、というもの。
驚くほどシンプルでかつ芯のある生き方をしていると思います。
ご主人の体調管理を考えて食事を研究するようになった有山先生。その後、娘さんの大学進学と同時に自らも鍼灸マッサージ専門学校に進学します。母娘が同時に学校に進学するというのはとても珍しいかもしれません。
専門学校は私と同じ呉竹学園。私は通称東京校と言われる東京医療専門学校、有山先生は新横浜校と言われる呉竹鍼灸柔整専門学校。ルーツは同じです。新横浜校は東京校、大宮校(呉竹学園は大宮にもあります)に比べて座学に力を入れる特徴があります。有山先生は新横浜校の校風がとても合っているとおしゃっていて、学校選択に満足しています。人によっては入る学校を間違えたと悔やむ鍼灸師、学生さんを何名かみてきているので、新横浜で良かった(呉竹学園卒同士はこのように略します)、とはっきりと話す姿は後悔のない清々しいものでした。
学校入学後もお灸が好きという気持ちがはっきりしていたようです。私達が入学した通称本科(鍼灸マッサージ科)は厳密にいうと
・はり師
・きゅう師
・あん摩マッサージ指圧師
の3つの国家資格を取るための科です。普段は鍼灸師とひとまとめにしていますが鍼と灸で別々の資格免許であり、考え方は同じでも技術的にはかなり違いがあります。そしてあん摩マッサージ指圧師と一つの資格にまとめられていますが、あん摩、マッサージ、指圧と3種類の別個の徒手療法を学びます。このように本科は色々なことができる分、卒業後何をしていくのか迷いやすい一面を持ちます。
私の場合は徹底しており、持っているものをフル活用したいと考えるタイプ。あん摩も指圧もマッサージもやりますし、鍼灸もします。各々を組み合わせることもします。その状況に合わせてたくさんの引き出しから最適な技術をその都度活用することを理想としています。スペシャリスト(専門家)よりもゼネラリスト(総合家)を目指します。
有山先生はお灸という一つのことに注目して他を省いている感じです。鍼灸師の施術を受けに行ってお灸をされなかったことはありますが、鍼をされなかったことは京都お灸堂鋤柄先生以来のことでした。お灸というものに徹底的なこだわりがあり、深く深く研究しています。お灸のことなら何でも知っている、何でもできるという情熱がありました。
鍼灸師と言っても多くの場合、鍼の方がメインになります。断言するのは語弊がありますが、圧倒的に鍼の方がよく用いられると周りをみていて思います。かく言う私も鍼と灸で言えば、8対2くらいの感覚で鍼重視です。受けるのはお灸の方が好きなのですが熱、煙というリスクが臨床で躊躇するところ。それ故にお灸をしっかりできる鍼灸師、正確にはきゅう師の先生に憧れます。また、灸は自分が納得するレベルにないことをコンプレックスを抱いています。
有山先生はまさに「きゅう師」であり、素人が真似できないレベルの灸術をします。艾(もぐさ)を手で捻って皮膚の上に置き線香で点火する。この基本的な灸を高いレベルで行います。
私にはこれができません。
私が受けたときは一度の施術で310壮(お灸は数を何壮と数えます)。310回も艾を捻って置き点火するという作業をしました。同業者の私でも気が遠くなるよう壮数。そして状況によって艾を変えると言います。
艾はヨモギの葉を乾燥、精製させて作りますがその純度によって等級が分かれています。2種類の艾を用いるとおっしゃっていました。それはすなわち皮膚の状態から艾を選び、どのように捻るかを判断しているわけです。それを310回。そう簡単に真似できることではありません。
※この紫雲膏灸については別の機会にしっかりと書きます。
有山先生は鍼灸師である越石まつ江先生の灸法を学び、それを活かしていると言います。鍼を使わずにお灸のみ。そのスタイルを踏襲しています。
艾を捻るだけでなく、数多くのお灸器材をお持ちでお灸という枠の中で臨機応変に使い分けているようです。様々な灸術を駆使するという点では京都お灸堂の鋤柄先生に通じるものがありました。聞くと有山先生も京都まで行ってお会いしているとか。さすがです。
有山先生の面白いところはお灸にマッサージを加えていることです。まず全身のマッサージを行い体の状態を把握して、相手をリラックスさせてからお灸に入ります。お灸とマッサージを組み合わせる発想は他に聞いたことがなく、オリジナリティがあると思いました。
お灸の先生である越石先生はお灸だけで、「私はあん摩マッサージ指圧師もあるのでやってみよう」と有山先生は話していました。
さらにサロンは一日一名しか受け付けず、時間もトータル2時間半かけると言います。ホームページはありますが宣伝広告は一切なしという。
女性の自宅で開業しているのでそれが賢明なやり方なのでしょうが、同じ開業鍼灸師からするととても思い切ったやり方です。どうしてもたくさん来てほしい、予約が入ってほしいと考えがちです。
有山先生の根本にあるのはご主人の健康が第一という願い。そのために家庭の事を優先させてできる範囲で行っている。
こうようなやり方をしている人に会ったのは初めてで、生き方そのものが本当に芯が通っているなと感じます。
同じ呉竹学園で同じ学科卒ですから学費がどれくらいか分かります。あれだけお金かけているのだから回収しないと、と焦りがちになるもの。しかし最初からご主人の健康という優先事項があるのでそのような雑念がないのでしょう。施術スタイルも経営スタイルも、かなりそぎ落としてシンプルにしている。本当に生き様が現れている開業スタイルだと思います。
それでいて有山先生は好奇心旺盛で色々な場所に出向きます。
昨年の関東鍼灸専門学校でのハリトヒト。マーケットしかり、
京都まで行ってお灸堂を訪問するしかり、
あじさい鍼灸マッサージ治療院まで来ることしかり。
お灸に対する研究も熱心で私の同期である水野アグスティン先生のところでネパール棒灸を受けたことを話すと、とても関心を示し「行ってみたい」と目を輝かせていました。まだ知らない灸法があると追求したいのでしょう。
他にも、モクサアフリカというお灸でアフリカの結核を予防・対応しようという団体があるのですが、その日本支部の方とも面識があり、まさかの私の鍼灸専門学校同級生と知り合いだったということが発覚。お灸繋がりでモクサアフリカの話を振ったのですが、当然のように知っていてさすがだと感心しました。アンテナをしっかり張っています。
有山先生の鍼灸マッサージサロンなごみに行って感じたことは一つの女性鍼灸師の理想形なのではないかと。家族を第一に健康に良い食事を作り続け、娘さんの手が離れたタイミングで進学。ご主人の健康を第一にしながら、自らしたいことをできる範囲でやっている。フットワークが軽く今なお研究・追求を続けながら。興味深いモデルケースではないでしょうか。
今回は技術的なこと、紫雲膏灸については触れませんでした。それについてはまた別の機会に書きます。とにかく開業スタイルに先生の意思が強く出ていて、きっと嫌なことをしていないのだろうな、と思える清々しさを感じました。これまで何名もの開業鍼灸師のところに行きましたが、他にない孤高な場所だと。
鍼灸マッサージ師は職業ではない、生き様だ。
そのような言葉が思い浮かんだものでした。
甲野 功
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