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~鍼灸師国家試験における新卒受験者と既卒受験者の比較~

 

今月末に第29回はり師及びきゅう師国家試験が開催されます。

鍼灸師と一括りにすることが一般的ですが資格免許としては『はり師(鍼師)』と『きゅう師(灸師)』に分かれています。試験自体は同時行い、ほぼ共通の問題でありますが一部個別の問題になっています。他の医療系国家試験同様、試験は年に一度きりです。

 

国家試験では実技試験はなく、全て筆記試験。そしてマークシートの選択問題のみです。記述試験はありません。実技は各専門学校及び大学、養成機関で習得した上で国家試験に臨みます。ですから専門学校に通えば鍼灸師免許がもらえるのではなく、“国家試験受験資格を得られる”ということになります。当然学内試験(これは座学も実技もあり、実習も含まれます)を突破して卒業見込みがある者です。学校側が国家試験を受験させるに至らないと判断すれば国家試験を受験することはできません。

 

はり師・きゅう師ともに最低学習期間は3年間。国家試験以前に卒業相当の成績と技術習得が壁になります。ちょうど今の時期は、受験生は最後の復習をしている時期でしょう。国家試験直前まで卒業見込みが出ない(出さない)場合もあるかもしれません。

 

昨年は「あはき柔」の国家試験合格率に関するデータを調査しました

あはき柔とは

あん摩マッサージ指圧師

はり師

きゅう師

柔道整復師

の4つの資格免許の略称でこのように省略することがあります。

 

全体の合格率だけで見ていると実態がよく分からない点があります。それはいわゆる現役生である新卒受験者と浪人である既卒受験者で数字が大きく異なるからです。今回ははり師・きゅう師に絞ってこの点を見ていきます。

 

新卒受験者とは専門学校で言えば3年生、最終学年の受験者です。大学受験で言えば高校3年生。現役受験生にあたります。専門学校で途中留年した場合も同じで最終学年で受験すれば新卒受験者にあたります。

既卒受験者とは専門学校を卒業するも国家試験に合格できなかったため、再度受験する人です。大学受験で言えば浪人になります。稀なケースで専門学校(あるいは大学)を卒業するが(国家試験受験資格を持っている)その年の国家試験受験をしない場合。例えば当日感染症になり受験を辞退、専門学校は卒業したというようなケース。こういう方も既卒受験者になります。読んで字のごとく学校を既に卒業している受験者となります。

 

鍼灸師の世界ではよく知られていることですが、既卒受験者になると合格率が大きく下がります。反対に新卒受験者の合格率は高い数字になっています。双方を足した全体で平均した結果が各年の国家試験合格率として発表されます。詳しく見るために新卒受験者と既卒受験者でどれくらい状況が異なるのか数字で見てみましょう。

 

 

あじさい鍼灸マッサージ治療院 鍼灸師国試合格率新卒既卒の比較
表にまとめた新卒受験者と既卒受験者の合格率

 

 

 

●新卒受験者と既卒受験者の合格率の比較

はり師国家試験

第24回 新卒受験者数 3,791名 合格者数 3,321名 合格率 87.6

     既卒受験者数   984名 合格者数   183名 合格率 18.6

 

第25回 新卒受験者数 3,473名 合格者数 2,899名 合格率 83.5

     既卒受験者数 1,055名 合格者数   133名 合格率 12.6

 

第26回 新卒受験者数 3,454名 合格者数 2,554名 合格率 73.9

     既卒受験者数 1,168名 合格者数   113名 合格率  9.6

 

第27回 新卒受験者数 3,306名 合格者数 3,079名 合格率 93.1

     既卒受験者数 1,555名 合格者数   633名 合格率 40.7

 

第28回 新卒受験者数 3,466名 合格者数 3,095名 合格率 89.3

     既卒受験者数   965名 合格者数   168名 合格率 17.4

 

きゅう師国家試験

第24回 新卒受験者数 3,791名 合格者数 3,370名 合格率 88.9

     既卒受験者数   941名 合格者数   180名 合格率 19.1

 

第25回 新卒受験者数 3,473名 合格者数 2,891名 合格率 83.2

     既卒受験者数   971名 合格者数   119名 合格率 12.3

 

第26回 新卒受験者数 3,454名 合格者数 2,712名 合格率 78.5

     既卒受験者数 1,102名 合格者数   113名 合格率 12.1

 

第27回 新卒受験者数 3,306名 合格者数 3,115名 合格率 94.2

     既卒受験者数 1,349名 合格者数   541名 合格率 40.1

 

第28回 新卒受験者数 3,466名 合格者数 3,080名 合格率 88.9

     既卒受験者数   842名 合格者数   121名 合格率 14.4

 

上記の通り、新卒受験者合格率はだいたい8割以上、既卒受験者合格率は2割に届かない数字です。

 

第27回は既卒受験者合格率が40%を超えています。これは第26回の問題傾向が大きく変わり難しくなった回でした。そのため第26回の全体合格率が大きく低下し、例年であれば受かったであろう合格圏ギリギリの受験者が多数落ちたのです。その既卒受験者が第27回で多数合格した結果と言えます。また第26回が難しすぎるという声が多数挙がったことが要因か定かではありませんが第27回は問題が簡単になったと言われています。合格率も跳ね上がりましたし。問題が簡単というのは相対的なことで第26回くらいのレベルが出ると身構えて対策した受験生及び学校側の努力の結果とも推測できます。

 

何にせよ新卒受験者の方が圧倒的に有利であることは数字で分かります。言い換えれば既卒受験者はとても厳しくなるとも。そのことは受験生も学校もよく理解しています。一発で合格するように最大限の努力をして国家試験本番に臨むものです。

 

では悲しいことに試験に不合格になった受験者が再度試験に挑戦する割合はどうなるでしょうか。

前回試験の不合格者数を今回試験の既卒受験者数で割ると割合が出てきます。この割合を見ると国家試験不合格になり翌年どれくらい再受験するかが見えてきます。

 

あじさい鍼灸マッサージ治療院 鍼灸師国試次年度既卒者受験割合
不合格になった受験者が来年また受験する割合

 

 

 

●次年度の既卒受験者の受験割合

はり師国家試験

第25回 前回不合格者数1,251名 今回既受験者数1,055名 既卒者受験割合84.3

 

第26回 前回不合格者数1,496名 今回既受験者数1,168名 既卒者受験割合78.1

 

第27回 前回不合格者数1,955名 今回既受験者数1,556名 既卒者受験割合79.6

 

第28回 前回不合格者数1,566名 今回既受験者数965名 既卒者受験割合62.0

 

きゅう師国家試験

第25回 前回不合格者数1,182名 今回既受験者数971名 既卒者受験割合82.1

 

第26回 前回不合格者数1,431名 今回既受験者数1,102名 既卒者受験割合76.8

 

第27回 前回不合格者数1,710名 今回既受験者数1,329名 既卒者受験割合78.9

 

第28回 前回不合格者数999名 今回既受験者数842名 既卒者受験割合84.3

 

この数字を見ると全員が全員翌年再チャレンジをしていないことが分かります。

厳密には期間を空けて受験する人もいるので正確な割合にはなりませんがとても稀なケースになると思いますので考慮しません。(※例えば第25回試験で不合格になり浪人。26回は何らかの事情で受験をやめて第27回に受験をするといったパターン。)ある一定数受験を諦めてしまう人がいるものだと言えます。はり師試験は特に再チャレンジする受験者の割合が下がっていることが伺えます。

 

これらの数字が何を意味するかというと専門学校の影響を読み解くカギになるのではないでしょうか。

鍼灸の大学はいくつかあります。その場合大学を卒業するという肩書を得て鍼灸師にはならずに一般企業に就職する、あるいは研究職に進むという場合が考えられます。

専門学校であれば、基本は職業訓練校であるわけですから資格を取らないという選択肢がほぼ無いのです。資格が要らないのであれば退学するでしょう。仮に学校のコミュニティが好きだから在学して卒業するけれど資格は要りませんという場合があったとしてもかなり珍しいことです。

 

特に専門学校においては新卒受験者の合格率を上げるのはもちろんのこと、既卒受験者をどれだけサポートしているかも数字に表れてくると思います。卒業させて後は知りませんとするのか、卒業後も試験対策を含めて既卒受験者をサポートするのか。その数字が出るはずです。

中には廃校、鍼灸科閉鎖で学校そのものが無くなる場合もありますのでその場合は自力でやるしかありません。予備校に通う、独学で勉強するなどします。そうでなければ学校側が手を差し伸べるか否かは大きな違いがあることでしょう。

 

その年にもよるでしょうが、学校を選ぶ際に全体の合格率はもちろんのこと、新卒受験者合格率と既卒受験者合格率を見ておくのは学校選びのポイントになるでしょう

 

そして受験者数も大切です。一桁の受験者数で合格率9割以上の学校と、三桁の受験者数で合格率8割以上の学校を比較したらどうでしょうか。一度に100名を超える受験者数を誇る学校は多くありません。その中で高い合格率を出すことは学校の能力が高いと言えるでしょう。また単純に新卒受験者数が多いということは学校の規模が大きいことなので教員もたくさんいて環境がいいと考えられます。教員が多ければ普段の授業の他に試験対策を練る余裕があります。生徒数に対して何名以上教員をおかなければならないということは決まっているので大勢の生徒がいる学校は最低限の教員数も多くなるのです。

 

 

鍼灸師国家試験における新卒受験者と既卒受験者の合格率を比較してみました。

私は一般の方から鍼灸師になりたいという相談を受けることがままあります。その際にどういう学校を選んだ方がいいかというところまで話をすることがありまして、地方だと学校の情報が無いので何とも言えません。公表されている数字から読み取ることができることを考えています。

 

甲野 功

 

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