開院時間
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ここ数年、鍼灸専門学生のサポートをする機会が増えています。また今年に入り鍼灸マッサージ専門学校へ進学を希望する方も当院に訪れるようになってきました。そこで、現役の鍼灸専門学生と進学希望者を会わせて交流する場を作ることもしています。
先月、そのような交流会を行いました。そこで余興として「ツボの話」をしたのです。鍼灸に興味がある一般の方と現在進行形で鍼灸を学ぶ学生さんを前に「ツボ」についてあれこれを。そのときの内容を一部まとめておきます。
まずツボと聞いて何が頭に浮かびますか?
・花瓶や蛸が入る容器としての壺。
・面積を表す単位である坪。
・体のポイントとなるツボ。
この3種類が大多数だと思われます。
私の本業ではツボと言えば3つめの体のツボが当たり前になりますが、その(体の)ツボとは一体何でしょうか?。分かっているようで分からないところがあるのではないでしょうか。
体のツボというと何を想像するでしょう。おそらく「何かしらのキーポイント」、「重要なところ」だとなりませんか。ここが”話のツボ”だ、というように体以外にも要点という意味合いで使うこともあると思います。
余談ですが土地にもツボがあるとされてそこに神社やお寺を建立するそうです。有名な神社やお寺があるからパワースポットなのではなく、元々重要なポイントであるから神社やお寺を置くという順番だそうです。そして良い効果だけでなく悪い効果もあるわけで、災難を封じ込めるために神社やお寺で結界を張る意味合いもあると。良くも悪くもツボですね。
では体のツボにはどのような種類があるでしょうか。
まずは「経穴(けいけつ)」。鍼灸師やあん摩マッサージ指圧師が言う(体の)ツボといったらこれを指します。
古来中国で発祥・発展し伝承されてきた人体の点。気の流れるラインとされる経絡(けいらく)と密接な関係があります。鍼灸専門学校では経絡経穴概論という分野の勉強が必須で、技術を習得することはもちろんのことたくさんの経穴を記憶することが最低限必要になります。
経穴は時代や国によってばらつきがありローカルルールのようになっていました。十数年前に日本、中国、韓国の三国で会議を行い統一された経穴を取り決め、WHO(世界保健機関)は361穴を制定しました。現在はこの経穴が基本になっています。そのため私が習ったときと今では若干経穴の場所と表記名が異なっています。
また経穴には正穴(せいけつ)といって基本的な経穴だけでなく、奇穴、新穴、阿是穴、圧痛点といった若干イレギュラーな経穴も存在しています。
経穴の種類は黄帝内経(こうていだいけい)らの古代中国から伝わる伝統書で記載されている場所にあります。その中には、身体に取って重要であると考えられるが経穴(正穴)が置かれていな部位もあります。
足の裏にはほぼ経穴がありません。耳たぶは副交感神経に影響を及ぼすのですが経穴が置かれていません。首の後ろ(頚部)には経絡が通っていますが経穴が飛んでいてありません。他にも眼球、陰茎といった部分。体表から触れる体内に入るところ(耳の穴とか)には原則経穴がありません。
そのため鍼灸師には臨床で必要とする個所には便宜上ツボを制定して対応することがあります。私の母校、東京医療専門学校では頚部の第5頸椎棘突起の高さで太陽膀胱経のラインに「五頚」というツボを、殿部の坐骨神経に響く部分を「殿圧」というツボを、決めたりします。学校や流派によって独特の経穴の決め方が存在しています。
続いて足の反射区もツボの一種。
リフレクソロジーと言われます。リフレクソロジーとは反射(Reflex)と学問の接尾語(ology)を合わせた造語でドイツが発祥と言われています。ドイツは靴職人が盛んな国で足に対して観察が深いのでしょうか。先に説明した経穴では足の裏(足底)には「湧泉」と「失眠」というくらいしか置かれていません。足の裏に注目したのは西洋の方だったといえます。
リフレクソロジーは経穴のような点(ポイント)ではなく、面(ゾーン)で考えます。この範囲が体のこの部分を反映しますよという考えです。経穴は点なので鍼や灸、あるいは指圧といったポイントで刺激をしますがリフレクソロジーは面で刺激をします。その分扱いやすくなっています。巷には「足ツボマッサージ」なる言葉があるように。鍼灸師からすると「足の裏にはツボ(この場合は経穴)は2つしかない!」と憤慨しがちです。
リフレクソロジー(反射区)という概念は足の裏だけでなく頭部(頭皮)や手のひらまで解釈が広がります。頭部にはたくさんの経穴がありますが経穴の考え方とは別に、このゾーンは運動を司る部分、ここは感覚器の部分、といった感じで考えるものが出てきました。手のひらも同様です。
続いて耳ツボ。
耳周りには経穴(正穴)はありますが耳たぶには経穴がありません。耳たぶにもツボがあるのではと考えて体系つけたのはフランスのノジェとされています。耳たぶや耳の穴周辺に刺激を与えることで中毒、依存症に効果があることを突き止め研究します。
耳ツボがダイエットに効果があると日本でも広まるようになりました。耳ツボジュエリーというものを知っている女性もいるかと思います。
このような流れを受けてかは分かりませんが、中国では経穴とは別に新たに耳ツボの図を作成します。考え方はリフレクソロジー(反射区)に近いように思います。
更に現在はアメリカ軍が採用した耳ツボ療法「バトルフィールド・アキュパンクチャー」が広まってきました。
これらのように体のツボは経穴だけでなく、色々なツボがあります。そこの認識が無いと一般の方と話がズレてくることがあることを鍼灸専門学生さんと鍼灸に興味があって独学で勉強している方に伝えたい点でした。
それではこれらのツボを使って何ができるのか?、そして何をするのか?という話に移ります。
ツボはどういう場所なのでしょうか。それは「体の反応点」と言えるでしょう。
観察することで体の状態を把握することができる場所。触れて状態を確認する触診、見た目で判断する視診(東洋医学では望診)に利用されます。触ってみて固い、柔らかい、熱がある、冷えているなど。見ると膨らんでいる、くぼんでいる。あるいは毛深い、毛が薄い。色合いに特徴があるなど。
この疾患にはここを見ておけ押さえておけ、という体のポイントが決まっていることが多いのです。反応点という意味でのツボがまず一つ。これは東洋医学も西洋医学も共通したものです。西洋医学、現代医学にもランツ点、マックバーニー点などの急性虫垂炎で反応が出る点があります。これもツボと言えばツボになるでしょう。
次に「刺激を与えると体に影響を及ぼす場所」とも言えます。
これは私の仕事である鍼灸マッサージ師が用いる内容ですが、主に物理刺激を与えることで体に良い効果を出す場所という意味です。このツボを押す、鍼を刺す、お灸を据える、といった刺激を与えることで人体に良い効果を与えるのが仕事。そのためのポイントがツボです。
そう考えるとツボとは身体の反応点であり、治療点でもあるのです。指圧は指先で触って状態を確認し、そのまま押圧して刺激を与えることが可能であるため、『診断即治療』を掲げます。
もちろん悪影響を及ぼすこともあります。むやみに刺激してはいけないこともあることを我々は学びます。
ツボは解剖学的に重要なところでもあります。
経穴でいえば筋肉の筋腹、付着部、骨の孔、穴、陥凹部、動脈拍動部などに置かれていることが多いのです。経穴でなくとも武術の急所のような部分もツボと言えるわけで、合気道では太衝という足の甲にある経穴を、足の指で強く押して動けなくさせる技があり、柔道には足臨泣という同じく足の甲にある経穴を踵で押さえつけて相手の動きを鈍らせる裏技があるとか。「北斗の拳」でいる経絡秘穴に近いかもしれません。
もちろん解剖学的に重要ではない部分にもツボがあることはままあります。
最後にツボは体の場所を示す共通言語(一種の暗号)になることを伝えておきます。
西洋医学(解剖学)では表現しづらい部分でも、経穴を用いることでかなり精密に伝えることができます。例えば鍼灸師同士であれば胆兪(たんゆ)という経穴の名前を出せば、背中のあの部分ねとすぐにわかります。これを解剖学で表現すると、
<上背部(背中の上の方)にあり、第10胸椎棘突起下縁の高さで正中線から横に約3cm、広背筋のある場所>
という長い説明になります。
また経穴を組み合わせることを配穴というのですが、その配穴方法で相手の状態(証)が分かります。正確に言うとある鍼灸師がこの配穴をしましたという情報から、その鍼灸師が見立てた証がどのようなものか推測することが可能なのです。反対の見方もできてこの証だとするならば配穴はだいたいこれらの経穴を用いるだろうなと予測もできます。
鍼灸師同士は経穴を使って効率よく情報交換をすることができます。ツボというより経穴(東洋医学全般に関わることですが)に限定した用途ですが使い勝手がよいものなのです。
これらのように、鍼灸師、鍼灸専門学生にとってツボとは経穴のことを指しますが世間には経穴以外にも体のツボを認識している場合があります。経穴以外のことも頭に入れておいておく。そして国家試験に出るから覚えるのではなく、活用するために経穴を覚えるもので、経穴(ツボ)には色々な用途があることを知ってもらいたいと思いました。
未来の鍼灸師たちの交流の場でツボのお話をさせていただきました。
甲野 功
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