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医業類似行為。
この仕事に就くようになって自然と耳にするようになった用語です。実際のところを何のことでどのような意味があるのかははっきりと分かっていませんでした。他の件で調べていた際に「医業類似行為」という言葉をきちんと整理しておかないと先に進めないと判断し、医業類似行為とは何なのかを調べてみました。
まず医業類似行為の“医業”とはなんでしょうか。
医業とは「医行為を反復継続の意思を持って行うこと」とされています。
法律の用語で「反復継続の意思を持って行うこと」を“業”と言います。具体的には“業とする”という使用方法が多いのです。正業とか生業という言葉があるように「仕事」という意味合いになるのですが、対価を頂くことは関係なくずっと続ける意思を持ってすることを業としています。
免許の話になるのですがあん摩、マッサージ、指圧はあん摩マッサージ指圧師免許が、鍼施術ははり師免許が、灸施術はきゅう師免許がなければ“業とすることができません”。つまりやってはいけないということです。法律で決まっています。ボランティア活動で無料にて行いますということでも継続して行えばそれも違法行為になるのです。
「医行為を業とする」から“医業”ということです。
それではこの「医行為」とはどのようなことでしょうか。厚生労働省のホームページにこのようにあります。
『
「医行為」について
○ 医師法(昭和23年法律第201号)
第17条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
第31条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(略)
【解釈】
医師法第17条に規定する「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。
』
医行為とは“医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為”と解釈されます。この医行為を業とすることが医業であり、医業は医師でなければ行ってはいけないと医師法第17条に規定されています。
この医師でなければ行うことができない「医業」に類似した行為が医業類似行為になるであろうことは、日本語から判断できるでしょう。
これまでの「医業」の解説を踏まえると医業類似行為は
<医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為に類似したことを反復継続の意思を持って行うこと>
と説明できそうです。
だとすると具体的にはどのようなことを言うのでしょうか。
昨年11月に総務省行政評価局が出した報告書があります。
<消費者事故対策に関する行政評価・監視 -医業類似行為等による事故の対策を中心として- 結果報告書>
これはサブタイトルにあるように医業類似行為等による事故について調査した報告書となります。省庁が関係した最新の医業類似行為に関する定義と判断となっていると考えらます。
前書きにまず注意として医業類似行為について書かれています。
『
医業類似行為には、「あん摩マッサージ指圧」や「柔道整復」といった国家資格が必要な施術のほか、これら以外の手技、温熱等による療術行為であって人体に危害を及ぼすおそれのあるものが含まれる。
』
もう少し詳しい説明が出てきます。5ページ目の
<(2)消費者被害の発生又は拡大防止のための取組 ア 厚生労働省における取組の概要>
の項目にこうあります。
『
医業類似行為には、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和22年法律第217号。以下「あはき法」という。)に基づく「あん摩マッサージ指圧」や柔道整復師法(昭和45年法律第19号。以下「柔整法」という。)に基づく「柔道整復」といった国家資格が必要な施術(注1)と、「整体」、「カイロプラクティック」等の名称の下に行われている施術があり、後者については、あはき法に基づき、医学的観点から人体に危害を及ぼすおそれのあるものは禁止されている(詳細は、項目 3(1)参照)。
(略)
(注1)あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔道整復は、文部科学大臣の認定した学校又は厚生労働大臣の認定した養成施設において3年以上の教育を受け、国家試験に合格した者のみ業として行うことができ、施術所の開設時には、都道府県、保健所を設置する市及び特別区への届出が義務付けられている。
』
医業類似行為には、通称「あはき法」に基づくあん摩、マッサージ、指圧や柔道整復師法に基づく柔道整復といった国家資格が必要な施術と、整体、カイロプラクティック等の名称の下に行われている施術があるとしています。なおここでは出ていませんが同じく「あはき法」で規定されている鍼灸も同様に国家資格が必要な施術として医業類似行為にあたります。
そして国家資格を必要としない整体、カイロプラクティックも厚生労働省は医業類似行為としているわけです。なお整体、カイロプラクティックについては、『あはき法に基づき医学的観点から人体に危害を及ぼすおそれのあるものは禁止されている』とあります。
医師法で規定されている医業に類似するものとして、同じ厚生労働省管轄のあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師が行うことが医業類似行為にあたるのは素直に納得できますが、日本では国家資格が必要ではない整体、カイロプラクティックも医業類似行為に該当するというのは個人的に驚きました。しかも人体に危害を及ぼすおそれがあるのは禁止という解釈。
また報告書には同じ頁でこのように記載しております。
『
医業類似行為により健康被害が生じた場合、厚生労働省は、当該施術が国家資格を要するものか否かにかかわらず、あはき法又は柔整法(以下「あはき法等」という。)に基づき、施術者等を行政指導の対象とすることは可能と解釈しており、特に、整体、カイロプラクティック等の名称の下に行われている施術については、累次にわたり保健所等関係機関と連携した指導の徹底を都道府県、保健所を設置する市及び特別区に要請している。
』
医業類似行為に関して、国家資格の有無を問わず行政指導の対象とするという意志が厚生労働省にあるとしています。
私はあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師の国家資格を持つ医業類似行為に全てに当てはまるので理解していますが(関係法規として習う内容)、問題があった場合に保健所や地方自治体から指導を受けることが法的に定められています。それが国家資格というもの、という解釈でした。それに加えて厚生労働省は非国家資格者にも行政指導を行うと意思表示をしているわけです。
報告書の6ページ目
<調査対象及び医業類似行為等による事故の発生状況 ア 調査対象(医業類似行為)>
にはもう少し詳しい解説がされています。
『
調査対象及び医業類似行為等による事故の発生状況
ア 調査対象(医業類似行為)
厚生労働省は、「医業類似行為」とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある「医行為」ではないが、一定の資格を有する者が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為であると解しており、それには、あん摩、マッサージ及び指圧、はり、きゅう並びに柔道整復のほか、これら以外の手技、温熱等による療術行為であって人体に危害を及ぼすおそれのあるものが含まれるとしている。
また、「逐条解説 あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律・柔道整復師法」(厚生省健康政策局医事課編)によれば、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔道整復以外の医業類似行為とは、いわゆる民間療法と同義のものとされ、「腰痛、肩こり、疲労等の症状のある者に対して、温熱器械、器具その他の物を使用し、又は四肢若しくは精-神作用を利用して施術を行うものであって、医師法、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律等に基づく免許資格を有する者がその範囲内で行うものでないもの」を指すとされているが、その種類や範囲は必ずしも明確となっていない。
このようなことから、本行政評価・監視においては、現行の日本標準産業分類等も参考に、「あん摩マッサージ指圧」、「はり」、「きゅう」、「柔道整復」に加えて、「整体」、「カイロプラクティック」、「骨盤矯正」、「リフレクソロジー」、「リラクゼーション」等の施術サービスを便宜調査対象とした。
』
ここで厚生労働省の医業類似行為の解釈が文章になっています。
『「医業類似行為」とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある「医行為」ではないが、一定の資格を有する者が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為である』
これが当たります。
“医行為ではないが”という文言はもちろん医師免許が無い者が医行為は行えないという前提を示しており、“一定の資格を有する者が行わなければ”という個所は最低限の技術や知識が必要であることを示唆しており、“人体に危害を及ぼすおそれのある行為”の部分が最も根幹となる用語です。
更に国家資格であるあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師が行う施術以外にも、『これら以外の手技』、『温熱等の療術行為』といった例を挙げて『その種類や範囲は必ずしも明確となっていない』と報告書では結論つけています。ここで注意したいのが報告書は総務省が出しているものである以上、(医業類似行為において国家資格を持たない者が行うものは)種類や範囲が必ずしも明確となっていないとしているのは総務省の判断と考えられます。そのためサブタイトルにあるよう医業類似行為等として整体、カイロプラクティック、骨盤矯正、リフレクソロジー、リラクゼーション等と具体名を挙げて、それらも調査対象としたと書いているわけです。
ここが曖昧なところで、厚生労働省は医業類似行為とは国家資格保持者(あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師)の行う施術の他に、この国家資格を持たない者でも“人体に危害を及ぼすおそれのある行為”までを入れています。ただし“人体に危害を及ぼすおそれのある”という表現でそれが何かを明確にしていません。対して総務省は国家資格保持者の施術と同時に整体、骨盤矯正、など具体的な名称を挙げて調査をしています。
報告書8ページより
『
医業類似行為については、「あん摩、マッサージ、指圧、鍼、針、灸、柔道整復、整骨、接骨、整体、カイロ、骨盤矯正、骨格矯正、小顔、ストレッチ、リフレクソロジー、リラクゼーション」のいずれかの単語を含む事故情報を抽出した上で、医療機関、理容所、美容所、エステサロン等で施術を受けたとするもの等を除外して集計した。
』
厚生労働省の定義として国家資格が無い者が行う“人体に危害を及ぼすおそれのある行為”も医業類似行為に入れており、総務省としては実際に健康被害があった、つまり“人体に危害が及んだ行為”の中から整体、カイロなどの言葉が入っているものを調査したというわけです。こうなると、国家資格が無い者の行為で危害を及ぼしたものは医業類似行為と認定される、といったような印象を受けます。
医業類似行為とはどのようなものかをまとめと、
・「医業」とは医師以外が行うことができない医行為を業とする(反復継続の意思を持って行う)ことで、
・厚生労働省の解釈としては「医行為」ではないが、一定の資格を有する者が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為であり、
・国家資格(あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師)の行う施術と、
・国家資格を持たない者による行為も含まれ、それが具体的に何を指すのかは不明瞭だと総務省は判断している
・なお厚生労働省は人体に危害を及ぼすおそれのある行為は国家資格を持たない者でも行政指導できると解釈している
といったようです。
なお平成3年に厚生労働省は「医業類似行為に対する取扱いについて」という文書を関係各所に出しているのですがさすがに30年近く前のものなので内容は触れず、昨年令和2年に総務省から出されて報告書の文言を参考にしました。
私は術者であり当事者であるので調べてみましたが非常に面倒な解釈となっています。なぜこのようなことになっているのかは昭和35年の最高裁における判決に準じているわけです。医業類似行為という言葉と省庁がどのように解釈しているか(どのような対応をしているのか)を理解することは開業して臨床に立つ身として非常に重要です。まだまだ理解しきれないところがありますがこれからも具体的な事例を参照しながら学んでいきます。
甲野 功
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