開院時間
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前々から興味があったことがネット記事に出ました。
鍼は医療機器だという意識がなさすぎる/タカチホメディカル株式会社 薬機事業部 総括責任者:甲斐 一紀>
鍼灸師が運営する業界WEBメディア「ハリトヒト。」。ここでは主に関係者のインタビュー記事が掲載されています。ハリトヒト。の編集メンバーとはほぼ全員面識があり、設立する前からメンバーの方と交流がありました。そのため知り合いが作っているメディアという感覚です。
毎回インタビューは鍼灸師が出るのですが、今回は鍼灸製品販売の担当者が相手でこれまでと趣が変わっています。
我々鍼師は医師を除いて鍼といういわば異物を他人の身体に刺すことが許された厚生労働省認可の国家資格免許保持者となります。(※慣習として鍼灸師と一括りにして表記することが多いのですが、法律上は鍼師(はり師)と灸師(きゅう師)が分かれています。)
医師の指導のもと看護師が注射や点滴を打つ、海外で理学療法士がドライニードルという針を刺す療法ができること、タトゥー・刺青を入れる彫り師と言われる人々、糖尿病があり自己注射が必要な患者、などの特別な例を除くと、職業として恒常的に自らの判断で鍼を他人に刺せるのは鍼師だけになります。
専門的に体に刺入する鍼を毫鍼(ごうしん)と言い、一般的な鍼といえば毫鍼を示します。体に刺入しない鍼(鍉鍼やローラー鍼など)やとても短い鍼(円皮鍼や皮内鍼など)もあるのですが基本は<毫鍼が鍼師が用いる鍼>という認識になります。医師の用いる注射針や穿刺、歯科医師が用いる歯科用医療器具とも違います。
日本には毫鍼を製造するメーカーがいくつかあります。このメーカーさんの存在なしに鍼師の仕事はほぼ成り立ちません。毫鍼を一切使わない、鍉鍼のみで臨床に臨むという鍼師もいるでしょうが、大多数は毫鍼の存在なしにはできません。
私は経験がありませんが過去には毫鍼をオートクレーブという装置で滅菌して繰り返し使用していました。滅菌を繰り返すことで段々と毫鍼が劣化してくるので顕微鏡で確認しないといけないそうで、かつては弟子や見習いの仕事だったとか。
現在は感染症対策の観点からもワンユース、すなわち1回のみの使用を前提としたディスポーザブル(使い捨て)の毫鍼が一般的です。医療機器全体がディスポーザブルの流れで使い捨てが多くなっています。金でできた毫鍼でもない限り(とても高価なのです)わざわざ滅菌して繰り返し使用することは稀になっていることでしょう。
よってメーカーさんが毫鍼を製造し安定供給してくれないと仕事が成り立たないのです。もしも大災害などで製造ラインが止まったとしたら鍼師は死活問題になるでしょう。大幅な値上げが起きれば同様に。
今回のハリトヒト。インタビューに登場するのが『タカチホメディカル株式会社』の薬機事業部総括責任者である甲斐一紀氏。理工科系大学の工学部を出ているエンジニア畑出身です。本当にどうでもいい話ですが私も東京理科大学応用物理学科を出ておりバックボーンが似ていること、甲斐という「甲」が付く数少ない名字同士で妙な親近感があります。
甲斐氏のインタビューは専門職から見た、毫鍼は管理医療機器であるから扱いに注意をしましょう、という内容になっています。
普段は製造・販売側の視点がほぼ無い鍼師。製造された毫鍼をどのように用いるかに注目するばかりです。甲斐氏の放つ言葉と内容は大学卒業後半導体商社に就職し電子機器を扱っていた私の過去を思い出させました。そして修業時代に当時の院長に「鍼をもって丁寧に扱え」と注意されたことも。
タカチホメディカル株式会社さんは、私が当時通っていた東京医療専門学校四谷校舎のすぐそばに店舗を構えていました。今はありませんが、学生当時は学校から歩いて商品を手に取り買ったものです。その頃は新宿御苑に医道の日本社ショールームがあり、高田馬場にも他社取次店のショールームがありました。今のようにネット通販がほとんどなく現物を手に取って購入した時代です。
学生時代からタカチホメディカルさんは身近な存在でした。お灸練習用の半分に割った竹筒は同社が調達してくれたものだとこのインタビューで知りました。
甲斐氏はインタビューでこう語ります。
『
鍼灸師さんって、学生の時からなにげなく鍼を使っている人が多い気がします。
』
『
鍼って本来は、鍼灸の学生さんであっても、自分以外には使用不可なんですよ。
』
毫鍼の扱いについて法的にどうなっているのかを教えてくれます。学校での実技授業や練習はどうなるのかという問いに
『
厳密にはダメなんです。でもカリキュラムで実技は必須なので、「実習として学校の敷地内で、お互いの了承を得てやるのは目をつぶっている」というのが実際のところだと思います。
』
と答えています。それくらい扱いには注意が必要なものであるのです。何故ならば毫鍼は管理医療機器だからだと言います。
ハリトヒト。が作成した区分表によると医療機器にはクラスⅠからⅣまでの区分があります。クラスⅢとⅣは高度管理医療機器に分類されて“不具合が生じた場合、人体へのリスクが高いと考えられるもの”という定義になります。病院で医師が扱うものが該当し透析器や人工呼吸器などがそうです。
鍼灸師が関わるのはクラスⅡとⅠ。クラスⅡが管理医療機器で“不具合が生じた場合、人体へのリスクが比較的低いと考えられるもの”という定義となり、滅菌済みの鍼や低周波パルス通電用機器などが該当します。クラスⅠは一般医療機器で“不具合が生じた場合、人体へのリスクが極めて低いと考えられるもの”という定義で鍉鍼などが該当します。
さらに特定保守管理医療機器という区分があり“保守点検、修理その他の管理に専門的な管理が行わなければ疾病の診断、治療又は予防に重大な影響を与える恐れのあるもの”と定義され超音波画像診断装置やMRI、CT装置が該当するものだがあります。この特定保守管理医療機器には低周波パルス通電用のパルスオキシメーターや高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)といった鍼灸院で用いられることもある器材も入っています。
当然のことですが医療機器とは身体の不調を良くすることができると見込んで使用するものです。反対に使い方を誤れば悪化させる可能性を秘めており、取り扱いに気を付けないといけません。管理医療機器の承認を取るにはとても厳しい工程が必要だと甲斐氏は言います。
『
管理医療機器として認証・承認を取得するのには、費用がかかるんですよ。
』
『
商品によって異なりますが、認証、承認の申請手順は構造-電子回路、性能試験、製造工程、流通経路、製造責任者などの審査の手順になります。
パルスの場合でいえば、国が指定した第三者機関に出して、本体及びコードまで計測器で全部測って、人体に通しても問題ないかをチェックします。
』
インタビューでこのように言っております。安心安全の信頼を得るために段階を踏んでいることが伺えます。
私はこの仕事に就く前、大学卒業後は半導体商社に就職しました。商社でありますがマイクロコンピュータの設計部門もある企業でした。主に大手電子機器メーカーの製品を卸しいている会社で私はマイクロコンピュータ部門に配属されました。扱うマイクロコンピュータは自動車に用いられるものや病院設備に利用されるものもあったので製造側のことも研修を受けましたし実務で学びました。
通称「PL法」と言われる「製造物責任法」という法律があります。PLとは製造物責任に相当するproduct liabilityの略です。この法律は製品の欠陥によって損害が生じた場合に製造業者等の損害賠償責任について定めたものです。メーカーはPL法に則って責任を持って製造・販売をしているのです。インタビューで甲斐氏はPL保険と言っているのはこちらに関する賠償責任保険のこと。ただ作って売りました、というわけにはいかないのです。
その状況というか心境は、短いサラリーマン生活でも思い知らされたもので共感できます。現在の私はある程度頭ではわかっていたつもりでしたが、改めて普段使用する毫鍼は高い品質と基準をクリアしたものなのだと再認識しました。
鍼を製造する日進医療器株式会社(ユニコ)の営業担当さんとお話したときも感じましたが、他人が見たら針金に見える毫鍼を強い想いを持って製造しています。細い鍼を作る技術はセイリン株式会社が世界一だと専門学校在学時に聞きました。その高品質の毫鍼を安全に流通させる存在が販売店であり法律であり、そして我々臨床現場にいる鍼師でしょう。週一日でしたが鍼師として大学病院麻酔科で3年間勤務した経験がありますが現場の器材管理は徹底していました。
開業して誰の目もない今の私の状況で毫鍼、そして円皮鍼の扱いをしっかりしないといけないと思いました。ここ最近、一般の方(鍼師や医師ではない人)に簡単に毫鍼が手に入ってしまう、自己判断で毫鍼を自分の身体に刺している、という話を耳にしていて危機感を覚えています。複数の意味で。
毫鍼、そして円皮鍼も管理医療機器であり厳しい基準をクリアして製造、流通しているものです。エンドユーザーたる鍼師もその事実を知って行動しよう、そう今回「ハリトヒト。」甲斐氏のインタビュー記事を読んで思いました。
甲野 功
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