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昨日はあん摩マッサージ指圧師専門学校の学生さんを対象に按摩実技セミナーを行いました。
按摩(あん摩)。普段は聞きなれない用語だと思います。視覚障害者を侮蔑する言葉として放送禁止用語になっていたという話もあります。
按摩とは古来から日本で行われてきた徒手療法。発祥は中国ですが1000年以上前に日本に伝わり、日本最古の法律と言われる大宝律令(701年)にも「按摩」の言葉が出てくる伝統技術なのです。
昔から鍼灸とともに視覚障害者のための生業として歩んできた歴史があります。現在でも視覚障害者の多くが盲学校で按摩実技を学びます。そのため「視覚障害者=あんま」という捉え方をされた時代がありました。他のマッサージ・指圧と共に徒手療法の国家資格としてあん摩マッサージ指圧師という免許となり今日まで続いています。
視覚障害のない健常者(晴眼者と呼びます)があん摩マッサージ指圧師になるには数が少ない専門学校に入学しないといけません。その数は鍼灸師、柔道整復師、理学療法士といった医療系国家資格の専門学校に比べれば遥かに少ないのです。晴眼者の通える専門学校は全国に20校ほど。鍼灸や柔道整復はその数倍専門学校の数があります。
衣服の上から行う按摩をカタカナ英語に訳すとマッサージになり、世間で認知しているマッサージはほぼ按摩のことになります。。あん摩マッサージ指圧師がいうマッサージとは皮膚に滑剤を塗って直接触る技術なので一般的にオイルマッサージと思っていただければよいです。
あん摩マッサージ指圧師は按摩、マッサージ、指圧という発祥も歴史も技法も異なる3つの技術を全て学ぶ必要があります。その中でも按摩は一番やりやすく、かつ最も長く日本に定着してきたものであります。
今回この春入学した学生さんを対象にした「あん摩セミナー」を実施しました。自ら主催する有料実技セミナーは2年前夏に行ったあましセミナー以来で、よい経験になりました。
今回は“座位での按摩”というテーマで行いました。
参加者からのリクエストがありましたので。
座位での按摩とは床に患者さんが座った状態で行う按摩実技という意味です。
そういえば私も専門学校では最初の按摩実技は座位だったことを思い出しました。懐かしいなと振り返りつつ、話す立場になると厄介だなとも内心呟いてしまいました。何せやるのが大変だからです。
やるのが大変というのは様々な意味があります。
臨床では座位で施術することが少ないのです。ほとんどベッドに寝てもらうか、床でも寝てもらって行います。座った状態だと相手の体が不安定なので、技術的に寝てもらう状態(臥位といいます)よりも難しいのです。例えば背中を押せば固定されていないのでその圧は逃げてしまいます。そうならないように工夫しないといけません。また術者の体勢も比較的難しくなります。
被験者側も座位は大変です。正座でいれば足が痺れてきますし胡坐でも寝ている状態よりはリラックスできません。本当にリラックスして寝てしまうと崩れてしまいます。実技を受ける方も、ある程度姿勢を保つ努力を強いられるのです。
座位は体勢を作るのが難しいといいましたが、すなわち教える方も大変ということ。デモンストレーションで見せるのも少々苦労します。そして普段床に座った状態で行うことが少ないのでやり慣れていません。椅子に座ってもらうだけでかなりやりやすくなるのですが。昔の経験を呼び戻す必要がありました。
このように臨床ではほぼやらない床に座った状態での按摩。講義内容を自分で決めるならば、まず選択しない内容です。
しかし私のときもそうでしたが、初学者といえる1年生の授業では座位の按摩を習うため、この内容でセミナーを行うことにしました。
準備段階として座位での按摩技術を復習することからしました。
一つ一つの手技を振り返りコツ、気を付ける点、効果、やる意味などを深く掘り下げていきます。特に参加者はまだ入学して2ヵ月弱の学生さんなので分からないことだらけでしょう。ある程度授業が進むと全体像が見えてくるものですが、現段階では何をしているのか理解できないかもしれません。軽擦とは、揉捏とは、圧迫とは、叩打法とは、曲手とは。基本技法の数々をしっかりと説明できるように振り返りました。
この作業は予想以上に時間がかかりました。それは新しい発見がたくさんあったからでした。気づきとも。学生だった当時は深く考えず言われた通りのことをしていただけですが、臨床経験が10年を超えた今だと自分で驚くほどみえてきました。
なぜこの順番なのか。なぜこの方向なのか。そもそも学校でなぜ座位の按摩から教えたのか。そのように言われたことも教科書にも書いてあるわけではないのですが、こういう意図があったのだろうと推測できることがたくさんありました。
今では無意識に近いレベルで行っている技術はこのような使い方をするのだと、私にとって基礎を見直す訓練になったのでした。
技術を見なおした後は資料つくりに取り掛かりました。既に作っておいた資料を省く、付け足すということをします。
特に学生さんに伝えたかったことは治療すること以外の手について。どうしても刺激を与える技術、それを担う手の使い方に目が行きがちなのですが、患者さんを前にした臨床ではそれ以外の手が重要になるのです。そこを疎かにすると卒業後、現場に出たときに苦労することを経験上分かっているので、1年生の今のうちから知ってもらいたい。きっと学校の授業ではそこまで伝える余裕が時間的にないでしょうから。そのことを解説する資料を作成します。
また按摩のセミナーですが、指圧とマッサージについても少し触れようと考えました。というのも、最初に説明した通り今の資格免許は「あん摩マッサージ指圧師」となっており3つの技術を全て学ぶ必要があります。大宝律令のときは按摩師でしたが令和の今はそうではありません。
見方を変える按摩と指圧とマッサージの技術を習得した上での技術体系ともいえるので指圧とマッサージの要素を使わないとうまくできないことがあると考えているのです。特に指圧の三原則は按摩にも応用できますので紹介しようと。そして今後按摩・指圧・マッサージの技法を比較しエッセンスを組み合わせて術者としての型を作っていくことになるであろうことを伝えるためにも。
そして基礎技術を文章で説明できるものに。日本は昔から職人気質というか、技は見て盗め、という文化があったと思います。間違ってはいないと思いますが変化が急激な現代ではそれでは間に合わないでしょう。テクニックやコツをある程度文章化して説明できるようにすることは必須だと考えています。
というより文章化できることはしておく。言葉や文章で説明しきれないものがどうしてもあるわけで、それは経験を積み暗黙知として時間をかけて修得してもらうしかない。それ以外は読み返して理解できるように文章化する。このように考えて資料を作りました。
当日は自己紹介をした上で座学。だいたい私は説明が長くなるのでかなり飛ばして終わらせました。実技がメインなので。後で参加者に言われたのですが実技前の話がとても響いたと言われて、何があたるかわかりません。
実技に移行して按摩の基本手技である軽擦、揉捏、圧迫、叩打法、曲手まで、自分の中では駆け足でやりました。優先したことは一通りやり終えること。できなかったところはまた来週やりましょう、ということは無いので必ず一通りやろうと決めていました。
按摩と一言でいっても各技術は別物と言えるくらい違います。軽擦は撫でる動作で揉捏は揉む。圧迫は押して叩打は叩く。違うのです。違うのですが似ている部分、繋がる部分もあります。やり方は教科書を見たり授業で習ったりすれば何となくできるでしょうが、どういう意味を持ってやっているのか、この順番で行うのは何故なのか、行う意図は何か、といったことを比較して説明するために一通りやる必要がありました。
実践的な技術で言えば全ての時間を揉捏に割いてもいいくらいなのです。按摩でメインとなる技術は揉捏です。線状・輪状、母指・四指・手掌・手根。各揉捏方法を説明して練習するだけで時間は終わるくらいなのですが、初学者の学生さんには一連の流れを知ってもらうのが大切だと考えました。
参加者の感想で「これは何の意味があってやっているのか分からなかったのですが分かった気がする」という意見がありました。この時期は、何が正しくて何が分かっていないのかも分からない、という状況でしょう。聞くと並行してマッサージも指圧も授業があるそうで、より混乱しがちです。按摩という技法がどのようにできているかをちょっと知ってもらえたと思いました。
手や指の使い方以上に大変だったのが立ち位置やスタンスでした。どのような体勢で行うのか。床の座位では体勢を作るのがとても大変です。位置が低くなるからです。ベッドであれば高い位置にあるのでずっと楽です。ベッドを利用して立つこともできます。低い姿勢を保ちながら手を動かすので学生さんは汗を流してやっていました。一様に下半身を鍛えないとだめだと話していました。
もう一つ座位の按摩で重要な支え手。この使い方にも苦労していました。座位なので上半身が固定されておらず、背中を押した場合片方の手で押さえないと圧が逃げてしまいます。強く握らずしかし固定させる。どうしても手技をしている側の手に集中してしまい支え手が疎かになりがちに。初学者にはこれも難しいポイントだと思いました。
今回ほぼ素人に近いあん摩マッサージ指圧師専門学校の1年生を対象にあん摩セミナーを行いました。そういえば10数年前に私も通った道だなと思い返しました。かつての自分も全然指が動かなくて苦労したなと。
反面、もう一度基礎中の基礎を振り返りあの頃は全く気付かなかった多くのことを再発見しました。私にとっても重要な基礎練習になりました。臨床で使える実践的な内容を教えるのもいいのですが(その方が独自性を出せて気分がいいという本音)、土台となる基礎を伝えることが非常に重要であることを今回の件で知りました。大きな収穫です。
また機会を作ってやってみたいものです。
甲野 功
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