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現在も大ヒットを続ける「鬼滅の刃」。集英社少年ジャンプで4年間連載され、昨年連載が終了し最終単行本の発売もされました。4年間という比較的短い連載期間でありながら単行本を含めて各種関連商品が売れに売れています。令和最初のメガヒットコンテンツであり、コロナ禍で苦しむ日本に希望となっていると私は考えています。
特に映画「鬼滅の刃 無限列車編」は映画興行収入(邦画、洋画を含めて)日本一になり、その記録を伸ばし続けています。スタジオジブリ制作の「千と千尋の神隠し」が持つ記録を19年ぶりに塗り替えたわけです。
「鬼滅の刃 無限列車編」の大ヒットから興味深いことが分かります。
映画「鬼滅の刃 無限列車編」は原作単行本の話をほぼ忠実にアニメーション作品です。映画のオリジナルストーリーではありません。言い換えると、テレビ放送していたアニメ番組の続きを映画館で公開した、に過ぎないのです。ですから映画作品としての起承転結の起は無いと言ってよく、物語はいきなり主人公たちが列車に乗るところから始まります。全体を通して説明らしい説明がなされません。アニメを見てきたという前提で作られているのです。
そして映画オリジナルのシナリオではありませんので原作単行本を読んできた「鬼滅の刃」ファンにはどのような話かはっきり分かっています。映画館に入ってスクリーンを前にして、これからどんな展開が待っているのだろうというドキドキはありません。タイトルに無限列車編とあるのであそこで終わるなと容易に予想できます。
ある一定層の人は“こんな映画がなぜ大ヒットするのか?”と疑問に思うのです。それは「千と千尋の神隠し」をはじめ多くのアニメーション映画は映画オリジナルのシナリオを用意して作られるからです。
名探偵コナンだってワンピースだってドラゴンボールだって(ワンピースは過去に原作作中のエピソードを再構成したものを上映したことはありますが、近年の作品は映画オリジナルシナリオです)。かの有名なエヴァンゲリオンは映画化された当初は、映画をみたけどテレビアニメ番組の総集編だった、と批判されたものです。
映画館に行かないと知ることができないオリジナルストーリーだからわざわざ映画館に向かうのに、話の内容が分かり切った作品をわざわざ見に行くことが理解できないということです。
加えてこの状況です。新型コロナウィルス感染拡大で昨年4月に緊急事態宣言が出され完全に終息したわけではない状況において、映画館まで行って料金を支払って観る。海外では映画館を開けることができず、大手は動画配信がほとんどです。リスクを背負ってなぜ映画館でみるのか。それも理解に苦しむわけです。
コロナ禍において「鬼滅の刃 無限列車編」が大ヒットしている現実は、色々な要因があると思いますが一つ大きな消費者心理を示していると私は考えています。
それが
人は確認作業でしかお金を払わない
ということ。
これは西野亮廣氏がよく語る内容です。
彼は現在公開中の映画「えんとつ町のプペル」の原作者であり映画製作総指揮・脚本を務めたよしも芸人です。何年もかけて実際にサービスや商品を売りながら実践経験を積んできました。成果を積み重ねた結果、昨年クリスマスの映画公開をしたのです。一般的に考えてお笑い芸人が長編アニメーション映画を作って全国上映などできるはずがありません。それを実現させたのは長年の試行錯誤、研究、緻密な戦略の賜物です。
その西野亮廣氏が以前から語る理屈がこの人は確認作業でしかお金を払わないということです。私は著書の「革命のファンファーレ」でこの内容を知り、本当にそうなのか?と常日頃注意してきました。「革命のファンファーレ」という本は絵本「えんとつ町のプペル」を売るために行った方法を解説した内容になっています。当時すでに絵本業界では異例の大ヒットを出していた絵本「えんとつ町のプペル」。いかにしてその結果を導いたのか。そこに書かれていた数多くの施策で肝となるものが、人は確認作業でしかお金を払わない、という心理(真理)なのではないかと私は感じました。
話は逸れますが近年行動経済学という学問が生まれました。それまでの経済学を「古典経済学」と分類する流れにもあります。従来の経済学は、人は常に合理的な行動をする、という前提で成り立っています。より安い商品を買う。性能と価格が見合ったものを買う。このようなモデルで考えられています。“神の見えざる手”という言葉は有名ですね。自然と需要と供給が釣り合い、政府が介入しなくても市場は自然と適切な振る舞いをするという考えです。
しかし実際の消費者の行動は非合理的なことが多々あります。傍から見たら無駄としか思えないような商品やサービスを購入する。古典的な経済学では説明できない状況があり、それを解析するには行動心理を踏まえていかないとならなくなりました。そして心理学と組み合わされて生まれたのが行動経済学です。
行動経済学の視点を持つと「人は確認作業でしかお金を払わない」という命題が理解しやすいでしょう。
話を戻して絵本「えんとつ町のプペル」を売るために西野亮廣氏が考えたこと。
絵本を読むのは子どもだが、絵本を買うのはお母さん(保護者)であること。
子育て中のお母さん(お父さん)は忙しくて絵本を精査する暇もお金もない。
だから自分が子どもの頃に読んで楽しかった絵本を買う。
だから何年たっても「はらぺこあおむし」は絵本コーナーで平積みされているのだと。
ならば内容を無料公開してしまえば良いと考えた西野亮廣氏は発売された絵本「えんとつ町のプペル」の内容をネットに無料公開します。それも全編。冒頭だけ公開して残りは有料で、というわけではなく最初から最後まで。
これをした当時、西野亮廣氏は大バッシングを受けます。
著作権を放棄するのか。
他のクリエーターを殺す気か。
誰が無料公開された本にお金を払う?
このような批判が殺到したのです。しかし結果は反対で無料公開をしたことで絵本の売上が急増します。世のお母さん(あるいは保護者)は安心して買うことができたのです。西野亮廣氏は言います。絵本はネタバレしてから勝負が始まると。
※細かくみると絵本の画(ストーリー)だけを無料公開だけで、親子のコミュニケーションツール、本という現物、インテリア作品、ギフト品、といった別の要素は無料にしていない。本当に買ってもらいたいものを売るためにフロントエンド商品を安くする古典的な方法に過ぎない(居酒屋がビールを安くして他の料理で儲けるような)と西野亮廣氏は解説します。
つまり、何があるのだろうというドキドキワクワクよりも安心したいという心理が勝つのです。心理学でも有名な話ですが、人は得したことよりも損をした方が強く印象に残ります。500円玉を拾った喜びよりも500円玉を失くした悲しみの方が心理的影響は大きい。つまり損をしたくないという心理があります。
多くの商売で初回無料を掲げるのは、無料ならば良くない商品・サービスでもお金の損はない、という安心感を植え付け、試すハードルを下げるためです。一度購入・体験して良かったものはリピート購入に繋がります。それは、前回良かったから次も良いでしょうという“確認作業”であると言えるのです。
西野亮廣氏はこう言います。美術の教科書や雑誌でモナリザやピカソの絵を見てきたから、実物を見てみたいと考えて現地美術館に行くのだと。一切の前情報が無ければわざわざ見に行こうとは思わない。確認作業であるからお金を払うのだと。
この考えを映画「鬼滅の刃 無限列車編」の大ヒットも納得できるのです。
原作のマンガあるいはテレビアニメを見てきた人々はその作品の質を知っています。「鬼滅の刃」は物語やキャラクターが秀逸です。アニメを制作しているufotableの実力を分かっていて、映画のスケールになったらもっと凄いものになるに違いないという信頼があります。
そして原作通りのシナリオであるからおかしなことにはなりません。アニオリという言葉があり、漫画がアニメなるときにアニメだけのオリジナルストーリーを作ったりオリジナルキャラクターが出たりすることがあるのですが、往々にして不評を買います。原作者ではないアニメ制作会社が手を加えるので世界観が崩れるということで(私の子どもの頃は多くの作品でアニオリが横行していて、だいたい嫌な気持ちがしました)。ufotableはそれをしないという安心があります。
ただでさえコロナ禍で経済が大打撃を受けています。映画料金を支払って冒険はしたくありません。加えて感染リスクも考慮しないといけないのです。確実に安心して楽しめる(損はしない)作品であること。それが当初の観客動員数に繋がったはずです。
また映画館側も話題作が軒並み公開延期となり閑古鳥が鳴いているわけですから、お客が見込める「鬼滅の刃」に掛けた方が確実です。そのため公開初日は朝から晩までほぼ「鬼滅の刃 無限列車編」を上映し続けて、新宿の映画館で1日で40回以上上映したという異例なことが起きました。これも安心していることの確認作業とも言えるのではないでしょうか。
「鬼滅の刃 無限列車編」の大ヒットはリピーターが多いことも大きな要因です。「千と千尋の神隠し」は夏休み上映の作品でした。つまり子ども達は毎日映画館に行ける状況でした。「無限列車編」は新型コロナウィルス感染が終息していない秋から冬。圧倒的に不利。それでも興行収入が伸びるのはかなりの数のお客が何度も観ているからでしょう。オリジナル販促グッズを用意していることも関係しますが、一番はあの感動をもう一度体験したいというもの。これも言わば確認作業です。
あるネット記事に、2週間に1回のペースで映画館に行き「無限列車編」を見に行っているライターの体験談がありました。そこには映画冒頭から泣いている人が多いと。煉獄さんがうまい!と駅弁を食べているシーンで泣いている。それは結末を知っているからです。
不況と言われて久しい現代。新型コロナウィルス流行のせいで経済悪化は加速しています。お金を払って冒険する余裕が人に無くなってきています。バブル景気の頃はちょっと損したとしてもダメージが軽く、笑い話で済みました。しかし今は事前に情報を得て、確実に良いもの(あるいは損しないと思えるもの)しか購入しない(お金を払わない)ようになっているのです。バブル期を経験した年配者だと「鬼滅の刃 無限列車編」がヒットすることがピンとこないのではないでしょうか。
映画「鬼滅の刃 無限列車編」の空前のヒットをみて、人は確認作業でしかお金を払わない、という考えが理にかなっていると思いました。高偏差値の大学に入りたい、大企業に就職したい、というのも言わば確認作業の一種かもしれません。
次回はこのことを私の仕事に当てはめたらどうなるかを書いていきます。
甲野 功
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