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~鍼灸・マッサージ院が休業要請対象外になるのは良いことなのか~

東京都ホームページより 
東京都ホームページより

 

 

新型コロナウィルス感染拡大防止のため現在3度目の緊急事態宣言が発令されています。昨年の春に初めて出てから、商業施設の休業要請が大きな争点になっています。飲食店、映画館、公共施設など。施設は閉じられることで経済に多大な影響を与えています。今月ゴールデンウイークに新宿駅を通ったときに小田急百貨店が休みになっていて驚きました。デパートが休むとは。今回の休業要請には床面積が広い大規模商業施設の休業を要請されています。

 

この休業要請ですが、あじさい鍼灸マッサージ治療院は休業要請対象外になっています。東京都のホームページによると<種類:医療施設、施設:鍼灸・マッサージ、休止要請:対象外>に分類されます。行っている内容からして鍼灸・マッサージの施設であることは明白です(屋号に「鍼灸マッサージ」と入っていますし)。異論なく休業要請対象外になります。

 

このことが果たして良いことなのか?

 

鍼灸・マッサージを行う施術所(※保健所に届け出を出して開設した施設という意味で使用しています)が休業要請対象外になることは経営面で良いのか良かったのか、という話に触れたいと思います。

 

前回書いたように昨年後半から鍼灸マッサージ院経営に関して話をする機会が増えてきました。やはりタイムリーな話題としてこのコロナ禍での経営状況については知りたい同業者が多いのでしょう。特に当院は東京都新宿区にあり、「夜の街」と標的にされた歌舞伎町を有する新宿のイメージがあります。その土地にある鍼灸マッサージ院はどうなのかということは、他の地域に住む方や学生さんには興味深いのかもしれません。

 

私の個人的な意見としては、緊急事態宣言下で休業要請対象外になったことは良かった、と考えています。飲食店や娯楽施設のような制約がなく通常通りに開けることができたことがコロナ禍の新宿区という条件でも助かったと。

 

件の院経営について話をする場で、同じ業界の人に言われたことがあります。

「その代わり休業要請対象外になったから休業補償が出ませんよね。」

お店を閉めることでその代わりに補助金が出る場合があります。

鍼灸マッサージ院はこれがもらえませんよね、それは大変では無いのですか?という意味が含まれていると思いました。

報道によれば個人商店でお店を休みにして休業補償を貰った方が普段よりも遥かに利益が出ている所もあるそうです。その事実と照らし合わせると、最初から休止要請対象外で補償が出ないのは不利だと考えることもできるのかもしれません。自主的に休業したところで補助金が給付されることは無いのです。

 

経営に限ったことではないのですが、個々の状況・条件・環境で考え方はバラバラになるので本当に一概に言えませんが、休業補償が出なくとも休業要請対象外であることはメリットが大きいと私は考えています。あくまで個人的な意見としてですが。

 

まず社会的意義について。

1年前の春。東京の繁華街から人が消えて人々は本当に外出しなくなった時期がありました。その期間でもスーパー、コンビニ、病院は開いていました。減便したといえ公共交通機関は動いていましたし、宅配業はむしろ活況に。社会インフラに必要とされる施設は稼働していたのです。

鍼灸・マッサージという施術所も社会に必要ということで休業要請対象外、それも施設分類は医療機関として。そのことは個人的な励みになりました。本当に。社会に必要な場所という認定をされた気がしたのです。鍼灸・マッサージも医療機関の一端として新型コロナウィルスがあっても続けていくという使命を受けたような気がしました。

 

次に心理面について。

どの分野のお店も休みたくて休むところはないのではないでしょうか。休むことで人の接触を減らすためですが、開けるなと言われると社会に必要ないと決められているような気にならないでしょうか。ロックダウンのように強制的にほぼ全ての施設を閉じて自宅から外出することを厳しく制限する状況なら納得するでしょうが、あくまで“要請”というお願いの範疇。心理的に苦しくなると推測します。

昨年は芸能人の、それもかなり有名な方の自殺がありました。あるベテラン歌手は仕事が無い時期に悲観して引退が頭をよぎったと涙を浮かべてテレビ番組で語っていました。個人で仕事をしている人には仕事が自己表現や生き甲斐に直結している場合も多く、院を開けていて構わないということは精神的に助かったことだと思います。

従業員の場合は事情がまた違うと思いますが。

 

そして経営面

これが本題なのですが経営的な観点からも営業可能は良かったです。そこのところを詳しく書いていきます。

 

例えば、休業するので1日1万円支給しますよと言われたとします。反対に開けていても1週間で3千円の売上しかなかったとします。週6日開けている計算で休業したら1週間で7万円、休業しないと1週間で3千円の収入だったとします。とても極端な例えですが。

一見すると休業して7万円貰った方が得なように見えます。開けていても外出しないので微々たる売上(3千円)だけ。

しかし得られた3千円は次に繋がる3千円なのです。次の週も来てくれればプラス3千円。もっと高いコースを選んで6千円になるかもしれません。別の方を紹介してくれるかもしれません。理想論かもしれませんが、3千円は次に繋がる可能性がある前向きな収入なのです。

対して7万円は額が大きいのですがそれが次に繋がることは原則ありません。休業した補償でしかありません。

 

院を開いているけど人が来ないことと、院を閉めているということは意味が異なります。開けていれば来てもらえる可能性がゼロにはなりませんが閉めていたら完全にゼロです。家賃という絶対的なランニングコスト(固定費)は消えませんからプラスになる可能性があった方がいいのです。これが従業員を雇っていて休業することで従業員補償が入るという条件ですと違ってくるのですが、閉めるより開いている方がいいでしょう。

 

というのも、開いているから行くという習慣が生まれますが、閉まっていると行かないという習慣も生まれることがあります。私も近隣の飲食店で開いていているならささやかな手助けと思ってお昼に入るようにしましたが、閉まっているところはそれも叶いません。閉めているなら別のところに行こうとなるだけです。熱烈なファンが多数いるならばいいのですがそこまでこだわりが無いのであれば開いている所に替えてしまう人が多いでしょう。

 

「あそこは閉まっている」と認識されると選択肢から消えてしまうのです。個人的な例としてうちの子どもはにこにこパークという施設が好きでよく行っていたのですが、新型コロナウィルス感染予防のため休業になりずっと閉園しているのでいまや話題に上ることが無くなりつつあります。もしかしたら開いているかもしれないのですが、私も調べる気が無くなっています。

 

経営側からすると人から忘れられる・選択肢から消えるというのは非常に堪えるのです。特に一度目の緊急事態宣言は1ヵ月我慢しておけば、という気持ちでできたかもしれませんが、二度目、三度目となれば相当きついでしょう。例え補償が出たとしてもそれは書いたように残るための補償であって次に繋がる(であろう)お金ではないのです。

 

また休業中に今しかできないことをすればいいという意見もあるかと思います。休業補償を貰って設備投資をしたらといったものも。ただそれはどの経営者もそれはすることでしょう。私も昨年4月の本当に予約が無かった日々は勉強したり資料を作成したり情報発信をしたりしました。ただそれも院を開いているから意味を成すことなのです。

 

どういうことかというと、忘れられないように期待してもらえるように試みをして、それが誰かに響いて治療を受けてみたいなと思ったところで開いてなければ期待させるだけ。期待させておいて叶わないというのは最初から期待していないことより印象が悪くなります。私の仕事はリモートでできるものではないですし、動画を見て満足するというものでもありません。テイクアウトもありません。対面で実際に触れないとできないことです。昨年4月に頑張って草の根活動をしてきた効果が翌5月のゴールデンウイーク以降に影響したといえます。

院を開けているからできたことで、これがいつになったら再開できるのかという不安があったら頑張れなかったと思います。

 

休むことで設備が痛むことも侮れません。家は人が住まなくなると傷むのが早いといいます。空気が入れ替わらないためです。うちは使わなくて傷むような器材はありませんがこまめに訪れて掃除はしないといけません。どちらにせよ店舗に行くなら開けておいた方がましというもの。

また設備の他に技術面も。このキャリアだと技術が大きく鈍るということはあまり無いと思うのですが1~2ヵ月臨床をしないとなると勘を取り戻すのに時間がかかったでしょう。これは、人が来るかもしれないから待機しているが誰も来ないという状況と、完全に休んでいる状況とでは、同じやらないのでも意識が違うものです。

 

 

長い目で見ると休業補償を得て休んでいることより、休業補償なしで開け続けた方が良かったことは確かです。もちろんうちの条件(住宅街という立地や従業員がいないなど)でのことですが。開店休業状態はまだしも、本当に休業を強いられていたら経営は成り立たなかったと思います。そのときは良くても先々苦しくなったのでは。

 

ここ1年あまりで、いかに社会環境に経営が影響を受けるかを痛感しました。新型コロナウィルスはもちろんのこと行政や法律にも。日々の経験を明日に活かすようにしていきます。

 

甲野 功

 

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