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~2021年第36回教員養成科卒論発表会~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 36回教員養成科卒業論文発表会看板
卒業論文発表会の会場案内

 

 

昨日は毎年恒例となりました母校、東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科(以下、教員養成科)の卒業論文発表会に参加してきました。

 

私は30期卒で、今年は37期の発表です。母校の教員養成科は2年制(正確には1年プラス1年制度)で、最高学年にあたる2年生が1年間かけて研究してきた内容を論文にまとめ、パワーポイントの発表資料にして教員と1年生の前で発表します。

 

素直な感想として、緊急事態宣言発令中でよく開催できたと思います。研究する2年生は相当な制限があったと想像できますし、学校側も新型コロナウィルス対策に追われたはずです。今回は対面での公聴はできないだろうなと予想していました。

 

 

あじさい鍼灸マッサージ治療院 36回卒論発表会抄録集
抄録集

 

 

それでは本題の発表について触れていきます。昨年同様、発表内容の細かい部分には触れません。あくまで私個人が感じた事を書いていきます。実験方法や実験結果について詳しいことが知りたい場合は3月に完成する卒業論文集を読んでいただければと思います。私も完成した論文を読んでみたいと強く思う発表がいくつもありました。

 

 

1.缺盆穴への台座灸刺激が筋硬度に及ぼす影響 -足三陽経筋と手太陰経筋を指標に-

 

経筋を対象に、台座灸を用いて、筋硬度で評価する実験研究になります。私は経筋というものをあまり意識したことがなく、よく分からない分野です。経絡経穴概論の教科書に載っていたなあ、くらいの感想です。経筋とは筋・関節を主とした十二経脈に支援される運動系統と説明されます。知らない人が見ると何だかよく分かりませんね。気の流れである経絡の筋肉版のようなイメージです(厳密には正しくないのですが)。その経筋に対して毫鍼(体に刺す鍼)ではなく台座灸を用いることがユニークです。鍼灸マッサージ教員養成科と言いますが鍼の実験が多く、灸の実験研究は数が少ないのです(あとの発表内容でも触れますが)。そして台座灸という比較的簡便なやり方を採用しています。

 

更に面白いと思うのか缺盆穴を使うことです。臨床上はマイナーと言える缺盆穴。これは鎖骨の上側で鍼だと肺が近いのであまり刺さないですし、押すにしても筋肉が薄くて痛い場所。デリケートなところなのです。缺盆穴を選んだ理由が4つの経筋(足太陽経筋、足少陽経筋、足陽明経筋、手太陰経筋)が結ぶとされるから。こういうことを国家試験が終わって10年以上経過して忘れていました。缺盆穴という場所の意味とその部位の状態のため毫鍼ではなく台座灸で刺激をする。

 

そしてその状態を離れた筋肉の固さを測定することで評価します。足太陽経筋は腓腹筋と脊柱起立筋、足少陽経筋は外側広筋、足陽明経筋は前脛骨筋、手太陰経筋は腕橈骨筋で。筋硬度計を用いて計測します。筋硬度計はポピュラーな計測機器です。東洋医学的な効果を客観的な数値化するということもよくある手法になります。

 

発表者の考察に対する質疑応答で、指導教員から興味深い意見がありました。そのことは大きな学びであり卒業論文発表会の後の患者さんに早速使わせてもらいました。これまで経筋に関してノーマークだったのでこの機に経筋を勉強して臨床に取り入れようと思いました

 

 

2.後頭下筋群への鍼刺鍼による動体視力の変化(第2報)

 

教員養成科の研究発表会では目に関する実験研究がよく行われてきました。私の同級生もしましたし、昨年もありました。この発表では後頭下筋群へ刺鍼をして動体視力静止視力(いわゆる普通の視力)、自覚的な見えやすさ反応速度についてデータを取り統計処理を行いました。

後頭下筋群はNHKの東洋医学特集番組で東京大学附属病院粕谷先生が紹介して世間にも知られたと思われるものです。

またパフォーマンスアップのジャンルとも言える実験研究であり、刺鍼することで視力、動体視力が向上するかも研究目的になります。その先に世界的に流行し市場が拡大しているeスポーツを視野に入れることに。

 

結果は静止視力と自覚的な目の動かしやすさは(統計処理の結果)有意に向上したが動体視力レベルと反応時間に有意差はみられませんでした。動体視力は単純な視力だけでなく脳で処理して運動神経に伝達させるという複合的な反応があるためと考察していました。

 

私も鍼灸マッサージの刺激でパフォーマンス向上をさせることが、重要な研究テーマにしています。それには複合的な要素が関わるため一概に言えないことがあります。そこを研究で法則性を見つけて再現性を高めることが理想です。

視力に対する研究は養成科の伝統とも言えるので来年も継続して研究されることになるかもしれません。

 

 

3.ハイパーソニックサウンドと鍼治療併用効果の検討 -認知症患者に対する一症例-

 

この演題は症例報告になります。被験者を募って実験研究をするのではなく、症状のある患者さんに改善のための施術を行い、その過程や結果をまとめて評価、考察するものです。

 

ハイパーソニックサウンドという新しいジャンルのアプローチに取り組んでいることが特徴です。私はハイパーソニックサウンドというものを初めて知りました。ハイパーソニックサウンドとは人間が聞き取れない超高周波(40kHz)成分を含む音で、脳を活性化させ神経系・内分泌系・免疫系の作用も強くさせると言われています。このハイパーソニックサウンドはうつ症状にも効果があるという報告があります。また認知症に対する鍼灸というと三焦鍼法が有名。

この発表はハイパーソニックサウンドと参照鍼法を併用してアルツハイマー型認知症(うつ傾向)のある患者さんに施術をした症例報告です。ハイパーソニックサウンドありの環境下で三焦鍼法を行い、その後ハイパーソニックサウンド無しで三焦鍼法を行い、その後再びハイパーソニックサウンドありの三焦鍼法を行うABA方式。評価には長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)αアミラーゼ値測定、そしてMMSE(認知機能テストの一種)を用います。医師と連携をとり服薬や画像診断も行った上での症例報告となっています。

 

ハイパーソニックサウンドは通常の音響機材では発生させることができません。そのための機材を用意しての症例でした。通常のCDでは人間には聞こえない音域はカットします(データ容量削減するため)。発表でハイパーソニックサウンドありの音と無しの音を実際に会場で流しましたが、私には違いがわかりませんでした。もちろん人間には感知できない領域の音なので当然なのですが。卒業論文発表会で音を聞かせるというのは珍しい試みでした。

 

鍼灸マッサージ業界ではまだまだ知られていないハイパーソニックサウンドに目を付けて設備を整えて臨床を行ったことが斬新だと私は感じました。その存在を知る機会があるというのは発表者のバックボーンと関係します。質疑応答でハイパーソニックサウンドを療法として取り入れている施設はほとんど無いとのことでした。純粋にこういうものが世の中にあるのかと感心しました。座長も音楽と鍼灸の融合はこれからありそうだと話していました。

 

また認知症に対する三焦鍼法。過去にも症例報告で用いられていた手法である、私は大学病院で一度見たことがあります。三焦鍼法も学んでおく内容だと本発表を聴いて思いました。

 

 

4.関節リウマチにおける運動鍼の効果を検討した一症例 ―QOLと痛みのVAS及び血液初見の変遷-

 

この発表も症例報告であり、医療機関との連携が取れたものでした。対象は関節リウマチ患者。決して珍しくなく、そしてQOL(日常生活動作)に支障をきたす症例です。本発表のポイントとなるのは運動鍼を用いていることではないでしょうか。運動鍼は毫鍼を身体に刺入した状態で体を動かす手法です。どちらかというと運動器疾患に適応されるやり方だと思うのですが、関節リウマチに用いる発想が凄いです。私だとやれないでしょう。発表者が患者さんに行った運動鍼は疼痛のある関節に付着する筋肉に対して行っています。関節症状(動作時痛、可動域制限)へのアプローチです。

 

ただ運動鍼を続けましたという症例報告ではなく、血液検査(抗CCP抗体、RF:リウマトイド因子、CRP、ESR:赤沈)、mHAQ(QOLの評価法)、ACRコアセットS-DAI(どちらも関節リウマチの評価法)、自覚的評価(VAS)で状態を評価しています。月に一度認定医が測定しているデータも示していました。もちろん運動鍼だけでなく服薬や医師の診断も行っています。患者さんの年齢も関係しているかと思いますが効果がはっきりとデータとして出ていました。

医療機関と連携した良い症例報告だと私は思いました。

 

質疑応答では運動鍼を選択した理由、効果の機序について質問が出ていました。やはり運動鍼は置鍼(毫鍼を刺したまま留置する)よりも人体への侵襲が強くなります。関節リウマチは関節内でのいわば破壊が起きている状態ですから、安全面を考慮するとどうなのだろうかと。この意見は鍼灸師としてもっともだと思いますし、分かった上でしっかりと安全面を考慮しつつ関節症状に対する運動鍼を採用した発表者の行動も納得ができます。教員養成科は全員国家資格免許を持ち臨床に立っています。患者さんに対して6ヵ月向き合った結果。常に鍼法について考えていたと思います。

 

私には関節リウマチに運動鍼という考えがありませんでした。もちろんどの患者さんにも適応できるとは考えませんが(それは座長も話していたこと)、選択肢の一つとして運動鍼もあるということをインプットしました。

 

 

5.ファッシアへの鍼通電が腰痛に及ぼす効果 -筋硬度、可動域、痛みの程度を指標として-

 

ファッシア。近年広まってきた用語です。今年の卒業論文発表会でも別の発表でファッシアを取り上げていました。まだ私も勉強中できちんとしたことを理解していません。発表者の説明によるとファッシアには浅層、深層、神経層、内臓層とあり表層から深くなっていくと言います。本研究は浅層ファッシアにパルス通電を行い腰痛症状がある被験者にどのような結果が出たのか筋硬度ROM(関節可動域)、VAS(自覚症状を数値化したもの)で測定しています。

 

テーマとして、腰痛に対して浅い深さの鍼で対応すると手段として本研究を行ったと言います。鍼刺激は低周波パルス通電を用いています。深さで言うと皮下パルスになるようです。

 

個人的な感想としてよく分からなかったです。そもそもファッシアとは如何様なものなのか判断できません。ちょうど勉強途中だった書籍『閃く経絡』を読み込んで勉強しないといけません。質疑応答と座長の補足で知ったのですが、ここ最近教員養成科の講師が浅層ファッシアの刺鍼方法を授業で教えているそうで、その手法を用いて実験研究したとのことです。具体的なやり方と理論がわからないので何とも言えないのですが、このような技術があることは理解しました。考え方ややり方はこれまでの私には無かったものなので新しいインスピレーションを得たものでした

 

 

6.四象体質学に基づく太極鍼法を用いた鍼灸治療 -更年期症状に対する2症例-

 

こちらも初めて目にした用語でした。それが四象体質学太極鍼法

四象体質学は韓国で生まれたもので体幹部の周囲計の測定で“体格”、四象診断心理テストで“正確”、体質に関する問診で“体質”を総合的に鑑別して太陽人、少陽人、太陰腎、少陰人に分けて各施術方法を決めているそうです。そして四象体質学に基にした太極鍼法という鍼法があるそうです。これらを用いた症例報告を2例発表しました。

 

四象体質学は完全に初耳で何も知りませんでした。事前にネットで調べて韓国発祥であることは分かりました。血液型のように人間を4つに分類しその体質にあったことをするようです。面白いのが体幹部を計測して分ける指標にしていること。質問ではなく実寸であるのです。痩せたり太ったりして体形が変わったら体質分類も変わるのでしょうか。

 

また太極鍼法も調べてみたものの情報が見当たりませんでした。陰陽太極鍼はあるのですがどうもそれとは違うようです。澤田健の提唱した太極療法とも違います。どのようなやり方をするのかは発表だけでは分かりませんでした。使う経穴は原穴や合穴を用いているなと思いました。

 

座長の補足によればハングル語の論文を読み込んだと言います。海外の資料を原文で読むとは素晴らしいです。座長も話していましたが海外のやり方を用いて臨床報告するのも大切な研究です。目を付けるのが凄いなと思います。鍼灸は日本と中国ばかり(一部アメリカ)注目されます(注目します)。韓国の鍼灸を初めて知りました。本当にまだまだ知らないことばかり。発表を聞かなければ知ることはなかったでしょう。

 

 

7.目の不快感に効く特効穴の検討 -光明穴への押圧刺激による効果-

 

こちらも目に関する研究です。教員養成科の研究テーマでは目(視力)に関係するものが多数あります。本研究は目の不快感について足にある光明穴自ら押すことで効果がでるのかを実験研究しています。

 

光明穴とは脛の外側にあるツボ(経穴)。目の不快感に効果がある特効穴として光明穴を世間に発信できないかという意図があったそうです。方法は自ら指で光明穴を5分間押して効果を測るというもの。目の不快感を図る指標としてNRS(自覚する不快感を数字で表現する)、消失近点距離測定フェノールレッド糸による涙液量測定を用いて評価しています。

 

目に関するツボ(経穴)と言えば目の周りにあるものばかりが取り取り出たされてきました。足の光明穴を用いる発想が斬新だと思います。個人的には自分で5分間も脛を押すというのはなかなか大変なことだと思います。押圧刺激を入れ続けることができたのか疑問になります。鍼(置鍼や円皮鍼)や灸であればどうだったのだろうかと。

 

休憩時間に発表者と少し話をしました。すると世間に届かせる意図があったとのこと。船酔い、車酔いに手首にある内関穴を押すことは世間には結構知られています。バンドとして商品化されているものがあります。同じように目の不快感に光明穴としてふくらはぎに巻くようなものができたらいいのかなと。

教員養成科の発表は研究以外にも市場開拓というか新たな鍼灸マッサージの見せ方を提示する内容もあります。国家資格免許を取る前の学生との違いは、プロとして臨床家としての立場があるということ。このような意図を踏まえた研究だと分かると見方が変わってくるものです。

また目の疲れには眼疲労と眼精疲労があり、前者は休息をすることで開腹するもので後者は休息で回復しないもの、という分け方があると知りました。このような知識は患者さんとの会話で使えるのでためになります。

 

直接発表内容とは違うのですが教員養成科指導教員から大腿内側肝経状に目の症状に効くツボ(ポイント)があるという話が質疑応答で出ました。休憩時間に発表者とその教員に詳しく説明してもらいちょっとしたレクチャーを受けることができました。この知識も私の新しい引き出しになります。

 

 

8.生理的飛蚊症に対しての鍼治療の効果

 

飛蚊症。目の前に蚊が飛んでいるかのような点がみえる症状です。病的なもの(網膜剝離やぶどう膜炎といった原因となる疾患がはっきりある)とは別に自然と生じる飛蚊症を生理的飛蚊症と言います。硝子体の濁りが原因とされて加齢、近視、先天性などにより徐々に表れると。多くは病院を受診しても経過観察と言われて様子見となるそうです。この生理的飛蚊症に対して太陽穴(こめかみにある経穴)と風池穴(後頭部、首と頭の境界部分にある経穴)に低周波パルス通電を行い、その効果を比較するという実験研究です。介入前後の自覚的症状を数値化するNRS白い紙に症状を図示する方法を用いて測定しました。生理的飛蚊症を自覚している5名が被験者になりました。

 

既にお伝えしている通り教員養成科の実験研究では目に関するテーマが多いのです。しかし飛蚊症を対象にしたものをみたのは、私は初めてですし座長も珍しいと言っていました。生理的飛蚊症は即命の危険や重篤な症状になるわけではないので注目されづらいです。何より生理的飛蚊症の症状を持つ被験者を集めるのが簡単ではないと思います。駄洒落ではなく目の付け所がいいなと。

技術的にも太陽穴と風池穴のパルス通電というもの興味深いです。私にはこの2穴でパルス通電をする考えがありませんでした。先行研究を調査した上で方法を決めているのですが、全身の経穴を用いて長期間行った例があったので、局所(目の近く)を使って短期間(1日あけて2回)というやり方にしました。新型コロナウィルスの影響で長い実験期間を取れなかったのかもしれませんが、先行研究を踏まえた実験方法です。そして本実験の前に予備実験を行って試しており、この2穴(太陽、風池)が一番反応が良かったためだそう。予備実験をするという姿勢も素晴らしいと思います

 

座長も指摘していましたが評価方法に白紙に図示するというやり方もユニークでした。鍼灸マッサージの効果は数値化できないことが多く、血圧や画像診断のように客観的に誰がみても分かるという指標がとても少ないのです。脈が整いましたね、と言ってもどういう脈が整った脈なのか波形を装置で図示せよと言われても今のところできません(装置の問題もありますが統一された見解がまとめられない)。そのため実験研究ではなるべく数値化して客観視できるものを評価基準にするのです。ところが本研究では症状を紙に書くというアナログ、主観的なやり方を採用しています。発表では実際の絵を見せていましたが、飛蚊症だとこちらの方がリアルな感じがあり分かりやすいです。数学的統計処理はできませんが施術前後の比較は直感的に分かりやすい。更に被験者から図示することはできないが施術後の方が濃くなった感じがあるという意見が出たそうで、図示では表せない自覚症状もあったということも面白いなと。

 

評価方法は大きな課題で臨床現場でも参考になる発表でした。

 

 

9.全身治療における血流改善の規則性について

 

最初に抄録集を読んだときは何をしているのかさっぱり分かりませんでした。しかし発表を聴いたらこれは凄い研究でずっと見てきた発表の中でも(29期~37期の発表を聴いてきました)群を抜いて素晴らしい内容でした

 

鍼灸施術によって血流改善が認められるのは周知の事実です。実際にそれをどう証明するかは器材を使うことで分かるのですがポピュラーな方法としてサーモグラフィーによる皮膚温を測るものがあります。奇しくも新型コロナウィルスの影響により非接触型の体温測定が盛んになり広く普及しました。この発表は施術前後の皮膚温を比較するものとなっています。

重要なことはこれまでの皮膚温変化をみる先行研究では刺激部位のみを調査しているものが多かったと。それを全身で見てみることをしてみる。定点観測から流れで皮膚温変化を見てみようという発想です。冷え症状を自覚する被験者に対して冬の季節に全身の経穴(中脘、天枢、関元、天柱、風池、膈兪、肝兪、脾兪、腎兪、委中、飛揚)を用いる施術をします。その前後で腹部・側腹部・背部・上肢・下肢の決まった経穴で皮膚温を計測し統計処理を行って考察を加えています。

測定結果を色々と数学的処理をして、3つの温度変化のパターンが見られました。

 

①施術前温度に関係なく一様に皮膚温が上昇した

②施術後に温度が上昇するが、施術前温度が低いほど皮膚温が上昇した

③施術前温度が高い方が施術後に皮膚温が低下し、施術前温度が低い方が施術後に皮膚温が上昇した

 

この3つです。そしてこれが経絡と部位に当てはまっているのでした。

 

お腹、前腕・下肢の陰経部分では①の一様に皮膚温が上昇。

前腕・下肢後面の陽経部分では②の施術前が低い温度ほど大きく皮膚温が上昇。

背中は皮膚温が低いところは上昇、高いところが下降するというバランスを取るような結果。

 

鍼灸師でないとピンとこないでしょうが、体には部位によって陰陽があります。腹部は陰で背中は陽です。日が良く当たるところですね。そして経絡という気の流れるラインがあるのですが、それにも陰陽があり陰経と陽経に分けられます。陰は冷たい、陽は温かいというイメージです。

 

お腹、前腕・下肢の陰経という陰の部分では一様に皮膚温が施術後に上がっています。これは冷たい陰の場所が温まったと言えるでしょう。

前腕・下肢後面の陽経という陽の部分では皮膚温が上がるのですが、施術前に皮膚温が低かったところがより上昇しました。これは元々温かい陽のところで相対的に低かったところはより温かくなったと言えるでしょう。

背部は平均を取るように低いところは上昇、高いところは下降しています。背中は陽の中でも特に日が当たる陽中の陽という部位です。温かくなり過ぎず冷えていたら温めると言えるでしょう。

 

この測定結果は非常に東洋医学理論に理にかなっているものです。経穴上の皮膚温変化が場所によって違いがあり、その場所は陰陽や経絡の考えと一致していると言える。東洋医学には補瀉といって熱を補う・熱を取り除くという考えがあり、行きすぎはよくなくバランスよくすることを重要視しています。皮膚温を介してその理屈が数値化されたようなものなのです。

 

実験方法、測定方法、解析方法、考察、そしてプレゼンテーション。どれもレベルが高くて驚きました。そして結果も。一般的には、

鍼を刺して前後の皮膚温度を測ったら規則的な変化が見られたのね、それがどうしたのかしら?

ということかもしれませんが自分にとっては大きな衝撃でした。

 

 

10.鍼治療における施術着の色彩の違いが自律神経に及ばす影響 -唾液アミラーゼを用いての検討-

 

色による反応をみる実験研究です。これまでの卒業論文発表会でも色に関する研究がいくつかありました。私の1期上の先輩は皮膚にも色を感知する機能があるという仮説を検証するため握力測定をしました。同期は開業している鍼灸院の看板に使われている色を調査しました。カラーコーディネーターは色ごとの効果を理解しています。

この発表は術者の施術着を赤・青・白に分けて鍼施術を行いその効果に違いがあるのかを検証しています。内田クレペリン検査というひたすら計算するものを行わせてストレス負荷をかけた状態から心的ストレスに効くとされる鍼施術を行います。唾液アミラーゼ値を測定することで被験者のストレス度合いが分かります。

 

結果は全体を通して鍼施術の効果があったが施術着の色による差はありませんでした。考察や質疑応答で一人では施術着を見る時間も量も少なすぎるのではないかというものがありました。これが大勢スタッフがいたり、仰向けで長時間術者を見ながら施術をしていたら変化があったのかもしれません。

 

開業鍼灸マッサージ師の立場である私は非常に興味深い発表でした。色は大きな要素で、当院もイメージカラーを決めてそれにそった施術着や内装にしています。質疑応答で私が話したことですが、術者のキャラクターに合った色を着るのがいいと考えています。青は冷静、赤は情熱、オレンジは活発、白は清楚、といった色による効果や印象はだいたい分かっています。私は青を好んでいますが、キャラクター的にオレンジとか赤の術着は似合わないと考えています。ユニフォームも込で術者であるので施術着の色とキャラクターが一致した方が効果が高まるのかなと思っています。

 

また大学病院で働いていた時は役職によってユニフォームの色や柄が異なっていて視覚的に分かるようになっていました。部署によって大勢いるスタッフのユニフォーム色が変わるので雰囲気が変わるという実体験がありました。大勢のスタッフを抱える院では院のイメージに合わせた色を決めることが大切ではないかと本発表を聴いて思いました。

 

 

11.慢性便秘症における鍼通電の効果 -腹斜筋と前脛骨筋へのアプローチ-

 

鍼灸で便秘症に対する文献は結構あります。ただ多くは東洋医学的な観点で行ったものばかり。医師と連携するために西洋医学的(解剖学、生理学など現代医療の考え)に行う鍼施術を、慢性便秘を自覚している被験者に行った実験研究です。症例報告に近いかもしれません。自覚的な排便難度、残便感、腹痛、腹部膨満感についてVAS日本版便秘評価尺度の記入で効果を評価しています。

やり方は左腹斜筋左前脛骨筋に狙った刺鍼をして低周波パルス通電を行います。大腸の走行を考えて左だけというもの。左右片方だけというのは珍しいです。

 

私は腹部の低周波パルス通電を行ったことがなかったので参考になりました。実は私自身がお腹が弱く、下痢傾向があります。お腹を触られるのは非常に苦手で腹部のパルス通電を受けたことがありませんし、他人にする気が起きませんでした。食わず嫌いにならないように腹部のパルスもできるようにしておこうと思いました。

 

 

12.鍼治療の嗜好と非接触鍼における得気について

 

鍼施術が敬遠される理由の一つに痛そうということが挙げられます。毫鍼を体内に刺入するのですから知覚情報として痛みがゼロになることは難しいでしょう。他の皮膚感覚で誤魔化すとか技術でカバーするということはできるのでしょうが尖った鍼先が触れるときに触れたという触覚そのものはあると思います。その場合にそれが痛いと思ってしまう場合があります。そして得気。響きとも言いますが鍼を刺されたときに体内に感じる独特の感覚です。鍼を受け慣れていない人にはこの得気と痛みが区別できず、痛いと感じてしまうことがあります。

 

これらを解決するために刺入しない鍉鍼を用いることが現場ではままあります。本研究は鍉鍼の質量や材質で得気に違いがあるのかを実験研究したものです。被験者の手の平に複数の鍉鍼を距離を変えながら当てていき得気を感じたら申告してもらいます。また筋硬度計で計測します。鍉鍼はステンレス(直径大)ステンレス(直径小)の4種類です。

体に刺入する毫鍼ではなく、当てる鍉鍼を用いた実験研究も教員養成科ではしばし見られます。ここでは鍉鍼の素材について注目しています。考察にはイオン化傾向、電磁波、バイオフォトン、磁気治療といった物理学に関わる用語が出てきました。物理科出身の私には馴染みがありますし、東洋医学よりも物性で考える姿勢に興味がありました。物理的な観点で気や経絡を考える方法もあります。邪気とは過剰な電磁波だと唱える人もいます。毫鍼でも金や銀のものを好んで使用する鍼灸師も。将来様々な素材の鍉鍼が試されるかもしれません。

 

 

13.少海穴への温筒灸刺激が握力に及ぼす影響について

 

スポーツ分野における鍼灸マッサージの研究はほとんどが鍼によるもので灸はほとんど無いといいます。灸を用いた握力への変化を実験研究です。握力については数年前に吸玉(カッピング)を用いて握力継続時間が伸びたという報告がこの卒業論文発表会でありました。握力は全身の筋肉を反映すると言われています。

 

この研究では少海穴という肘の内側にある経穴に温筒灸を用いて刺激して前後の握力変化を計測します。その数値結果を統計処理して比較しました。少海とは内側上顆という部分にあり、前腕屈筋群という握力に関わる筋肉が多く付着しているところになります。先行研究でお灸の熱痛を感じてから30秒後に取り除く温筒灸刺激で筋肉の血流が増加することが明らかになっているそうです。そのため本実験でも熱痛を感じてから30秒後に灸を取り除く刺激を与えています。

 

身体パフォーマンスアップができるかという研究になるかと思います。私が好きなカテゴリーです。結果は有意差が出ませんでしたがこういったネガティブデータも大切な結果ですので次世代に活かせるものです。私も教員養成科時代に大腿部の低周波パルス通電でジャンプ力が上がるのではないかと仮説を立てて実験研究を行いました。結果はジャンプ力は上がりませんでした。しかしその発表を聴いた次の世代が別のアプローチ方法で検証した研究をしました。それを知って素直に嬉しかったです。先行研究として活かさせたと。

 

握力は全身の筋肉を反映すると言われています。そのため健康診断の体力測定で握力が低いと将来運動機能低下が予想されるといいます。そうなると仮に鍼灸マッサージの介入によって握力が向上したら全身筋力も向上するのか?という疑問があります。むしろ握力を鍛えれば全身も鍛えられるのか、という話にもなります。

 

また瞬間最大筋力を通常の握力検査では計測しています。ボルタリング競技では最大握力よりも一定の握力を持続可能時間が重要になるでしょう。いわばスタミナ。スタミナを上げるという観点でみると結果が変わるかもしれません。指導教員も予想として瞬間筋力より疲労回復の方に効果が出るのではないかと考えるという意見がありました。

同じようなやり方でも見方・考え方を変えると新しい研究になります。

 

 

14.顔面及び頭部のファッシアに対する鍼刺激の効果

 

今年二つ目のファッシアです。背景として2018年に業界誌で有名な「医道の日本」社から2冊ファッシア関連本が出版されました。2019年にはNHKBSプレミアムでファッシアが取り上げられました。最近話題のワードです。

 

本研究ではファッシアを筋・腱膜ととらえ、顔面・頭部のファッシア(具体的には帽状腱膜、側頭筋膜、耳下腺咬筋膜、頚筋膜浅葉)に刺鍼をして前後の特定部位における皮膚温度、水分量、油分量、顔検査票で評価しています。

 

美容に関する実験研究と言えるでしょう。昨年は4つの美容鍼に関する発表がありました。顔の美容に関するものはこれだけになります。これまでは東洋医学的な経穴、筋肉、皮膚といったものに対しての研究でしたが対象をファッシアにしたものです。経穴によっては結果的に今回対象にしたファッシアに刺している報告もあったのでしょうが、はっきりとファッシアに対すると定義しているのが特徴です。

皮膚温や水分量、油分量を計測することは卒業論文発表会ではスタンダードになっている感じがあります。座長によれば美容鍼施術の前後でMRI撮影を行い解析する研究が行われているといいます。近年の美容鍼分野の進歩は目覚ましく多種多様なやり方が生まれています。それらをしっかりと検証研究することが大切なのでしょう。

 

この発表に限りませんが追実験のように私は同じやり方で臨床に臨んだり自主練習をしたりしています。特に美容鍼分野はどんどん新しい手法が生まれるので試行錯誤しながら自分にできること合っていることを見定めながら技術を上乗せしています。

 

 

15.健康経営と企業訪問鍼灸の今後の展開 -半構造化インタビューによる質的調査-

 

この研究も大いに感銘を受けた発表でした。この内容は別の機会に深く掘り下げる予定です。

社員の健康状況を考慮して疾病予防、健康増進のためにリソースをさき投資する経営を健康経営と言われています。社員が健康を害することで生じる損失は莫大なものになっているそう。数年前から健康経営に関する書籍が発売されて重要な課題になっていると思われます。

本研究は健康経営を推進する経営者と企業訪問を行った経験のある鍼灸師、合計4名にインタビューを行いその結果をまとめて報告しています。

 

インタビュー内容は

・健康経営によるコロナによる変化

・取り組み事例

・デメリット

・企業訪問鍼灸における問題点や鍼灸師に求められるもの

についてです。他にもフリーで話せる環境を作って語ってもらっています。

 

新型コロナウィルスの影響で対面インタビューを避けてZOOMのリモートインタビューにしました。その動画を記録しツールで文字起こしをして視覚化してまとめています。インタビューを受けた人のうち2名は私も面識のある鍼灸師でしたので内容に注目しました。

 

インタビュー内容は膨大で発表でまとめるには時間が足りない様子でした。是非とも完成した論文を読んでみたいと思います。メモできた内容を少し書くと企業訪問鍼灸をするデメリットとして“不公平なサービス提供”という報告がありました。全従業員に公平に鍼灸を提供できるのかとことです。大企業になり支店があるところではどうするのか。また保健所の申請が降りるのかということ。ヒヤリハットと言われる医療過誤が起きた場合の責任の所在はどうするのか。などなど。

経営者側からすると導入して場合の費用対効果があるのかも重要でデータやエビデンスを提示してほしいという声があるそうです。また鍼灸師のコミュニケーション力が必要であると報告していました。

 

とても興味深いテーマだったので私は質疑応答で質問をしましたし、休憩時間に発表者と話をして意見交換をしました。この研究は臨床的なものよりも社会学、経営的な側面が強いものです。教員養成科らしく将来の鍼灸師の市場拡大を見据えているものではないでしょうか。私のような開業組には直接関係することなので前のめりになります。健康経営と企業訪問鍼灸について東京都鍼灸師会も行動していることを知っていますし。

 

発表者との話で新型コロナウィルスは状況を大きく変えたと言います。例年2月に先輩の発表を聴いて自分たちのテーマを考えていきます。昨年2月時点ではこれだけ社会環境が変化するとは考えられなかったので、当初の想定と大きく変わったと発表者はいいます。訪問しようにも在宅ワークが増える、オフィスを引き払う、縮小するという状況が増えています。企業連携として訪問するやり方が適応しなくなるかもしれません。この件についてはまた別の機会に書いていこうと思います。

 

 

16.外反母趾に対する鍼治療の一症例

 

外反母指に対する鍼施術をした症例報告になります。外反母指というよくみかける症例ですが内容はなかなかユニークでした。患者さんの年齢が若いこともあるのでしょうが効果測定の指標として反復横跳びの回数をデータに取っています。この考えは私にはなくて、足が痛い患者さんに反復横跳びをさせるのか、という驚きがあります。パフォーマンスアップの実験研究なら分かりますが症例報告でするとは。

また切皮痛の起こる頻度と切皮痛の程度も計測しています。体の末端の刺鍼は痛いことが多いのです。切皮痛とは毫鍼を刺したときに皮膚表面を貫く時に生じる痛みです。痛覚受容体は皮膚表面に分布しているのでそこを越えるとあまり痛みを感じません(響き、得気というものは別です)。切皮痛を出さないために我々は技術を積むのですが、敢えてその回数と程度を調べるのかという。これも私にはない発想でした。

 

鍼施術の方法としては最大圧痛部(押して一番痛いところ)への置鍼(毫鍼を刺したまましばらくそのままにしておく)と太衝穴と公孫穴のパルス通電です。太衝とは足の甲、公孫とは足の甲内側で親指の骨の付け根です。刺すと結構痛い太衝と公孫にパルスをかけるのかという驚き。痛いので私はやったことがありません。

前半は圧痛部に置鍼、後半はパルス通電というやり方をして効果を評価しました。パルス通電の方がより効果があったという報告でした。

 

私は痛い鍼が苦手で強い刺激が嫌いです。年齢を重ねてずいぶんと耐えられるようになりましたが若いときは鍼を打たれることが苦痛で仕方ありませんでした。鍼が効いたと実感できたのは実は教員養成科に入学してからでした。そのため患者さんにも痛みが強く出る鍼はしたくないという気持ちがあります。太衝と公孫にパルス通電するのか、できるのかという素直な驚きがありました。苦手だからやらないという考えは捨てて患者さんの疾患に効果があるのならば強い刺激も用いる覚悟を持とうと思いました。比較して置鍼よりパルス通電の方が良かったという報告でしたし。

 

 

17.あん摩指圧手技による歩行姿勢動作の検討

 

とても珍しい徒手手技による研究発表です。鍼やお灸といった道具を用いる介入方法よりも徒手療法は刺激を一定にすることが難しいのです。本当に毎回同じ条件でやりましたか?という突っ込みを受けてしまいます。そのため発表や論文では「十分に技術を習練した上で」といった但し書きを入れることが多いのです。毫鍼ですらどの被験者にも同じ方向、同じ深さで刺入できますか?という目が向けられるため、差が出ない円皮鍼を刺激方法に用いることがあるのです。

 

あん摩(按摩)とは大宝律令にも載る中国から渡り古来から日本にある徒手療法。揉捏という揉む技術がよく用いられます。指圧は日本で生まれたもので指での押圧(いわゆる押す動作)が主体です。このあん摩指圧を用いて歩行状況に変化があるのかを検証しています。

大腰筋、大腿直筋、大殿筋手根揉捏、母指圧迫、母指揉捏を15分間行いルームランナー上の歩行状態を計測します。歩行速度は時速4kmと被験者の歩行可能な最大速度で行います。15秒間歩行歩数、上体前傾角度、動的な股関節屈曲・進展角度測定を行います。

 

鍼灸ではなくあん摩指圧での実験ということに感動しました。卒業論文発表会ではほとんどありません。個人的にあん摩、マッサージ、指圧が好きですので。質疑応答でありましたが刺激量はどうしたのかという質問に、どの被験者も一定の強さで行ったと発表者は回答しました。つまり年齢も体格も関係なく行ったという。被験者のデータが20~85歳の年齢とありますから20歳も80歳も同じにしたわけです。これは凄いことだと思います。なお被験者の施術を受けたときの反応と測定結果に関係性は無かったそうです。これは徒手療法の実験研究において基本となるやり方になるかもしれないと感じました。

 

もう一つ驚いたことが動画による解析と編集です。発表では動画も公開していたのですが、二画面、複数画面に分割して施術前後を同時に見せます。動画を停止して歩行数をカウント表示します。被験者の顔にはモザイクを入れて個人情報にも配慮。ソフトウェアで動画から関節角度を計測。ツールの活用が素晴らしいのです。

今年は音楽に動画に発表方法が進化したことを感じましたし、実験装置・器材の進歩も目覚ましいです。私の頃より研究できる内容が広がることでしょう。私の実験方法と比べると雲泥の差です。

 

 

18.手術痕の変化と不定愁訴の関連性 -開腹手術痕に対する鍼灸治療の1症例-

 

開腹手術後の手術痕に対して鍼灸施術を行った症例報告です。とても貴重な報告です。

腹部に横方向12cmの手術痕がある患者さんへ、手術痕に対して鍼灸をおこないます。手術痕に2cmおきに7個所直接灸を、1cmおきに13個所刺鍼をします。手術痕の固さを筋硬度計で測定、足部の温度測定腹部のツッパリ感と腰痛、冷えの自覚症状をVASで記録してもらいます。

患者さんは女性であり手術痕の固さは月経周期の影響を受けたかもしれないという考察でした。また腹部ということで柔らかく筋硬度計の測定が困難だったといいます。

 

私が鍼灸マッサージ専門学校の生徒だった時にクラスメイトが心臓手術のため学校を休んだことがありました。復帰した後は胸に開胸手術の手術痕がありました。授業中や自主練習のときに手術痕にお灸をすると楽になるのだよと話をしていて術後のケアに鍼灸は必要なのだと実感しました。この症例報告もすごく大切なことで、今は5人に一人が帝王切開で出産するといわれており、婦人科疾患を含めれば手術痕がある女性は珍しいことではないのです。その方々に対して鍼灸師として何をしてあげられるのか。そう考えさせられる発表でした。

 

 

19.鍼治療によるバストアップ効果について -パルス通電と八脈交会穴を用いた一症例-

 

今回最後の発表です。驚きました。鍼でバストアップができるのかという。昨年は美容鍼に関するテーマが4題あったことは書きました。今年はボディの方の美容分野です。これまでの報告では美乳鍼なるものもあったようです。発表者によると医学的根拠が当てはまらない美容商品が数多くあると言います。最近では付けているだけでバストアップできるというナイトブラで宣伝をしたインフルエンサーが実は豊胸手術をしていたことが発覚した騒動がありました。

 

また女性の観点からすると血流状態が悪くなりやすい部位であるにも関わらずケアが疎かな部位であること。女性ホルモンを通して子宮・卵巣と関連があり女性の健康な状態を形成する場所で注目したそうです。先行研究では高さを上げることを目的としたものがあり、本症例はサイズアップを目的とするのだと。

 

やり方は局所のパルス通電と全身状態の改善のために八脈交会穴を用いたものです。八脈交会穴は内関、公孫、列欠、照海、築賓を使用します。

 

そもそも鍼刺激でバストのサイズアップが本当に可能なのかと疑いました。位置を上げる意味でのバストアップはできると思っていましたがサイズ自体を大きくするとは。一症例なので何とも言えませんが新しいやり方を提示したと思います。

 

胸部にパルス通電をしているのですが、私は怖くてやろうとしたことがありません。心臓に近いですし肺もあります。外反母指でもそうでしたがパルス通電できるのかという驚きです。当然ながら安全に考慮して行っているはずですが。

そして八脈交会穴。これは奇経脈を用いるもので私は普段使わない技術です。むしろ忘れていました。八脈交会穴で任脈と衝脈にアプローチしたといい、奇経脈の勉強をもう一度やろうと思いました

 

 

以上が19演題の簡単な振り返りと個人的な感想です。

今年は本当に大変な年でした。会場でも初めてのZOOM中継で教員も手伝いをする1年生も右往左往している様子がありました。しかし器材トラブルもその場で解決していきました。研究した2年生もサポートした学校側もこの1年で大きく飛躍したように思いました。例年以上にレベルが高く興味深い発表だったと思います。現場で実際に聴いた私も多大な影響を受けました。この経験を自分の現場に活かすこと、次世代に伝えていくことが使命です。

 

東京医療専門学校の関係者、教員養成科学生の皆様どうもありがとうございました。

 

甲野 功

 

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