開院時間
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鍼灸師、東洋医学が胡散臭いと思われる一番の要因は“気の概念がある”ことだと思います。鍼灸師は厚生労働省管轄の医療系国家試験であり、れっきとした資格免許であり職業。中国で何千年前からあるのか定かでは無いのですが紀元前から存在しております。日本においても最古の法律と言われる大宝律令にその名前が載っています。それだけ古くからある資格なのですが、戦後はGHQに廃止されそうになるほど迫害された過去もあります。鍼灸師そのものに社会性が無いという説も否めませんが(鍼灸専門学校に通う学生は協調性がとても低いという研究結果もありました)、第一は「気」というものを扱うことにあると考えています。鍼灸師によっては信用していない場合もありますが、東洋医学概論の教科書に<気の概念>は掲載されており、国家試験出題範囲ですから絶対に勉強します。信じるか信じないかは鍼灸師次第ですが(都市伝説のような表現であれですが)最低限勉強はします。授業で扱わないことなどあり得ません。
学生は試験対策として、気の種類(先天の気・後天の気、原気、宗気、営気、衛気)や気の作用(推動作用、温煦作用、固摂作用、防御作用、気化作用、栄養する、情報を伝達する)を覚えます。気の運動(気機)には昇・降・出・入があり、気虚・気陥・気脱という気が不足しておきる病態と気鬱気滞・気逆という気の滞りによっておきる病態を区別します。他にも精だとか血(「けつ」と読みます)や津液(「しんえき」と読みます)だとか色々とありますが、「気」が一番世間に知られていてそれでいて理解しがたいものでしょう。東洋医学の基本となる陰陽論や五行説というものは割と日常に溶け込んでいて馴染みがあるものです。男女、上下、内外と万物は陰と陽に分けられるという陰陽論は納得しやすいもの。サーファーのブランドや韓国国旗には陰陽太極図が用いられています。五行説も青春という言葉や風水にも用いられるので好きな人は知っていることでしょう。朱雀・玄武・黄龍・白虎・青龍という霊獣も五行の一つ。
「気」となると昭和だとドラゴンボールのかめはめ波?平成だとNARUTOのチャクラ?と思われるのでは(メジャー少年マンガで例えています)。誰もが認知しているのにその存在をきちんと認識(理解)していないものが「気」ではないでしょうか。鍼灸師は当たり前のように、気の流れを良くする、邪気が溜まっている、気が滞っている、気が足りていない、などの表現をします(全く使わない人もいますが)。それを聞くと、本気で言っているの?証拠は?おまえ見たことあるのかよ?という疑問と疑念を持たれてしまいがちです。そして気を操作する、影響を及ぼすために鍼灸術を使うのですが、その指標が経絡経穴。主に14種類の経絡という気の流れる道と最低限361個覚えないといけない経穴という体のポイント。鍼灸師を目指す学生も苦労するのですから一般の人には気が遠くなるような知識量です。
私は大学病院をはじめ医療機関で働いた経験があり、医師や看護師など他の医療従事者とも面識がありますが、彼らには経絡経穴を覚えることなど信じられないという感じでした。物理的な刺激としての鍼灸、その人に注目する東洋医学の特徴、脈診や舌診、腹診といった西洋医学にも共通するものなどには理解があっても経絡経穴は無理というか。そしてよく分からないといわれるのが気の概念です。経絡経穴は情報量が膨大ということで壁がありますが、気に関しては西洋医学には無いものなので理解しがたいという感じです。
加えて五臓六腑。
五臓とは肝・心・脾・肺・腎のこと、六腑とは胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦のことです。ただし「東洋医学でいう肝」が「内臓の肝臓」とはイコールではないのです。そう、心と心臓は異なりますし、同じように「肺」と書いても東洋医学のそれと西洋医学(あるいは現代解剖学)のそれとは別物なのです。共通する面もあるのですが。「脾」に至っては脾臓というより膵臓、あるいは消化管全般に近いイメージと言えます。東洋医学における気の概念と五臓六腑とは密接な関りがあるのですが、人体のことを知り尽くしている医師には余計に混乱するわけです。
鍼灸師がいう気とは何なのか。そこをどう説明するかは重要なことです。面倒なので気の概念を一切触れず現代医学に則した鍼灸を用いる鍼灸師もいます。気とは何か。そこをきちんと非鍼灸師に説明できるかは信頼や信用に関わることになるのです。
私が東洋医学でいる気を説明する際にまずすることは、日本語に「気」という文字がたくさん入っている事実を伝えます。
天気、空気、大気、電気、気体。自然現象や物理学の状態に使われます。
人気、病気、元気、やる気、その気にさせる、気分。人間の感情や体の状態を表すときに用いられます。気を抜きには日常会話をすることが困難なほど気という言葉は日本語にあります。そう身近なものなのです。異論はあるかもしれませんが、東洋医学における気の定義は「目に見えないもの」あるいは「目に見えないくらい小さなもの」ということになります。もう少し言えば「目に見えないが確実に存在し何かしらの機能を持つもの」という意味合いでしょうか。
空気は目に見えません。しかし確実に存在します。空気が無ければ人間は息ができません。水に潜れば嫌でも空気の存在を知ることになります。電気は見えません。電灯の光は電気そのものではなく電気を光に変換しているのです。愛情は目に見えません。行為、表情など可視化する行動によって目に見えるのです。このように気そのものは見えませんが何かを通じてその存在が認識できて機能を持つものと説明します。放射線だって目には見えませんが測定器を使えば数値化することができますよね。一酸化炭素は猛烈な毒性がありますが無味無臭透明であるので存在していても普通は気が付きません。しかし一酸化炭素は赤血球にくっつき酸素運搬能力を阻害して窒息させるのです。
東洋医学における気を読み取るには、脈の状態をみたり(脈診)、お腹の状態を観察したり(腹診)、舌の状態から読み取ったり(舌診)、触った感じで判断したり(触診)、相手に質問してみたり(問診)します。現在のところそれを機械で測定し数値化することはできていません。術者の力量に左右されるため客観性、再現性が現代医学よりも乏しいため胡散臭いものと思われがちなのです。気の状態を客観視できるようにする数値化するというのは究極の研究テーマかもしれず、数多の実験研究を繰り返してきているのです。はっきりと測定することが困難であるが、「気」は存在するとしましょう(存在しないと証明するのは不可能と考えてもいいです。日本語に入っている「気」そのものは無いと認識できるのか?という極論も)。
なかなかよく分からないけれどあると仮定してそれを使って症状を改善することができればいいよね、というくらいの適当な気持ちでいってみましょう。大多数の鍼灸師もこのような考えかと思います。腰が痛いというのに手の甲やくるぶし、ふくらはぎなどに鍼を刺すと腰痛に効く。昔からそう言われているし、実際にやってみたら確かに効果がある。それでいいじゃないという感じ。こういうのはままあります。
私は数学的な考え方をして、気とは虚数のようなもの、という認識をしています。虚数とは二乗して-1(マイナス1)になる数字です。二乗とは同じ数字を掛けること。「3の二乗」ならば「3×3」のこと。数学ではマイナスの数字にマイナスの数字を掛けるとプラスになります。例えば-3×-3=9のように。マイナス同士を掛けて答えがマイナスになることは無いのですが、あると仮定します。それが虚数。まさに虚ろな数字ということ。自然界には存在しないはずの虚数があると仮定することで多大な利点があります。高度な物理学も虚数無しでは計算できません。細かいことを書くときりが無いのですが虚数という存在があると仮定してそれを利用することで科学が発展し実社会に恩恵が与えられています。東洋医学の気も同じように、気が存在して機能を持っていると想定しそれを操作するような刺激をすることで大きな効果が得られると考えると良いのではないでしょうか。ブラックボックスで機序は完全には判明していないけれど活用しておいて損はないよねという関わり方。
このように説明しても多くの患者さん、一般の方にはピンときません。虚数なんて出した方がより意味が分からないと言われるわけです(じゃあ出すなということですが数学を学んだ人にはしっくりくるのです)。
そこで「気」を人と考えてみましょうかと提案するのです。やっと本題です。経絡を鉄道路線図、経穴を駅と考えると経絡経穴の理解しやすいと前に書きました。その駅を利用して鉄道を利用している人々(乗客)を気として考えてみます。満員電車でぎゅうぎゅうな状態は気が充実しています。いらいらすることもありますが活発な状態です。すかすかの電車は快適化も知れませんが活動的な状況ではありません。乗客がいなければ運行本数が減って場合によっては廃線になってしまうかもしれません。乗客がいない状態、とても少ない状態を気虚と考えてみましょう。新型コロナウィルスで今年の4月、5月は鉄道利用者が激減しました。活気がなくなり鉄道会社は大いに困ったでしょう。乗降客がいない状態(気虚)を解消するためには、人が乗るように仕向けるようにすればいいわけです(補気)。実社会ではgo to トラベルの施策が取られていますがこれも鉄道を使わせるためでもありますね。
あるいは人身事故で鉄道の運行が突然止まったとします。車内に乗客が閉じ込められて動けません。気が留まっているので東洋医学でいう気滞という状況と想像してみましょう。また駅には運転再開を待つ人が溢れています。これも気滞。対応策はもちろん鉄道の運行をスムーズに戻すようにすることでありそれを東洋医学では疏通経絡がそれに近い概念。また人が集まり過ぎて現場が混乱するというのならば捌けさせないといけません。それを瀉法といいます。
このように学生さんには、経絡経穴を鉄道路線と駅に例えて気を乗降客と考えると馴染みやすいと思います。
では実際に気の流れを良くしたらどうして体が良くなるのか?という話になります。
私はこれまでに医師や大手新聞記者、大学教授といった勉強熱心な方に説明した経験があります。そのような方々には「昔からそうなので」とか「教科書に書いてあるので」、「学校で習ったから」などの説明では納得しません。もう少し詳しい解説をする必要があり、それをしないと信頼されず、信頼されていない状態での鍼灸は効果が芳しくないことが多いです。
・気という日常会話に使うものとして形は見えないが存在しているものがある。
・まだ客観的に計測することはできないが体に影響するものとして(東洋医学においての)気が存在する。
ここまではよく納得してくれます。科学には不明なことは山ほどあり、ダークマターとかミッシングリンクとかグラビトンといったきちんと確認はできていないが、きっと存在するだろうというものがあります。ですからはっきりと証拠が無くとも、どうもあるらしい、そう仮定して人体に刺激を与える(介入する)ということは受け入れてくれます。そこに五臓六腑と言うと混乱するのです。理由は先の述べた通り。解剖学と整合性が取れない部分があるからです。全く別物だとすれば反対に分かりやすいのですが重なる部分もあるので厄介です。
そこで私が説明するのは五臓(六腑もそうですが)は臓器の名称ではなくシステム名だとします。肝臓という臓器ではなく肝という「同じ働きをするシステムの総称」。心は心臓という臓器を指してはいない。残りも同様です。これを人体を会社に例えて五臓を部署と考えてみましょう。総務部という部署があり、そこに配属された社員がいます。その社員が気です。ここで大事なのは総務部という部屋よりも、機能としての総務部に注目するのが東洋医学の特徴ということ。総務部の窓ガラスが割れた、壁に穴があいたといった設備故障に強いのが西洋医学。総務部の(主に)人に注目しているのが東洋医学。大雑把にそのような分類ができるかと考えています。
総務部の人員が仕事量に対して非常に少なくて社員が疲弊しているとします。いい器材を入れて作業効率を上げることもできますが、人員を増やした方が解決しやすいわけです。総務部で働く人を気と考えるならば気を補う、すなわち、人員を補充する。東洋医学では補法といいます。反対に仕事に対して人員が過剰にいればどうでしょう。やることが無い社員が暇を持て余し、生産性が低いだけでなくときに仕事の妨げになることも。その場合は配置換えをして適正な人数にした方がいいわけです。あるいは総務部の仕事はしたくないと腐ってしまい、不真面目な態度で仕事をして周りに悪影響を与えている社員がいたとしたら同じように部署を返させた方がいいでしょう。こういうことを東洋医学では瀉法といいます。
営業部で考えてみましょう。営業部のシステムを一つの臓とした場合に、営業部という部屋にいなくとも営業部というシステムは稼働します。開発担当部と打ち合わせをしたり製造ラインへ確認を取りに行ったり社外に営業をかけたり。営業部のパソコンやプリンターといったインフラ設備を修理メンテナンスが得意なのが西洋医学で、営業部員という人を気と考えた時にそちらに注目するのが東洋医学。仕事の効率を上げるために営業部員がスムーズに動けるようにすることは大切です。鍼灸師の「気の流れを良くする」という言葉が想像しやすいのではないでしょうか。
各部署同士も相互に関係しているのが会社というもの。商品開発部は製造部の力が無ければどれだけ素晴らしいアイデアがあっても商品化することはできません。製造部が商品を作り上げても売れなければ会社の利益にありませんから営業部や販売部の力が必要です。会社全体の資金繰りが悪くては会社が回りませんから財務部が必要です。トップには役員が集まる経営陣がいます。各々の部署・システムが五臓にあたると考えます。営業部のモチベーションが下がったのならば商品開発部に頑張ってもらって魅力的な新商品を開発し、どんどん売り込みができるようにさせる。反対に商品開発部が溢れんばかりのアイデアでどんどん新商品を提案してきて製造部が回らないとしたら製造部に人を増やして能力を向上させる。あるいは新製品が登場しすぎて製品整理が追いつかなくなったとしたきに、営業部が売り込みをかける商品を限定することにより商品開発部にブレーキをかける。短期間にリリースしすぎても結局利益を出せないからちょっと待ってくれと。
東洋医学でいう五臓六腑にも同じような相互関係があり、どの臓腑(部署)にアプローチをしたら人体(会社)が良くなるかを考えるのです。その際に注目するのが主に働く人(すなわち気)であるのが東洋医学であると考えています。東洋医学でいう「気」以外にも「血」や「津液」についても似たような捉え方ができると思います。
気という概念を人に例えて考えてみる。
更に五臓六腑を会社の部署に置き換えてみる。
そうすることで少し気の概念が身近なものになるのではないでしょうか。患者さんに説明するときも一言「気の流れを良くする」というだけでなく、一歩踏み込んだ説明をするときに例えてみます。本当にそうなのか?証拠を示せ!と言われると困ってしまうのですが。
甲野 功
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