開院時間
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今大きな話題(賛否両論も含めて)となっているワクチン接種。
ワクチンは危険だと訴える人がいて、ワクチンが足りないという問題が解消しつつあり、ワクチン接種の順番をどうするかでトラブルが起き、ワクチン接種できる人員が確保できないという問題があります。
同じようなことで昨年は、マスクが足りない、トイレットペーパーが品薄になる、消毒液の製造が追いつかない、といった問題がありました。昨年の今頃、なぜか紙製品も販売制限がかかり領収書をまとめて購入しようとしたら一人1点までですと言われて唖然としたものです(領収書も品薄なのか?と)。マスクを求めて高齢者がドラッグストアに開店前から並び店員を罵倒するというニュースがありました。転売禁止の法律があっという間に可決されたり。日本酒メーカーが消毒液の生産を始めたものです。
今となっては、あれはいったい何だったのだろうという気持ちになりますが、当時は社会全体がピリピリしていました。わずか1年前の事なのですが過ぎてしまえば忘れてしまうものです。
このワクチン接種も、始まってしまえば接種がどんどん進むことでしょう。ワクチン反対派はずっと接種しなければいいでしょう。その分希望者が早く接種するようになるでしょうから。
さて、少し前に鍼灸師がワクチン接種をできるようにしたらどうかという議論がSNS上で出ていました。正確には鍼灸師ではなく「はり師」であり、国家資格免許では「はり師」、「きゅう師」と分かれており(大多数の人は両方の資格を取得しているので鍼灸師とまとめてしまう)、その「はり師」免許を持つ者がワクチン接種を担うのはどうかということです。
その話題を知ったときに個人的な感想として一体何を言っているのだろうか?という気持ちでした。注射針と我々が使う鍼が違うことは鍼灸師が一番よく分かっているはずです。同じ「はり」だから注射(この場合は筋肉注射)ができると思っているのか?という気持ちです。あまりに安直ではないかと少々呆れました。本気なのかと。
どうも発端は、鍼灸師にもワクチン接種ができるようにしようと署名運動が起きていることのようでした。調べてみるとこのようなサイトが。
<Change.org 医療職の『はり』の専門家!鍼灸師によるワクチンの接種許可を!安心できる生活に戻ろう!>
説明しておくとChange.orgとはネット上で署名活動ができるサイトです。10数年前は直筆の署名を集めたものです。今はネット上で署名活動ができます。そのサイトに、ワクチン接種をする人員が足りないので鍼灸師も導入しましょうという主張に賛同してくださいという項目が作られていました。
そこにある文面を抜粋します。
『
そこで、私たちが提案したいのは、このワクチン接種担当者として、日本に10万人以上存在する鍼灸師を活用するということです。
鍼灸師は、日本で、医師や看護師以外で、唯一、人間に針を打って良いと国が認めた資格を持っています。
また、普段から人の体を診ることを生業にしているため、人体や筋肉に関する知識、病気などの知識も一般の人よりは多く持っています。何よりも普段から鍼を打っているため、人の体に針を打つことに抵抗がありません。
事前の研修は必要ですが、それ以外の人のときよりは短くできるはずです。
この資格を持った人がワクチン接種の担当者として認められないのはなぜでしょうか?
私たちは鍼灸師こそ、この業務に最もふさわしい人のひとりだと考えます。
是非、政府にこのことを認める活動にご協力ください。
鍼灸師が登用されることで、逼迫している医療現場から医師や看護師を引っ張り出すことをしなくて済みます。
医療崩壊の危機を免れることにつながります。
』
鍼灸師界隈は世間に向けた活動があるとそれを後押しすることが多いのですが、私にはこの署名活動の情報が届いていませんでした。拡散する人、賛同する人が周りにいなかったようです。このサイトを知って鍼灸師(正確にははり師)がワクチン接種を打つか否かの話題になっていたのだと理解しました。
さてこの文章を見て賛同する人はいるでしょうか。
「普段鍼を人体に刺しているから筋肉注射もできるはず。おなじハリだし。」
私にはあまりに短絡的な考えに感じてしまいます。
まず構造が異なります。注射針は薬剤を体内に入れるために中が空洞になっています。我々の鍼(正確には「毫鍼」という鍼)は空洞は無く、体内に刺入することが主目的です。
そのため太さが異なります。比較的太めの中国鍼でも注射針に比べればかなり細いです。調べると筋肉注射だとだいたい21~23ゲージの注射針を用いるそう。22ゲージは外径(太さ)が0.71mmです。専門学校で習う鍼灸の鍼はだいたい0.16~0.20mmが多く、太い中国鍼で0.30mmくらいです。太い中国鍼の2倍くらい注射針は太いのです。どれくらい差があるか実感がわかないかもしれませんが扱う側からすると相当な違いになります。
正確な表現ではないかもしれませんが、注射針は切って刺し、鍼は隙間を通すように刺す、と比較されることがあります。同じように人体に刺すという行為に見えても技術が違うはずです(注射針を人体に刺したことがないので推測になります)。
刺すという技術も別物です。日本人の鍼灸師の多くは管鍼法といって細い管(鍼管)を用いて弾入というやり方をして鍼を刺入します。当然注射針でこのようなことはできませんから技術的に素人と差がありません。中国鍼では鍼管を使わないことが多いのですが注射針とは持ち方が違うのでそのまま技術を流用することは叶いません。
強いて言えば「他人の体にはりを刺すことに抵抗がない」というメリットがあるくらいでしょうか。
なによりワクチン接種で大切なことは注射針を刺すことが主目的ではなくワクチンを体内に注入することです。
ワクチンは当然薬剤でありますからその扱いは非常にデリケート。ロット番号で管理し、取り間違いは厳禁。回し打ちなどもってのほかですから使用済の注射針の管理も重要です。その意味で薬剤師に接種をする打ち手になってもらったらどうかという意見が出るわけです。
私は大学病院で鍼灸師として働いた経験がありますが、薬剤、医療器具の取り扱いは非常に厳しく管理されているのを目の当たりにしてきました。あの管理レベルを市井の鍼灸師に求めるのは厳しく、別に管理になれたスタッフが必要になると思います。医療機関で働く鍼灸師から、ワクチン接種を鍼灸師ができるようにしよう、という意見が出ないのはこういうところもあるのではないでしょうか。
また新型コロナウィルスに限りませんがワクチン接種にはアナフィラキシー症状をはじめとした急性副反応への対応を考慮しておかないといけません。そこまで鍼灸師が対処できるとは到底思えないのです。単純な注射針を打つだけの要員としての話かもしれませんが現場ではそうもいかないでしょう。
そもそも医師法で他人への恒常的な注射は制限されています。現行では医師、医師の指示を受けた看護師だけがワクチン接種(上腕への筋肉注射)が可能という状況です。それでは打ち手が足りないから特別に歯科医師にも特別措置を取ろうかという議論です。
結局、看護師を導入する方向で進んでいるようです。
<日本経済新聞 ワクチン接種協力の潜在看護師 準備金3万円給付、厚労相>
美容整形で有名な高須院長は特例法を作ってできそうな人はどんどんやらせろという意見で鍼灸師の名前を挙げているようです。
<高須院長、コロナワクチン打ち手不足の解消に特例法求める 「獣医でも消防士でも鍼灸師でも」>
誰でもいいから打ち手にしなさいという意見であれば鍼灸師という特性は関係なく、それこそボランティアの一般人にもお願いしようという意見もあります。
鍼灸師がワクチン接種の打ち手になるのは日本では現実的ではないように思います。鍼灸師の前に選択肢に上がる職種が多数あります。中国のように新型コロナウィルス治療の最前線に鍼灸師が立っているのであれば別ですが。
甲野 功
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