開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
先週末は鍼灸専門学校進学予定の方がご友人と一緒に来院されました。その方は女性で今後鍼灸専門学校に進学することを考えており、独学で勉強しつつ学校見学や説明会に行き情報収集をしています。彼女はこれまでに何度か当院に来て説明を聞いたり、自ら施術を受けたりしています。しかも、ご友人を何名か当院に紹介してくださっています。前回当院へ紹介してくれた方が、再び当院に来るときに一緒に来るということでした。ご友人に私が鍼灸や按摩指圧をするところを見学したいということですね。せっかくですから私は解説をしながら行うことを決めて、事前にどのような感じで進めようか考えていました。
当日現れた二人。患者であるご友人は私の想定以上に重い症状でした。前回とは比べ物にならないくらい調子が悪かったのです。これは気を引き締めてやらねばと思い、考えていた方法はまず却下して応急処置的なことをすることにしました。当院では「学生ペア割引」というシステムを導入しています。その場合、だいたいは健康な学生さん同士がいらっしゃいます。これだけ症状が出ていることはまずないので、図らずも現実的な臨床を見せるチャンスとなりました。しかも仲良しという間柄ですので、私も突っ込んだ話をすることができました。あまり知らない関係だとパーソナルに関わる質問を躊躇したり、症状や体の状態から読み取っても話すことをためらったりすることがありますので。
本当に良い機会で、彼女に私ができること見せてあげられることをしっかりさせてもらいました。もちろん全力で患者さんであるご友人に向き合いました。
彼女には身体の状態が変わっていくことを感じてもらうためにその都度患部を触って確かめてもらいました。脈や舌、腹部や背部の緊張も体感してもらいました。そして私以上によく知るご友人の表情や動きをみて違いをみてもらいました。これは臨床でも必要な術者の主観的な変化(触った感触、見た目の変化など)と客観的な変化(患者さんの感想)の二方向からみることです。施術は長時間に及びましたが、彼女はずっと立ったまま見学していました。頭も使うし大変だったと思います。ちょこちょこ質問というか問題を私が投げかけていましたので。その後、帰宅してから見学した内容をテキストにまとめているようで、学生にもなっていないのになんと勉強熱心なのだろうと私は感心しました。
この行動力に驚きますし、今という時代を反映していると痛感します。彼女は鍼灸や東洋医学に興味が出てから勉強したことをSNSで発信しています。そうすると現役の鍼灸師や鍼灸専門学生さんからアドバイスやお勧めの参考図書を受けるようになります。私も含めて鍼灸関連のイベントを紹介されて、それらに参加していきます。そこから新しい出会い、情報を得て更に勉強が進みます。内容によっては鍼灸専門学校に入る前から現役学生をしのぐ経験を積んでいることになります。
今回の当院での見学も、ご友人を当院に紹介したうえでのこと。私も患者さんを紹介してもらうのは願ってもないことですし、一度担当している方なので様子を探る時間が省けて助かります。そして気心の知れた友人がそばにいることで(あまり接点がない私と二人きりよりも)安心できるので効果が出やすくなります。患者さんも頭の回転が速い方なので私が彼女に説明している内容から、今自分がどのような意図で何をされているのかを理解し納得できます。そのことでまた効果が出やすくなります。
リアルな現場を自らの行動で創り上げていること。
専門学校に入学すれば学校側が臨床見学実習や臨床実習の場を用意してくれます。それは学校側が提示した受け身の場。彼女は能動的に学びの場を用意しました。度重なる偶然もありますが、それも日々の行動の積み重ねた結果です。そうそうできる経験ではありません。それは私にとっても。学校に入る前からとてつもない体験を作り出しています。その日の見学はおそらく何をしているのかまだまだ理解できないでしょう。だとしても日を追うごとに勉強して分かることが増しているはず。彼女は勉強した内容を発信しているので、私もここまで説明しても何とか分かってもらえるだろうというところまで話せます。
私はここ数年思っていることは鍼灸専門学校に入学したものの幻滅して退学する生徒を減らしたい、国家試験をパスして鍼灸師免許を取っても理想と現実の差を感じて鍼灸の世界から去っていく卒業生を減らしたいです。そもそも合わない世界に入ってしまったことで学費と時間を費やすことはその生徒のためになりません。そして専門学校側も好ましいことではない。それならば最初から別の進路を選択した方がいいです。資格を取っても業界から去るのであればそれはとても勿体ないことです。何か考えがあって辞めるのはその人の事情ですから口を挟む筋合いはありませんが、環境が悪くて幻滅してしまうことは業界のためによくありません。将来のことを考えないまま卒業してしまうのか、臨床に役立つ知識と技術を習得しないで現場に出てしまうのか、能力を発揮できる場を見つけられないのかその場がないのか、などなど。『鍼灸師になっても良いことなかった、時間と学費の無駄だった。』そんな気持ちで業界を去ってもらいたくないのです(聞いてみるとそういう卒業生は少ないのだとか)。
このようなことを防ぐためには鍼灸専門学校入学前からしっかりと判断できる環境を持ってもらうことが必要だと考えています。見学に来た彼女はまさに入学前から能動的に勉強し情報を得て考えています。このような人が現れてきたことが、ネットが発達した現代を象徴しているように感じています。
年々業界は変化していてその動きは加速しているように思います。将来を担う学生さん、それどころか未来の学生さんに対して、私が何ができるか実験している感じがあります。
甲野 功
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