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こちらは前回の~講義再現 ツボの話~の続きです。
私は東京理科大学理学部応用物理科を卒業しており理数系の考え方が染みついています。
東洋医学を勉強した時に困ったことがその曖昧さ。いかようにも判断できてしまうだろうという。よく言えば柔軟性があるのですが、悪く言えば何でもこじつけて言いくるめることができる。そういうイメージでした。
私は中学生の後半から理科(特に物理)と数学が得意になりました。文科系大学の附属高校に進学するも、高校2年生から理科系コースを選択。生徒の大多数が文系学生である高校において敢えて理系を選んだ同級生と切磋琢磨して理系の勉強に励みました。高校2年生のときの担任であり、後に校長まで務めることになる数学の先生から、数学の奥深さを学びました。今でも日常生活のことを数学的、あるいは物理的に考えることがよくあります。
経穴(けいけつ)という鍼灸師になるためには絶対に覚えければならない体のツボ(最低361個覚える)。それに経絡(けいらく)という気の流れ(最低14種類は絶対に覚える)。最初はただただ暗記で苦しかったのですが、知識が集積していくと段々と気づくことが増えてきました。
経穴・経絡に限らず体のツボを数学的な視点で見ることで理解が深まりました。
今日はそのようなお話です。数学が苦手な方もちょっとお付き合いを。
数学には次元という概念があります。自由に変化する変数(パラメータ)の種類によって次元が変わります。私が住む現実世界は3次元と言われます。ドラえもんのポケットは「四次元ポケット」と言います。
3次元とか4次元というのは何を示すのか説明しましょう。
まず0次元。0次元という言葉があるの?と思うかもしれません。これは変数が無い、0ということです。具体的にいえば点です。ある1点で表現されて”位置のみ”しかありません。大きさも形もありません。
紙にペンで点をつけます。測れば直径数ミクロンという大きさが実際に計測できるかもしれませんがそれは分かりやすく(見やすく)便宜上表現しているだけ。数学的には形も大きさも存在せず、”位置”があるだけ。
地図でいえば地点ということでしょうか。北緯何度、東経何度という表現をすれば地球上の1点が定義できますよね。それが0次元という概念です。横をX軸、縦をY軸にしたグラフでいえば(0,2)のように表現されるもの。
続いて1次元。これは線を表します。変数が1つで”長さのみ”。太さがありません。紙にペンで線を引きます。図れば線の太さが何ミクロンとあるかもしれませんがこれも表現の問題。数学的には太さはありません。しかし“長さ”はあります。同じ線であっても1cmかもしれませんし1kmかもしれません。
地図でいえば緯度あるいは経度に当たります。緯度であれば北緯0°から南緯0°まで任意に動かすことができます。X軸、Y軸で表したグラフで言えば(2,Y)のように表現されます。これは横2の位置に縦軸と平行に線が引かれているものを表します。
0次元という点が隣り合って並んだ状態が1次元になります。直線というのは「ある2点を最短距離で結んだもの」と説明できます。言い換えると0次元である点が2つあれば1次元である直線が決まります。
2次元が面です。縦と横という変数が2つで”広さ”がある。ただし高さ(厚み)はありません。2次元になると分かりやすいと思います。紙やディスプレイに表示された世界です。紙に描かれた絵はどれだけ立体的に描かれたとしても実際に高さも厚みもありません。特殊な絵で凹凸を付けているとか絵の具の塗りむらで高さがあるという話は抜きです。
地図でいえば新宿区という地域、エリア。”広さ”や”範囲”という概念があります。
1次元という線が無数に隣り合ってできるものが2次元という面です。数学の話になりますが積分がこの考えで、細かく線状に無限に分けたものを足し合わせて面積を出すというものです。長方形であれば縦×横で面積が出ますが、円はそれができません。細かく分けた長方形に見なせるものを足し合わせて面積を出しています。
最後に3次元。これは立体の世界で私達がすむ現実世界です。縦、横、高さの3つの変数で構成されています。”大きさ”あるいは”体積”があります。
3次元世界からみた2次元世界は、2次元世界で不可能なことが簡単に行うことができます。平面だけの世界にモノがあるとしたら、そこには他のモノとの境界線だけがあって触れることはできても重なることはできません。3次元から見れば上から紙の絵を見ているようなものですから上からモノに字を書いたり内部に手を加えたりすることが容易にできます。2次元世界では不可能なことが3次元世界からみれば苦も無くできるという理屈です。これが「次元が違う」という表現になります。
3次元に時間という変数を加えたのがドラえもんの四次元ポケットです。時間軸を自由に操れるとすれば、ある部屋があったとして1秒後の部屋、1秒前の部屋と任意に移動できるので部屋の広さが無限になるのです。もしも4次元世界の人間がいたとしたら金庫の中身も簡単に盗むことができます。金庫を閉める前の時間まで戻ればいいわけですから。まさに“異次元の”操作です。
4次元は縦、横、高さにどの変数を加えるかで話が複雑になるので0次元から3次元までに限定して話をします。
体のツボを数学的な次元で考えてみましょう。
鍼灸師が扱う経穴は0次元です。点。鍼で刺すことを考えれば実質大きさはありません。あったとしても鍼先の大きさと考えればほぼ無視できるくらいでしょう。なお日本でよく使われる鍼の太さは0.16mm~0.20mmくらい。点の世界と言ってよいでしょう。
経絡は1次元といえます。経絡とは気の流れ。経穴(厳密には正穴と奇穴の一部)は所属する経絡に沿って並んで表現されます。これは線あるいはラインです。
鍼灸師は経穴がない場所でも経絡があるのでその隙間も線状にみていきます。
0次元の経穴と異なり方向が生まれるため気の流れにおける順行・逆行が考えられます。経絡には方向が決まっており、経絡の流れにと同じ方向に鍼を刺すか反対向きに刺すかで効果が違うと考えます。
経穴と違いますが反射区というツボは2次元です。面でありエリア、ゾーンとも。広さや範囲という概念が生まれます。「ここのゾーンは体のこの部分を反映する」という考え方です。反射区は西洋の考え方になりますが、同じことは東洋医学にもありお腹や舌、背中において範囲を分けて、五臓(肝・心・脾・肺・腎)を当てています。
このように考えてみると、経穴というツボを使って体によい影響を与えるということは、0次元(経穴)に刺激を与えて3次元(体)に効果を与えるということと言えるでしょう。あるいは経絡治療の考えで、経絡の気の流れを良くするという理論に基づけば、0次元の経穴を使って1次元の経絡の流れを良くし、結果的に3次元の臓腑を調整するということになります。
低次元から高次元への働きかけ。数学的にみると凄いことだと思います。既に書いた通り、数学的には高次元から低次元への干渉は非常に簡単と考えられるからです。東洋医学、経絡経穴の勉強をした時に最初は分かりづらいと感じたのは数学的に逆であることが原因の一つだったのかもしれません。
学校で勉強が進んでくると鍼を刺す方向、深さも考慮しないといけません。2次元の教科書(プリント)に書いてある0次元の経穴に鍼という長さがあり太さがほぼない1次元のものを刺していきます。当然人体は3次元ですからどの方向に、どの深さまで、という変数が増えて行くのです。
更に刺した鍼をそのままにする、捻る、上下に動かす、鍼に低周波の電気を流す、鍼にお灸をつける、といった変数(パラメータ)が無限に増えて多次元に変わっていくのです。最初は0次元の経穴だけだったのに。臨床で行う鍼には次元が加わっていく。そのような感覚を覚えるのです。
数学的な次元で考えてしまうので、技術が高度になる=数値が変化するパラメータが増える、という捉え方。実世界の次元とは少々異なりますが数学的な視点で鍼灸をみる。
私の場合このような捉え方をした方がしっくりきます。
ツボはおろか鍼灸まで数学的次元で考えてどうするの?という声が聞こえるような気がしますが私の頭ではこのような折り合いを付けて理解しました。最近母親に大学で学んだことが今の仕事に役立っているの?と聞かれましたが、役に立つか否かとよりも、役立つように活用できるか否かだと考えています。大学で学んだ数学は今も臨床において役に立っています。
甲野 功
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