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本文を書き起こしてみましょう。
『
2020年9月17日 20時24分
入れ墨のタトゥーの彫り師をしている男性が医師の免許がないのに客にタトゥーを入れたとして医師法違反の罪に問われた裁判で、最高裁判所は検察の上告を退ける決定をし、無罪が確定することになりました。タトゥーを入れるのに医師の免許は必要ないとする判決が確定します。
無罪が確定するのは、大阪 吹田市の彫り師の増田太輝さん(32)です。
平成27年までに4回、医師の免許がないのに客にタトゥーを入れたとして医師法違反の罪に問われました。
1審の大阪地方裁判所はタトゥーを入れる行為が医療行為に当たると判断して罰金の有罪判決とした一方、2審の大阪高等裁判所は医療行為ではないとして1審を取り消し、逆転で無罪を言い渡しました。
検察が上告していたのに対し、最高裁判所第2小法廷の草野耕一裁判長は、17日までに退ける決定をし、無罪が確定することになりました。
決定では「タトゥーを入れる行為は、美術的な意義がある社会的な風俗として受け止められ、医療行為とは考えられてこなかった。医学とは質の異なる美術に関する知識や技能が必要な行為で、長年にわたって彫り師が行ってきた実情があり、医師が独占して行う事態は想定できない」と指摘し、医療行為にはあたらないという判断を示しました。
これにより、タトゥーの彫り師に医師の免許は必要ないとする司法の判断が確定することになります。
裁判長が「補足意見」
今回の決定では、タトゥーを入れる行為が医療行為に当たるか判断する前提として、「行為の方法や作用だけでなく、目的や状況、実情、それに社会における受け止めを考慮し、社会通念に照らして判断すべきだ」という考え方を示しています。
さらに、草野耕一裁判長が補足意見を述べ、この考え方に沿って、詳しく解説しています。
草野裁判長は、タトゥーの施術をめぐる実情について「医師免許を取得する過程では、タトゥーの施術に必要な知識や技能の習得は予定されておらず、タトゥーの施術を職業にしようという医師が近い将来、出てくるとも考えにくい。タトゥーの施術が医療行為だと解釈した場合、日本でタトゥーの施術を職業にする人が消失する可能性が高い」と指摘しています。
また、タトゥーの文化について、「タトゥーは古来から日本の習俗として行われてきた。一部の反社会的勢力がみずからの存在を誇示する手段として利用してきたことも事実だ。しかし、最近では海外のスポーツ選手などの中にタトゥーを好む人もいて、それに影響を受けてタトゥーを入れる人も少なくない。公共の場でタトゥーを露出していいかどうかは議論を深める余地はあるが、タトゥーを入れたいという需要は否定すべきでない」と述べています。
そのうえで「タトゥーの施術による保健衛生上の危険を防ぐため法律の規制を加えるのであれば、新たな立法によって行うべきだ」と述べ、既存の医師法で規制すべきではないという考えを示しました。
厚労省見解と異なる判断
今回、最高裁が示した「タトゥーを入れるのに医師の免許は必要ない」とする判断は、医師法を所管する厚生労働省がこれまで示してきた見解とは異なります。
厚生労働省は、平成13年に各都道府県に出した通達で、医師免許がないと医師法違反となる行為の1つに入れ墨を挙げています。
そのうえで、行政の指導にも従わず、悪質だと判断した場合は、刑事告発を念頭に警察と連携を図るよう自治体にも周知していました。
また、裁判での検察の主張によりますと、タトゥーを入れた被告が医師法違反に問われ、有罪とされたケースが大阪や神戸などの簡易裁判所で複数あったということです。
今回の最高裁判所の判断は、これまでの厚生労働省や捜査機関の見解とは異なる判断となり、影響が出そうです。
また、最高裁の決定で、草野耕一裁判長は補足意見の中で「タトゥーの施術による保健衛生上の危険を防ぐため法律の規制を加えるのであれば、新たな立法によって行うべきだ」と述べ、医師法で規制せずに、必要に応じて立法措置を図るべきだとしています。
』
私はこの判決は大きな問題があると考えています。後々様々な影響を及ぼすのではないかと。何が問題かというと健康被害よりも職業選択の自由を取ったと判断される判決だと思うからです。まずタトゥーを入れるのに法的な拘束がありません。国が「彫り師」を規定して最低限の技術、医学知識が担保されないということです。
ここで最高裁は上告棄却ということですので、大阪高裁の主文をみてみましょう。
内容を抽出します。
『
判示事項
1 医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為の意義
2 入れ墨(タトゥー)の施術と医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為
裁判要旨
1 医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為とは,医療及び保健指導の目的の下に行われる行為で,その目的に副うと認められるものの中で,医学上の知識と技能を有しない者がみだりにこれを行うときは,保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいう。
2 入れ墨(タトゥー)の施術は,医療及び保健指導の目的の下に行われる行為で,その目的に副うと認められるものとはいえず,医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為には該当しない。
』
争点が入れ墨(タトゥー)は医業か否かになっております。これは健康被害を懸念するかどうかではありません。常識的に考えて、入れ墨を入れる行為は医業にはあたらないでしょう。医者がわざわざタトゥーのデザインや文化を勉強するとは考えられません。反対に彫り師が医師免許を取得するというのも非現実的です。医学部に合格して6年間勉強。そこまでするなら医者をしますよね。裁判の結果は当然と言えば当然のことなのですが、論点・争点はそこではないだろう、という感想です。皮膚を物理的に傷つけて色素を沈着される行為はとても危険でありますよ、ということです。感染症の問題からは目を背けることはできませんし、使う色素素材によっては医療検査器具であるMRIや温熱機器であるマイクロ波の使用ができない場合があります。針を刺して色素を真皮に入れるという外科手術に近い行為の安全性についてはどうなるのか?という疑問です。裁判官は新たな法整備が必要ということを述べていますが、法整備がされていないから医師法違反で立件したのではないでしょうか。国民の健康と安全を守る厚生労働省からすれば至極当然のこと。
「彫り師」の育成は市場原理に任せるという結果になります。タトゥー業界の団体が動き出すようですが、
・健康被害に関することに国は責任を負いませんよ
・医師法違反にしないが自分たちでしっかりとやりなさいよ
という風にも取れるように思います。そしてタトゥーを入れる際に健康被害が起きたとしても、彫り師も利用者も自己責任ですよ、と突き放しているとも。腕が悪い、後で問題が生じたというのであれば彫り師の評判に繋がり仕事ができなくなるので襟を正すことになるでしょう。それとは別にこれだけ安全面に留意しないといけないことでも、「これは文化である」、「職業選択の自由である」と言えば許されるのという最高裁判決は今後どうなるのでしょうか。何なら私がタトゥー入れられます!と打ち出してもいいわけです(もちろんしませんし、やったとして鍼灸師として罰せられるような気がします)。
最高裁で無罪判決を出した以上、今後この判決が基準になります。法整備を本気で進めないと彫り師でも何でもないひとがタトゥーを入れるサービスを始めることが懸念されます。それで儲けられるのならばと安全面を考慮しないで。
そうなったときに困るのはタトゥーを入れるクライアントと真っ当に彫り師をしている方々。そして感染症などの健康被害に対応する医者になることでしょう。最高裁の判決が出た以上、グレーゾーンとして曖昧にしてきたときよりも無法状態になることが考えられるので、早急に制度を整えてもらいたいものです。
同じく“ハリ”を用いて皮膚に刺すことを生業とする鍼師も影響を受けるだろうな、と予感させる判決でした。
甲野 功
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